鎖骨 2007年10月22日21時42分から2007年12月28日19時07分まで ---------------------------- [自由詩]徒然/鎖骨[2007年10月22日21時42分] シェードランプの傘が割れ 光の手足はつかまれて 遠くの夜へと連れられた そうしてもはや暗い部屋 明日の日付がめくれない ---------------------------- [自由詩]徒然 二/鎖骨[2007年10月23日22時07分] 眠り飽いても肉の身は 休みなしには居られない 文字も音も最早ただ記号 妄執にままに浮き沈み 醒める朝のおぞましき ---------------------------- [自由詩]徒然 三/鎖骨[2007年10月28日1時25分] 黒電話のダイヤル 十一個目の小穴穿ち 幾何学する白い指 なんてどこにもない 頭の中にしかないと思う ---------------------------- [自由詩]徒然 四/鎖骨[2007年11月28日23時16分]  ああ もう  一日中だって眺めていてえよ  かわいて固まっちまった顔料みたいなあいつら  初めは 水のようだったのになあ  ごまかし にせがおづくりに躍起になって  おれはかなしい  かなしいといってやるよ  幾度もいくつもごたごたと  色はとかせやしないんだ なあ  たとえばおまえが四十のからだになったときに  まだ二十の気持ちをもとうと努めても  思うようには 心のお空のようにはいかないんだよ  だからおれもかなしい  横文字にカタカナでぎらぎら  いかめしい振りをしていたとおもえば  今度はひらがなで  どんな自分にひたっているんだい  かなしい、かなしいなあ  どうして誰もいってくれないみたいだから  おれからひとついっておかなきゃ  油まみれのおまえはもう何にもとけはしない  泣いてもわめいても読んでもすがっても  もう戻れないって ---------------------------- [自由詩]徒然 五/鎖骨[2007年12月1日22時59分]        あかるさはどこまでも横柄に白を敷く  影は飄々とやってきて知らぬ間に返して黒くする  律儀な神様は繰り返す  私たち( ・・・)は素直に受け入れて  なにも疑わない  暴いてやりたい  きらきら光る皮のうら  ぬらぬら湿る生態 ---------------------------- [自由詩]/鎖骨[2007年12月6日0時25分] かのじょはぼくを連れていってくれない、高いところへ! かのじょはぼくを連れていってくれない!高いところへ! 彼がかのじょを連れていってしまう!高いところへ、 彼がかのじょを連れていってしまう?高いところへ! かのじょが彼に連れてゆかれる 見たこともない高み! 過ぎてもうぼくたちの思うところからはなれ こえてこえてこえてこえてこえてこえてこえてこえてこえてこえてこえてこえてこえてこえてこえてこえてこえ たさきをくぐると一周してまたここへ? そうしたらかのじょは彼はぼくはどうなって まるきり変わってしまっている?見えない! そうして           ああ   おれは                                     わたしは なにがいいたい    したい                                 できた?                                        なにかいってよ ぼくはおごっているから、そのくせいやしくて だから許してくれない はいっていけないあすこへ きみやかのじょやぼくがよくなぜていた猫や犬はまたたくまにせんになって 突きぬけていくけどぼくはぼっち 時間にも乗れなかったからだってこわかったんだよ こうしていまここでおもいだしているぼくおもいだしているだけで手はふるえて ふるえる!ふるえるからぼくはまだ かろうじて生きているんだとわかる ぼくはうそはつきたくないまたああなるのはいやだから でも ---------------------------- [自由詩]徒然 六/鎖骨[2007年12月9日0時38分]    上を向くおまえの、雨を待って開いたままの卑猥な口に  テキーラと拳骨大の氷を山ほどぶち込んであげよう  唇には岩塩もおまけしてやる  リュウゼツランの学名を知っているか?  あいつはとっても寛大なんだよ  それにおまえよりも人も物も知っているし  その上偉ぶりも卑下もしない  必要ないことを知ってるから  分別の上手い利口なやつさ  あんな風になりたかったよ  なんてこんなこと言って書いてるうちは  どうにもならない  良くも悪くもなれない  ただ腐って落ちるだけで ---------------------------- [自由詩]足/鎖骨[2007年12月12日1時58分] たとえばおれが今夜 習慣にしている夜の散歩がてら 捨てられている、うすぎれた皮を着た羊顔の子供が落ちているのを見かけたら 気まぐれで拾って手をつないで小さな歩幅でスキップをしながら帰ろう 帰り道はどうしてか魔が棲むから 昼間に顔合わせを強いられる人間にばったり出会うかもしれない もしそうなったらおれは寸分の躊躇もなしにそいつの顔を蹴りあげるだろう それから叫んでやるんだ汗ばむつないでいる手を握りなおしてから おれたちの住むここは豚小屋で 放っておくと堆く積もる糞に辟易してはどこまで高く 遠く蹴り飛ばせるかやってみるのが生甲斐なのさと 足なんて何から生えていようと汚れるもんだ 具合もどこだって大層変わりはしないんだと思うね とりあえず言いたいのは 今眠くて疲れていて 足のにおいが落とせないってこと ---------------------------- [自由詩]徒然 七/鎖骨[2007年12月12日2時14分] 季節の顔のかそけきは 年を経るたび強くなり 侘び寂びの頬を擦りては 盲いるときのいつぞくる そればかり懼れ日を送る ---------------------------- [自由詩]秘匿された/鎖骨[2007年12月16日2時10分] なにも言いたくないって そういうときがお前にはないのか あさがおの蔦がまた伸びてる おかしいな、こんなに寒くて狭い夜なのに 誰かの言葉を、まるでわかったつもりになって 自分の内奥の叫びなんて科白を吐いてやしないかい あーってして 口の中を見せてよ 噛み砕かれもしないままに沈んでいった人たちの名句辛苦美辞麗句が 奥歯の間にはさまっているんだろう きたない、きたない口の中 その匂いごと愛してやるから 開けろよ、早くその小奇麗な薄い唇 できなきゃおまえは明けていく空に 祈ることなんて許されやしない ならないよその耳には 届かないよお前の蝸牛には だってお前は知らないんだから 滾る浪のおと騒ぐ砂の、細い細い細い嗚咽 とけないよその理想 いけないよあそこへは きれいでありたがるお前の足では絶対に 見つけられない 黙れ、黙ってよ そこここに満ちた靄が濃くなる ほどけて抜け出したんだ、殻がなくなったから 開放された海馬体がつくる大気 いずれそうなることを知って、見て確かめたそれからは どう思えばいいのかな ずっと考えているんだ いや、考えてはいないけど とにかく煩いんだ 黙れ、黙ってくれ 何も教えようとしないで 自分の口が塞げないなら わたしの口を ---------------------------- [自由詩]好きに名づけてくれ/鎖骨[2007年12月17日19時30分] 風に問う前に 石について知れ 幼きうちによく走れ 裸足の土踏まずで草に口づけて 幼きうちに思うまま遊べ そのときにしか出来ぬことが知れるのは直ぐだから みだらに歌うことなかれ たとえそのみこころ寂しくとも 牧歌は牧童のためのもの 聖歌は教徒のためのみにあり 情歌は溺れたがりを招く底なし沼 賛歌は触れられすぎて手垢に塗れる みだらに歌うことなかれ 唯流れていたはずだ          音楽と呼ばれるものは  閉じ込めたくない          名前をつけたり、繰り返したり                        したくない                      のに             だけど音は選ばれる      選ばれてしまう             絵も建築も                  何もかも         それから称えられる              銘               をうたれてあちこちで                         その名前が語られるようになる             宿された魂が消沈していく それらを見るものの見えないところで      金が積もる          人が澱む             人で澱む                エゴ自己愛がこすりつけられて                             一方的に迫られる      象徴化され          神格化されたりする 夜 暗くなっても私は仕事をしている それを客観的に見てみたい 想像するのではなく 朝 明るくなっても私は書いている つなげたり離したり削ったり伸ばしたりして 動力が失われて続けられなくなるまでそうしていられたら 自動式タイプライターよろしく綴りつづけるそれの 吐き出し続ける詩篇で六畳間はいっぱいになって いずれ窓から玄関から排水溝からあふれて外に私を伝えるだろう 風化する前に残骸は物好きな資産家に嗅ぎつけられ 石膏を飲み過ぎた女、あるいは男として 防腐処理されてから 美術館に展示される ---------------------------- [自由詩]おやすみ観覧車/鎖骨[2007年12月18日18時56分] 陽が落ちた後に観覧車は 一日に浴びた熱に当てられて躁鬱になる テーマパークに行きたかったけど行けなかった生き物のすすり泣きを 食べなきゃいけない時間だけど 箍の外れた精神をおさめるために今日も月を飲む おやすみ、お眠りよくるくる回る括る棺桶 いくら吠えても誰にも障らないから 暗いうちは気の済むまでやるがいい さよならさえ口が無いから云いたくても云えないだろうが また残念なことに今月の天体軌道法改正の影響で 君らの休息時間が更に削られることと相成りました おはよう、もうすぐ朝がくるから 準備体操を怠らないよう 身体が軋むとかそんなことは知らない 結露で顔を洗って 今日も一日頑張ってくださいね ---------------------------- [自由詩]剥れかけワッペンが鬱陶しい/鎖骨[2007年12月21日0時58分] かえりたいときに限って そこは閉ざされている 僕だけに見せてくれているよね それならいいんだ それならほんとうにいいんだよ 顔色は悪くないみたいだし 元気そうで何よりだ 外は蛍光灯も飲まれるくらい暗いし 今日はさよならを言う だけにしておくね そうして明日におはようを言うために 誰よりも先に起きられるように 今日はもう寝るよ さよなら さようなら さようならだ (冬の隙間風を  甘く見ちゃいけない  鍵はきっちり閉めておくべきだよ  なんだったら粘着テープで戸という戸を  窓という窓を  目張りしたっていいくらいだ) さよなら さようなら さようならだ さようならだね さようならだって さようならされたら さようならしかえして さようならのやりなおし さようならしてしまったら さようならでしかおわれない さようならはやけにおもくって すぎたあとにはなにものこらない さようならのはらんだむじょう さようならのものものしさは さようならしたひとだけに さようならのあとのこす さようならをかざるな さようならはただの さようならであり さようならする さようならだ さようなら さよなら あ おとがする はりつめていてかたい それでいてほそいE弦の おとがするよるだ たかくてとおい ふゆの そら あ 風がふくから とれちまいそうだ あ ああ あしたもあったかい白米を食いたい ---------------------------- [自由詩]青空警報/鎖骨[2007年12月26日20時10分]    明けの瞬間には眩しく開かれていた空を  規律と道徳の名を戴いた機械の翼が切断して  開拓という爆撃を開始する  一昨日や昨日と変わらぬ素晴らしい統率  一糸乱れぬ編隊の航行は白い帯を残して  高みを飛ぶ自らを誇るよう  standardizationを謳った爆撃は今日と同じように  明日も明後日も来週も来月も来年も来世紀も行われるだろう  いくら繰り返しても青を白で塗りつぶすことは叶わないものを  ああこれでは誤爆です  あの青を世界と呼んで規格化したいならば  からだにさようならしなさい  そうして二度と生まれぬことを望みなさい  取り得る限りの手段で  残さねばならない  小さな警報 ともすれば無意味な  air raid warining  先の先 ずっと向こうまで  あなたの空が蹂躙されると ah-,/ah-,a/    聞こえるでしょうか    こちら僅かの無垢    聞こえる・/?/聞こrでshoうか?/・    今日も綺麗な空/    千切られて,    千切られていきます/    本日は/お日柄も/良く/-は    まだ通じるのでしょうか?/・    聞こえますか?聞こえ-/-e-/-えますか?    聞いてください/そして知/ltuてください/    ずっと前から行われてきたのです/    その日々を私たちは何もせずに生きて-/    ごめんなさい,でも/ 責めないでください/ 何を言っているのか,意味が分からなければ幸いです/    aa, ah-/本日もお日柄の良く/    あなたの空が青くありますように/ あなたの空が青くありますように/    あなたのそらがあおくありma-s/yo-/ni/    あなt………/// ---------------------------- [自由詩]例えばひとつの夜の閉じ方/鎖骨[2007年12月28日19時07分] 例えば 、と  突然呟く横顔 眠る前の畳まれる際のひとときに ぽつと滴を落とす声が 真顔の鋭く曇りない瞳がそう言うので 言ったので私は 何が例えばなのだろうと思いながら かの視界の端の端っこに入るように 音を立てぬように椅子をひき座って 受け入れてにこりと 笑ってみる 例えば 、に 続く言葉が届くまでには たっぷりコーヒー一杯分の静謐が必要になることを 知っているから、こちらから訊ねることはせず カップに机と唇を行き来させながら 似たような真顔を貼り付けて黙っている そろそろ消灯から半刻 瞬きの他には一度南窓を見遣ったばかりの彫像は ますます硬く乾いていくように 見える 焦げた海を飲み干したら まあるい底が見えてしまい どうしてかばつが悪くって いたたまれない気分に染みたら 冷たさと眠気まで深く染みてきて それなので 例えば 、を 継ぐために動こうとする口を 制して、意地悪くゆっくりと 明日はお出かけしましょうねと告げて 常夜灯を点けて毛布に潜った ---------------------------- (ファイルの終わり)