mizu K 2007年5月26日10時14分から2007年6月13日23時32分まで ---------------------------- [自由詩]aerial acrobatics 9/mizu K[2007年5月26日10時14分] *** ashley's ashes 黙々と浜辺で流木をひろい、こわきに抱える あるく 波打ちぎわが 日没の汀が 潮騒のざざわざわ 降るまえにあれを灰にせねばならぬ 今日が アシュレイの火葬日 明日は灰の日 遠い水平線の潮 *** slowly snow 海のただ中に放りこんだ 体が溶解していく 上昇する気泡が 逆回転する雪のようだ 降っている 天にむけて *** sea shore 都市に流れこんだ 大量の水で水没した 建物に残された水位の痕跡 水で満たされた当時は 水面からうすく射す光で 水中花が咲いて 私は貝のように口をつぐんだ その日は大潮で きっと月が近づきすぎたのだ *** sad sand どれだけ悲しんでも乾いてくれるので 砂漠はすきで じっとしているとやがて 包みこんでくれる やさしき人の手のひらにくるまれて 思い出すことを この世界に来る前のこと *** gray wolf 積みかさねた流木に火を放つ ここはかつて海だった 想像の浜辺で想像の流木をひろい 想像の火葬をし想像の火を放つ ただひとつ想像でないのは アシュレイのむくろ ハイイロオオカミののどは 二度とふるえることはなく ---------------------------- [自由詩]千住/mizu K[2007年6月1日5時45分] 唐水車の水ぎわの 苔むす屋敷のはしっこに 住んでおります ございます 子どもは巣立ちて 夫は他界しまして 天上の人でして 疎開した猫からの便りにありますのは ときどき天井から 音楽がきこえてくるそうなのですが 外耳道が青函トンネルくらいの長さあるのか オレには聞こえないアルよ 娘がひとり 木のうろに 隠れてもう幾年に なるのかならないのか オレはもうボケててわーからねー わからないからアルル 、君んとこに住んでイルね 昼さがりに 鳥かごを編んでおりますと すりガラスの向こう チンチン電車が かすれた声で/ つぎはー せんじゅー、せんじゅー なんぼうせいたいいんととー おのののここまちゆうびんきょくにー おおこしのかたははー おおなり由子ー せんじゅー、せんじゅー ひと昔まえは 大名行列が きらきらきらきら しばらくすると その行列めがけて ぱらぱらぱらぱら こんぺいとうが放りなげられて こんぴらさんのおみこしの日 万国旗がずらずらずら ですから母はかぎ鼻で 異国ふうの顔立ちですから いーじんさんにー つれさられー お妾さんとしてわびしい一生を 過ごしたわけではなく お外を逍遥なさると近所のこどもが バアムクー、ヘヘーンー と敬礼するので それは違うわこうやるアルよと ハイルヒ、トララー 冗談半分に仕込み その結果 師範学校上がりの 新任のうら若きまちこ先生は ご卒倒なさるのでした 他界中の夫はときどき 唐水車のてっぺんにちょこんと帰界すること があって姿がときどき奇怪でなかなか会う機 会もないのできっかいな夫ですがおはよよよ ようごじゃいますなんてしどろもどろで夫と 離婚騒ぎで家庭崩壊しかけて決壊しかけた関 係にちょっかい出してきた疎開しているちょ はっかいではなくそれはおそらく猫ですが/ 旋盤加工工のプレインが ぶぶーんと青空を旋回 している田舎の風景オン/オフ スロットル 視界深度が青くなってアルよ (今朝の見出し 千住で母殺し、毒殺) ビゼーがアルルで 女としけこんだかどうかは 不確かでアルルが オレの娘は木のうろにいるる オレという人称は この地方の女が日常で使う ので常であるのですが 娘はひととき都会に出奔して ストリップでスッポンポン になっていたところを 難波さんにナンパされ 結婚して離婚して 難波さんスッポンに /をかまれた経験が あるそうですが 娘は口にファスナーがついているので 難波さんのファスナーをじじじと おろして参拝したかどうか 実際のところは不明でアルルの女よ 母はアル中で 昔の津軽海峡ぶっ通し冬景色大酒飲み大会で 優勝してしまった既に他界してしまった父に ほれてほれられて懇意になって あとで私の夫にもフォオリン・ラヴして ―つまり離婚の原因は母なのですが 苔むした唐水車のある 壊れかけの屋敷のはしっこに ちょこんと座っていて父と話している 気になっている母をみると 不憫であり けれどもやっぱり許せないので 木のうろに隠れるふりして 機会をうかがうオ レ、は 今朝のカフェ・オレに 凄惨な光景を想像して カリリと歯がみする のです ---------------------------- [自由詩]金属は湿っている/mizu K[2007年6月13日23時32分] 1. 6月の鉄棒はいつも雨に濡れている 4月の体力測定で逆上がりができなくて僕はみんなにげらげら笑われた それから夕方近所の公園で練習しているのだけれど ちっとも足が上がらないうちに雨が降り出した 足じゃなくて腰をあげるの 僕の練習をときどき見ていたというお姉さんが見かねてそう教えてくれたんだけど 手本見せるから見ててね って制服のまま逆上がりするんだもの違うところに目がいってしまって 僕はもうそれどころじゃない どぎまぎしながら5月が過ぎてそれから雨が降り出して わたし、うめかっていうからね そう言って無印のねり梅をくれた それからしばらく姿を見ない 晴れたら、こんど晴れたらまた練習しよう 鉄棒をぐっと握ると手の平から汗がじわっと出て この鉄棒はどれだけの汗を吸ってきたんだろうか ときどきねり梅の味を思い出して つばを飲み込んでいる 2. 自宅の押入れの奥まったところに金盥がしまってある この金盥をどうしても処分することができなくてこの歳になってしまった もう私も長くはないのでそろそろ身辺整理をしなければならないのだろうが 簡単に始末できる代物ではない この盥はまだあのときの赤子の血で冷たく光っているように思え 彼女と、ほんの少しの間母であった人の命がここに少しだけ留まっているようにも思われ もちろんもう60年も前のことを話しても誰も見向きもせずただ私のまなこが ときどき鈍く湿った金属のように8月のあのおぞましい光景を甦らせるのだ 喉が溶解してひっつくような熱い光と爆音、熱風、そして黒い雨 瓦礫のような集会所に逃げ込んだ人びとは 既にこの状況がただならぬものであることを察知してどこかおびえた目をしていた その時、私の姉が突然産気づいてしまって だれか、だれか!お医者さまはいませんか!だれか! しばしの沈黙の後ひとりの初老が立ち上がり姉に近寄ったがふと私をじっと見た 君、ちょっと手を貸してはくれぬか それから ねえママ、ゲンバクってなに? えーとね、ほらこの前愛知であったじゃない トトロみたいなのがいたでしょ あれの一種だと思うのよねー 3. 毎年この時期になるといっせいに学校が休みになってなー という話を毎回父から聞きながら 田の境のごつい岩のてっぺんに腰かけておにぎりをぱくつきながら 9月の高い空を見上げていた 一家総出で稲刈りをするのは昔と変わりないが 休日にひと仕事すればなんとか間に合う兼業であった 機械化が進んだとはいえくねった田のぐるりを刈るのは手作業だ 乾燥した葉先や刈りくずから肌を守るため長袖、軍手、手ぬぐいぐるぐる巻き 鎌でざくざくと切る たまに指もさくさく切って流血騒ぎ というのはうそである 稲刈りは孤独な単純作業なのでいろいろ考える いーつかはーだーれかさんとーむーぎばーたーけーとかいうけど 麦畑でもこんなにちくちくするのかなあ っていうか麦畑でなにするんだろ (小学生の想像力にはげに限界があった) 夕刻母屋に引き上げて鎌に付着した泥を落とす 洗い場でじゃぶじゃぶ洗って軒下に立て掛けてしばらく乾かす おなかすいたなーと思いながら屋内に入ろうとしてふと見ると 軒下にそろって置かれた鎌が夕刻の光にどこかぬらりとてかついていて もしかしてこの鎌はもう乾くことがないんじゃないだろうかと 台所からの煮しめのにおいに引かれながらなんとはなしにそう思った 父とおにぎりを食べたあのごつい岩は 圃場整備で粉々にされて今はもうない ---------------------------- (ファイルの終わり)