青色銀河団 2012年6月11日23時40分から2021年10月31日19時23分まで ---------------------------- [携帯写真+詩]あいたい/青色銀河団[2012年6月11日23時40分] ひとつの生身である わたしは いま 海の声を欲する この星を覆う 巨大な潮力によって なんどもなんども 運ばれていく その声が 遠いきみに いつか とどくように ---------------------------- [自由詩]風葬/青色銀河団[2012年9月18日0時19分] もしも かなしみのなかのかなしみで そだつきがあるならば そのきは うみかぜのなかで ぐっとねをはり えだをすこしずつのばし はなをさかせるだろう そのはなは きっと すいしょうのように きよらかで とうめいな じゅうしのはるの やさしいきもち いつかどこか みしらぬ とおいくにで ぼくの なくしてしまった つばさが みつかったなら どうか そっと かぜのなかに とばしてほしい ---------------------------- [自由詩]きみへ/青色銀河団[2012年9月21日0時44分] 冬のきみがすきだった 冬のきみがきらいだった ひややかな恋のまま ずっととおりすぎて しまいたかった あの日 月のむこうまで 海がつづいていました キラキラした時間が せかいじゅうを みたしていました 冬のほたるのきみは 夢みる世界のなかで せつないほど ふるえていた あしたさえ 不確かな この世界のはずれで ぼくが つく ためいきは きっと きみへの糸でんわ ---------------------------- [俳句]夏(九)/青色銀河団[2013年8月10日17時41分] ポケットに溢れるほどの夏の恋 なつかしい蜜柑色した夕の街 白い鳩しみわたるほどのあおぞらに ちいさな手 氷のグラスを握りしめ 白い雲 永遠につづく麦畑 なつかしい廃屋の裏の蝉の声 木漏れ日のレースに遊ぶ夏の風 満天の星の暗号解読し ネーブルに母のピアノを思い出す 夏の夜は思い出のままのおとぎの国 ---------------------------- [自由詩]ガラスのかけら/青色銀河団[2014年4月16日23時05分] 外は雨。 窓のガラスに幾粒もの涙が 透明な線を斜めに描いていく。 ベッドの上からその景色を見上げていると 左手がやさしい感触に包まれた。 夜の部屋。 原野 夜(はらの よる)。 あたしと同じ16才。 きのう会ったばかりの男の子。 風子ってちいさくてかわいいけど 手もほんとちっちゃいんだね。 でもね握り心地がすごくいい。 耳元で夜の声が少しくすぐったい。 部屋のなかは朝だというのに薄暗く。 乳白色。 時計の秒針が止まっているかのような。 やさしく。 ぬくもりがあって。 くすぐったい。 そんな時間。 ねえ風子。 『知る』って『思い出す』ことだと思わない? 夜があたしの手をそっとにぎりながら話しはじめた。 こうやって昨日まで知らなかった風子のことを 今日ぼくは知ってる。 きっと目に見えるものよりも 大事なことはたくさんあって。 それはけして言葉にはできないことで。 知っているけど思い出せないことで。 たぶん『よく生きる』ってことは、 『よく思い出す』ことなんだと思う。 夜はそこでいったん口を閉ざす。 やさしい雨のおと。 『すでに知っている』ことと 『まだ思い出せない』こととのあいだに ぼくらはいるのだと思うんだ。 だから、君が話してくれた 舗装道路の美しさも 梢の美しさも 風の色も 君のママのことも ぜんぶ 『すでに知っている』ことと 『まだ思い出せない』こととの あいだのあることなんだ。 夜が言っていることは 何だかむずかしくてよくわからないけど 何となくはわかるような気がした。 きみが見ている風も、 ちゃんと見ようとすると見えなくなってしまうだろ。 正確に色や形をとらえようとすると どこかに消えてしまう。 すべてはまったく同じなんじゃないかと思うんだ。 よく見ようとすると、見えなくなってしまう。 でもね、見ようとさえしなければ 見えてくるってことを、 ちゃんと覚えていれば大丈夫。 うん、何となく、わかる。 一番いけないのは、 よく見えないからといって、 見ることをあきらめちゃうこと。 見ることを忘れちゃうこと。 見えないものはないものだと信じてしまうこと。 大抵の大人がそうだと思うよ。 大人になるってそういうことだと 大人たちは勝手に思い込んでる。 けど、それはまちがいなんだ。 見えることなんて 全体のほんの一部にしか過ぎないのにね。 少なくとも君と僕は 『すでに知っている』ってことをまだ覚えている。 『思い出せないけど、知っている』 この感覚が大事だと思う。 きみもぼくもきっと何も学ばなくても すでにぜんぶ知っているはずなんだ。 だってほら。 夜の顔が近づいてきた。 夜の長いまつげ。 とても きれい。 夜の薄色のひとみ。 とても きれい。 夜のくちびる。 あたしに。 夜が。 満ちてくる。 長い抱擁のあと まどろみのなかで 思っていた。 そう、たしかにあたしは夜を知っていた。 ぼくらは、不自由だし、 ぼくらは、窮屈だし、 ぼくらは、惨めだ。 本当はこの世に幸福な子供なんて ひとりもいないと思う。 夜はさびしそうにつづけた。 大人は、不自由だし、 大人は、窮屈だし、 大人は、惨めだ。 本当にこの世に幸福な人なんて いないのだろうか。 あたしはまだほんの子供で。 でも大人たちがいつでも間違っているのは あたしも知ってるよ。 そういってあたしは夜の髪にきすをした。 少し悲しい気持ちになったけど あたしたちは白いいちにちを その部屋でずっと過ごしたのだった。 ---------------------------- [携帯写真+詩]天使/青色銀河団[2014年8月30日0時52分] 見えない糸でんわで結ばれていても 青い微笑がしみわたる夜ですから ともだちだけが変わってゆきます 無声音の言葉はみちにあふれ 生きる水位が青い 少女たちの 渋谷の街です 原石のやさしさにおいて 青白くゆらいでいく 霊魂の渋谷です 街はさんさんと透明ですから もう誰もいない 少女たちです ときどき 行きかう交差点に 天使の純粋物質が 落ちています ---------------------------- [携帯写真+詩]水/青色銀河団[2014年10月12日23時45分] それは かつて、 波であり、雨であり、 きみであり、ぼくであった、 青い黎明の影に涼しく揺れる、 ひとつぶの露。 魂は、ほどけて、 空の記憶、海の記憶、大地の記憶、愛の記憶、 それらと溶けあい、一つになり、 (それは) (ぼくは) (きみは) かたちも、色も、脱ぎ捨てて、 未来永劫、 この星をめぐるのだろう。 ---------------------------- [携帯写真+詩]横丁の角を曲がると/青色銀河団[2014年10月12日23時59分] 横丁の角を 曲がると 公営住宅の アンテナの遥か上 ライオンの かたちした雲が 広いサバンナを 駆け抜けていた ---------------------------- [携帯写真+詩]朝/青色銀河団[2014年10月13日0時43分] 少女は 朝が嫌い 目を覚ますと いつも 知らない町に 置きざりにされた 気持ちになるから 少女は 朝日が嫌い 朝日は いつも こんなにも 世界を歪ませて 見せるから 少女は 朝のママとパパが嫌い 朝のママとパパは ママとパパそっくりの宇宙人みたいに 白い顔をして 無表情だから どうしてみんな平気なの? どうしてみんな気がつかないの? ホント絶対おかしいよ そうして 少女も いつのまにか 見知らぬ自分に 慣らされてしまう ---------------------------- [自由詩]ねえ、でぶでぶ/青色銀河団[2016年5月23日23時43分] ねえ、でぶでぶ 神様は毛がないってホント? みたことある? ねえ、でぶでぶ にがいって字書ける? でぶでぶの字って うさぎの耳でしょ 耳ふさいでる うさぎみたいな ねえ、でぶでぶ 石に耳あてると 麦のざわめく音がするね ねえ でぶでぶ ねえ、でぶでぶう 太陽がきれいだよ。 ---------------------------- [自由詩]よごれたなみだ/青色銀河団[2016年5月25日0時04分] ひとはかくことでしか、解消されないものがある、じぶんはじぶんいがいにはなれないんだ、じぶんはじぶんでしかないだ、じぶんをさがしたってじぶんいがいになれるわけじゃないか、じぶんをさがしたってじぶんいがいになれるわけじゃないか、あたりまえのことだぜ、あたりまえのことなんだぜ、なのに、みんなじぶんいがいになろうとしているじゃないか、みんなじぶんいがいになろうとしているじゃないか、じぶんはみにくい、じぶんはみにくいんだぜ、でも、きれいになろうとしてる、やせようとしてる、かわいいかのじょをほしがってる、かっこいいかれしをほしがってる、かわいいといわれたがってる、かっこいいといわれたがってる、みんなじぶんいがいになろうとしてるじゃないか、ふつうになろうとすましてるじゃないか、いまをかえようとして、ずっといまをかえようとして、ずっとじぶんでいたことがない、ずっとじぶんでいないじゃないか、さがしものをするためにじんせいがすぎてくじゃないか、じんせいはほんとうはたいくつだぜ、じんせいはたいしたもんじゃないんだぜ、しぜんもきたないんだぜ、やまをあるいてもきれいじゃない、かわをあるいたってきれいじゃない、きれいなしぜんなんてほんとはふしぜんなんだぜ、まちのほうがよっぽどきれいだ、にんげんのつくるもののほうがよっぽどきれいなんだぜ、ありのままのじぶんをうけいれてほしいとほんとはおもってるんだ、おまえはおまえのままでいいのだとほんとはいわれたがってるんだ、あなたとならいっしょにしんでもいいよといわれるのをねがってるんだ、ほんとはじぶんいがいになりたいんじゃなくて、ほんとのじぶんでいてもゆるしてくれるばしょをさがしてるんだ、なみだぼろぼろながしながら、ほんとはほんとのあいにうえてるんだぜ、ほんとはくろーるであさやけぐもをずうっとおよいでいきたいんだぜ ---------------------------- [短歌]虹をあつめる/青色銀河団[2016年5月28日18時06分] がらすつたう あめつぶのやさしさ ゆるされて このほしにあること いきていること おともなく おれんじいろに もえるそら だれかぼくに てがみをください ゆうべおそく とどいたてがみは かつていた なつかしいほしの うみのにおいがした せかいじゅうの にじをあつめて ぼろぼろと なみだをながす きみにあいたい ---------------------------- [短歌]二月二日/青色銀河団[2017年2月2日22時14分] だってまだ夜明けなんか知らないし。十四歳は虹をあつめて。 はだかでも一本くらいもってるの。女の子だけのキレキレナイフ。 アパートで寄せ鍋つつく樂園を追放された天使のわれら。 ひとつずつあかいはなびらむしります。ずっとかあさんがかえってこない。 あじさいの青のいろよりつめたくもかなしいビンのなかの妹。 ---------------------------- [短歌]二月二十六日/青色銀河団[2017年2月26日18時57分] 魂のいくどもかよふ天空はみずの音さへ彼方にひびゐて 坂道に桃の花咲く 初恋の悲しき予感はじめて抱く日に 美しき名前のごときやさしさでちひさき庭にも雪は降りけり 海岸の硝子粒など集めきて 透かすひかりは初戀に似て ---------------------------- [短歌]かなた。/青色銀河団[2018年2月17日23時58分] 三月の街で産まれる陽炎の 涙のような きみが夢にいた 永遠にはじめてなのです あたしだけ砂漠のなかを さまよってるから サイダーの夜明け前に 肩寄せあい ウエハースなどさりさりと食む ---------------------------- [短歌]夜の日記/青色銀河団[2018年2月18日1時19分] 永遠に嫌な昨日はよみがえる 天気予報は すべて謎のまま 掃除機が 茶色の夏に恋をした 高圧線も遠くで揺れる 透明な先っぽのなきがらがまだ 詩人のように ぬけがらのように 世界中のぬいぐるみ全部燃やしてから 家の風呂場で おしりを洗う ---------------------------- [自由詩]ぼろぼろのつばさ 4'/青色銀河団[2020年4月21日23時30分] [銀波] あおじろいいのちが 誰かの胸にともる頃 あなたの耳のなかに 夕暮が入りこみ耳の 中で星たちはしみわ たる水の音を聞き入 りながら瞬き始める [tears] 小鳥はなみだ。海岸はなみだ。春はなみだ。ことばはなみだ。 きみはなみだ ひとりぼっちのなみだ [birth of stars] 野原のまんなかで天体の運行を司る 君は 音楽の酔っ払いのミューズ 君が奏でる音楽にあわせ 純粋な植物から星々が生まれる かつて遠く旅した星々の記憶が 鮮やかに甦る [ほんとにほしいもの] ほんとにほしいものは どこをさがしてもうってなかった ともだちもりょうしんもあのひとも わたしのほんとのきもちにきづきもしない ほんとは ことばなんていらないのに ほんとは てをそっとにぎってくれるだけでいいのに ほんとは ただそばにいてくれるだけでいいのに どうしてこんなに むねがすかすかするんだろ きっとあした わたしがしんでも せかいは なにも かわらない [question] 先生わたしはいつになったら幸せになれますか。先生わたしは からだが半分透き通っていなくなってしまうときがあるんので すがどうしたらよいですか。先生人のためになることしたいで すか。先生人に迷惑をかけちゃいけませんか。先生毎日が苦し くてしかたないのですがどうしたらいいですか。先生大人にな ったら何かいいことありますか。先生どうして死んだらいけな いのですか。先生生きていくって汚れていくことですか。先生 わたしがいません。先生どうしたらいいですか。 [reflection] ガラスの家に住み ガラスの椅子に座り ガラスのテーブルに着き ガラスの食器で 食事をする ガラスに映るのは誰? 一粒のガラスの涙が こぼれると ガラスの食器とガラスのテーブルとガラスの椅子とガラスの家が粉々に砕けた 幾千幾万ものガラスのかけらに 幾千幾万もの私が写っている [hello goodby] ハロー ハロー グッドバイ グッドバイ [future] 未来ってどんなかたちをしてるか知ってる? 未来はね とてもやさしい顔をしてる 未来はね 長くてきれいな髪をしてる そう きみが未来なんだよ [winter] ふゆのきと書いてひいらぎ ぎざぎざのはっぱが とてもいたいんだ けれどとてもなつかしいいたみさ [winter path] ぼくがあるくと ゆきのうえにみちができる けれどすこしたつと ゆきがすべてをかくしてしまう ゆきみちはすこしだけ さよならににている [pot-pourri] そう… 風にのった ポプリは― きっと… 春になる… だから ポプリ いつもココロに ポプリを ポプリは希望… ポプリは朝の光… ―今 そんなあなたに あげたい… ……ポプリメント [なあなあ] なあなあ、誰かきいておくれよ、今夜は、誰かにきい ていて欲しいんだよ、こんな月のきれいな晩はさ、た とえ雨がふっていても、とても人恋しくなるもんだろ、 だってさかわいい女が隣に寝ているとするだろう、 もちろんおれの妄想だけど、その女はさ風呂上りで、 髪の匂いなんか、すごくセクシーで、だけど寝てる んだぜ、どうするよ、夏がそこにあるんだぜ、春を飛 び越えちゃって、いきなりおれの人生、夏でいいのか って、ちょっと悩むけど、けど人生一寸先は闇だろ、 カミオカンデの隣で暗黒物質が検出されるかも知れ ない時代だろ、もう考えたってしょうがないわけよ、 そこでえいって抱きつこうとすると、それはやっぱり 妄想で、女の裸は画面の中だけで、勝手にあんあん 逝っててさ、こっちはもうショボーンってなってしまって、 おれの人生こんなでいいのか、って、ティッシュで拭 きながら毎晩毎晩反省するんですけど、ごめんよ、 こんな駄文読ませちまって、 [blue] ぼくは 時間よりも深く青い空の色の ひとみを持ち ひとりの深みにはまっている 誰もいない 朝 梢の花もあざやかな青です [breeze] このあおは雪にひそむそらなので きっとまだともしびの戦争が足りないのだと思う 夜明けまえに流すなみだは ちいさな部屋のちいさな悲しみのむこう リボンの丘をこえて 透明な海岸をあすのほうへとこえてゆく この淡い胸のいたみは 遠い水晶にふきあれる青い嵐なのだろうか [so much lonely] とてもさびしいので 涙という文字を百回書きました とてもさびしいので 流れる雲の数を数えて眠りました とてもさびしいので 小鳥になって夢の中で飛んでいました とてもさびしいので めざめるとつめたいあおぞらがひかっていました [永遠の端くれ] 灰色の空から 雪が降ってくる 雪に混ざって はるか上空から 白い羽が一枚 音もなく 落ちてきては 動かなくなった 猫の上に とどまった それを目撃したおれは胸の前で ちいさく十字を切った おれたちは みんな 永遠の端くれなんだ [夜は、ちいさな空が、] 夜は、 ちいさな空が、 火のように 燃える。 わたしは、 その ちいさな 燃えさし。 夜、ひとりになると わたしのなかで 燃える ちいさな空を くじら雲が 飛んでゆく。 その はるかな はるかな 行き先。 夜、 ひとりの部屋で。 [黄昏のおわりの瞬きに] 1 黄昏のおわりの瞬きに、大いなる怒りの光を帯びた星 雲が交差しあう天蓋にむかい、傷ついた男たちが大声で 呼びかける。その声に応じて晴れてゆく天空には、たえ ずうつくしくしみわたる遠い霧のような花火が沈黙しつ つ彼方へ消えていった。 2 真赤な少女たちが風のように駆けよってくる水滴に 満ちた紅い花のその名を呼べ。深い鏡を覗き込むとき 傷つくほどに満ちたあおそらにかかる金色の虹のそ の名を呼べ。若き日において朝の世界のかわりに世界 に満ち満ちた暗黒のその名を呼べ。 3 ふるえる幻影の朝のなか、透きとおった身体をもつ妻 がうたう舟歌のつくりだす樹木や森や山ほどの喜び の存在意味をもっているのか。砂に埋もれたままの蝉 のぬけがらほどの鈍色の存在意味をもっているのか。 4 新しいせかいにおいて地上の氷の割れる音のすぐちか くに痩せたことばのつぼみがあり、それらをてのひら の熱で溶かすと、ことばは水晶のうたのように蒸気化 し、朝のひかりほどのふるえる時間にかわった。 [night and day] よる なあ、さびしいな さびしさが しみるな なあ、あれだな よるになると 真っ暗になるのは あれのせいだな きっと 独りぼっちで さびしいせいだな ひる 透明な海で 何度も 何度も おぼれてしまうので ぼくの 十字架は 際限なく 増殖する ひるも ゆうぐれも あけがたも 世界は みえない毒で みちあふれてる 見る氷の秋のひかり。 カナリアの朝の蒸気。 難解な青春のあけがたをことごとく打ち砕く気層。 つきあたる女の子。 世界の毒。 よる 笑い方が よくわからないんだが いったい おれは いつから 行方不明なんだっけ [冬] すきといったら きっと きえてしまう 悲しみの魔法 冬の底で あたしの幻想まで 夕闇に包まれていく ねえ風は死んでしまったの? ねえ花は折れてしまったの? あなたがすきなのに 負傷した悲しみが 灰になった手紙のようね [12月] ぼくは で始まる詩を書き始めたら 冬のらせん階段をどこまでもおりてゆく そんな詩になってしまう あの日きみを待ち続けたときの雪は まだやまない ---------------------------- [自由詩]よるの果てまで(改稿)/青色銀河団[2020年4月22日14時24分] たなびくそらの彼方から 沈黙する よるだね ぼくたち 詩人も 涙を流して 沈黙するよるだね ねえ また見えない戦争がはじまるね やわらかな影が いくつも射殺されてくね ぼくたちの視野のかたすみで ぼくたちの視野のかたすみで やわらかな影が いくつも 射殺されてくね ねえ よいさよならは とても苦いものだね 遠い海鳴りに とても よくにている 透明なぼくたちは ほほを濡らして 鳴り続ける とても静かなよるを きいてる ---------------------------- [自由詩]ぼくはまく/青色銀河団[2020年4月23日0時02分] ぼくはとうめいなまくだ まくのこちらがわでは なんらかの化学現象がおきているけど まくの向こう側にそれが伝わるということはあまりない ぼくはとうめいなまくだ まくのこちらがわでは どこかであおじろい炎がもえているけれど 目を凝らすとその炎はどこかへ消えてしまう すべてを 分解しても分解しても けっきょくなにもみつかりゃしない 分析したってだめなのだ ぼくはたんなる現象なのだから ぼくはまくだ なにもないこちらがわと なにもないむこうがわをへだてる ぼくはたんなるとうめいなまくだ (けれど  こちらがわがほんとうのぼくで  せかいのひみつとどこかで  つながってるとしたら  いいんだけどな) ---------------------------- [自由詩]ぼろぼろのつばさ 5/青色銀河団[2020年4月23日16時58分] [郷愁] 昔 小学校の理科の時間に 習った 雨は 空にある記憶の破片ひとつひとつに 水蒸気が付着し それ自身の郷愁の重さに耐え切れなくなったとき 地上まで落ちて来るんだと 天と地との その遥かな距離を はるかな切なさを 延々と落ちて来るんだと だから 傘を持つ手を濡らす あめつぶは どこかなつかしい味がするのだろうか [人] 歩く人それぞれに 植物の属性が宿っているのだそうだ 地球は鉱物でできているから そこで生きてゆく為に それぞれ地に根をはっていかなければならない あのピンクのコートを 羽織った女性は 桜の属性をもつひと すぐ脇を足早に過ぎてゆく会社員は 白樺の属性をもった人だ 老木やら若木 種類は様々だ あそこを駆けてゆく子供の袖口からも きっとつややかな若葉が 顔をのぞかせ 雨に濡れている [娘たち] 幾人もの ちっちゃな娘らが 空から降りてくる ぺちゃ ぺちゃ ぱちゃ ぱちゃ ぺちゃ ぺちゃ 傘の上の おしゃべりが 実にやかましい それでも 明日になれば きっと 清らかな乙女になって 凛としたあの空へ 帰ってしまうのだろう [五月のひかり] オレンジから あふれくる時間の飛沫よ 透明な小石の一部分となって 永久にわが傍にとどまれ われこそは 髪の先からあしの爪の先まで 全き答を希求してやまぬ 無限なる質問だ この 五月の消失点の さびしき空気にうち震える 一粒の火の粉だ [恋をしたら] 恋をしたら ひとはみんな 詩人になるっていうけど 詩人のつもりのぼくなんて いつまでたっても 恋ができないのでした 六月の ベルベットの小道を ぼくは歩きます すずらんのような 少女の笑顔を 忘れようとして [少女] 海に濡れたままの きみは 今日も生きていく 談笑して 談笑して 花びらのように血をながして 今日を生きていく 耳のうしろに隠した 風のナイフを錆びつかせながら [あきらめ] この星の 半分は あきらめでできている 羊水の 半分が 悲しみでできているように はしかにかからないように ぼくらは 希望という 予防接種を 受ける ぼくらはほんとうの 悲しみを知らない [まち] ながれる時間にとって 思い出はもはや純粋な希望だ むかし 野原の花びらの 冷たい部分だけを あつめて 夜を超える練習をしたよね ほんとはぼくら 耳たぶが寂しかっただけなのに このまちは雨雲がおおう淋しいまちだから いまも糸でんわのゆめが満ちてるね [夏] みどりいろ+みずいろ=なつのはじまり [まだ知らない] おとぎ話のお姫様や王子様しか しあわせになれないと 思ってったんだよなあ 子供のころ 幸福ってはるかかなたにある理想のことだと 理解してた そんな俺が いつのまにやら しあわせになっちまって 毎日をニヤニヤしながら過ごしてる ズリイよなあ 裏切りだよなあ 子供の俺からしてみたら 妥協したとか 間違ってるとか 誤魔化してるとかって 思うんだろうなきっと でもね子供の俺よ おまえは どこの誰が作ったものよりも 飛びっきりうまい料理があるのを まだ知らない ちょこっと音程のずれた鼻歌が それは素敵な賛美歌にきこえちゃう瞬間を まだ知らない 無条件に 自分の味方がいてくれることの安心を まだ知らない 夕方公園をひとり歩いていても 胸のおくがずっと暖かなのを まだ知らない 冬がきて 雪が降って 一面真っ白になって 寒いねっていう笑顔の暖かさを まだ知らないだけなんだ [手紙] 先生 先生 好きだった 先生に 手紙を あげる 扁桃腺で 熱が 出て 黄色い国を 歩いてた 黄色い砂の 黄色い風 背伸びして ぐんと 右手 伸ばして 流れる風に 一個ずつ 文字を 書いた この星に 生まれて はじめて 書いた はじめての ぼくの手紙 先生 先生 熱が あたたかくて 気持ちいいよ 先生 先生 大好きだった 先生に 手紙を あげる ---------------------------- [短歌]貝殻のうらの虹/青色銀河団[2020年6月4日19時34分] そよかぜに 運ばれてゆく たんぽぽの 小さな種子は わたしなのです 役目終え ほんのかすかに 反射する 人工衛星は わたしです 花の野で じっと動かず そよかぜに まどろむ蛙は わたしなのです 放課後の光が包む君が好き 時がこのままとまればいいのに! 僕のもとを離れてったきみのこと。 つまりはそれが風の始まり。 空っぽの空しかない砂の浜で 生まれた理由を考えてみた あれだよな 夜になると外が暗く なるのひとりぼっちのせいだよな 初めての呼吸を開始するきみよ この星の名を覚えているか? ---------------------------- [短歌]水蜜桃の夢/青色銀河団[2020年6月4日19時43分] 土手沿いの夕焼け小焼けの帰り道 君の口笛をきいていた さみしいと死んじゃうウサギに向けて 滅びの笛を吹きつづける夜 初めてきみとキスをした ゴッドファーザーのクラクション聞こえし夜 ひとつぶの少女の涙の海原を 航海(たび)する船が夕日をめざす 風信子(ヒアシンス)水中で何も掴めず生きてゆく 僕らの夢に似て 少女の想ひ出のごとき赤き風船 夏空に吸ひ込まれゆきぬ 夢の中に青いキリンが住んでいて 僕のコートをずぶ濡れにする 宿題を閉じると夜がやって来た 森でフクロウが動き出す頃 ---------------------------- [短歌]硝子の花束/青色銀河団[2020年6月10日0時00分] みんな少女みんな少年みんな子らだった みんなちいさな罪を秘め 小鳥らの囀り籠り淋しくもすることのない空白い日 遠くまでちいさな泡がのぼるから おそらく空に溺れているのだ 走っても寝転んでも    星に濡れないための       星のレインコート 青空はさかさまに透けたみずうみで 向こうにしたらこちら側が空 ハーモニカ吹いて 途方に暮れているシャツが 夏空に抱かれてます 日記を開けば海で遠くから  満ちてくるのはきみの匂いだ ライオンの頭のはく製飾られた カフェの上に南十字星 せせらぎに蛍とびかう森のカフェ うさぎや栗鼠が夢にまどろむ ---------------------------- [短歌]風がはじまる場所/青色銀河団[2020年7月26日19時07分] 優しさで出来てる星がひとつくらいあってもいいね。行けないけれど。 ふわふわでほんわかしててすべすべですうすうしながらしゅわしゅわなあさ クローバー見渡すぼくらの遠くに町のような淋しさは透ける ぼくたちは白だった生まれる前の白くやさしいひかりの記憶 薄い空に融けていきたい僕たちは生まれたばかりの淋しさです 花びらが一億年後も薫るよう風がはじまる場所に埋めました 動物だった記憶の中できみと眺める夕陽がとてもやさしい 微笑むと虹がでてしまう人が寝るとき夢の中で見ている虹 ハルジオン畑の遠くで病んでいる僕らは約束を果たせずに 思い出を悲しい順に並べたらつばさをやすめて忘れなさい かなしみの器としてのきみの目に遠くから打ち寄せる波がある わたしという空洞に星の欠片を入れてみる、いつもより淋しい 夢の待合せ場所忘れ恋人に会えない人が駆け込む交番 樹木たちや山々を眠らせたあと恐る恐る輝きだすオーロラ なみだ色のフリスク噛んだきみに恋の特別警報発令中 誕生日にローソクの火を吹き消すとあなたはやさしい風になった ---------------------------- [自由詩]白い鴎/青色銀河団[2020年7月27日23時39分] ある朝わたしは鴎になり 中央区永代橋の橋桁から白い小さな翼をひろげとびたつ (そのときわたしははじめて空の名前を知ることになる) 江東区東陽町一丁目三番地 古めかしいビルの窓から しろいレースのカーテンがはためいている (仲間たちはこの場所を[紅蓮の火に焼かれる睡蓮]と呼んでいた) [Un certain matin je suis devenu la mouette]と呼ばれる美しいつばさのための数学が 液体となった太陽がしたたり落ちる青い波間に書かれている わたしたちは飛びながらねむる たったいまこの[眠りにつく瞬間]にも名前があるのだ 空間の名前を知ること 時間の名前を知ること わたしたちは 魂の等価変換式を使用して いまも 何万年も前に滅びた大陸を滑空しているのだ ---------------------------- [短歌]誰もいない夏/青色銀河団[2020年7月30日14時47分] ラムネ工場で作られたビー玉にあの夏の日が閉じ込められてる 初恋を啄(ついば)む小鳥に啄(ついば)まれたとこがいつまでたっても甘い 遠くまでちいさな泡がのぼるからおそらく空に溺れているのだ 走っても寝転んでも星に濡れないための星のレインコート 青空はさかさまに透けたみずうみで向こうにしたらこちら側が空 ぼんやりと生まれてきたのですべての窓から白い鳩がとんでいった あっち逃げろと散らばった子供らが元いた場所の影の暖かさ これ以上愛しあっても淋しさに傷つくだけさ牙もつ少女よ さみしい色の日曜はひとりでするお留守番、丘に風が吹いてる 濡れ髪のつむぎ裸足でベランダに佇(た)ち青き夜明けを旅をする 屋上ではためいた旗にくるまって着ぐるみ少女はすやすや眠る アンドロメダに消えてゆく月光が透きとおって誰もいない夏 サンダルの少女ツユクサに足濡らし天上の銀河と交信し 少女には聴こえる終わりの約束愛とはいつだってゆらぐもの 永遠に廻り死ぬまで降りれない地球は巨大な観覧車 青春と書かれたシャツ着て土砂降りに傘もささずに歩いてゆくひと 透きとおる宝石の空の七月へ午睡の意識は飛ばされて 永遠にきみはハローと笑いつつ世界はゆっくり未来になって 足音が僕たちを追い越してゆく駅からわかれてゆく未来へ ---------------------------- [短歌]花の降る夜に/青色銀河団[2020年8月8日15時37分] 初恋を啄(ついば)む小鳥に啄まれたとこがいつまでたっても甘い 祖父のつくったハーモニカはなつかしい波の音がするカモメも鳴くし 泣き虫の泣き声で孕んだ空気が夏の青と白に融けてゆく しましまはいつも静かに笑ってるいつも木漏れ日に照らされてる 夕暮れにどこかで蜂が飛んでいるどこかで蜂が飛んでいる、ただ あなたからもっとも遠い星のひかりとしてのわたしの涙について やわらかな夜の砂場に染みてゆく雨つぶのような夢の散りあと ゆびさきのきれいな動きが好きだからあなたのそらの流れ星となる かなしみを優しさに変える人たちがシルクハットをとりお辞儀をする 花の降るやさしい夜に ぼくたちは膝を抱えて夜明けを待った はぜるとき小さな虹が架かってくひとつひとつのポップコーンに 夕焼けの破片で傷つけあってまた手をつないだね あのときの僕ら ゆめの言葉にほだされてぼくたちは青いソルベの夏に融けゆく これまではかなしみだったものたちが燕になって飛んでゆく朝 真っ白なシーツを前に佇むと我が内なる兎が目覚める ---------------------------- [自由詩]複数の一行詩/青色銀河団[2021年6月18日22時21分] 映写機のカラカラする音が響く 遠くでぼくらが病んでいる 満天の星に 落としてしまったもの 青いおれんじ色の枕 ひとつ下さい 噴水 世界は世界の意味に滲んで 誰もいない夏 蒼い水底に 魚はいない ただひとつの顔で生きる 夏の夕暮れ 僕らは花のように零れてきた そして少女は 軽やかに笑うと 歌になった 八月を 思い出せ ---------------------------- [短歌]ひかりのノート/青色銀河団[2021年10月30日22時15分] 誰よりも 遠くへ飛べる気がしてた ぶらんこ漕げば空に近い頃 かなしさと やさしさはどこか 似ています 悲しいひとは優しいひとです 自転車の ペダルを踏んだ僕達は 風を纏(まと)った 冒険者だった ほら風だ、 風は予感だ、 涙より、 だんぜん風だ、 風はらららだ、 な ---------------------------- [短歌]思い出ノート/青色銀河団[2021年10月31日19時23分] 風なのか 名もなき季節を通りすぎ 名もなき町をめぐる 僕らは ひとつだけ朝をください。 この胸がいっぱいになる朝をください。 この胸の扉を開き ハトが飛びたつ。 たった一つの恋をくわえて。 星屑の 椅子座硝子座 オルガンの沈黙を 誰かが弾いてる夜 ---------------------------- (ファイルの終わり)