鎖骨 2008年6月19日2時00分から2009年8月25日2時24分まで ---------------------------- [自由詩]徒然 十/鎖骨[2008年6月19日2時00分] 肉 肉に起因する欲 肉に起因する欲から来る畏れ 欲から来る畏れに続く恐れが招く妄想 妄想から蔓延る黴に体を覆われて きれいな新緑に生まれ変わった僕を 愛したひと哀切に斬れる ---------------------------- [自由詩]理想主義の化石/鎖骨[2008年6月20日1時14分] サクラメント セメント ラメント 哀切に切れたがっている 身体身体どれも空だからだ 初めっから無い中身を 切ってくれる誰かを探して? サクラメント セメント メメント 大袈裟にしようよ 天体の過去幾億年の歴史の大氷河 遡ってゆくよ 360度パノラマの記憶 銀河と同じ構造をしている 宙ぶらりん(ぶらりん) 寄り道をする気はないから そこから見て教えて ぶつからない道を 歴史に轢死なんて笑えそうだけど まだトリップし足りないから サクラメント セメント ラメント メメント デメント パーマネントなセグメント 信頼だとか親愛 繋がりなんてのは建前 日々腐っていく自我が怖くて 誰かに流れ込みたいだけさ ---------------------------- [自由詩]coda/鎖骨[2008年6月20日1時30分] 芳しく麗しい賢人の集うコロッセオ 体臭も性器も擦り傷も隠さずにほくそ笑む 踊るオルフェ、まるでオブジェ、それは夢幻 カラカラに渇いた心臓が見せる一瞬の どうしてそんなものを? 奴ら狂っているからだ 俺も狂っているからだ そして世界は順当に崩れていく 誰も目を向けないような端っこから 止め処ないディゾルブ 現実のそれはちっとも綺麗じゃないさ 気付いてもヒトに出来ることは酒を呑みつつ捨てばちになることだけ 何に怯えているんだろう、昼間の頭は 汗水鼻水時に涙あらゆる体液を分泌し 感傷を緩衝することでAMをやり過ごす 地球温暖化の折、町々には湿っぽい情愛が煮凝って 上品に消毒された性欲が金を触媒にして薫る 壊れかけのラジオはトランジスタグラマー それでも俺は萎縮する 愛人がオーガズムを迎えようとする表情にさえ ざっけかけない仕事 雲は白く綿飴のようにふわふわ 黄色い海に浮かぶ泡だけが今は頼り ---------------------------- [自由詩]こけ/鎖骨[2008年7月7日0時41分] そんな気分になってポケットで弄繰り回してる 暮れていく景色にシガーライター 何を照らせるって言うんだ 糞の役にも立たない 風がそよぎながら触れて そんなんじゃ足りない 波は立つけれども 生きてますか 待宵苔 どんなに蒸して眩む夏でもおまえ 決してどこへもいかなかった 南国フルウツが瑞々しく揺れる 飛沫を浴びて ただそれだけで熟れてた 熟れないうちに腐ってしまって これじゃ売れないなんて笑ったものだけれども どうにか生きているよ 音も増えたよ 書いているよ 飲んでいるよ今まさに 腐って落ちた、トロピカルフルウツ! こんなものでもそれなりに芳しくないかい! ---------------------------- [自由詩]/鎖骨[2008年7月7日0時45分] 彼女の身体は垂直の中心線の半分から後、 背中側が透けて見える。 それは実際に透けているからだ 濡れて下がる前髪が呼ぶ、 下がる前髪が濡れて 呼ぶ、声の下がる前髪の濡れた。 閉じ篭れ、閉じ込めろ。 篭り閉めろ。 そこは暗い。暗い底。 閉じ篭るために閉めろ。 見るために。 見るべきはそこの底に。 </> よく見えるだろう? そろそろ、見えただろう 分かっただろう。 云いたかったこと伝えたかったこと そのうちの出来るものの一割のじゅうぶんのいちのひゃくぶんのいち。 憎しみに親しくなりましょう! 恨みつらみに刺されない皮膚を持ちましょう! 夜を往き夜目が利くようになりましょう! よく聞きよく書きよく食べ良く飲むようにしましょう! 電話は棄ててしまいましょう!住所録も! ---------------------------- [自由詩]青い実/鎖骨[2008年7月9日0時37分] 詩の代わりにアルコール 僕も青い実だったよ 週日は懸命にはたらいて 染みた汗水土日に流す そんなことを夢見ていた それは本当に夢になった 一枚の紙と隠れていた軋轢 狂ってしまった人の言動 そこかしこに降り散った、 小さい礫で塞がるんだ 知りもしなかったし知りたくもなかったけど 変われないと思う僕に誰も替われない この暮らしの先に何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が 何があると言うんだい 誰かに出会って幾許かの時間を共有して君と呼べるようになってそれから 更に時間を経て名前を呼べるようになってその目を昼夜あらゆる時間に見つめて 何かを得たようなつもりになってそれから何が何が何が何が何が何が何が何が何が その髪にこの掌にその瞳にこの瞳にその喉にこの耳にその胸にこの骨に肉に肉に 何を見て感じて映して聞いて見て言って得て与えて奪われて時間をそれから 何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が何が 何処に何処に何処に何処に何処に何処に何処に何処に何処に何処に 何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故 こんなことを思ってそれだけでなく打ってしまっているのか ---------------------------- [自由詩]souvenir/鎖骨[2008年7月9日0時39分] 滑らかに先行する感性 安心のブランド いちどきに逸る鼓動 誘惑に阿鼻叫喚する観衆 は自らの慣習を省みることはなく 私はただ袖の端をつまみ 目じりに這わせる の 気持ち悪い 気持ち悪いね 気持ち悪いよ 気持ち悪いと 云え 云うんだ // 認めない 認めない 認めないことを 認めない夜 認めないで 認めない日 陽 非 ひ 日々 認めない 認めよう 認められない やはり メッセージソングには 辟易するだろう // 雰囲気に大仰な名前を貼り付けて、 目や口や腹の肥えた厳しい顔の人たちがそれを格付けして 驚くような値段で売り出してる ずっとずっと深く立ち入る人のないような暗さと深さと重さの中で 作る人は潰れて、苦しんで死んでいく 上の人はどんどん豊かに艶やかに艶やかに まるで仏様みたいな笑みを称えながら とても尊いお話をお手ごろなお値段で配信して下さる 私がここまで成れたのも皆様方のお陰ですなんていいながら 喰っているときも寝ているときも糞しているときでさえも あいつらの肉と通帳はいっそう肥えていくんだ /// この極楽浄土ではより高いところより大きい声による号令を 無視すると人格否定されて社会的に殺されてしまうし出る杭は打たれるという そして実際多くの場合がその通りになって社会的に殺されて それがもし歳をとってからだと目も当てられないことになる 身体も精神も若くあっても金とコネと集団心理に勝つのは難しい でもそこここに別の楽土への階段が見えるようになるから この国では沢山の人が移住を済ませている ---------------------------- [自由詩]徒然 十一/鎖骨[2008年7月19日1時52分] 捲り過ぎる指は慣れる 通り過ぎることに なぞり過ぎた意識は鈍る それと気付かないうちに 足があるので 重力に堪える足があるので 私には底があって だから留めることができる 知識や生活に密接する記憶 というものだけを、辛うじて そうしてつまらないものだ 自分を認識するためにその度に定義してわたしを殺すわたし ---------------------------- [自由詩]潮時/鎖骨[2008年7月23日2時16分] 君は眠るのだろう 鳥の泣きながら帰ってゆく夕暮れに。 山に抱かれて人に抱かれて 遠く、重く、長く、射す陽に染められて。 閉じられた目はしかし覚めていて 幼かった日々の空の高さ、貴さ 世界の柔らかさを見つめ返している、 いつか手足をなくして、 忙しく思い巡らせるだけになった頭と、心もとない 小さな背と尾のひれ一つずつで 社会の海を泳ぐ歳になったふたつの肉。 限られた時間のなかで 選んだものを食べて生きて 老いた暁に君はすべて還る、 とてもよいところへ。 供にひとつに、在るために成るために。 ---------------------------- [自由詩]暑夜/鎖骨[2008年7月29日1時34分] ひとびとが雁首そろえて暑い暑いと呻く夜 僕らの幼稚な自己愛がこの夜の温度に煮凝っている その頃合に何処かで誰かの切実な現実が閉じ込められていく 分厚いコンクリート あるいは湿った土の奥深くへ ああ とてもあつい 僕も彼も彼女もあいつも 遠くで起こっている事象へと考えを巡らせるのには 向かないうえ疲れてしまう性質なので 汗に塗れてそれぞれに 雁首から白い魂をしらじらしく 吐き出してそれから直ぐ 眠った ---------------------------- [自由詩]寝言/鎖骨[2008年7月29日1時40分] 眠った夜の後に 覚める朝が来て 起きて歩いて 飲んで食べて考えて 歩いていく、外へ あとは 見て聞いて話して読んで書いてとにかく何かをして 何もないをしない気付かないために それがいっそうに 堪えるようになる のに   待つだけ 何をしたとしても 受け入れる 認める ための 準備 と云う それを聞く 聞いた 両目と口周りの筋肉だけ 笑う  おやすみなさい 明日も晴れて きっと夕立に濡れるでしょう ---------------------------- [自由詩]鉄/鎖骨[2008年7月31日2時04分] 噛まれても突かれても 果ては飢えても 死なないと思っている 彼は(彼女は)まだ まだとても幼いから 四角いビーカー 未開の白浜 硝酸の夢の中に落とされた二人の両顎 それと舌 いじらしいものだ 抱えているままで何も語れない歯列 暗いということはただ辺りを隠すだけではなく とても染みやすくなっている状態でもある におい いろ こえ 触る手指足 障る視線 染みやすいものだ 勿論忽ち欲望は加速する 願いでも望みでもなく産まれたままの剥き出しで 顕わになるが誰も恥じない 古い夜に染みて霧散してしまった熱情 もう忘れていい 獣は優しくない 人間も優しくない 君は時々その身体が片方の肩から誰かの片方の肩とくっついて 同化してしまえれば良いのにと考えるが それはとても愛おしいことだ愚かさという点において そして同じくらいに滑稽で無意味なことだ 真夜中の構想は妄想とひとりごちて それきり止めてしまうべきだ 口ひげが表情を隠すように同じことを期待して 女は化粧をするのかと訊ねられた 別けられた首と身体が隠す人類愛についての説教よりも眠くて疲れるものだ 他者への説明あるいは弁明 温かいアイロンを肉親にするより親しみをこめて抱いて それは文字通り焼けた鉄のようになっていくのに離せないでいる 恍惚の顔を称えながら焼けていく 歪でない車輪など物語の中にしかないように 初めから狂っていない轍なんてない ---------------------------- [自由詩]はたらけえのきだけ/鎖骨[2008年8月15日2時39分] 信じることと縋ることはともすればよく似ている 喋り過ぎるものはそれについて依存している 夏は決まって暑くて蒸すから色々がよく腐って臭い出す わたしは四角を中心に据えてから円を上手に書くことができない 精神的にもう少し大きくなったら他人のやりたがらないお給金のいい仕事がしたい 汚物処理はこりごりだけど例えば隣にいる他人に見えないあの子が喜ぶなら それでもいいやなんだっていいや ---------------------------- [自由詩]蓋をされた臭いもの/鎖骨[2008年8月20日1時19分] 下卑た興奮の先に在るものが言葉を連れていこうとする 熱い海青いマグマ溜り通電する神経化学物質の分泌不全 溜めければ感情は発現しない 堪えなきゃ血の音は染みつかない 色も温度も直ぐに忘れるものだ 思い込みで立って寄って共依存 綺麗事で財を生んで生来のきれいな(・・・・)欲望を発散する ボランティア活動やチャリティー運動と称した乱交パーティーがブームです 否定するな否定しないで否定するのはどうして 人は卑しい卑しい卑しい卑しい卑しい卑しい卑しい卑しい 色も温度も直ぐに忘れてしまうから 何時もいつも垂れ流してる馬鹿共は 千切れそうな自分が切ないだけなのさ 晴れた日はどこまでも青いのに溝川の臭いのする空 顔 声 手 手 足 何処も一緒みたいだ おまえの顔 おまえの性 おれのあれ おまえのそれ 声 足 手 手 何処も一緒だ 全部が顕わになればいいのに ---------------------------- [自由詩]ひとり/鎖骨[2008年8月21日2時09分] 何をしていてもどこで誰といても 与えられるもの降ってくるもの落ちてるもの 砂や社会の排泄物に塗れているものを必死に 追いかけてるかき集めてる気がするよ 近いうちにまたきっと泣いてしまうと思う ひとりで ---------------------------- [自由詩]あいだよあい/鎖骨[2008年8月21日2時18分] おおきな掌に 染みこめずに零れた憧れる思いは 小さな波紋をつくる波になり それは透きとおっており 言葉も理性もみずからを恥じて押し黙るほどに 透きとおっておりまた鋭く それはまさしくこれと同じ   をうしろから殴ったこの手のなかの 握られた割れたビール瓶の反射 また爽やかに朝がくるね ---------------------------- [自由詩]剥離/鎖骨[2008年9月12日1時54分] ああようやっと読めました ほんとうにほんとうに久し振りに ともするとひとところばかり 見る羽目になるところでした 睨みがちでぶくぶく 凝らしてちりちり余計に霞んだ瞳 眼圧がいちだん高くなってしまったようで もうあと幾許もないようですが すっと澱が解けたのです ただ一瞬のことでしたが そうして少し晴れました 狂っていたこと 決めていた有り様と 許さなかった甘えと 認められたかったなんていう ふやけた過ち 要は 考えずにあればよかったの まっさらに開けた小景ひとつで そのほかには何も まっさらに開けた小景ひとつで ---------------------------- [自由詩]夜火/鎖骨[2008年9月16日1時56分] 今夜は涼やかになめらかな夜 でも私は燃えさかるものを見たくて 強い酒を二瓶あおってあとは行き場のない妄想力を 総動員すれば少しの間火が吐き放題になるんじゃないかと思い立ち すぐさまに実行したんだけど 私の想像力は毛ほどもなかったってことを再確認するだけに終わって そういえば私何かが強く大きく焼けるのを近くで見たことがない 沸かしすぎた浴槽に満ちた水分子の純真に尻を火傷したことはあっても 火中で燃えたことがない 私の想像力がひどくちっぽけだったために 涼やかになめらかであったこの夜は世の人を悩ます無駄毛の足元にも 及ばない無為な夜になった ---------------------------- [自由詩]知らなくて亡くす/鎖骨[2008年9月29日0時35分] 今日もひとりで笑う 歩む速さで、けれど遠ざかっていく灯りを知らない振りして どうして誰も剥がしてくれないんだろうか 皮じゃなくて中を見てよね そうして同じように中身を見せてよ 剥がして剥がされて そういうものだと思っていたのに ---------------------------- [自由詩]跛をひいてどこへ向かうの痩せこけた子猫たち/鎖骨[2008年10月10日2時40分] 透明の四面体煌々たるフラクタル 車窓に映る顔までも重なる 数ミリの厚みの中でお前が僕に 僕がお前になって 内側と外側の面で少なくとも二度反射するのは仕方ないよね けど僕らの像には 厚みなんてあっただろうか 未開の明日 という森を荒地を池沼を開き 繁茂していくようだ僕らの自我 攪拌される欲求混ざり合い分解されて 高尚な目的だけが残るはずだった 産まれてゆくそれらを 幼過ぎ小さ過ぎ盲目に熱を必要としていた僕らは 片端から貪ることを ついにやめられなかった だから死ぬまで燃え続けなければならない これらはあるいは贖罪なのだから 死ぬまで無駄に増え続けることを選んだことへの その象徴としての肉 その顕現としての精神 無駄なものがそこここに溢れている 認めなくてはならない 言葉や概念や真理でさえも庇いきれない 過ちがあることあったことこの先もそれを重ねていくこと 情も人間愛も儚さも共同幻想ももはや逃げ道にはできない 宗教は嫌いです商業歌は嫌いです詩もともすれば嫌いです 肯定できる対象がないのに否定することさえ否定されて 僕らは夢見る機械になって生きてかなきゃならない あまいあまい言葉と教育のもと 人類はひとつだと合唱しながら笑顔で死んでいくのさ! ---------------------------- [自由詩]徒然 十二/鎖骨[2008年10月15日2時18分] 風がかたく 薄く鋭くなってゆき それは南中する空のもと 形を変える猫の瞳に似ている かれらの前には何人も 内に埋めた空しさを寂しさをゆがみを 誤魔化すことは叶わない より一層に気を張って 力をこめて現実の界面を歩まねば 足元を掬われぬように 迷いに巣食われぬように 誰かを頼ってはならない 誰かに寄られてはかなわない 自活する力 自活する力をどうかわたしに ---------------------------- [自由詩]2008/11/07/鎖骨[2008年11月7日1時34分] 灰色(をした) 砂の足もと 頭上の雲 またその上に走っては溶ける たくさんの線と波と 息が詰まって仕方ないと 耳元で震えた息と つめたい身体 伸ばさない 結ばない 這入りこまない 解かない 間接的存在の試験 寝転がる 眠れる遠さの草原 視界は限りない広さで いつまでもいつまでも そんな雰囲気がたゆたい 多くを忘れていられる ここにやがて 集ってくる光輪 夢に憧れが覚めないうちは 未だずっと先だから だから 決めずにいられる その幸福にふやけている ---------------------------- [自由詩]鳥の目は珠のようだった/鎖骨[2008年11月15日2時42分] 青くて透き通っているけどどこか昏い 鳥たちの顔 仄かな灰の匂いを降らす翼 その背に戴いた空 かぜと名づけられたものがまた去っていった 羽毛の温もりを滑って 私の傍らを 見上げることが重くつらく億劫で 空しさや哀しみを連想させられるときは 地を翔ける像のまた鮮やかに多弁であったことを さえずりももろともに黒鉛で複写した いつだって影のほうにより親しかったけれど それらの嘴と共にかつては歌った 確かに歌ったのだ、 私たちは ---------------------------- [自由詩]襤褸きれのありがたみ広報/鎖骨[2008年11月15日3時02分] 必要としていたものを 今日捨ててしまったことを ここに笑おう、額のしわが増えてる どうしたってこんな寒空のなか 向かわなきゃならないことを ならなくなったことを笑おう 仕方ないと言って 白く呟いて 感傷的になって 道行く誰かに笑ってもらお 声がすれば くすくす、ないしけらけらと鳴らしてくれれば 声が聞こえればそっちを向けるから そしてさり気なく目を合わせて へらへらしょうもなくとち狂ってみつつ 私、ここいらで落し物をしてしまったんですけど 何か知らないでしょうかなんて言いながら へこへこと腰を低くして 顔見知りになる練習をするんだ ---------------------------- [自由詩]2008/12/23/鎖骨[2008年12月23日1時39分] あなたの頭はいつだって テレビに、あるいは紙束に あるいは口をつぐんだきりの封筒へ向けられていた あなたは僕が あるいは僕らが とても嫌いで、忌避していた 冬の 割れるような険しさの蛇口からとどく水に遣るように 僕に目を向け 手を伸べた、いつも そのようにして首は向けずに その視界の傍らに 横たえられていた死馬だった やわらかな蓆のひとつも 本心では与えたくなかったんでしょう 棄てたいのに、頭の中では数え切れないほど棄てていたのに いつも意識の隅に巣食っている あなたの望む生き方を閉じさせる死臭だったろうから いいのです あなたの感覚は全くもって正しいのです 憎かったり疎ましかったり そういうこともあるものです そういうことの方がおおいものです 僕らは強く隔てられていて 険しい野路を各々あるく 獣であったのだから 屋根と金と糖蜜のような甘さの共同幻想が 一時は原罪の苦みを取り去ってくれていたけれど 今冬からはもう浸っていられない 死んだように生きていてはいけないのだから ---------------------------- [自由詩]髄液の海へ/鎖骨[2009年1月30日2時13分] ぼくらはそれぞれの妄想の奔流によってのみ潤される 共感も信頼も憐憫も要らないから どうぞ強要することはしないで 金は愛はあるところにしか流れない溜まらない 出来損ないの枯れた水系でいるならばいっそ 捨て鉢になって合流しようよ 川になるんだよ 月に引っ張られようよ とにかくどこかへ ぼくらは妄想の奔流そのものになって よろこびに、 よろこびに 溶け合った向こう見ずの勢いにまかせて 裏側へ行こう、行くんだ 丁度いいクレータを探し当てたら 海になって産むんだよ ぼくらが ぼくらで ---------------------------- [自由詩]2009/2/4/鎖骨[2009年2月4日1時16分] 何を見ても、見たとしても わからない振りをしていればいいよ と教えられた昔日の雨に濡れる窓の中に、わたしは まだ閉じ込もったままでいる そうしているほかないのだ だってひとはとても硬くて難しいものだし 誰かを受け入れて理解するほどにはわたし おおきくはないもの 雨の音を聴いて、そうしながら 歌を歌っているほうがいいもの ---------------------------- [自由詩]2009/2/10/鎖骨[2009年2月10日1時38分] 日記帳が真っ白だと きまりが悪いのかい 気持ちはどこへも行かないもの 櫂を寝かせて 碇を下ろすように 夕餉の前に祈りを 明日の朝からの仕事と 穏やかな子午線が見えるよう 罫線も色の飾りもないなら それは素敵なこと いくつかの言葉を編み連ね 詩と名をつけて書けるもの ---------------------------- [自由詩]屋内 暖色灯/鎖骨[2009年2月16日0時45分] あらゆる成功が、もう 起こりえない予感に冒されて、 そのために、もう 赤茶けてしまった、ている、信念さえも 切り売りしなければならない 症候 めぐるたびに春は、鮮やかさをうしない 思い起こされるのは、もう 雑踏と埃の匂いだけ、 それだけで 女の子たちは、可愛い装いで 天体や将来の話をするのが好きだね でも、それは嘘だろうと思う 彼女らが好きなのは太陽系でも銀河系でも あらゆる事象の美しく滑らかな表面でもなくて レース織り布の言葉遊び、あまい体液交換 ぬるい汗の掛け合い 煙った呼気が覆う天井 栄えていくつもりで 個と現実の価値を妄信するためには 盲目にならなければならないなんてなんて皮肉 おしなべて黴ていくだろう 気づけない速度で 陽が、落ちてくるよ はやく帰ろう あたたかいご飯を食べるよ ---------------------------- [自由詩]2009/8/25/鎖骨[2009年8月25日2時24分] 消えていくもの たちまちに消えてしまうとわかっているものだけがいつも うつくしくて それだから口を噤むしかない かたってはならない 冒してはならないことばかり 何もかもが足りていないわたしでは それらの名をかたちをけがしてしまうだけだから でもそうしたら どうやってあいせばいいのだろう 胸の奥にしまってみることさえ憚られるそれらを 抱えていたいと思ってしまうこの気持ちはどうすれば どうすればいいのか ---------------------------- (ファイルの終わり)