あおば 2010年4月7日14時38分から2010年7月15日23時28分まで ---------------------------- [自由詩]春の席/あおば[2010年4月7日14時38分]                      100406 九官鳥を追い出して 家を開放しろ 神の声かと思ったら どこかの芝居のセリフのようで 点けっぱなしのテレビが喋る デジタルの波に乗り 騒がしい液晶テレビがやって来た 独り言の大好きな 九官鳥は職を失い 放浪の旅に出る 食べ物は適当に拾い 飛ぶときは低空を行く カラスとトンビと鳩が邪魔をするので 空の旅も剣呑だが 歩くわけにも行かない 貨物列車に便乗するのも 突き落とされる危険があると 昔の映画が語る 大陸縦断ではないから 自分で飛ぶと決めた 空は春霞 漸く温かさも戻り 桜も満開 今日を逃すと 散ってしまうと 暗くなるまで楽しめないが 花見の席で腹一杯 ゆうるりと低空を行く 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、小川 葉さん。 ---------------------------- [自由詩]赤い蒼玉/あおば[2010年4月12日11時25分]                   100410 青と赤 どちらがお好きと 鴎の便り 飛行機のような胴体を すらりと滑り込ませて 人混みの中を行く 美しい人だと噂する 八岐大蛇の末裔だと貶す人もいる あたかも2100年を迎えるように 気を高ぶらせて居るのだ すらりと滑り込んだのが昨日のような気がするが もう100年経ったのだと 老いた顎をなで下ろす ざらついた頬が便りを読んで 早速の返信を認める 青と赤の加色混法が作り出した 世紀末の空はなんと素敵なのでしょう そんなことを書いては消した 100年前の記憶を消した波と風 舟が出るのは明朝 22世紀の夜明け 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、黒葉かものさん。 ---------------------------- [自由詩]海を渡る狼/あおば[2010年4月19日3時46分]                100417 並が、7 並が、8 並が良いと、 3が、 吠える朝 狼 大神 オオカミ おおがみ 頬白が通り過ぎる海原に日が照る 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、まよほらさん。 ---------------------------- [自由詩]ラ・カンパネッラ/あおば[2010年4月19日23時37分]                100419 本土の春が期待される 期待される本土 期待される本土 期待されるのは 本土 ほんど ほんどほんどと 唱えるのではなくて 鳴らせ! 鐘をと ホンドの人たちが叫ぶ 叫ぶ人はもらいが少ないと 呟くのは止めて 君も大声で叫ぶのだ ピアノを弾きながら 叫ぶ ギターをキキながら 叫ぶ 並四ラジオをキキながら 叫ぶ 調子の良い音が 奇々怪々と鳴り響くとき 鳴れよ なれ! なるようにしか鳴らない音が 弾けてきたので 目を覚ます火食い鳥 提灯アンコウを踏み潰す 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、しりかげるさん。 ---------------------------- [自由詩]気温20℃/あおば[2010年4月21日17時31分]               100421 地元の塩に成りたいと 海に潜ってみたけれど 海の中も塩辛く 息苦しくて堪らない 息をふぅーと吐きながら ガス交換をする呼吸 それ! その意気だと 勘違いする励ましに 息も乱れてへとへとに 近くの濱にたどり着く 愉快な道中を夢見たのに 悲惨な目にあった これも遠くの火山の噴火の為と腹が立つ 噴火する火山 憤然と席を立つ勇姿 富士山の裾野に連なる沃野 何処かの飛行船が着陸する毎に 父親が現れて 嬉しそうに手を振るので 地元の塩は精製の機会を失い 不純のままに 堆積されて 薄汚れて 通行人に踏まれて 地上に留まることもできなくなって 永遠に彷徨うことになる 気温20℃の報いと知る ---------------------------- [自由詩]キィーッと叫ぶ/あおば[2010年4月21日20時07分]              100421 キィーッと叫ぶ人たちが キゥィと声を潜めると 潜んだ叫びが 理科室の空調を狂わすのだと 体育の先生が 電源を遮断して 用務員室からでてくるのを見る 数式で表現できないことは 無いこととみなす数学の先生が 統一見解をまとめ 国語の先生が 短歌で表現する頃 キィーッと叫んだ声が 古くさい真空管で増幅されて 体育館の拡声器から漏れてくるように 空から降ってくる それはカラスの仕業だと 生物の先生が蘊蓄を傾ける 傾いた国からの資本流出を嘆く前に 傾いた斜辺で滑り込み試す放課後 45度以内ならば止まれますと 4駆のタイヤが踏ん張っているから エンジンは他人事のように空転を楽しんでいる なにごとも知れば知るほど難しくなるので 逃げる場所を確保してから マンホールの中で キィーッと叫ぶ練習を繰り返す ---------------------------- [自由詩]竹のはな/あおば[2010年4月23日18時46分]                   100423 あまくだりの やくいんの ほうしゅうが たかすぎる 洗い流せ 背中の 垢 小舟の中に堆積する悪習 さおを差すタイミングを計り ギィーと漕ぎだす強者達が 天下る役員報酬を横取りするのかと 勘違いする 缶切りを知らない プルトップで育った子供たちが 大阪万博の写真を眺めている此の時間 初土俵の 竹の花が ベテランの 梅の木に 適当にあしらわれては 転がされている 早く強くなれと 祈念する 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、野の花ほかけさん。 ---------------------------- [自由詩]藍集/あおば[2010年4月27日0時04分]                100426 ヤバイというよりも お些末 こまったちゃんですこと (炬燵の中野駅は途方に暮れる) (納戸も悔やむが好いと) (物置が羨むから) (壊れた物も) (修理して) (ピカピカに磨き) (箱に入れて) (仕舞うのです) (それが) (正しいやり方だと思って) 4r9b@;q 6AR5真空管の脚を 洗いざらしの木綿布で こしゅこしゅ擦っていたら 柔らかい脚が くにゃりと曲がる 曲がり易いのだから 曲がったときは 正しく矯正しましょうと 爪の先で曲がりを直す そのつもりだったのです (真っ直ぐになったはずです  専用の矯正道具を用いるべきでした  べきでした  冪乗の特性でした  巾ともいいます  ベキ    ベキっといいながら羽目板を直す    ベキっといいながら羽子板を打つ    羽根の音に正月を込めるはずでした) ベキっと音がして 割れるのが正しいのです ピチッと音がしてして 真空管の根本が割れた 瞬間接着剤を冷蔵庫で探し 割れたところに塗りたくり 元通りにしてみたが みてくれはだいたい同じ 空気も透明なので 見た目は変わりません 接着したところは目立たない箇所です とはいうものの 真空管が 空気管になって 本来の機能は果たせない 気分だけは元通り ベキっといいながら 見直してみたら 銀色の鏡のようなマクネシュームのゲッターが 空気を吸い込んで白く変色していて半透明になっている 見てくれも変わった! これでは誰が見ても 空気管だ 元真空管6AR5 現空気管6AR5が 生き返って 真空に戻ることができるだろうか バレた ヤバイ作業の果てに バレた すぐにロケットに乗り込んで 藍色の漂う遥か成層圏を越え 宇宙ステーションの漂う辺りで接着すれば好かったのだと いまさらに思う 思っただけでは実現しないが 可能性のあることは検討に値する ベキっと音がして 一舜で見当識を失って 冪乗の果てのガラス製の容器は考える 考えながらも 銀色の鏡を失って呆然としながらも 外観は元通りを維持して 平気な顔を装っている元6AR5真空管 ベキっと音がして ピチッと割れた 藍の冪乗色が放射され どこかで空の下に収斂して 7色の虹となると 無器用な男は考えたりして 冪乗の無責任、 ベキベキとまだ言っている 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、黒葉かものさん。 ---------------------------- [自由詩]ハンチング/あおば[2010年5月1日8時14分]                    100501 左前に着たカーディガン 朱色の毛糸が縺れながら ボタンを嵌めるのが面倒だと自転車に飛び乗ってかぶりつけないハンチングを見せつけるたびに元士官候補生が権威を見せつけるかのように姿勢を正すのだと背中に目を移植して緊張感の無自覚を糾しているのは10年前の記憶 緊張感のほつれたままに 毛糸の糸を引っ張ると ゆるゆると伸びてゆく ほつれの程度に差があるかと 小さな穴に通してみるが 何時でも試す時は するりと通り抜ける健気な根性 ブラックホールの誕生だと 小躍りしながら穴の向こうを覗いてみたが 無効という文字が薄く微かに読める ぼんやりと浮遊した感覚を訊ねて歩くうちに距離を稼ぐ 稼ぐに追いつく貧乏なしと励まされ 消えてしまったミニブラックホールの引力圏を逃れ 夕立を避け 透明100均傘を携え カミナリを観測する中年の男達が ベランダから身を乗り出し過ぎて落下するのを 面白そうに観察するコンデジの孤独感 安全地帯で撮影するデジタル一眼の群れは舞台監督に推挙されたばかりのニューフェースの都電車両を取り巻くたくさんの人たちに撮影され続けている 下車前途無効とか鉄オタとか言われながらも中央分離帯を避けて設置された路面電車の安全地帯に地雷は埋めてないよねとの場違いな質問にも聞こえなくなった左耳と爆撃機が住みついた環境の悪い右耳は配給の1斤の食パンを求めておずおずと差し出す小さな手のひらでは金蠅と銀蠅が喧嘩して日の光を独占しているのだが、藤棚から垂れ下がる可憐な紫の花びらを眺め 柏餅を頬張る意地汚い観光客は 火の見櫓の下に整列させられ 半焼で耳を焼かれ 頭から竜吐水を浴びせられ ナパーム弾で焼かれた家の跡で転げ回って復讐を誓ったのを忘れ 大型連休の手羽締めに舌鼓 鬼怒川に架かった橋から蛤のように華麗なダイビング 浅蜊を掘るプラスチック製の熊手を干潟に忘れたのを 10年後に思いだすのを商売とする 小さなことを失念すると いつかは巨大なブラックホールに吸い込まれると 10年単位で記録するのにも飽きた 横書きで横着な野生復帰を願うハンチング ---------------------------- [自由詩]other=M/あおば[2010年5月2日2時14分]              100502 チーズを頼んだんだけど チーズが直ぐに出てくるとは思わなかった 出てくるのは早くても20分後と踏んでいた 5分後に出てきたので目を見張る 熟練の早業だと芸のない我が身を省みる ステージでは 演奏の楽器がピカピカになって アンプの前で立っている ミュージシャンはその時が来て ゆっくりと立ち上がり チューニングを開始した 音を出しながら 音がだんだん整って 輪郭が決まり 迫力が出てきた 無駄を省いて 音そのものを抽出する技術と感性 眺めているだけで格好いい チーズ頬張りながら 一息で飲み干した 幻覚 幻想 音のない世界の中で エレキギターが柔らかく立ち上がる 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、ちゃむさん。 ---------------------------- [自由詩]減色/あおば[2010年5月3日21時57分]                     100503 登録された ウミ ウミガメが泳ぐ 鰐鮫が騒ぐ 河に戻った現象が 一本脚で突っ立っている 激しい揺らぎに削除されそうな気配 登録された気配の削除 鰐が昼寝をする河岸の静寂が 夢を呑み込んだままの夕刻 いつまでも続く減少混合的政策 登録されたものたちが 河岸で微睡む気配を一本の槍で掻き回す緑色の悪意が新記録達成を祝う時 登録された歓喜と 削除された悲哀の 減色混合が 薄緑のままに暮れる ---------------------------- [自由詩]小指から散る/あおば[2010年5月7日14時25分]                 100507 年齢がばれる こまったと 案ずるなかれ その時は ロケットで逃げればよいと ロボナビを確認したら 北行きは明日だ 方違えをして 南西から廻る 雨が降ると 視界が無くなり 見送りもつまらない 花束を捧げたつもりで ビニール傘を差し 雫ちゃんと一緒に帰る ボチャンという音に 振り返ってみたが 水たまりのなかにも なにも生きているものは居なかった 少しだけ物足りない気分で まなじりに指を添えた 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、かんなさん。 ---------------------------- [自由詩]がな/あおば[2010年5月11日19時46分]                  100511 無我夢中で逃げ出した 空襲警報の夜 タミフルは打ったから大丈夫と 人は言う 新型も季節型も大嫌いだ インフルエンザが蔓延している ダウンのコートを引っ被り 燃えさかる交差点を抜け 教科書を厚くして 居眠りを防止する 発達途中の点取り虫を集め 真四角な教室に ぴっちりと詰め込んだ 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作 ---------------------------- [自由詩]書物の家/あおば[2010年5月19日13時46分]                  100519 満員電車で饅頭を運ぶときは 潰されないように気をつけなさい あたりまえの注意を背に 饅頭を詰めた蒸籠を運ぶ 人でなしといわれようが 饅頭が大事と 二人分の席を確保したい 油断無く隙を窺いながら ドアが開くと同時に飛び込んで 斜め前の席を確保する 二人前は無理で 身体の大きいのが割り込んできたから 饅頭入りの蒸籠が苦しそうな息を吐く 安全弁など無いから 限界を超えたら 蓋を持ち上げて 饅頭が丸い頭を覗かせるのが 目に見えるようだ 息を止めて 蒸籠が落ち着くのを待つうちに 電車は次第にスピードを上げ 左右に車体を揺すり 鉄橋に向かって 大きくカーブを切る その頃には図体の大きいのもしっかりと席を確保したので 蒸籠は前よりも窮屈になったのだが 大きく揺れるのが面白いのか 鉄橋からの景色が気に入ったのか 饅頭は 眠ったように静かになった 駅前の書店に飛び込むと 顔見知りの人たちが 新刊書を手にレジで列を作っている 待たされるのが嫌だと顔に書いてある ここでも饅頭をおひとつ如何ですかとは切り出しにくく 店の外で みんなが出て来るのを待つ 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、小川 葉さん。 ---------------------------- [自由詩]木漏れ日カメラ/あおば[2010年5月27日16時43分]                      100525 木漏れ日が地上に撮すのは 我らが太陽 吉祥寺が叫ぶ 渋谷はその名の通り渋い顔 しかたなく新宿に向かう 途中の明治神宮の森には カラスたちが空を占拠している 太陽は輝いているが 空が霞んでいるのか 地上の影は定かでない カラスが口を開けて 空を呑み込む 空の光を呑み込む 霞を腹一杯吸い込んだ後で 巣作りに励むのが健気だ 山の手線のガードを潜り 新宿御苑に向かう 影は追いつけなくなり 砂漠のように見えなくなる 一瞬の旋風が弔ったので 記憶が抜けて次のテーマが 黒い小さな部屋で上映される 「時間無制限の木漏れ日の生涯」 わかっている 費用は制限されているから 今日はこれまで 明日の朝にまた見に来てください 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、小川 葉さん。 ---------------------------- [自由詩]カスピ海ヨーグルト/あおば[2010年5月28日22時49分]                   100528 粘度が異なるヨーグルトを混ぜ合わせて コンクリートのように堅くしたらどうなのと パン屋さんは考える お店の隅には バターやチーズ ミルクにヨーグルト カスピ海の薫りをいかが 今年中学を卒業したきなこちゃんが考えたキャッチコピー お爺さんの感覚を受け継いで少し古めかしいとの評判 耳に入れてはいけないと箝口令が敷かれているが むろん本人には伝えない トレーニング効果が生かせない 強化試合に負けてからは 風当たりが強くなり 岡田監督は笑顔が増えた これ以上負けられないと 思っているに違いない 選手達は 勝って当然の声援を背に受けて 倒れるまで走り続けている らしい・・・ ゴールキーパーは シュートやペナルティーキックが無いことを願い フォワードは良いパスが来ることを願い テレビは 負けた腹いせに叩かれるのを恐れ 試合終了前に放送が終わることを願う 試合中は テレビの前でヨーグルトを食べる グルグルとコンクリートミキサーのように掻き混ぜて いつまでも固まらないように願う 固まったら食べられない お腹が痛くなると信じている いつものパン屋さんのお店には カスピ海ヨーグルトは置いてない だから堅いのか柔らかいのか知らなくて グルグルと回しながら考えている 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、とりのはさん。 ---------------------------- [自由詩]空色の損、ソーダ水/あおば[2010年6月1日14時41分]                     100601 空のコップに          ミネラル水 ミネラル水に          ソーダ加え 掻き混ぜて ぜて  ぜて     ゼて  ぜて せてと泡立てる 冷やす ソーダ水が出来上がる 空のコップが満足そうにごくり ごくりごくりと 飲み乾した ヒヤシンスのお兄さん 少しだけ羨ましいので 上目遣いに通り過ぎ 角のサテンに入り込み ぜてぜてぜてと 坐って喘ぎ 溜息ついた 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、FUJISUZUKOさん。 ---------------------------- [自由詩]空色の損、ソーダ水 2/あおば[2010年6月2日0時38分]                  100602 なにかを感じるような気がする 姉と会ったのは一度だけ 30歳も年が違うのだから お母さんのお友だちかと思った それ以来、家族の範囲を外れていたら 昨日、友達に叱られた 家族が 同胞が どこにも見えないと 嘆くのだ 友達は一人っ子で 両親も居ない 家族に憧れ 赤土の地層を掘って 今でも 竪穴式住居跡を探してる 不規則に 柱の跡が残っている ちゃぶ台があったところには 誰かの足跡が付いていて 少しだけ凹んでいるような気がする 背後から 空色の作業開始を唆す声がして 小屋の中もいつの間にか蒸してきた 6月になると 山の中だけど少し暑くなる 自家製のソーダ水を飲み終えて 120号キャンバスに下塗りをする 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、FUJISUZUKOさん。 ---------------------------- [自由詩]ぐてん/あおば[2010年6月4日11時39分]                   100604 ぐてんと鳴く 河の中から 立ち上がるのは 誰なのか 代表選挙が始まると 弾かれたように 元気になったのは 誰なのか 見守る人も居ない家の中から ぐてんという声と ぐらんという音がして 理解を求めている ---------------------------- [自由詩]Sentimental centimeter/あおば[2010年6月6日18時15分]               100606 60サンチの艦砲射撃で街の中は大混乱 命が大事と逃げ出したくなるのを踏みとどまって 物干し竿を売りにゆく 20年前の価格ですと ラウドスピーカーを響かせて 路地から路地を軽四輪を走らせる 危険地帯を抜け出してからは 太陽電池のリサイクルを始めた 20年も経つと汚れたりして効率が落ちる 新型に換えた方がお得ですと 家から家にチラシを投げ入れる エコポイントも貰えます 虎のように生きたいと 林の中に身を潜め 獲物の通るのを待つうちに 満月が山の峰から出てきた 3センチくらいに見えるので 片手で掴もうとしたが 少しだけ距離が届かない 背伸びしたが 月は思いの外に素早くて 雲の中に隠れてしまう 対岸で ギャーギャー騒ぐのは吠え猿か うるさくて耳を塞ぎたくなって 伸びた手が縮まって それ以来 月は満天に充ちている 60サンチ砲でも届かない 艦砲射撃が月に届かないなら 物干し竿の代わりに 新型の高射砲は如何ですかと 新型の軽四輪を走らせる 路地から路地へと走らせて 朝が来るまで走らせて ヤブ蚊に食われて腕が痒い 掻いたら3センチくらい赤くなる 朱に交われば赤くなるのは自然だが 掻いただけでも赤くなるのは何故だと セイタカノッポは考える なぜだろう なぜなのだ なぜただけ なぜて 素直になって 伸びて どこまでも伸びてゆき 指先が 中天の月に届くこともあるだろう 3センチだけ距離が不足するときに 出現する吠え猿に 餌をやってはいけません 判決文を読み上げた 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、ちゃむさん。 ---------------------------- [自由詩]ピタリと閉まる/あおば[2010年6月8日21時59分]                    100608 カビンにバラを活ける 埋められた青春が泣きだしたのか 一斉に花を咲かせたベルばらの日々が 昨日のように感じられるのか 春猫が仔犬のようにじゃれついて 跳躍を開始する 麻の実を植えるのが忍者ならば バラを飛び越すのが春猫 カバンにバラに詰め込んだ麻の実を 公園のベンチで開き 近寄ってきた椋鳥に見せびらかして ひとすくい草の根の近くにばらまいた 飛び降りる雀の足音に 忍び寄る春猫の無音の足音 芽が生える前に開始された跳躍が 忍ぶ者の差し金に触れて 耳障りな音を立て カバンの蓋がピタリと閉まる ---------------------------- [自由詩]エコロジー/あおば[2010年6月11日2時02分]                 100611                        またしても 発想の転換を迫られて 太陽から来る光のエネルギーを捕まえる 捕まえたエネルギーは 絶対に逃がさない 悪辣非道の変換装置で絞られて 蓄電池にも詰め込まれ 使われる時を待っている 何という酷いことをと 思っていても したたかでのんびり屋の炭酸ガスには敵わない エコロジーのかけ声の下 山に樹を植える 砂漠に草を植える 浅瀬に藻を生やす 干潟で蟹を遊ばせる 砂漠化を防ぎ 緑の沃野を拡げ 人間に優しい地球に戻すのだ 悪逆非道な人類が考えることは きっと何処かで破綻する そんなこと考えている生物が 何処かで次の出番を待っているのは承知の上での 発想の転換を迫られる ---------------------------- [自由詩]炭酸水と夏の気配/あおば[2010年6月12日23時48分]                  100612   晴れたので トロンボーンを吹く トランペットだと 昨日の人が泣くのだ 夏が来たと騒ぎだし 夜の石を捜し出す 晴れたので 道を急ぐ 暑い 炭酸水をがぶ飲みしたのは記憶の中の夏だ 暑いときはトロンボーンを吹く 弱音器 シンバル タムタムが踊り出して トランペットを慰める 熱い風が 南から 押し寄せてくる ブブゼラの音も 木霊して 季節が気配を消した 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、ベンジャミンさん。 ---------------------------- [自由詩]くちなしの星/あおば[2010年6月17日23時00分]                 100617 わうぅぅ〜うぅぅ〜んんと唸る音 暑い夜はかくべつじゃぞと ところてんを売りさばく 音が売るのだ 吊られた音が 腹を鳴かすのじゃ じゃぞと語尾も伸びるのじゃ 夜空にも梔の花が咲き乱れ じゃぞと言いつつ目を見張る 風が無いから 白い花も安心しておる お祖父さまがおっしゃった 耳許でささやく声もして いつのまにか夜が更ける 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作を修正。タイトルは、木屋 亞万さん。 ---------------------------- [自由詩]白百合/あおば[2010年6月19日12時00分]                100619 きりきりと袋掛けする童かな 見てきたような景色を作ると 桃の季節が近づいて来る 蒸し暑い空のもと 白百合が鷹揚に咲き 散らかった草むらを喜ばす なんだかなぁと思いながら シャッターを押す人を見ている ---------------------------- [自由詩]ピチカカ反応/あおば[2010年6月22日2時31分]                   100622 反応が余計だと思うのだ 現象とか起源とかに束縛されて ピチカカと今日も疲れている 一日歩き回ったあげく 上司から小言を食らい 同僚のさげすみの目を意識する なにも知らない社外の人にも申し訳ないような気がして 頭を垂れる まだ稲の穂が実る頃ではないのは百も承知だが 太陽は雲の上でさんさんと輝いている 海は青く 山も青く 郊外電車もスピードを増している頃だ 頭を上げると アンケート用紙が渡される 意識調査にご協力と書いてある このままでよいか 変化が必要か 分からない 興味がない ばかげている 五枝選択を基本とするのは正しいかどうかを考える暇もなく ボールペンを握らされ 真ん中のに興味がないに○を付ける これで放免かと思ったら 裏もご覧下さいと促される 興味のない理由を詳しく書かねばならないようだ 叙述が未熟な呪術師は村から追放されるのだと いつか読んだ文面が囁くので 急ぐのでこれで失礼と アンケート用紙とボールペンを係員に渡し逃げるように立ち去る 横断歩道の信号が青で助かった まだ完全に運から見放されては居ないようだ 大河のように車が流れる国道には梅雨の中休みを楽しむ家族のワンボックスカーの比率が多い 何パーセントが今を楽しんでいるのかと アンケート用紙の設問に腕を捉えられた どこにも人は居ないのに 紙の用紙だけが前を塞ぐように置いてある 意識すれば物は現れるのだと 少しだけえらくなった気がした 後ろを見たら ベレー帽の青年がボールペンを渡してくれた 段ボールの中にはティシュがぎっしりと詰め込まれていて まだ余裕があります お友だちをたくさん連れてきてください 大歓迎しますと口を揃える とりわけ今を楽しんで方のご意見は貴重ですので 政策決定の参考にさせていただきます 総選挙間近な街路では無駄な意見はどこにもないのですと 念を押された 解散総選挙でなければ 国民の真意は分からないと 無責任に書き込んで 二つ折りにして提出箱に投げ込んだ ひったくるようにティシュをもらい国道を南下する 歩道脇には紫陽花が植わっていて 誰にでもトレンドカラーが楽しめるようになっていた 足を止める者がいないのは自明のことで 全員が後ろをふり向かないのを南下政策と言うのだと 独り合点したが 生憎メモする紙もなく ツィットするだけで流れてしまう私の意識が誘うのか 大袈裟にクシャミをしたら 横を歩いていた人が(困った人ねと)ティシュペーパーを黙って渡してくれた 独りではなかったと少しだけ嬉しく 目から鱗と聞こえないように小声で囁いた 「過ぎ去ったものを追うよりも前を見ろ」の小言を思いだしまた不幸になるのは嫌だ 嫌だ! 嫌だ!! 嫌なんだ!!! と大声を出した気で声にならないツィットを繰り返す 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作 ---------------------------- [自由詩]無回転姑/あおば[2010年6月26日22時33分]                  100626 攪拌式の大好きな里芋 タロイモを掘る 山芋も掘る 寒いところに住む 馬鈴薯が掘った 薩摩芋を売り歩く 攪拌式の洗濯ロボットが 回転式の新型洗濯機を売り歩く マイコン内蔵のスマートな新製品と 分からない振りをした半導体は 砂の社に引き籠もると 水を得た魚が 隣の国から大きな魚を引っ張ってくる 回転式の洗濯機に魚を入れ 洗っては乾燥させて 日に三度の乾物を作る 売り歩くのは旧式の攪拌式洗濯機 てこでも動こうとしない男達を尻目に滅法活動的なので いつまでも歩き続けて 今日は隣町で応援演説中と ピカピカに洗われた新じゃがが得意げに話す 君は今晩、塩水で茹でられるのだと言っても さほど気にしないようで 昼間の興奮に酔っていて意気軒昂 トウモロコシが腹空いてぶつぶつ言う前に 釜に塩水を張り 竈に火を入れてから 煮え立つ頃合いに蓋をする 無回転の勝利と国中が沸き立っているので ここではなにも説明する必要がなくなった。 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、木屋 亞万さん。 ---------------------------- [自由詩]月にらくがき/あおば[2010年7月2日21時48分]                     100702 地震が来るとブロック塀は崩れやすく 危険です 3段以上積むのは非常識で 人の安全を考えない自分勝手な人です 新しい標語を考える 確かに崩れやすく 崩れると道路を塞ぎ 救急車 消防車 救援車の妨げとなりますが、 そこまで決めつける表現は如何なものと 年上の委員から質疑があった 3段以上積むのは危険ですと表現を和らげる 3段以上積んだら 死刑だとか ○○とか書いたらどうなるか 月の砂漠を王女様と王子様が駱駝に乗って歩く この場面も非常識だと言う人が居る あっという間に40人の盗賊に襲われる 身代金を要求されて 王国の金庫は空になり 王国の滅亡を早めるのだと そうではありません 王女様と王子様以外は居ても居なくても要員として数え上げないのが高貴の間では普通のことで 当然のことながら何十人のお供の者に 一騎当千の警護の武士が付いている 総勢およそ500名 キャラバンは粛々と夜の道を辿る 昼間は暑いからテントを張って休む それが砂漠の民の常識なのです 日が落ちて残照に染まる砂漠は紅く見えて 落書きを拒否する 真夜中に小さなオアシスに立ち寄って 水を補給して 直ぐに先を急ぐ 長居すると 食料その他が不足する 500名を養うだけの経済が不足する なだらかな砂山を登り 風紋に悶える荒涼とした行く手は遥かに 手のひらに記す文字だけが寄る辺ない身を慰める月の夜でした。 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、若原光彦さん。 ---------------------------- [自由詩]地デジ対応/あおば[2010年7月5日23時18分]               100705 明日のことは 明日に 昨日のことは 昨日で 今日のことは今日に 当たり前のことを言われてその気になった叔父さん テレビが映らないのは 料金未納の為ではなくて アンテナが他所を向いているのだと知る 電気屋さんが向きを変え 叔父さんが料金を払う 病気のお父さんの気に触るから テレビは音を出してはいけません ヘッドフォーンの音も小さくしなさい 過敏症が治らないお父さん お母さんと口げんかを始めるのが 午後の4時 そろそろお相撲が始まるなぁと思いながら スイッチを入れた 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作 ---------------------------- [自由詩]さくつきみやま/あおば[2010年7月15日23時28分]                       100715 五月闇殺人事件の捜査を私的に依頼された 容疑者は未成年で殺意は抱いていないと言っている 殺害されたのは近隣の壮年男子で 県道の歩道ライン内側を散歩しているところを突然後ろから襲われて サイフを抜き取られそうになり 格闘となり 誤って車道にはみ出したところを前方不注意の車に轢かれ 救急車で病院に搬送の途中亡くなったとのことだ 直接の死因は分からないが 交通事故で処理されなかったのは 違反者の老人が 想定外の地点に突然飛び出してきた被害者を 避けきれなかった 事故ではない、事故を装った殺人だと 未成年が事故の第一原因者だと言い張った 遺族も未成年が事故の原因を作ったのだと恨んでいる 未成年が被害者を後ろから襲ったのは事実のようで 対向車が目撃している 強盗かどうかは不明だが 暴行罪の容疑で立件されそうだ 動機がなんであるのかはこれからの捜査を待たねばならないが 依頼者は私のことを少しも信頼していない 民間人はいざというときに役に立たないと誰かに吹き込まれたのかどうかは不明だが 捜査官に気に入られようとするのを見るたびに因果な商売だと思うので 忘れないうちに原稿を書き上げて 朝になったらメロドラマに挑戦しようと思う 「さくつきみやま」(副題 春の嵐が吹き止むまで)タイトルは考えてある 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作を修正。タイトルは、 結城 希さん。 ---------------------------- (ファイルの終わり)