あおば 2010年7月18日11時56分から2010年12月18日7時54分まで ---------------------------- [自由詩]或る嘘つき女の生涯/あおば[2010年7月18日11時56分]                100718 地デジ対策が済んだら 地震対策は不要と 道行く人に語りかけた どうしてと怪訝な顔をする人は少なくて 殆どの人は一舜顔をほころばせる 笑顔を見せるのはだいじな人にだけと決めている人も 嬉しいときはなかなか隠せないようで チラリと本音を見せてしまう 明日は横町を抜けて隣町に行く あさっては 自転車で県庁所在地の市に向かう 一週間後には 大陸に渡り 一ヶ月後には横断して 三ヶ月後には 再び我が家に戻っている その頃には 新しい家が建っていて 庭には錦鯉の泳ぐ池が拡がって 通り行く人を楽しませる 一年後には 衆議院議員になっていて 二年後には閣僚で 三年後には早くも内閣総理大臣候補 五年後にはG8の先頭を切り 地震対策が国の礎と演説をする 帰国して憲法を改めて 大統領になり 100万円札の肖像となり 羨望の的となっているのを知りながら 托鉢しながら日暮れの道をゆっくり下る 下る途中で海が見えた 海ならばすべてが適う たどり着いて すべてが適い 無一物になって 合掌をする 儚いようで誰もが羨む 清貧の果てを楽しんでいるような 女化粧の山田の案山子もケータイ翳す七月 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作を修正。タイトルは、 星子アヤノさん。 ---------------------------- [自由詩]十日間/あおば[2010年7月22日13時22分]                100722 90日間で世界一周! 80日と君は言う 休みを入れない旅先で 10日間が惜しいのか 元気いっぱい歩いてた どこかに消えた十日間 隠れて過ごす十日間 ポイント利用の期限付き 陽に焼けてまっくろけ ---------------------------- [自由詩]カルガモ/あおば[2010年7月26日18時19分]                 100726 軽々と海を渡るからカルガモ 海を渡れないのがアヒル ケリを入れるのは昼 中学生のくせに 朝から飲んだくれているのがグレ 一緒に酒を飲みながら 羨ましそうに呟くのがアイガモ 平凡な生まれだから 酒を飲もうが 千鳥足で歩こうが 誰も気にしない ---------------------------- [自由詩]蝉と月/あおば[2010年7月29日1時30分]                 100729 生煮えのこんにゃくを囓る蝉の声は月光 今宵の味が染み込んでいるのか いつもの屋台のお店にも客足が絶えないようだが 車が普及して以来 プラリと立ち寄る客ばかり増えて 宵の口から腰を据える常連がいなくなり こんにゃくに味が染み込む暇もないくらいだと 月夜のおしゃべりを楽しむ二人は田楽にかぶりつく 蝉の声がして 地球温暖化の影響を唱える声と重なって ブブゼラのように騒がしい 光の筋は良いのだからと じっくりと構えた目が夜空に瞬く星を捕らえた 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作を修正。タイトルは、ABさん。 ---------------------------- [自由詩]イカロス/あおば[2010年7月31日2時02分]                 100731 分解された観念を再構築し脚の生えた幼い蛙どもが 道路を横切るままに車が走り出す時間帯を避けた蟹 の群れも向こう側に渡り行方不明の調査船が不時着 したという噂がこの山の麓まで伝わってくる間に孵 化したものたちが一斉に旅立ちの準備を整えつぎつ ぎと調査船に乗り込んで離陸を果たし不届きな速い 船は定速のままに右旋回して角度を稼ぎジグザグと 遅い船の針路を妨害するかのような乱れた挙動を繰 り返す太陽電池を頼りとする惑星間航行に付きもの の進路を右に左に余裕を持って舵を切る勇姿が北東 に見え出す頃に紅い月が上る。イカロスの再来だ。 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作を修正。タイトルは、クローバーさん。 ---------------------------- [自由詩]怪物/あおば[2010年8月3日23時13分]                   100803 物体化した組織の齟齬を見つめている 小さな罅が拡大してゆく速度を測る 気の短い魚が迂回路を避けて 小堰堤に挑戦する傍らを よちよちとオオサンショウウオが通りすぎる 上流にたどり着かないと子孫が残せない 頭の中の知識を掻き混ぜながらカメラは回る 説明会のあとで投資の相談をする顔が 大型爬虫類の顔から類人猿の顔に変容して 申込書にサインをする頃には再び人類の顔に戻っている 物体化した組織を二次元の書類が綴じて電磁的記録化され 価格競争の外側にまだらな模様を描き彩色され 形態としての資質を問われないままに歩きだす ---------------------------- [自由詩]前人未踏の/あおば[2010年8月6日23時07分]             100806 前人未踏の病になって 行方不明になったので 功労賞は無効となって 延喜式を読み直す 難しい漢字は読まないので 意味が全く分からない 国文科に入学しようか 頭の良い学者に業務委託するか お金があれば翻訳を依頼して 講義してもらうのもいいね 前人未踏の森に分け入り 意味不明の病に倒れ 人知れずあの世にゆく 前人未到の記録を破る 100メートルを9秒フラットで走り抜け 200メートルを17秒5でゴールする 前人未踏のマーケットに足を踏み入れ 破産する前に売り抜けて 大金持ちになったと人に言う (小麦の先物取引でも大もうけ) 破綻したらご破算とソロバン塾を開き 頭の訓練に励む 前人未踏の企てを 一気呵成に成し遂げた達人 それはあなたたちみんなです 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作を修正。タイトルは、ABさん。 ---------------------------- [自由詩]やさしいし/あおば[2010年8月9日23時07分]                  100809 価格破壊の角笛に トロンボーンが負ける 金属が貴重なのだと トランペットが慰めて バスーンも頷いて 傍らのクラリネットに愛想を振りまいて 演奏を促した 鶏が朝の時刻を知らせるまでは 好きなだけ吹くのだと 夜中の二時もやる気を見せて 三々五々を掻き集め群衆にしてしまう 籠抜け詐欺の手法を真似て オーケストラの指揮をする 一人や二人いなくなっても同じ曲調を保てると 大海原に漂う楽器の残骸を救うライフセーバーの活躍に目を見張り 美しい法律も規律もないのに心地よい風に吹かれる口笛を聞いた 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、クローバーさん。 ---------------------------- [自由詩]怪談の踊り場/あおば[2010年8月16日22時59分]                          100816 円高不況の炎天下をマルク掃除する者はいないかとニヒルなプラカードを掲げてゆっくりと右旋回するトンビの群れが急降下するたびに頸をすくめる僕たちの懐具合が嗜好する海老フライのかりかりする歯ごたえと音は貯蓄する個体数を数えあげ、つぎつぎに松明を投下してブラックアウトの夜空に火の粉が舞い散ってほんのりと火災と言う名の赤に染まってゆく精進村の素朴な色彩感覚とやけに暑いと公園のベンチでひと休みする磨り減った10円玉を狙い定めて回収する金属嗜好の意志がリサイクルの声となって生命体の周囲に希薄な見えにくいテリトリーを形成して100円ショップへの歩行を促す匍匐前進する無器用な運動体をデジカメに捉え特攻警察に密告する姿勢を保つ不随意な衝撃吸収帯が炎天下の歩道に連続した足音を揃え直立した影を捕縛する愉快な汽笛一声新橋から足柄峠までの歩行訓練に挑む衝撃映像を入手したとテロップをちょこっと眺め炭酸水の泡立つ音に午後の警告と指導に訓告、油断無い海峡を通り過ぎる無水の炭化水素が悠然と弛緩した身体を意識する夕刻になるとてんでんばららと舞い降りる椋鳥の入るべからずの立て札を無視してジョッキングを始める男達は湯気が出るほど暑いのにウインドブレーカーのままで衝撃的な映像を見せつけて円高不況の回折を繰り返し虹色にも見せる西空が悠久の時を示すかのような心地良い不調和が描きだした怪談のような錯覚か幻覚かが判断不能なままに意識となって四辺形に佇んでいる 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、ちゃむさん。 ---------------------------- [自由詩]そらいろ電車/あおば[2010年8月22日11時06分]                  100822 本物件は建坪率を超過しており 同規模での建てかえはできません なんじゃこらと電車乗り換え お客様は帰られた 中古の一戸建てを売るのも難しい 閑静な隣近所のうわさ話にも耳をそばだてた 空は青く、庭にもからんころんと芝が整い 行ってらっしゃい 早くお帰りとはしゃいでる 日ごとにプラスチックの線路も延びつづけ カタコトカタコトおぼえたてのレールの音もほがらかに目が覚めて みずいろのおんがくソラに溶け三両連結つっぱしる 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、野の花ほかけさん。 ---------------------------- [自由詩]予定通りに行くと/あおば[2010年8月25日9時06分]                  100824 方違えが面倒なので 裏口から出て 裏道を通り 表門を閉めて居る振りをしていたら ケータイが鳴ってすぐに切れる 核反応が始まったのだと知り 方角を定めずに 秘密の地下道に向かう 小一時間走らせて 地上に出ると満月がぼんやりと辺りを照らし 仄かに隠れ家を浮き立たせているが 見とれている暇はなく 裏木戸を蹴飛ばすように入ると 既に関係者はほぼ集まっているようで 予想される事態にすぐさま適応していて 小憎らしいくらいに整然と事態を分析している この国も革命前夜だというのに いつものように落ち着き払っているのを見ると 安心できるようなできないような中途半端な不安が募る 明朝には結論が出ているはずだと 誰もが知っているが口に出すことはない 今夜はまだ気持ちが定まらないが 平静を保ちながらも なんとかならないかと 打開の策をあれこれ苦慮したりして 我ながら見苦しい限りと ツィッターに書き込んだ 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、オトナシさん。 ---------------------------- [自由詩]遠い存在のあなたに/あおば[2010年8月29日19時50分]             100829 見つからない ないからない ないないづくしの のっぺらぼうに ふりまわされて 来た道を南に 逃げるように もどる もどる訳は わからない ないないづくしの 存在の証明を 論理的に 感覚的に 宿命論者は考える 遠い道を辿るものは 1リットルの水を放さない あなたは気温30℃を超えた道を 黙々と歩くのだ 水を下さい水をの声を 聞き流し ひたすら歩く ながら族のような すらりとした姿態と ほれぼれと見つめる 渇水期の存在証明を携えて 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。 タイトルは、kauzakさん。 ---------------------------- [自由詩]三軒目の鴉/あおば[2010年8月31日0時36分]                  100831 クリスタルの庭園に カットグラスの彫像を納める 納入予定日は1ヶ月後 手慣れた職人さんは熱中症で入院中 そのお弟子は元気だがまだ見習いです 頼みとする彫刻家の先生は夏休みなのでご自分の製作に余念が無くて 山に籠もって出てこない 授業が始まって学生達が顔を合わせる頃にやってくる それは3週間後のはずで 我が社の納期に間に合わない 渡りの職人さんが来る可能性は殆ど無い ハローワークにも求人したが 本物の職人さんはやってこない これから挑戦したいという見習い志望者ばかりです 注文の鴉は黒に紛うばかりの濃いブルー 羽根の優雅な波形が青白い炎のように煌めいて 飛び立つ時の気迫を偲ばせる 一羽は窓際に 二羽は天井に羽根を拡げさせ 三羽は庭で歩かせる ポンという声で一斉に飛び立つさまをご覧なさい それ以上の望みは無いと皆さまは声もなく丸く口を開けるばかりです 内部には最新型の移動センサーも忍ばせていて 定刻を過ぎお客様方がお帰りになると 庭園を横切って ポプラの木の傍らの三軒目の控えの小屋に入り 腹を空かした椋鳥たちの面倒を見ているはずです 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。 タイトルは、FUJISUZUKOさん。 ---------------------------- [自由詩]うろおろのむし/あおば[2010年9月5日14時43分]                      100905 いつかの 間違いのない期間を 充実させた大型の骨組み シロナガスクジラからコクジラにイルカ 8月の醤油樽は乾ききって罅が割れてきているが たがが外れているわけでもなく 樽の尊厳の記憶に疑いの余地は無く 訳もない通奏低音に酔いしれて 斜断する回転ノコギリの鋭い切れ味に耽溺した十代の微笑が 残された酷暑にくさびを打ち ゼロの地点に集まるあらゆる種類の虫を鳴かせ 耳鳴りに似たホワイトノイズの音色を聞き分けながら 空の色をコントロールしているみたいだ 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。 タイトルは、FUJISUZUKOさん。 ---------------------------- [自由詩]ぼんやり/あおば[2010年9月9日12時41分]                100909 箱の中から 取りだす石ころ お弾きのように一列に並べた。 テーブルの上の石ころたちは 鈍い色を放ち 眩しそうな目をして ぼんやりあたりを見ているが なんだか落ち着かない 緊張してものが言えないのだ。 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。 タイトルは、クローバーさん。 ---------------------------- [自由詩]ふれぬそで/あおば[2010年9月11日23時36分]                  100911 隣町に雨が降るから ふるふると傘を差せ 天井から小判も笑い出し 釣りは要らぬと大盤振る舞い 夢かとばかりに オケラの親子も顔を出すよ 朝の支度をグリムに任せ ミドリのコビトが馬に跨り 緑野を巡って闊歩する五月には 天井知らずの円高も喚くが 一円の攻防を忘れた紳士淑女の集団が 腕組みしたまま観覧席に固着して ああ堂々の行進曲も鳴りやむと 楽団員は三々五々お茶を啜りだし 職にあぶれた愉快なガクダンが 一斉に原爆アラレを配りだし 一円の重みに耐えかねた 木汁、活性炭、高野豆腐の連盟も バレンバレンとシンバルを打ち鳴らし その音の喧しいことといったら 雛アラレをバリボリとかじる音以上です 振袖も耳を塞いで二の腕を露出させ 腰元にはしたないと咎められてしまうほどでありました。 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。 タイトルは、野の花ほかけさん。 ---------------------------- [自由詩]めぐらし/あおば[2010年9月14日23時18分]                  100914 あの おのが おののき おとがい おののき お買いになった 音の 整列 映写機がコトコトカタカタ光が漏れる 微塵が光る 暗闇に浮き上がる意識 椅子に座って 乱反射する気持ちを抑え 周囲に気取られないように深呼吸する 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。 タイトルは、るさん。 ---------------------------- [自由詩]わいせつ/あおば[2010年9月29日11時51分]                         100927 いやらしいことを言ってはいけません するなんてもってのほかです くだらないことが大好きなB介くん 自分のことを言っているのだと思う みんなの目が厳しくなっているのを感じる A太郎は真面目な子どもだと自覚している せんせいの言うことは他の子のことだと考える くだらないことを言っては笑わせるB介やC太 AKなどもその仲間だろう 彼等は物事への一対一の認識が取れていない 主観的な彼等は全体の把握が困難でバランスが悪い部分にしか注目しないし関係性に気がつくどころか正確さも無いので100点には縁のない連中だ 目線があまりにも低すぎて 客観性が取れず厳しさも欠けるし 低俗なマンガが大好きだ いつも自転車に二人乗りしてはなにか面白いことはないかとふらついている 考えることも苦手で その瞬間の思いつきを口に出すだけだから 話をまとめることもできず せいぜい張りつめすぎた皆の気を少しだけ反らすだけで 大きく場の方向性を変えることなんてとてもできない 地面に落としたみたらし団子に群がるアリの群れを想像するだけで むず痒くなるが そんな奴等なのだ 踏みつぶしても踏みつぶしてもどこからかわいてきていやらしいたらありゃしない。 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。 タイトルは、和さん。 ---------------------------- [自由詩]水の三行/あおば[2010年10月1日7時04分]                    101001 ミズノさん 並四ラジオが 故障です すぐ直してください 明日もお勤めだと言うことは承知してますが 今晩中になんとかしていただけないでしょうか 御礼は致しますから よろしくお願いします 戸をどんどん叩き 隣家の青葉氏が古くさいラジオを抱えてやって来た デジタルの御代の今頃に並四ラジオでもあるまいし 惚けたお人だと ミズノさんは困り顔 風呂に入りビールを飲んでテレビ見ながらごろりと横になるつもりが 半田鏝を握ることになりそうだ 業務を請け負う人生だから 半端仕事もおろそかにはできないと知ってはいるが 面倒だね いっそ基板ごと入れ替えて 一丁上がりといきたいのだけれど 昭和12年製だから そもそも 基板なる物も 存在しないし 想像できない あるのは 空中配線の部品を支えるラグ板とトランスにソケットと4本の真空管 56、26B、12A、12F (ちなみに現在購入すると (56 2000円 (26B 2500円 (12A 3000円 (12F 3000円 (物価上昇率は5000倍をくらいだろうか (そうすると現在の方が少し安いとも思える 強引にラジオを渡されて呆然として 窓下の川を眺めてクシャミをしてる ミズノさん まだ二十歳 妻子無しの独り者 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。 タイトルは、小川 葉さん。 ---------------------------- [自由詩]ばお&ばを/あおば[2010年10月2日10時25分]                101002 寝違えた球根を2分割するばお 左から右へと 流水の勢いに呆れかえるばをは をたけびをするたびに クシャミが止まらない 心地よいエコーから耳障りなハウリングへ すなおにしたがいます 低姿勢のまま濁点を消去すると ばぉばっばっばっば・・・・・・ばぁーばぁーーーばを ばおばお 濁点の幽霊が大集合して うるさくて眠れない ---------------------------- [自由詩]管楽器/あおば[2010年10月15日6時48分]               101014 払暁を 黒を払いのける オーボエの音 木曜日の音が鳴る 木曜日は木管 金曜日は金管 冗談のような和音が 静かに 豊かに 散文を認めるように 路地を流れていく 朝になる ---------------------------- [自由詩]96/あおば[2010年10月23日7時46分]                     101020 キュウロクと言ったら 9600型蒸気機関車 大正の初期に純国産機として生まれ 長い昭和時代を日本全国を駆け回り 貨物列車を主に、旅客列車、混合列車を牽き、ヤードでの入れ替えと 人ならば口も八丁手も八丁の忠実な力持ちと言えましょう 小柄な車体なので数多くの私鉄専用線でも活躍し 軍拡の時代には広軌用にも改造されて大陸に渡り 人民共和国の世まで走り続けたのもおります 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。 タイトルは、和さん。 ---------------------------- [自由詩]写生/あおば[2010年10月28日22時29分]                        101028 写生する煙の 変わりようのない醜態から デッサンする余裕のない状況を 忌避しながら ガタガタと埃を巻き上げて 凸凹道をバスが走る ガソリンからジーゼルへ 使用燃料の変更に 無抵抗に 従った経営者が ウイスキーで乾杯しているとか ビールで我慢しているとか 凸凹道を走りながら バスは考える 写生する原野は夢想の産物 幻想的な夕刻にも ガス欠を恐れないバイクが ヘッドライトを煌めかせ 大きな荷物を積んで 真っ暗な闇へと突き進む 転倒を恐れない勇者のみが 暗い夜道を走る おいおいどこにゆくのだ 寝惚けたセリフを呑み込んで のっそりと立ち上がり 煤けたガラス越しに後ろ姿を見送る寝間着姿の若い男が写生する 典型的な秋の夕暮れ 鳴き止まない虫の音が腹の虫の情緒をなだめ 写生できない理解不能の真っ暗闇を呑み込んだ ---------------------------- [自由詩]風の夜に/あおば[2010年10月31日5時18分]                 101031 風の夜に 眠りこける 九官鳥を起こす 眠い眼で顔を上げ 朝が来たかと呟いた 風が無い日に のんびりと そよ風探して飛ぶのだと 嵐の夜中に呟いた 眼光鋭く風の中 暗闇見つめるアンテナを くるりと回して朝を呼ぶ 雲の切れ間に光が射して 顔を洗った九官鳥の つぶらな眼を和ませた 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。 タイトルは、ABさん。 ---------------------------- [自由詩]先っぽの鴉/あおば[2010年11月5日13時05分]                  101105 もうちっと もうちっとですね もうちっとで冬ですね 河原のネズミも慌ててる ほじくり出した獲物を咥え 呑み込む暇に走り去る 水の涸れた河床で なにもいない河床で 消えたネズミが現れて 木葉のようにくるくると 回って回って立ち上がり 旋風起こして空高く 手足を丸めて飛び去った 秋の気配の向こう側 8階建てのその向こう 街の広場のその向こう お役所学校公民館 尖ったお屋根のその向こう 古びた駅が横たわり 椋鳥鳩に鴉ども 鳥の姿で遊んでる 短いホームの先っぽで ---------------------------- [自由詩]頭上注意!/あおば[2010年11月7日17時08分]              101107 ほぅ ほぅ ほっほっほぅー ほっ! 漏らさず隠さず支える覚悟の 中身が漏れた尖閣の映像 ほっほっほっとエンジンを吹かす時 頭上にたくさんの雷が落ちてきた 漏れたのか 漏らしたのか 注意していても ぶつけるときはぶつけてしまうのが頭 初めて富士五湖にバイクで出かけた時のこと 富士山の風穴に入った あたまをぶつけないようにご注意下さい 係の方が声を高める これは危ないと バイクのヘルメットをかぶった これで安心と見学を無事済ましたが 真新しいヘルメットには何カ所かの傷跡 頭は少しも痛くなかったが すなおには喜べない痛みが今に残る 頭上注意と言われる度に思いだす 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。 タイトルは、帆かけさん。 ---------------------------- [自由詩]みかん/あおば[2010年11月11日12時05分]             101111 蜜柑の皮を剥く 指先に鈍色が 剥かれる悲しさを 染め付け 証拠を揃え もはや逃れようもない 皮を剥き終わると 赤子の房が跳びだして 早く早くと泣きわめく お皿の飢えに曝すか お皿の上で渇かすか 締めて絞っていっそのこと 甘皮ごと粉砕するのも良いねと ミキサーが囁いて 今朝もテーブルは落ち着かないが 散らかした蜜柑色は 口惜しいとも言わないで 食欲を落ち着かせ さようならも言わないで どこかに消える 葉付きの蜜柑だと もう少し修羅場を見せてくれるのだと 芝居好きの父が蘊蓄を傾けて 指先が忘れる隙に カバンを小脇に立ち上がり もはやだれも抑えようがない 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。 タイトルは、クローバーさん。 ---------------------------- [自由詩]プレゼントは遠慮するから幽体離脱したい/あおば[2010年11月15日20時29分]               101114 今ではかなり以前のことになりましたが 或る詩のイベントに参加いたしました そこでの雑談の折りに驚いたことに 参加者の殆どが 幽体離脱の経験者で 幽体離脱ってなんだろうと考えたのは私くらいだろうと 少し寂しく感じたことがありました 詩には幽体離脱の経験がないと理解不能のこともあるようで 今回のタイトルには些かの屈折した感情が湧いてまいりました いつでもどこでも幽体となり身体から自由に離れることが詩を書いたり 理解するには必要なのですと言われたような気もして 疎外感を覚えたのは確かです 大真面目な顔をして 幽体なんてあるのかと疑問を呈しても 幽体離脱経験者には通じない 有るものを無いと言われたらそりゃ怒るよ 無いものが有ると言われたときにはあなた頭確かかと 相手の能力や素質を疑うが 有るものがないと言われたらそれは差別意識だ 虐めだ虐待だ 人間性を否定するろくでなしだと非難される 幽体ねと言いながら朝早くから 髪もおどろなお菊さんが失したお皿の数を確認する お皿を数えるのに夢中でお日さまが出ていても気にしない 幽霊になってもお皿の行方が気になるのか 生まれつきの生真面目な性分なのか分からない 自分が子供の頃 目を瞑らされ 井戸の周りでお茶碗割ったの誰と言われて 名前を言わないと鬼にされるのが嫌でならなかったが お菊さんも気が弱いのか 今日も朝から井戸の傍でお皿を数えているから 邪魔しないように こんにちはと挨拶してから 桶に水を汲む 朝昼晩にと 天秤棒で母屋まで運ぶのが痩せた身体には辛いが 器量好しのお菊さんがじっと見守ってくれるから 辛い顔をするわけにもいかない この程度は朝飯前と 少し戯けて片足を斜め前に持ち上げて とっとっとと足早に立ち去るのだ 幽体離脱できないくせに本物の幽霊の前では少しも気にならないのが 考えてみれば不思議なことだ 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作を修正。 タイトルは、こさん。 ---------------------------- [自由詩]かんらん石/あおば[2010年11月18日1時22分]                101117 ありふれた素性の男が ありふれた素性の女を捜すが ありふれた顔をして どこにもない石を捜す女の顔は ふり向くことを忘れ ありふれた男の姿が目に入らない ブルーサファイアを嵌めた指が こちらを向くのを待つ長すぎる 緑色に焦がれる地表の黒化と 噴き出す溶岩の赤黒い冷却期間 幾層にも重なる分厚い岩盤を堅め パートナーとのなれそめを 読み取れない文字で刻む 忘れられた王朝の歴史の 橄欖石に刻まれた古文書を 好きなだけコピペして貼り付けられた 日当たりの良い歩道のタイル舗装は 三輪自転車のスムーズなペダルの歩み ゆっくり走らせながらも赤黒に反射して 厳しい冬の訪れを知らせようともしない 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作 ---------------------------- [自由詩]茶葉/あおば[2010年12月18日7時54分]          101218 茶葉が ポットの中で 踊っている 朝と 昼と 夜と 晩 これ以上、蒸らさないで ---------------------------- (ファイルの終わり)