あおば 2009年5月20日0時50分から2009年7月18日6時47分まで ---------------------------- [自由詩]はやりやまい/あおば[2009年5月20日0時50分]              090520 はやまいりやす なにごかと 何事もない顔した男が いつもの辻から あわてて顔を覗かせる 大気圏外に住んで早くも2ヶ月 宇宙飛行士の若田さん お変わりもなく元気で 行換えの苦労もなく 無重力の世界で毎日2時間補強運動をする もはや宇宙病の心配はなく ましては地上の流行病の心配もなく 毎日を有意義に過ごしている 極めて散文的な生活であるが 病を避けるためには やむを得ない 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作、タイトルは、いとうさん。 ---------------------------- [自由詩]五重塔/あおば[2009年5月21日12時21分]                 090521 五重塔と三重の塔 どちらが偉いのかと考えた 五重塔 がっしりと重厚な三重の塔 十兵衛が守る背高の五重塔 守られなくても強い三重の塔と 守られなくては負ける五重塔 喧嘩したらどちらかが強いのかはすぐ分かる だから童子は三重の塔の大屋根で眠るのだ 五重塔は頑固な親父が守る どちらが偉いのか どちらが強いのか どちらが高いのか 考えたときは 五重塔だと思った ---------------------------- [自由詩]ブックオフ/あおば[2009年5月22日13時49分]                  090522 少しだけ はなにつくのだと 苦笑いした途端に 風が吹いてきて セットしたばかりの 髪の毛を逆立てる その一瞬をカメラに納め タイトルをつける 風神雷神鬼来迎 読んだばかりの本を ブックオフに持ってゆく 少し惜しいけれど 時間がたてば 離せなくなる 僅かだけど お金になるから と 自分に言い聞かせる ---------------------------- [自由詩]進化/あおば[2009年5月22日14時02分]                         090522 進化をし続けて 人になった途端 ウィルスに脅かされて 右往左往している マスクが売り切れたから 引き籠もっていても怒られない そんなことを考えているが それでは上役に叱られる 永久に粉食ってもいいんだよと 叫びながら 突然の 小麦粉アレルギーで うどんが啜れなくなったのは 予想外のことであったと 実直な 彼の日記には書いてあるのではと 考えている 進化を考えると 道は行き止まりになることも多く そこで終わることもあり ゲームのようにリセットは出来ない 履歴が残ることもなく いつまでもどこまでも 進化し続けていると 信じるしかない ---------------------------- [自由詩]ワタクシ/あおば[2009年5月23日12時26分]                 090523 ワタクシは そこで暗転 私は嘘を そこで覚醒 わたしはなにも 欲しがりませんと言いながら 水鉄砲を持って 道路に飛び出してゆく 怖いことを思いだした夜は よく眠れるのですと 先生は細い目を少しだけ大きく開けて 上目遣いにワタクシを見るのです こっそり伺いますというセリフが 暗転した世界に漂って 見えて なにか怖いと思いながら 水鉄砲が欲しくなるのを 頭から否定する 水があるのだから 氷もある 砂糖もある 無いのは油 ワタクシは其所で空を飛ぶための性根油を探すのですが 学徒によって掘り尽くされておりました ---------------------------- [自由詩]ところで、発売はいつになるんですか?/あおば[2009年5月25日20時25分]                  090525 君のためならば どんな苦労も厭わない ベタなセリフを懐に セリフを抜かして叱られる 役者さん 社名抜かして処分を受ける アナウンサー 魂抜かして微笑んで 笑われて クローン人間禁煙中 煙いコピーのばらまき貝を 大量養殖草臥れた 浅瀬の浅蜊に皮肉られ 蛤御門に駆け込んで 地獄の鬼たちストライキ 残業手当を勝ち取った みたらし団子に 芥子を塗った 悪戯小僧をぶん殴る 発売中止の店先で ところてん屋を探します 書肆の親父もへそ曲がり 腹が空いても団子を噛まぬ 串に曲がりはないけれど 節のあるのが気に染まぬ 禁止事項がありすぎて 兄弟喧嘩が終わらない 見ている親父はのんき者 気短な緑も深まって 梅雨入り間近な日曜日 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作、タイトルは、こさん。 ---------------------------- [自由詩]煙突/あおば[2009年5月27日22時18分]                  090527 今日も 行く宛がないから 一カ所に留まっている 家賃もたまっているので 今月の家計は火の車 破綻するのは時間の問題だと 工場の煙突も囁いている 煙のでない煙突から 顔を覗かせて ハミングするのは 自転車の息子 ロードレースを制覇して 有名になって お客さんを沢山集めて お父さんのお店を継ぐのだと 脚をさすりながら今日の練習をする ---------------------------- [自由詩]桃源郷/あおば[2009年5月28日13時45分]                  090528 明白なことがあって 影が消える 隠れ里に住みたいと願う者が 桃源郷を営んで居るのだと ほろ酔いの男が 駄洒落た顔を歪め 駅の階段で足を踏み外す エスカレーターに乗れば良かったのに エレベーターもありますぜ あとからあとから沸き上がる叱責の声 階段を上りたかったから階段を上ったのだろうと思いながらも 見ない振りをしていたら 知人に出合う 彼は堂々として これから山に向かうのだと 鍛えた脚を見せびらかすように すたすたと階段を下りていった 上るより下る方が難しいのだと だれかに告げるような 健脚であった 桃源郷に住む者は逞しいと 改めて実感する ---------------------------- [自由詩]カメラ/あおば[2009年5月28日14時12分]                  090528 ガメラがカメラを構えていると 最終列車が入ってきて カメラ小僧のオヤジたちが 一斉にフラッシュを焚く 今どきマグネシウムは無いだろうといいながら 一級品をビンから取りだして みんなの前にばらまいてから マッチを擦って火を点けた ぼっという音と 真昼のような閃光が列車の目を眩まして 機関士は急制動を掛けた 列車が止まる 威力業務妨害だ 列車往来危険罪だ 罵声が飛んで まっ白なマグネシウムの燃えかすの灰が 風に散る ガメラが立ち上がり こちらを向いた みんなは黙る 列車も知らん顔して 5分遅れで走り出す ガメラ強い ガメラ 改めてガメラの力に 驚嘆する カメラを構えて ガメラを撮った ---------------------------- [自由詩]雨/あおば[2009年5月29日6時24分]                090529 雨が降る日は天気が悪い 悪いはずだよ 天井がないぜ 傘を差しても間に合わない 大雨で 雨が漏るのはお大尽 屋根がないのが 我が国の 青空教室 今日もお休みさ 腹が立つといいながら ふて腐れて寝てしまう我が主人公の寅さんは 架空の人物 フィクションなのですが 渥美清さんの演技力で 存在感抜群 そんじょそこらのおあにいさんや お袋さん 妹さんに和尚さん 数の子盗む虎猫 銀ダラ盗む 子狸 すべてが負けだと 自信を持って言えます 今朝も早くから雨模様 天井がないので みんな一斉に 雨が降るを唱え出すので 晴れの日は当分やってこないぞ 駄洒落を飛ばす 我が家の寅さんは勤勉なので これから支度してお膳の前で形だけのお祈りをしてから 電車に乗って一時間 バスで20分 郊外の支店に通います 金融機関のお友だちと 飲みに行く日は少しだけ 良い服を着ていくので すぐ分かりますが 今日は雨なので 草臥れた服を選んで ネクタイだけ少し派手なのを着けて 元気良く出かけました 雨が降るのに 電車は 注意深くブレーキを掛けながら いつもと同じダイヤで走っております 不思議だなと思うのですが 雨が降って濡れると感電するのを嫌い 雨が降らない国で作られたのか 電車は雨でも晴でも関係ないような顔をして 元気良く走ります。 ---------------------------- [自由詩]湾外/あおば[2009年5月29日21時47分]                 090529 渚にて 渚に波が 押し寄せて 愉快な仲間が 溺死する フナムシ ヒトデ カブトガニ 青い血液抜き取られ 渚の隅で息絶える 見てきたような嘘を書き 凪の渚の佇まい おまえの頭の外にある 渚の波が茶化してる ---------------------------- [自由詩]偽物賛歌/あおば[2009年6月3日21時54分]                  改090603 宇宙を旅する きみの悲しみを 微惑星が消し 抑えがたい憂いは 彗星の尾が運ぶ 激情は、爆発誘発溶融 火球を吹き飛ばす勢いの 遊星の魔力に怯える君に 暗黒星雲に潜むガス星雲が 渦を巻いて押し寄せて なにもかも 飲み込んでしまう 知り得ない恐怖 悠久の星の誕生の憂いも 素知らぬふりして キャビンに坐り 観測を続け 疑惑星から 魅惑星への旅を 優雅に続け ルーズリーフを閉じた きみたち 人類に捧ぐ ---------------------------- [自由詩]名人/あおば[2009年6月4日22時09分]             090604 めいじんと 声に出す お湯が沸く 水が出る 氷が融ける 腹が立つ めざす頂き 輝く刃 煌めく星座 名人となる 此処まで来ると笑うしかないのだが 笑うことを忘れたカナリアは 死ぬしかないのだと 寂しい掟を翳す ドアが開いて 再びロックされる そんなこと 常識 おどろいた顔をしても 誰も笑わない 犬公方のように 弾劾されても 知らない どこかのだれかか 名人と 噂する声が 八百八町に轟いて お湯が沸く 水が出る 氷が融ける 夏が待ち遠しい ---------------------------- [自由詩]ア、雨/あおば[2009年6月8日23時19分]               090606 明日は投票日 誰に入れる どこの党 煩く聞き回るのは ご免だよ 未成年のアナタ どこの誰に入れるか 今から考えておきなさいよ 投票権がもらえても 誰に投票するか どこに投票するか 人に聞き回ったりは出来ないのですよ 自分で良く考えて 現在だけでなく 将来のことも少しは考えなさいよ うるさいなぁと 目を覚ますと 雨が降っている 本降りにならないうちに 投票所に行こう それから車に乗って 会社に向かおう 納期の前はいつもこの始末 もう少し計画的に 注文を取ってきて欲しいと思うのですが 仕事が無くて 路頭に迷うよりもましと みんなに言われるから 黙っている あめあめふれ もっと降って やる気のない 浮動票を遮断しろ 信念のある 我が党に 清き一票を 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作、タイトルは、小川葉さん。 ---------------------------- [自由詩]古道具屋/あおば[2009年6月10日8時31分]               090610 小次郎が きびすを返す 刀を片手に さっさと歩く 抜刀して歩くのは 人の体力には余るのだと 今の人は言うかも知れない 今の人は何でも計算して 適当な答えを用意する 刀で切られたことがないから そんなことを計算できるのだ おまえは切られたのだ 武蔵は悠然と構えて睨み付ける おまえはその気迫に驚いて立ち止まり 蝦蟇口を拡げ 不足分をローンに出来ないかと 相談を持ちかけるが 信用のないものには 貸せないと 武蔵にも言われ 少しむくれて 古道具屋を出る ---------------------------- [自由詩]風の谷で青い服を着た少女が桶屋を営む。/あおば[2009年6月11日10時14分]                 090611 ○を書きなさいと言われて ちびた鉛筆を取り上げる 年老いた今は ダンガーバルブのように 安定した放電が望めない ではなくて ダガーナイフのような 威力がないと 書き直す 鉛筆は軟らかくそれを受け入れる 外貨割り当ての時代 無理して購入した 高級な舶来受像機 修理に修理を重ねて 50年 いよいよお払い箱ですと デジタル化の日を指を折って待つ チューナーをつなげば まだ使えますと申し上げたが もういいです 真空管も惚けていて なかなか同期が取りにくく 番組を変える毎に 調整をし直さなくてはなりません リモコンも付いておりませんし 面倒ですよと 柔らかい笑顔でおっしゃる それでは 明日 軽トラで 引き取りに伺います なにがしかの現金を用意しておいてくださいとは 言いにくかったが 規定料金は頂かないと私が可哀相な人になるので 2,835円を容赦なく頂いた 拙い日誌を最後まで読んでいただきありがとうございました。 切れた!切れた! 定期が電球がガソリンが真空管が磁電管が進行波管が 買ったばかりの ガンダイオードもいかれた今日は 何でもかんでも駄目になるから テレビを見るのも諦めて アルバイトの 新聞配達に出かけます ブラーヴィ! 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作、タイトルは、こさん。 ---------------------------- [自由詩]ほんとうのパンツ/あおば[2009年6月16日2時52分]               090616 素敵な顔した 船乗りシンドバッドに憧れた 七つの海に乗り出して 大金持ちになりたいと おとぎ話に夢中になった 地道な稼業に精を出せと 父親は口を尖らせる 光源氏の末裔ではないとも付け加え 指物師を生業に 市井で漁ってきた おまえもそうなるのだ それがいいのだと バカボンのパパのように 少しだけくどい調子で 訴えかける うざいなぁ げろげろした オリーブオイルを垂らしたサラダを召し上がれとか パスタの上手な茹で方とか 須恵器よりも丈夫な テラコッタの水差しとか キタキツネの缶詰 ににんがし なんでもよいけど 好きなことをしたらどうと 幼い頃から 好きなことを貫いた伯母が 口を挟む 父の姉だから 遠慮がなくて いまでも若い顔の 怖いもの無しの伯母さんは 口も八丁手も八丁 阿修羅のような しなやかな手を伸ばし 焼きたての クッキーを鷲づかみする 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作、タイトルは、こはしいづみさん。 ---------------------------- [自由詩]銀の鱗/あおば[2009年6月23日0時05分]                       090622 銀ヤンマを食べる 鬼ヤンマを睨む 怖い顔をした男が 車に跳ねられて 怪我をして 病院に運ばれた 怖いから 跳ねられたのか 車が悪いのか よく分からないままに 記憶から抜けた 銀ヤンマの複眼が睨む 水たまりの隅で なにかが蠢いている 今のうちに逃げろと 声を掛けたが 人ではないから 分からなかったようで 銀ヤンマのヤゴに食われた 私の不注意なために だいじなお子さんを守ることが出来ませんでした 水たまりに深々と最敬礼して涙をこぼす 演技が上手くなったと褒めてくれたのは 腹の中の銀ヤンマだけで 鬼ヤンマは端から相手にしてくれない 悠々と空を飛びまわり 近くに来ることもない ---------------------------- [自由詩]乾湿球/あおば[2009年6月24日22時41分]                090624 行人偏と禾編がケンカして 別れた 離婚したのではなくて 別居しただけだと 読者を 隣人を 父を 母を 弟を 叔父を 叔母を 祖父を 祖母を 大叔父を 心配させやがってと 文句を言うのだけは止めてくれ 今日は少しだけ機嫌が良くて 文字が読み取れるような気がします ラジオの音も 丸く聞こえます テレビはまだ無理なので そのままにしておいてください とらえどころのない性質が こころの中の調整をしてから 戸を開けることもなく 部屋を出て行きました 海の中の掃除屋として 海鼠のような生きものを 育てているのは 天然好みの毬藻のような 集合体で形成されている 生態系の極みです ---------------------------- [自由詩]長官/あおば[2009年6月26日21時46分]               090626 緊張感を抱いて眠る ラジオの音が 頭の中のねじを 右に左に 好きなように回すのか 目が覚めると 頭が疲れていて ぼんやりして 使い物になりません 緊張感は何処に行ったのだろう 長官は怒っていなさる 早く行ってお詫びしなさい 不確かな記憶が不安をそそるので 身支度をして急ぐ 小間物屋のオヤジは ラジオ体操をしていて元気だ これから食事をして 公園に犬の散歩に行って それからお店を開くのだと 言いたそうな余裕のある顔で 大きく手を回す それでよいのです 100点を差し上げますと 上の方からラジオの音が降ってきた ---------------------------- [自由詩]コンクリート詰めの死体/あおば[2009年6月28日13時16分]                     090628 怖い光景が続く 乾涸らびた海の底からは 毎日二三個の死体が上がる 魚が居なくなったので コンクリートに詰めて捨てるのが 常識となった それからしばらくして 遺跡の畔で甕棺が出土され 珍しいと 研究者が集まって 新聞記者や 街の好事家 町興し名人や 暇なご隠居 真面目な小学生たちが 輪の外で 背伸びをして 中の様子を窺う 結局 バブルの時代の 偽造品と分かり あっという間に人々は居なくなり 金儲けも 町興しにもならないと 苦情を言いたくなったが 容疑者が見つからない 悪いようにはしないから 正直に申し出るようにとの張り紙を 遺跡の外れに掲げたが もちろん 誰も私が企てましたと申告したりはしないので、 その掲示は 責任逃れのためと分かる 誰に対しての責任かというと それがよく分からないのですが どこからか湧き出てくるらしい クレーマーに対するものらしい 確としたことが書けないのが口惜しい 台所の隅で 物音がすると 物の怪の気配かと 怖がる人もいるが もっと怖いのは 御器被りや家ネズミ 猫が居るうちが羨ましいが 猫は 粗相をしたりしても 自分で後片付けをしてくれないから 困る 自転車の車輪が くるくる回る 何処へ行くのだろうとか 思っているうちに家並みの向こうに消えた コンクリート詰めの死体の件は 明日片付けなくてはいけないと ケータイで業務連絡が入る 最近はこのようにして生きている企業も多く 収入の殆どが見えないもので費やされて 定食の御飯の量が少なくなったのを感じる サプリメントが売れるのも そのような理由なのかも知れない ---------------------------- [自由詩]コップ一杯の宇宙/あおば[2009年7月2日1時13分]                090702 高真空を保つため 綺麗なガラスを探してる トタン屋根の鉄を材料に 製造中の万能管ソラ 空の守りに使うんだ ガラスのコップは溜息ついて 家族に別れを告げました 長い戦の末のこと ガラスの姿は贅沢と 防空頭巾を被らせて 地下の壕へと誘いたいが 地下の壕は満員で 赤子の居場所もなかったと 古老も語るパーツ店 高性能の万能管 ソラの価格を問いただす 交付金を使ったら 今では買えるその値段 命の代わりと考えた 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作を改稿、タイトルは、小川葉さん。 ---------------------------- [自由詩]現世/あおば[2009年7月7日5時23分]                   090707 空蝉の声が喧しい夏 スイカにかぶりつく 誰何されると 直立不動で敬礼する癖が抜けないので 右腕をへし折って マネキンの細腕と付け替える 生え替わる恐れはないと ほくそ笑む傍で 猫が顔を覗かせて つまらなそうに笑うから 腹が空いて昼になったのだと悟る おまえはいくつになっても 鈍いのだからと テストの答案のペケ印に目を走らせる孟母の三遷の教えを思いだす 今から3階級突破するのは無理でしょう 自転車のギアはこれ以上は速くなりません エコカーの悲鳴のようなブレーキの音がして 誰かが驚いて飛び退くのが見える 我が家のバンドブレーキのエコカーも 自転車という名を嫌って カーという名を付けて貰って 最近はやけに元気であります。 ---------------------------- [自由詩]五月雨、乱れ/あおば[2009年7月7日6時08分]                 090704 青い日には 詩を推敲する 青春の尻尾を ちょんぎって 本物の大人になるのだと 言われなくてもがんばるのが 青年後期の 務めです ぇぃおぅ!と行進曲を口ずさみ 携帯化並四ラジオを引っ担ぎ だらだら坂を元気良く 登って行くので 五月雨乱れの天気予報も 東京の現在に似合ってる 気象通報に合わせて お天気野郎も 語呂合わせをするのだと 気前の好い魚屋の叔父貴を真似て 電車内で仁王立ち はた迷惑な野郎です 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作、タイトルは、kauzakさん。  ---------------------------- [自由詩]いつも少し悲しい/あおば[2009年7月9日4時30分]                090709 薄味がお好みでと 店員さんはにこにこ笑う 目の中に在るのはなんだ 酸漿を膨らましている子供たちに別れを告げて 高尾山に登る 新高山○○●の暗合電報は 破いて捨てた 危険は去ったと 説明を省き 口をつぐむので 飼い主たちは安心して 鎖を外して 番犬を自由にしたのだ そこでページを括るのを妨げられる 薄味がお好みでと にこにこ笑う顔が近づいてくる 少しだけ遠慮しているようだが あと何秒残っているか 呼吸を整える振りをして 少し手を伸ばし 胡椒の瓶を掴んでから ラーメンどんぶりに振りかける 食べるか 啜るか それとも店員さんに頭からぶちまけるか 秘密情報を胸にしまっておくのは 健康に悪い 今がチャンスだ それ! と思ったら 店員さん 子供連れの方に行ってしまって もうこちらにはふり向こうともしない 薄味が好きなのですと 誰に言うともなく 声に出してみた 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作、タイトルは、流川透明さん。 ---------------------------- [自由詩]車引き/あおば[2009年7月9日20時38分]                   090709 真っ暗な 点字図書館で 目が覚めた 真っ暗で何も見えない 見えないから 目が無くなった 触れられないから 指が無くなった 怖くて動けないから 立っていられない 足が無くなり 床に 蹲る 指が無く 腕が無く 脚が無くなり あるものは 何もなくなり 怖くなり 目が覚めた 夢だった 夢で良かった 夢ならば なにが無くなっても怖くない と思ったら 恐ろしいことに 夢だけは本当に起こったことだった それに気がついて 怖くなり 動けなくなり 固まった 暗闇が怖いので 光が欲しい 欲しいものを念じても実現しないのが現実であるのか 念力が弱いので 電球が光らないのか どちらだか分からない 蛍光灯も光らない 外はまだ真っ暗で 星明かりは点いているが 部屋の中まで届かない 真っ暗で 何も見えない暗闇だ 皆既日食を見に行きたいと思ったのが 昨日のことで 経済的な理由で断念したのが 昨晩で 残念だなという気持ちと 仕方ないという気持ちと 皆既日食を見る機会は 次のチャンスは 此の世では無いのだと気がついて 内心忸怩たるものがあるのだが なにもかも捨てて 思い切って行動する決心がもてない そう思うと動けなくなる しかし動かずに 固まるというのは 気が楽と言えば気が楽で なにもしなくても時が経つ 時がすべてを解決してくれると思ってしまう 時はそんなに親切なものなのだろうか そうは思えないが 時はなにも文句をいわないから 信じたい気持ちがあって それに縋っているばかりなので 一番肝腎なことをメモするのを忘れてしまった 忘れてしまったことをメモしたいと願うのは 無理難題かどうか今考えているところですが 実現すれば有り難いことに思えますが 果たして実現するかどうか分かりませんと 煮え切らないことを考えていたら 車にぶつかりそうになってしまったのです じつは、それも夢だったのですが 轢かれそうになって怖かったのは事実です ほろ酔い加減でそぞろ歩くはうちの人 そのうそほんと あたりき しゃりきよ ---------------------------- [自由詩]幸福島の話/あおば[2009年7月10日3時55分]                 090710 幸福と叫んだら 幸福になった そうだ 幸福だ 福だ! 福だ! 幸せを忘れた狸の群れが 子狸を探して旅に出る 物語はそのようにして終わりを告げ 幸せ者たちは しずかな眠りにつく いつまでも寝返りを打っているのは 物語の作者だけなのを 中天の月は哀れむように 青い光を一層強めて覗き込む 擬人法に長けた侍が 戸口で合図をして 一斉になだれ込み 作者を芋刺しにする その悲鳴はどこにも届かない 一瞬の早業であった 今夜はそれでおしまい 子狸たちの勉強会は 夜明けにはお終いとなり 子供たちに姿を変えて 小学校に潜り込む 勉強をしたり 猫をからかったりしているうちに 学校は終わる 幸福と叫んだら 前から2番目の子が 後ろを向いた 人間の子供たちは こんな手にはもう引っかからず 大人になるまでには幸福の入手法を学び 次は不幸せの番だと 懸命になって幸福を追い出して いま、大海に漂っている小舟のように 不安定に揺れて 不幸せを楽しんでいるかのようだ 月は呆れてなにも言えなくなった それだから このごろの月は 無人の様子を見せている ---------------------------- [自由詩]真空にかすり傷/あおば[2009年7月13日21時28分]                   090713 ハンプティーダンプティーが屋根から転がって 芝生の上に座っているよ 猫みたいな顔しているのと ご注進したのは EF5861、日立製作所製造の お召し機関車の機関助手のような顔つきで 時代記に目を走らせる 新たな見解を検証したいので 3人の学生とで これから伺いますので よろしくと一方的なケータイメール 車で乗り込んできて これを本日、時間を掛けて読み直したいと 古文書を求める 外は梅雨晴れの清々しい風が 久しぶりの休日を祝福してくれる それなのに黴くさい古文書は 虫干しもされずに桐の箱に眠る 今日は久しぶりに日の目を見られると 喜んだのだけど 近頃の若い者は 直射日光に弱くて 屋内に閉じこもる 風の抜ける軒下を勧めたが 反射光が眩しいとかで 母屋の客間に案内する 今では窓もアルミサッシで気密性を高め 衛生害虫の侵入防止に網戸を付けたりして 少し蒸し暑く感じるようになってしまった 遠路はるばるご苦労様です 麦茶でもと言いながら エアコンを弱めに掛ける 微かな音がして温めの風が舞い降りる 強にしなくては効果に手間取るなと スイッチボタンを下げて強のパターンにする 麦茶よりもアイスコーヒーの方がよいかも知れない 考えているうちにテーブルの上には 古文書が虫干しのように拡げられ 上を目の玉が這いまわるように文章を目で追う うむうむ ふふむ 年代記を暗唱しているベテランの引率の教師は ハンプティーダンプティーの発生年代について ぼんやりした学生に質問をする 確か、1871年だったような気がしますと とんちんかんなことを言う 鏡の国でアリスが会って、その物語が刊行されて 大勢の読者に知られたのは確かだと思うが 発生は遥か以前ではないかなと もう一人が自信たっぷりに声を高める 麦茶が温く感じるほど室内の興奮が高まるのは 時間の問題だ カフェイン入りの飲料も用意しましょう 微量のアルコールもいいでしょうねと 奥に引っこむ 台所脇の茶の間では 復刻版を入手したとか DVDの赤胴鈴之助の真空切り秘剣映像を スロー再生で流している 猫の跳躍する姿をヒントに 描いたような 少し不連続ながら コマとコマの間には 柔らかな 微震動があり 輪郭をむしろ強めているのだと 追いかけるように教師の声が響く ハイボールの注文にも備えなければと トリスウィスキーの瓶を集め ニッカウィスキーの残りを詰めて ニサンド振ってから 厳かな顔にして テーブルに置いた 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作、タイトルは、とものさん。 ---------------------------- [自由詩]乾いた声/あおば[2009年7月17日23時18分]                  090717 時効制度の廃止をめぐるさまざまな思考と思惑 死刑の対象となるような 強盗殺人には時効を無くす案も在るようだ 15年が25年になり 人の記憶の限界を伸ばす 25年が35年となり50年となる 35年ではない33年だと 法事嫌いの亡父が悔やむが 50年を済ましたから 安らかにお休みなさいと 祖父に告げて 墓石に水を掛けた 妄りに延長しても 記憶が伴わない 新たな記憶が創成され 新たな憎しみと確執 それが人類発展の源動力なのだと 意義を見いだすことも出来るが 過去の憎しみを煽り立てて 炎を上げさせて その熱で隠しておいた肉を焼く そんな景色も見えるようだと 芋の好きなオヤジが 焚き火を熾こす 藁は無尽蔵のように集まるから 燠火はいつまでも無くならないのだと 見知らぬ人に語っている爽やかな声 家族に見せない亡父の面影 外面ばかりの気の小さい人が 鉄砲を担いで進軍する 村々を焼き払う 敵性部落を焼き払うのはマニアルで 罪の意識を排除する 恨みは互いに期限付きである 焼き払うだけだから 反抗しない限り 誰も殺したりはしない 強盗殺人ではない 昔の夜盗とは違うのだ スマートな士官とすれ違う 一兵卒が 佐官に逆らうのは 時代錯誤だとも語る 記録されない文言が 犯罪の有無を問うが 何しろ確とした証拠がありませんから 無罪とするしかありません 乾いた声を聞きながら ページを括る 喧嘩はもうお済みですかと にこにこ笑いながらけりをつけた そんな最後の4コマを思い浮かべ 時効制度を考えた ---------------------------- [自由詩]義務教育/あおば[2009年7月18日6時47分]                   090718 三日月 が 常駐! 雷注意報が 茨城県に出ている 関東地方が荒れ模様 スクールバスのエンジンを掛けて 少しだけ暖機してから 耳を当てて 排気ガスの 色を見る 吹き出す湯気から 熱い風を知り 目の玉を保護する 間接観察法を学び 法律家の卵達が ラジオ体操を繰り広げ 大きな声に会わせて腕を振り 足を拡げ 胸を張り 身体を捻る 跳躍をしてから整理体操をして 心身を穏やかにする 雷に備える訓練が 皆既日食のために 中断 間接観察を開始する少年少女が 校庭に散らばって 大きな三日月形に見える 自転車に積んだ太陽の断片を ティシュペーパーのように 手際よく配っているのは 義務教育を終えたお月さま ---------------------------- (ファイルの終わり)