砂木 2014年4月26日13時16分から2016年11月13日17時52分まで ---------------------------- [自由詩]割る 丸/砂木[2014年4月26日13時16分] 見上げれば 青い空がある 靴の下 地面の底には また地上があり 私からは見えない 空がある 息できる場所で引力に頼って歩く いつも踏んでる道のずうっと下は 海かな 河かな 山かな 発掘されない 生き物の声 風船の中にいるような 私 めらめらと燃える 枯れ枝 漂う チャイムの余韻に乗って 失えばすべてが渡しとなる川底 見つければ 青く空にある 地も畑も みつめれば ご飯を食べている みんな ---------------------------- [自由詩]林檎の花の咲く前に/砂木[2014年5月4日13時45分] 桃の花が咲き 蜂が盛んに飛び交っている 林檎畑の中に二本ある 出荷しない桃の木 嫁いだのに 実を選るのは担当だと言われ  なんで私がと思いながらもなんとなく親しみ 桃ちゃん と呼んで会うのが楽しい  今年も桃色の花をつけて 綺麗だね 本当に 父の死による 林檎畑縮小のため  桃ちゃんも切られると思っていた 林檎の木は 七十九本切った 切るならば同じ場所を切らねば 共同防除の薬散布の迷惑にもなるので 今 育ちゆく若木も まだ林檎のなる木も そろえてすべて切った それは家族が生きて行くために必要な事で それでもまだかなりの林檎と梨の畑がある 父さん ごめんなと言いながらも やりきれない私達は切り捨てながら進むしかない 苦楽を共にしてきた母だからこそした決断 みずから雪が折るように枝の支柱をはずした母 父の林檎は 母の林檎 ごめん母さん 兼業農家を続けて行くしか 今 選択の余地はない よく桃ちゃんを切らなかったなあ と母に言う 俺だって人だ と 弟が母に言ったらしい かろうじて生き残る範囲にいたらしい 根だけにされた林檎の木が いくつかの山盛りになっている 数年かけて 腐らせるのか 燃やすのか 人が倒れないように 倒された林檎の木々 降り止まない雪を黙々と払い 父が守った林檎の木々 だども父さん なんぼがだば ずっとのごるべおの 気休めでしかないけれども 今ある力はこれだけだ じいちゃん ばあちゃん とうさん  桃の花が とても綺麗だ 蜂は 何も知らない ---------------------------- [自由詩]木白月雪連/砂木[2014年5月25日8時22分] 指に待つ 花片 空に梳く 葉片 枝に眠る 夜片 丸い月は 一本の線 体も 木蓮も 雪も 声は 雷     ---------------------------- [自由詩]かたん こことん/砂木[2014年6月15日6時59分] いいつけられた そこにはゆるされず いいつくしても そこははらされない ののここにも うそのうたにもつみも さざめくもの いしからよごれてなき ところふりかえり とどけふりほどき かきことばふらちないのりとゆめごろ うつしのみままにならないよいごころ つくしてもとけていきてにはかりもの ---------------------------- [自由詩]レイくも/砂木[2014年6月20日7時16分] たなについたとたん ゆれおちるいた くずれたものはない おとしたものも のせられなかったゆびが ただおちて おこごとはよわくはげしくみみなりに ちらかってはばかって くしゃくしゃ ---------------------------- [自由詩]紐ツキ/砂木[2014年6月20日21時32分] ころころ月が 指うえアソブ あんなに雨だれ 聴いたのに 覚えているのは 風の事 吹いた過ぎたと つかえた胸に 爪たて 口たて 脈をうつ 風車は どちらさま 残したわだち 戻らぬ見返り 袋に入った 飴むく 紐解き ---------------------------- [自由詩]照らす者/砂木[2014年7月6日9時37分] 板の切れ端が 軒下に放り出され 横に立てかけられ 忘れ去られている 陽をあび続け だんだん色があせ 雨をあび続け 湿って腐りはじめ 風からは遠い 身動きもしない 雪の積もる夜 ただ 埋もれて 十字架からも 捨てられた 声もない 汚い木屑 拾う者はいない  板切れの後ろに身を寄せて 休む者がいるだけ  地にありて ---------------------------- [自由詩]ひるまない わ/砂木[2014年7月8日21時57分] むもくてきな独り言 ついに剥奪された虹 爪にかりかり 梅干 関与 火の鳥 カン かまざりし 草々庫 ライオン折り紙 河 身持ち崩すちりとり 月 落としても 朝 ---------------------------- [自由詩]つれ/砂木[2014年8月3日15時18分] 会社の帰りに実家に寄り 母を乗せて 病院に行く 入院している父に会うため 一日中 林檎畑で働いた後 母は着替えて 私を待つ 七十歳を超えて 疲れただろうに 駐車場について 歩きながら 父の事 畑の事など話していたが 病院の夜間出入り口から廊下に出ると いきなり小走りに かけだした もう入院している部屋まで エレベーターでいくしかないのに 走った所で そんなに速く着けないのに あっけにとられる娘を残し 父のもとへ行く ばあちゃんとしかいいようのない後ろ姿 あたふたと年寄りが走って転んだら どうするのと思いながら 私も小走りになり 若い娘でもあるまいに 病院の廊下を かけて 会いに行くのだ ただ 会いに   ---------------------------- [自由詩]懐剣/砂木[2014年8月18日21時21分] とにかく頑張る気だった 父を棺に入れる時も  親戚の人達と共に ぐにゃりと 固定できない父に 白い旅装束を着せて 和尚様の教えに従い とにかく 無事に弔いたかった 和尚様が 小学に入ったばかりの姪に お別れに 父の側にくるように言った おかあさんに手をひかれながら 父の側まで行かないうちに 姪は 絶叫した いやあああああああああああああああ あああああああああああああああああ おかあさんの手をもぎはなし 家の隅っこまで走り 座りこみ 赤ちゃんに戻ったかのような大声で 逆らった どんなに誰がなだめても 泣き止まない しょうがないよね 子供はね 大人達は誰もとがめず 儀式は続いた 弔いは無事に終わり 和尚様は最後に言った きっと 子供の記憶の中にいつまでも残るだろう 娘たるもの 頑張る気で 弱気は跳ね返して 儀式が滞りなく終わるように祈っていたが 姪が絶叫する姿に どこかほっとした 死に なじまずに叫びたい ほんとは叫びたかったんだ でも純粋に死を畏れてばかりもいられない たとえば泣き叫ぶ姪を 守るためにも 供養にあげる供物 守り守られ 割り割られ  真剣は 拝む両のてのひらに 消えていく ---------------------------- [自由詩]影光/砂木[2014年10月12日5時16分] 石段に咲いた紫野草 苔に混じって隅に咲く 月光が飛沫とはしゃぐ 鯉が眠らず 水源はそそがれる 水滴の輝きが 近く遠い真夜中 カーテン越しに およぐため息   ---------------------------- [自由詩]走る青空/砂木[2014年10月13日20時03分] 軽トラックの荷台に仰向けになって 青空を見るのが好きだった 実家から水田転化した林檎畑までは少し遠く 父の運転する軽トラックの荷台に乗り込み 寝転がって空を仰ぎながら道々を行った 時折助手席の母が振り返り 私を見る 父と母が笑いながら 畑に向かう 青空は白い雲があるだけだった まぶしくて 道路脇の木々の葉に視線をそらす 雨の日は合羽を着たまま 濡れながら でも 父母と行く軽トラの荷台がいつも好きだった 手術をしてから 林檎もぎに行った父 父さん 黙って座っててと 私は言った 父さん はしごなんか持たなくてもいい 父さん いいから休んでいて やるから ねえ やるから お願いだから休んでいて 父さん 女の子じゃあるまいし と言って なにかしらしたがる父 病人でしょ と叫びたいのをぐっとこらえた それは 言えそうで言えなかった 乗れ と父はそれでも 母を助手席に 私を荷台に乗せて いつもと同じように働きたがった それが何に繋がるのか恐くて荷台で 青空に身を硬くした 最後の荷台から見る空だと 知りたくも無い 感じたくもない それから また何度も手術して とうとう違う世に行った父 でも 残していった林檎畑は 母と弟達と家族や手伝いの人で なんとかやっているよ やりきれなくて切り倒した林檎の木々 草原になった畑も 残して頑張って 果実を実らせた畑も 今でも父が歩いている 難儀かけたなあ 手伝いに行くと いつも父が言ったお礼 まだ父に使われている気がする 参ったなあ 青空というごほうび 貰っちゃってるもんなあ   ---------------------------- [自由詩]いき さく/砂木[2014年11月23日9時59分] こことおり こらす つむぎ きなとす おとぎ すげた やまい ちかう むごく ゆすれ わたせ ひくて ささら ずぬけた かたおり すべらす ほのお くじく ふきや みごもる ろうそく ゆびのは つむる えがたい かげり はためく ちょうちょ かげえ に ばかり ---------------------------- [自由詩]タクトと拍手/砂木[2014年12月14日11時10分] 毎年恒例となりつつある 甥のいる楽団の定期演奏会に行く 残業を断って 実家の母を乗せて行く 年に一度の演奏会だ 最初から見せたい 見たかった クラッシックなどよくわからないけど 歌謡曲のメドレーやくじ引きでのプレゼント 今年は甥のデュエットの歌も聴けて大満足 一生懸命 拍手をした すると指揮者が客席を振向き 曲にあわせて 観客の私たちにも手振り身振りで 拍手を小さくとか大きくとか笑顔で指示をだす つられて自然に拍手を大きくしたり小さくしたり なんだか楽団員の一人になったような気分で 一緒に音楽を作っているような気持ちになって 本当はうまくいかない仕事やいろんな事 落ち込みも半端じゃなかったけれど 音楽の中に入り音楽として生まれる高揚感に いつしか生きてく力が満ち満ちてきた 生きるのはつらい つらいけどある音楽は力 沈黙に生きる事も音のひとつ たとえ 消え行く音だとしても 大拍手に つつまれた会場 知らず知らずのうちに 交換しているエール また歩いて行くエネルギーを呼び覚ました ---------------------------- [自由詩]天啓/砂木[2015年1月1日19時47分] くしが髪をとくように そそぎこまれた陽の光を たたずんでいる 木がかたどります 枝葉で すくっても すくっても こぼれた思いが 根元に揺れて土を明るくし  なぞり のまれゆく愁いに はかりごとと 冷たく 風を流すのです   ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]知略崩し/砂木[2015年1月1日20時46分] さまざまな妄想は 書き物の中より現実の方が多い。 というか 書き物は現実の一部でしかないと思う。 ひとりひとりの妄想は プラスされマイナスされ 本当の事などは無力のように思える事もある。 勝てば官軍 力には敵わない。 押し潰されもみ消され歪む事を勝利という事もある。 なにを持って生きたらいいのかと思う時に 批評という ものをふと思い出す。妄想を切刻み あっちへこっちへ ぶっとばし なんだこれ? という・・これは罵倒かしら。 とても大事な詩を批評されて心を痛めるのは嫌なものだ。 しかし現実の世界において 変な噂や嘘 知略 暴論など あらゆる妄想に立ち向かうには 批評する姿勢は欲しいと思う。 妄想に対して その妄想とは違う場所に立つ事。 他人の思念に飲み込まれず 自分自身である事。 それは 批評しようという意識を持ち自分の心理状態にも 他人のように眼をむけて・・・ううっ むりかも。 批判ではなく批評精神は 無茶ぶりされる現実の生活の あらゆる場面において 自分を救うものだと思う。 良いも悪いも闇鍋のなか 毒を喰らわば皿まで ばりばりに かじりつくしかなくても 御手並み拝見 と気を失いながらでも つぶやいてみるのだ。何かするならしてみろ そこからが本当の勝負。 そこからどのように事体が動いて行くのか 見定めるのだ。 そして当然書く。ネタ提供ありがとう。で 詩を書く。 生きて行くのに批評精神は大事だと思う と言いたかったのだが 結局は詩にくるまっちゃうのかも。まっ いいか。 あっ これは批評しちゃ だめよだめだめ。今年も未熟ですがよろしくです。 批評は 生活の中であらゆるものに 立ち向かっている。それが詩かな。 いいじゃないのお。うん いいよ。知略は知略であるがゆえに 崩れる。   ---------------------------- [自由詩]破/砂木[2015年1月25日19時56分] 水玉に揺れる竜 つなぐ とぎれという輪 くべている手は 土からでた空の指 火は向こうへ かけられる扉 流は竜 木の気流 立つは麒麟 合羽の袖口にも 頬にも手にも 蝶にも 消えて流れる竜の火 拳 たたむ眼 滝の 奥底で ---------------------------- [自由詩]燃える杖/砂木[2015年3月8日20時51分] 自由でありたい 重ねている空気層が 体から 心へ触れる 自分を生きる 思い出せ 思い切り 太古の渦に チカリと開く 無遠慮に 絡まり 呑む眼 告げられるのか 否 告げろ 何者にも 何者であるかを 燃える声 響かせて ---------------------------- [自由詩]風灯/砂木[2015年5月23日21時52分] 息 ふきつけ 葉の群れにゆく 崩れる形 風に似ている そがれしみいる くさびのつる  掌に ろうそくの火種 くずれ吹く時 風に似ている     ---------------------------- [自由詩]なかせないのは/砂木[2015年7月19日15時48分] 泣くほどの事なのでしょう 向かいにたっている鏡に映る ただ形でしかないものを見る 泣くほどの 事 なのでしょう つらいからと逃げられない 逃げ切れないと 千切れて行く いずれ 切れ切れになれば消えて 鏡にもうつせない まぼろしばかり 笑い損ねた胸に 積み重なる時間の音 触れてほどける すがるような呪文 泣かせるのは嫌いですか  鏡を割る 割れる音は 未来という破壊者 泣く事から始めてもいい 破り捨てる 幻は涙に敵わない なかせないのは だれ ---------------------------- [自由詩]仏壇にて ロウソクさんと/砂木[2015年7月19日16時02分] わいわいとやみだらけ  つまみとられるまえに するマッチ さあ うかんだよ ぽっくり ゆらいだら  にこにこの 火  ロウソクさん おはよう くろくしてごめんね 芯 ---------------------------- [自由詩]ミ カン/砂木[2015年8月23日15時54分] のばした爪に 皮をゆだねても みかんは 指を求めていないのです 力ですか 許しですか 欲しいものを求めていますか 甘い実にも捨てる場所がある どうしても受け入れられない どこか ままならない殻が どこまでも許さない ひからびて 捨てられて やっととりもどせた自由 さよならは あなたが言う言葉 ---------------------------- [自由詩]風でよかった/砂木[2015年10月25日21時17分] 息のかかった葉が揺れる 風でよかった 栗のいが 落とした枝先 風でよかった 瞑るから 消える月曇り 風でよかった どろどろの みずたまり 風でよかった 障子穴には 悟られない 風でよかった 舐めるように撫でる白紙 風でよかった 葉の息がやさしい 髪に 風でよかった ---------------------------- [自由詩]くものうえの いき/砂木[2015年12月6日15時19分] ちからなく たちつくす たちつくすと きになる きになると えだわかれ えだには はが のぞむ はっぱは かぜをうける いきたいのか ちぎれても いきたくないのか くちても ねが つちに えだが そらに りょうては しんこきゅうをする ゆっくりと ひろげて すって くものうえに いきを はいて はばたく とりのように まっても とばされても たちつくせば き こころを よべ ながれるものたち あおるものたち もぐるものたち のぞくものたち りゅうのめ ひのまなこ のろい いのり ときをやぶり こころを とく こきゅうする いきのなかに ---------------------------- [自由詩]フユノシズク/砂木[2015年12月20日21時19分] 重なってくる雪にやけずに枝が 作り続ける氷という言葉 熱いと溶かされるけど凍りたい 何処かから このまま ここで ---------------------------- [自由詩]息づき/砂木[2016年1月11日15時41分] 雪が降る中 小鳥が飛んで行く 何があっても 餌をさがして 飛び続けなければ 生きていけない 天気予報で 大雪警報がだされた 降る雪 塞ぐ雪 閉じる雪 誰に知られる事なく 骨になろうとも 小鳥は 飛ばなければ 手助けするのは 空気のみ わずかに雪を溶かす 水辺と 木々 人家の暮らしの中 はぐくまれる 息の力 小鳥の 息づき ---------------------------- [自由詩]ひらく 青/砂木[2016年4月17日20時14分] 風が風を離れ 人が人を離れ のぞきこみあう空は 青く もくもく 雲 かげリいだく つきとめられ つきつけられ ほしい ほしくない  のぞむ のぞまない 組み込まれた祈りも呪いも 好き という花言葉 嫌われるからどこにでも咲く 青い雫 ---------------------------- [自由詩]羽呼吸/砂木[2016年7月3日10時59分] 朝に 山の頂上にいる山吉様に祈る 大きな杉の木 細かな葉の揺れ ただ 裏山に向かい手をたたき 深呼吸を 幾度か繰り返す すって はいて 大きく両手を動かし 空気を循環 鳥が羽ばたくように 願って望む 今日 一日 立ち続けられますように 山に生えている 木と何も変わらないのだ あの空の雲と 空自身とも同じ 私がいて 空がある 空があって 私がいる もう 望むものは少なく できることも少ない だましだまされたと 泣けば泣き言 楽しみ楽しませたと 笑う 繰り言 ただただ 深呼吸のおくられるずっと奥にも 月はある ぽっかりと くきりと 光り 呼吸して 羽ばたく練習を重ねて 心の鳥は 朝 胸の鳥篭に入る 山吉様 おたのもうします 歩み 祈り 望む 飛ばない ひとつの衛星でも  つまづかれもしない 潰された小石でも 影を連れ 羽を真似る   ---------------------------- [自由詩]火と夜/砂木[2016年9月11日17時35分] おちない眠りが揺らす あなたにわけたのではなく 重ねたのです 星の明かり 電燈の灯り あなたの言葉 偽りが入り込む隙はない 一心 偽りを燃やし尽くし 開ける朝 ---------------------------- [自由詩]心風/砂木[2016年11月13日17時52分] 心は 残る心に寄り添う いつもいつも 残したい心しか残らない 思い出すと 幸せだったのだ そんな心風を 吹かせて ふかして  とけないものだけ 心にする ---------------------------- (ファイルの終わり)