1486 106 2009年2月3日7時25分から2009年8月7日21時36分まで ---------------------------- [自由詩]東京の女の子/1486 106[2009年2月3日7時25分] テスト前の休みで友達二人と東京に遊びに来た僕が アイスクリームのクレーンゲームに並んでいると 女の子二人組が話し掛けてきた 「そのアイス 私のために取ってよ」 そう言っておもむろにコインを入れだした 僕も食べたかったからやってみると 3チャレンジでゲットできた そしたら女の子ははしゃぎまくって 矢継ぎ早に質問してきた 「どこから来たの?」「群馬。」 「また来る?」「就職も地元だし当分来ないかも。」 「じゃあ今日飲みに行こうよ!  中目黒のオシャレ中目黒の店知っているよ!」 女の子達の話は止まらない 大型電器店手前の橋の辺りで 太った友達に耳打ちされてベンチに腰掛けた 女の子達は背の高い友達に夢中でそれに気付かない 彼氏らしき男も交えて飲み会の打ち合せをしている 太った友達は小声で言った 「今日15:50の電車で帰りたいんだ  元禄妖怪犯科帳の最終回が見たいんだ」 ---------------------------- [自由詩]十時半に出社をしたら…/1486 106[2009年2月6日8時46分] 十時半に出社をしたら 牛乳売場はガタガタで パートさん達は僕がいなかった穴を埋めようと 忙しなく作業を続けていた 慌てて手直しにかかったけれど 焦って商品の場所が思い出せない まるごとバナナってどこだっけなぁ… 昨夜は久々に同期と集まって 夜更かしするほど楽しかったから 遅刻しても構わないと思ってしまったけど 星空が綺麗だったこととか 時速100kmのモップ型バイクとか カーブで見かけた白バイ隊員とか ○○トンネルは幽霊が出るとか 湖近くの山道でクラッシュしたこととか 車のプログラム代を払っていないこととか 死体を食べる医学生とか それを利用した殺人計画とか すべてどうでもよくなってしまったんだ お菓子売場にいる上司は コカ・コーラを高く積みすぎだと バイトの人にブチ切れていた 怖いけど勇気を出して声をかけた 「おはようございます!」 ---------------------------- [自由詩]砂漠/1486 106[2009年2月15日23時05分] 長く続くキャラバンの行列 オアシスを求めさまよい歩く メサから眺めた蜃気楼 近付くほど遠ざかる逃げ水 わずかな荷物を背負いながら 生きるために牛を殺し水を売る 砂漠 そこはかつて緑豊かな大地 照りつける灼熱の日差し 砂嵐にうずまる駱駝の足跡 恵みの雨もすぐに干からびて 渇きを潤す余裕もない わずかな荷物も底を尽きて 生きるために木々を切り倒す 砂漠 そこはかつて森だった場所 辿り着いたオアシスでしばしの営み 水が枯れればまた次の旅へ 放浪の日々を繰り返し 砂漠は広がり続けている ---------------------------- [自由詩]やさしそうな人/1486 106[2009年2月19日22時36分] やさしそうな人が人を殺したと ニュースの中で取り上げられていた 何故やさしそうな人が人を殺したのか 顔を隠した人達はそろって口にしていた だけどやさしそうな人は やさしい人とは少し違う やさしそうな人は挨拶だけはする 真面目そうな人だったらしい やさしそうな人はあまり顔を見せない 空気のような人だったらしい やさしそうな人の正体を知る人は ついに一人も出てこなかった 殺された人のために犯人は死ぬべきだ そう唱える人はやさしい人なのかな やさしそうな人に出会ったことを やさしくない人達は忘れてしまうだろう やさしそうな人の本当の優しさも 隠し持った冷たさも気付かぬまま ---------------------------- [自由詩]大丈夫/1486 106[2009年2月21日19時53分] 泣き方を忘れてしまったみたいなんだ 思い出そうとしても上手くいかないんだ 泣き方を忘れてしまったみたいなんだ 思い出そうとすると逆に笑ってしまうんだ 誰に言われたわけじゃないのに 我慢しようとしている自分が嫌い 誰かに大丈夫だって言ってもらいたい そんな気持ちは多分わかってもらえないな 泣き方を忘れてしまったみたいなんだ 思い出そうとしても上手くいかないんだ 泣き方を忘れてしまったみたいなんだ 思い出そうとすると逆に笑ってしまうんだ 泣いている姿を見せることで 許されようとしている自分が嫌い 誰かに大丈夫だって言ってもらいたい そんな気持ちは多分わかってもらえないな 冷たい空気に潤んだ瞳 泣き方を思い出したら また自分が嫌いになった 誰かに大丈夫だって言ってもらいたい そんな気持ちは多分わかってもらえないな 誰かに大丈夫だって言ってもらいたい 本当はそうじゃないのかもしれない ---------------------------- [自由詩]映画/1486 106[2009年2月22日21時20分] 空想と現実の区別がつかなくなりそうな木曜日 迷い込んだ路地裏で見つけた破れかけのポスター 主役らしき俳優の鼻のあたりがなんとなく僕と似ていた 退屈に慣れてしまうのが嫌で だけどやりたい事も思いつかなくて 時計の針と並んで歩くだけの日々だった フィクションだってわかっていたって 憧れてしまうのは悪いことじゃない 登場人物が誰一人悲しまずに 笑顔で締めくくるハッピーエンド そんな映画を見たくなったんだ 傷口に塩を塗られたような気分の金曜日 三度目の失敗でどん底の絶頂 「今度こそは…」ってお馴染みのセリフ 何もない場所で躓きながら 大好きな人に傷つけられながら それでも真っすぐ歩けるのはなぜ? 叶わないようなことだって 夢見ることを責める人はいない 数々の苦難を乗り越えた主人公が 最終的には報われるストーリー そんな映画を見たくなったんだ 土曜日になったら映画館に行こう 流行っているものが見たいわけじゃない 好きなものは自分が一番よくわかっている 登場人物が誰一人悲しまずに 笑顔で締めくくるハッピーエンド そんな映画を見たくなったんだ 数々の苦難を乗り越えた主人公が 最終的には報われるストーリー そんな映画を見たくなったんだ 悲しみや絶望が溢れていても 可能な限りの涙を拭う そんな映画の主人公に なってみたいと思ったんだ ---------------------------- [自由詩]幸せな日々/1486 106[2009年3月5日23時30分] 楽しかった なんてなぜ今さら思い返すんだろう あの頃はそれが当たり前だったのに 楽しかった あの時の気持ちは本物だったのかな 自分の思い出まで疑ってしまうんだよ 幸せな日々は過去形だ 無くしてしまうまで気付かないんだ それはかけがえのないものだって 幸せになりたい なんてなぜ望んでばかりいるんだろう 足りないものがあるわけでもないのに 幸せになりたい そう思ってはいけない気もするんだ 誰に遠慮する必要もないのに 幸せな日々は未来形だ いつまでたっても追い掛けてばかりだ 上ばかり見てしまうから 誰かから見たら僕は幸せなのかもしれない だけどそれは最初から関係ないことなんだ 幸せな日々は過去形だ 無くしてしまうまで気付かないんだ それはかけがえのないものだって 幸せな日々は未来形だ いつまでたっても追い掛けてばかりだ 上ばかり見てしまうから 僕の日々は現在進行形だ 誰かと比べてばかりの毎日だ 余計なものばかり目に入ってしまうけど 気付かないでいることが一番かもしれない ---------------------------- [自由詩]オートセーブ/1486 106[2009年3月6日10時28分] ダッシュコマンドを使うと 壁にぶつかるまで止まれないから 砂漠のようなフィールドで敵に遭遇した 相手は炎系の魔法を使うモンスターで 僕は逃げるコマンド何回も失敗して 全滅しそうになってしまったんだ 目が覚めるとそこは停電した銀行 手持ちのお金はわずか3ドル リセットしてみたけどオートセーブだったから 僕はキャッシュディスペンサーの前に立ち尽くしたままだった ---------------------------- [自由詩]吐息/1486 106[2009年3月22日21時17分] 胸の中 封じ込めてきたのはね 捨ててしまいたくない思い出だとか 忘れたくない温もりだとか 触れれば消えてしまいそうなものばかり 口の中 封じ込めてきたのはね あの日言えなかった台詞だとか 聞かれたくないような本音だとか 行き場のない孤独のようなもの 素直だから我慢してみたり 楽しいことを見つけようとしたりした 危なっかしく歩いて 歩いて また同じ壁にぶつかってしまうの 吐息 奥、奥の方から込み上げてきて 吐き出したら冷たい空気に溶けた 寒いからって抱きしめてくれた人を覚えている 熱すぎるからって突き放した優しさを覚えている もう一緒にいたくないって思ったのは一瞬だったのに もう一緒にいたくないって言ったら永遠になっちゃった 素直じゃないから傷付けたり また同じように傷付けられたりした 危なっかしく躓いて 躓いて 頼れる人が見つけられないの 遠い記憶、奥の方から込み上げてきて 吐き出したら目の前の景色が白く染まった 冬は一人じゃ乗り越えられない そう思っていたって春はやって来る 吐息 奥、奥の方から込み上げてきて 吐き出したら今すぐにでも会いたくなった 遠い記憶、奥の方から込み上げてきて 吐き出したらもう一度だけ会いたくなった ---------------------------- [自由詩]アフォガード/1486 106[2009年3月25日21時07分] 友達が連れてきた学生時代の同級生 大人っぽくなっていて一目惚れし直したんだ テスト勉強の思い出や修学旅行の夜のこと あの頃に戻った気分で話し掛けたんだ だけど君はただ一言 I'm sorry, I don't remember. 聞き間違えだったらよかったのにね I forgot, I forgot about it. なんて甘苦い響きなんだろう めげずに続けた学生時代の話 テニス部が優勝した時のこと 勝利のスマッシュを決めた瞬間 僕の声援に君は振り向いたんだ だげど君はただ一言 Really? I don't remember. 聞き間違えだったらよかったのにね I forgot, I forgot about it. たしかに僕は補欠だったけどさ そして君はとどめの一言 By the way, what's your name? 聞き間違えじゃないんだね I forgot, I forgot about it. こんな泣ける笑い話は他にないよ ---------------------------- [自由詩]電話/1486 106[2009年3月27日1時18分] 用件は声が聞きたくなったとか 何となく様子が気になったとか そこからスタートして一時間は話せた やり場のないストレスだとか 日常のくだらない鬱憤だとか ぶつけあってはまた今度って笑ってた いつから電話を掛けるのに理由が必要になったんだろう 毎日会いたいわけじゃないけど会える日が多いに越したことはない 誰よりも頼りにしているから何かあったらそばにいてほしい 寂しいからって辛いからってダイヤルを回すのは簡単だけど 忙しいとか疲れてるとか言われたらそれ以上話せないから 甘えたりしちゃいけないって分かっているけど ただ声が聞きたい そう思うこともダメなのかな いつから電話を掛けるのに理由が必要になったんだろう こっちから話す前に「どうかしたの?」なんて聞かれたら 「なんでもないよ」って心配されたくないから言うに決まってる どんな僕だって受け入れてくれそうな君だから 強がったり着飾ったりする必要なんて一つもないはずなのに いつから電話を掛けるのに理由が必要になったんだろう ---------------------------- [自由詩]イメージ/1486 106[2009年3月28日12時58分] イメージしてください これはただのイメージなんです イメージできませんか? これはただのイメージなんです あり得ない動きをする 奇抜な見た目で煽り立てる だってこれはイメージなんだから 当たり前じゃないですか? あり得ない使い方をする 奇怪なシーンで掻き立てる だってこれはイメージじなんだから 仕方ないじゃないですか? イメージしてください これはただのイメージなんです イメージできませんか? これはただのイメージなんです 写真で見たのとは少し違う 内容表示には書かれていない だってこれはイメージなんだから 当たり前じゃないですか? 実物はもっと大きいと思っていた 実物はもっと綺麗だと思っていた だってこれはイメージなんだから 仕方ないじゃないですか? イメージしてください これはただのイメージなんです イメージできませんか? これはただのイメージなんです イメージと違うことで腹を立てる イメージと違うことで文句を垂れる だからこれはイメージです そう説明しているじゃないですか? イメージしてください これはただのイメージなんです イメージできませんか? これはただのイメージなんです イメージしてください これはただのイメージなんです イメージできませんか? これはただのイメージなんです ---------------------------- [自由詩]0896/1486 106[2009年5月3日13時53分] 塗り絵のカウボーイに色を付けた 帽子は青と紫 ズボンは赤 靴はオレンジ 肌は黄色に口は黒 服は黄緑 チョッキは真緑ボタンも緑でベルトは水色 そして口の中は真っ黒 そこに隠された意識を汲み取るならば 口の中が真っ黒 それがすべてだと思うんだ 髪の毛は黒 ピストルは茶色 投げ縄はピンクで 口の中は真っ黒 誰かとかぶらないように 出来る限り目立つ配色で 一方調和を考えながら 完成させた塗り絵 口の中は真っ黒 そこに隠された心理を汲み取るならば 口の中が真っ黒 それがすべてだと思うんだ ---------------------------- [自由詩]アフターダーク/1486 106[2009年5月3日23時21分] 太陽が燃え尽きて 辺り一面闇に覆われて 手の平の中の明かりを自ら消してしまったんだ 遠い空に祈りを込めて 流れ星は砕け散って 涙が育てた優しさの花を自ら摘み取ってしまったんだ 平和な世界なんて死ぬまで拝めるはずはないのに もう少しだけ人を好きになるには一体どうすればいいのかな 耳を澄ませば歌声は響いていたのに 塞いだのは許されてしまいそうだったから 本当は簡単な答えだったはずなのに 疑ってしまうのは救われてしまいそうだったから 正しさは誰でも持っているはずなのに 通りすがりの人すべてがニセモノに見えてしまうよ 平和な世界なんて死ぬまで拝めるはずはないのに もう少しだけ人を好きになるには一体どうすればいいのかな 間違い探しに意味はないんだって 調和しないのは自分のせいだって 誰から認めるの? 平和な世界なんて死ぬまで拝めるはずはないのに もう少しだけ人を好きになるには一体どうすればいいのかな 深まる暗闇に目が慣れてしまうのは仕方のないことだって 拒絶する前に世界を好きになるには一体どうすればいいのかな ---------------------------- [自由詩]ピストル/1486 106[2009年5月4日20時34分] 僕はただ認めてほしかっただけ 僕はただ慰めてほしかっただけ 僕はただ支えてほしかっただけ 僕はただ受け入れてほしかっただけ 「僕は間違っていたのかな?」 尋ねてみるとピストルは答えた 「間違っているのは世界の方さ」 僕はただ気付いてほしかっただけ 僕はただ励ましてほしかっただけ 僕はただ受けとめてほしかっただけ 僕はただ愛してほしかっただけ 少し怖くなってピストルに聞いた 「天国ってどんなところかな? 「ここよりはずっとマシなところさ」 僕は何もほしくはなかった ただ愛してほしかっただけ 銃口をこめかみに押し当てると ピストルは静かに囁いた 「もうすぐ楽になれるよ」 「3・・・2・・・1・・・・・・・」 動かなくなったのを確認すると ピストルは静かに呟いた 「天国なんてありはしないさ」 ---------------------------- [自由詩]くじら雲/1486 106[2009年5月6日23時01分] 芝生の布団に寝転がって 五月晴れの空を見上げていたら 公園一帯を包み込む大きな影 くじら雲が町を横切った 頬をくすぐる風が心地よくて いつの間にかうとうとしてら くじら雲が近付いてきて 背中に乗せてあげるよと言った やわらかな感触の背中にまたがって 透き通った青空を掻き分けて進んだ 見慣れたマンションや裏山も 上から眺めると全然違って見えるんだ 学校の屋上ではヒデカズ君が おへそを出しながら昼寝していた 大声で呼び掛けたけど聞こえないみたいだ 明日の朝一番に自慢してやろう あまりにも低空で泳いでいたから デパートのアドバルーンにかすって 広告の文字が不自然に揺れていた くじら雲と一緒になって大笑いした 知らない町まで行ってみたいな 太陽に触ってみたいな くじら雲は大きく返事をすると 潮を吹き出して虹を作ってくれた くじら雲はそれからたくさんの遊びを教えてくれた 雲細工やくじら泳ぎのコツ 歌ってくれた潮騒の子守歌は お母さんみたいに温しい音色だった くじら雲くれた壊れないシャボン玉を 地上のみんなに向かって吹いた お隣さんや学校の先生にも 届くように力を込めて強く強く もしかしたら話しても信じてもらえないかな だけど僕はずっと友達でいるからね くじら雲は照れ臭そうに笑うと 勢い良く尾ひれをふってくれた ありがとう今日の事は大人になっても絶対に忘れないからね 遊び疲れて眠たくなった 目が覚めると僕は元の公園にいた すれ違った散歩途中の犬は 壊れないシャボン玉をくわえていた くじら雲が頭上を横切った ---------------------------- [自由詩]オルタネイトワールド/1486 106[2009年5月7日13時50分] もしもあの時こうしていれば そう思うことは数えきれないほどある 一度だけ過去に戻れるとしたら何をやり直す? って君に聞いたら貴方と付き合うのを思い止まる なんて笑えない冗談だと思っていたけれど 思い返せば思い当たる節はいくらでも浮かんできて そういえばしばらく君の笑っている顔を見ていなかったなんて 無責任だけど今さらになって気付いたんだ さようなら 今まで本当にありがとう オルタネイトワールドで出会えたら仲良くしようよ もしもあの時ああしていたら そう思うことは数えきれないほどある 一度だけ過去に戻れるとしたら何をやり直せば 君の氷を溶かすことが出来るのかなんて 冗談のようで真剣に考えてみたけれど 思い返せばどう償っても君を傷付けてしまいそうで そういえば本当に君を好きだったのかななんて 無責任な自分に今さら気付いたんだ さようなら 今まで本当にありがとう オルタネイトワールドで出会えたら仲良くしようよ 宇宙には数えきれない世界があって 似ているようで少しだけ違う君がいて僕がいる そこに住む僕達はどんな感じかな きっとこの世界と同じように愛し合っているよ なんて無邪気に笑いあっていた あの日あの時のあの場所に帰りたいよ さようなら 今まで本当にありがとう オルタネイトワールドで出会えたら この世界で僕達が出来なかったことを 今度こそ実現させようよ ---------------------------- [自由詩]引き出し/1486 106[2009年5月9日12時55分] 僕の心の中にある引き出しは 誰に見られてもいいように いつも綺麗に整頓してある みんなはそれを見て綺麗だと言う たまに散らかしたままでいると らしくないねなんて言われる だからみんなには話していない 見えない場所に鍵の掛かった引き出しがあることを みんなには見せられないもの 貰ったり拾った見せたくないものを こっそり閉まってはすぐ鍵を掛ける だから自分でも中に何が入っているのか分からない 時々はこの引き出しに気付く人がいて 鍵はないのかとしつこく聞いてくるけど たいしたものは入っていないと答えれば それ以上詮索されることはなかった だから自分でも存在を忘れかけていた引き出しを 君はどこで手に入れたのか合鍵でこじ開けて 無造作に詰め込まれた引き出しの中身を 思ったより悪くないねなんて言ってくれたから 僕はずっと前になくしたと思っていた 真珠のネックレスをプレゼントしたんだ ---------------------------- [自由詩]下敷き/1486 106[2009年5月25日0時28分] 分厚い書物に文字を書いている たくさんの人を下敷きにして 本当でも嘘でもない文字を書いている 歴史とか文化とか 忘れ去られてしまいそうなものを なぞるように書き記していく 分厚い書物に文字を書いている たくさんの思いを下敷きにして 美しく汚れた文字を書いている 愛情とか感情とか 形には決して表れないものを なでるように祈りを込める それはいつまでも終わることはない 力尽きてもその意志を下敷きに 誰かがまた新しい筆を取る 今までずっとそうしてきたように 分厚い書物に文字を書いている たくさんの人を下敷きにして 間違いだらけの文字を書いている 分厚い書物に文字を書いている たくさんの思いを下敷きにして 間違えないよう文字を書いている ---------------------------- [自由詩]マイルーム/1486 106[2009年6月23日23時43分] 玄関のドアを開けて廊下を少し進んだところにある 右側の襖を開けると真っ先にテレビが目に入るだろう? ボーナスを貯めて買った自慢のテレビさ DVDは録画出来ないんだけどね… その左にあるコンポとは古くからの付き合いで 安物なんだけどこいつに勝るものはないね 本棚の中には図書カードで買ったスコアがズラリ 最近はじめたバンドのために用意した小さなギターアンプ すべて自分のチョイスでカスタマイズした 不動産屋も驚きの格安豪邸その名は… Welcome to my room! 散らかっているけどここが僕の城さ MDで編集したベストアルバムを流すから 自慢のコンポの低音を堪能してよ 北側の壁にぶら下がったハンガー 洋服はほとんどが白か黒か灰色 パジャマや靴下はかごの中に乱雑に放置してある だからこの部屋にはタンスがないんだ CDは置き場所がなくて段ボールの中にびっしり 枚数を言ったら軽く退かせる自信があるかも 窓際のソファーには滅多に座ることがない ベランダのプランターには母の日に買った花が咲いている ホテルよりも旅館よりも居心地のいい場所 ベッドにうつ伏せになって今夜も携帯で詩を打ち込む Welcome to my room! 少し狭いけどここが僕の城さ 冷蔵庫で冷やした麦茶でも飲みながら 僕が考えたコード進行を聞いてみてよ 壁に立て掛けたエレキギターの チューニングはすべでhalf torn down B4の出なくなったピアノも交えて I'm gonna make a song for my dream! Welcome to my room! 散らかっているけどここは僕の城さ たまには掃除機でもかけておかないと いざという時誰も呼べないよな… Welcome to my room! 少し狭いけどここが僕の城さ みんなもいつかは遊びにおいでよ その時までには曲を用意しておくからさ CDの枚数は聞かないでね 押し入れの中は覗かないでね ---------------------------- [自由詩]ファイティングポーズ/1486 106[2009年6月24日23時59分] 大した苦労もしないでたどり着いた 夢の入り口に足を踏み入れたら それが本当に自分で望んだことなのか わからなくなってしまったんだ 理想と現実のギャップに落胆して 無垢な憧れを汚してしまう夜もあるけど 自分の選択が正しかったのかどうか じっくり歩いてから判断してみるよ ファイティングポーズ構えたなら 弱音なんて吐かず戦い抜けるんだ 挫折するたびに無力さを思い知ったなら それを強さに変えていけるはずさ 十年後、二十年後の自分を想像してみて それは今を生きるために必要なことだから 目的もなく歩いても壁にぶつかるだけさ 前へ進むためにはしっかり前を見るんだ ファイティングポーズ構えたなら 弱音さえ引きずって戦い抜けるんだ 挫折したことを糧にしたならば すべての後悔に意味が生まれるはずさ ---------------------------- [自由詩]ピクニック/1486 106[2009年6月25日8時16分] 目覚まし時計より早く起きた朝 君は台所で食器を洗っている テーブルの上にはトーストとサラダ シーザードレッシングとマーマレード カーテンの隙間から太陽が呼んでいる 零れ落ちる光の粒をすくい上げたなら そうだこんな日はピクニックへ行こう 磨いたばかりの車に乗ってさ 近くの公園へピクニックに出かけよう 生まれたばかりの子どもも連れてさ 蝉の鳴き声が響き渡る 君は遊歩道のお花に夢中 ビニールシートを広げてランチを食べよう バスケットの中にはサンドイッチ 小川のせせらぎに耳を寄せて うたた寝する君の肩に身を寄せ そうだこんな日はピクニックへ行こう 大きな木の下で陽なたぼっこしてさ そうだこんな日はピクニックへ行こう 大きくなった愛を確かめあうんだ 帰りの車の中君はお腹に手を当てて言った 今度生まれてくる赤ちゃんも元気に育ってくれたらいいね ---------------------------- [自由詩]執事学校/1486 106[2009年6月26日8時37分] 深い森の奥にひっそりと建つ執事学校 その名の通り一流の執事を育成するための学校で 年に一度発表される最優秀執事賞に選ばれることは この地方では栄誉なこととされており その栄誉のために毎年数多くの富豪が執事を送り出している 富と名声・能力向上・ただの道楽 様々な理由で学校に通う執事が総勢18人 お仕えするご主人様も一緒なので人数は36人 その中でも金持ちではない私のご主人様は あまり講師陣からは好かれていない様子 それなら何故執事学校に通っているかというと 何を隠そう実はこの私… 今はこの話は止めておきましょう 一時間目のチャイムが鳴った 講師の渋谷が教室に入ってきた 入ってくるなり生徒の佐藤を叱り付けていた 椅子に付いているはずのクッションが無いという 「そんなの最初から付いていなかったじゃん!」 食い下がらずに彼女は主張した 彼女はここいらでも有数の財閥の令嬢 にもかかわらずギャルのような口癖が抜けないと 彼女も講師陣からはよく思われていなかった 私は彼女の味方をしたとして 彼女と二人で校庭に立たされた 30分後他の生徒と一緒に先生が出てきた 「今から実践訓練を行います  各自森の中に散らばったら  私がブーメランを放っていくので  私の攻撃から主人を守ってください  命懸けでね」 ---------------------------- [自由詩]罪と罰/1486 106[2009年7月4日0時11分] この世界に生まれたことが罪だというなら 躓きながら藻掻きながら生きることがきっと罰だと思うんだ 直したばかりの大切なものをふとしたはずみでまた壊して 慌てて拾い上げようとしたその破片で血を流した 自分を守るために吐いた嘘で相手も自分も傷付けて 優しくなれない心が悲しみで塗り潰されていった 無くしたものや捨てたものは綺麗に見えてしまうけれど 今ここに存在している自分こそが唯一の真実だから この世界に生まれたことが罪だというなら 躓きながら藻掻きながら生きることがきっと罰だと思うんだ 誰かを信じてみることは簡単なことじゃないけど 身を寄せながら委ねながら歩んでいくことは弱さなんかじゃない うんと近くに耳を押しあててみないと聞こえないけどね 心臓は胸の中でたしかに力強く動いているんだよ 差し伸べられた手の温もりを知らない人が その手を冷たく振りほどいたとして それこそが世界の抱える病気のようなものだから 無条件で愛することを止めてはいけない この世界に生まれたことが罪だというなら 躓きながら藻掻きながら生きることがきっと罰だと思うんだ 苦しみ耐えぬいたやりきれない日々だって 輝いて見える瞬間が訪れるかもしれないから この世界に生まれたことが罪だというなら 躓きながら藻掻きながら生きることがきっと罰だと思うんだ 汚れたこの手でも誰かが必要としてくれるのならば それこそが僕の償いなんだと思うんだ ---------------------------- [自由詩]ツーリング×ランデブー/1486 106[2009年7月10日14時29分] キスしようと男に言われたおじさんは 夜行列車の中で妻のことを考えていた お相手はロックンローラー 彼にとっての楽園は二ヶ所 一つは名前を忘れたけれど たしか四文字のケーキ屋で もしかしたらここかもしれないと 直感で入ったチョコ専門店で 双子の友達が一緒にいるのに出会った 「はじめてドッペルゲンガーに遭遇した」と 冗談を言ったらすごく怒っていた キスしようと男に言われたおじさんは 大きなバイクにまたがって田舎道を走っていた 右手には鳥の飼料 後部座席には彼を乗せて 20トンくらいあるトラックが後ろから煽っていたけど気にならなかった 江戸村みたいな作りの山小屋は 降り続いた雨のせいで濡れていた おじさんはテーブルに仰向けになったまま 妻の住む家からこの場所が見えないか それだけを気にしていた ---------------------------- [自由詩]三十才・四十才になった時に人生を回想してみると多分こんな感じ/1486 106[2009年7月24日0時07分] 鉄橋の欄干から釣り糸を垂らしながら考えていた ろくでもない人生だったなぁと思う 学生時代の頃 偶然女の子と二人で帰ることになった ギターを担ぎながら星空の下を歩きながら 音楽の事について熱く語った 不良のいる校門前を通り過ぎた時は からまれやしないかと内心ドキドキしていた 彼女と付き合いだした頃 お台場までドライブすることになった 派出所に駐車しようと思ったら勢い良くクラッシュして 正直に話したから相手の運転手は許してくれたけど それ以来気まずくなって何となく会わなくなった この前偶然再会した時 彼女は綺麗な花嫁になっていた なんだかすごく嬉しかった 俺はフィリピン人の妻と結婚した 子どもにはすぐには炭酸飲料を与えない そんなところに惚れたんだと思う ---------------------------- [自由詩]バイバイ。/1486 106[2009年7月28日7時14分] こぼれ落ちそうな夢のカケラを 拾い集めて君は笑った 振り返らずに歩けるように 泣きそうな顔で 僕は笑った 「バイバイ。」 カバンの中には重たい荷物 大切に抱えて君は笑った 目の前には果てしなく続く道 泣かないように 僕は笑った 「バイバイ。」 出会いと別れは風のように 吹き抜けては過ぎ去っていく 「バイバイ。」 忘れないから 待っているから 淋しい夜は電話してほしい 星空の下で僕は泣いた 月を見上げて僕は泣いた 「バイバイ。」 ---------------------------- [自由詩]扉/1486 106[2009年7月30日1時38分] ずっと前から見つめていた とても大きくて立派な扉 ノックして跳ね返った音に 鮮やかな景色を思い浮かべていた だけどいつからか知ってしまった 空想の向こう現実の世界 伸ばした手を静かに下ろして ドアの前に立ち尽くしていた 重たいのは扉の方じゃないよ 力を入れなきゃ動くはずないだろう さぁ隙間からはこぼれる光 ドアの向こうには輝く世界 少しだけ勇気を出せたなら あとはいくらでもなんとでもなるよ 理想とは少し違っても それが選んだ道なんだよ 歩き続けなきゃ見えないよ 描いた夢の本当の姿 努力なんて言葉は嫌いさ 頑張れなんて言われたくないな 果てしなく広がる大空さえも ただの青い壁に見えてしまった つまづかないように歩いてきたんだ 立ち上がる強さも覚えないままで さぁ冷たいノブを握り締めて 目の前の扉蹴破るんだよ 考える前に進みなよ あとはいくらでもなんとでもなるよ 憧れが姿を変えても 君の意思は変わらないだろう 笑えない日々が積み重なって やっと未来へと届くんだよ 出口じゃないんだよ 入口なんだよ 道なら先にも沢山あるんだよ 引いたり押したりを繰り返すんだよ 鍵なんて最初からないんだよ 諦められないのはもしかしたら 一つの弱さなのかもしれないな 逃げるための夢なんていらないよ 扉を開けたら次はどうするの? さぁ隙間からはこぼれる光 ドアの向こうには輝く世界 少しだけ勇気を出せたなら あとはいくらでもなんとでもなるよ 理想とは少し違っても それが選んだ道なんだよ 歩き続けなきゃ見えないよ 描いた夢の本当の姿 さぁ冷たいノブを握り締めて 目の前の扉蹴破るんだよ 考える前に進みなよ あとはいくらでもなんとでもなるよ 憧れが姿を変えても 君の意思は変わらないだろう 笑えない日々が積み重なって やっと未来へと届くんだよ さぁ一歩を踏み出して 扉はもう開いているよ 怖いのは最初だけだから 扉はもう開いているよ さぁ一歩を踏み出して 扉はもう開いているよ 君ならきっとたどり着くよ 扉はもう開いているよ ---------------------------- [自由詩]BYSTANDER/1486 106[2009年8月7日21時14分] 傍観してる俯瞰のカメラ 鈍感な市民は気付かない 共感してるイメージは全部 本当は全部作り物さ 考えてみてよ 言うほど世界はそんなに汚いのかい? 考えてみてよ 言うほど人間はそんなに悪いのかい? 好感得ようとしている 魂胆はお見通し 傲慢なオーディエンス 同感なんてバカ丸出し 考えてみてよ それは本当の君の意見なのかい? 考えてみてよ それは本当の君の感情なのかい? 悪いのはニュースキャスターじゃない 一体どこを見ているんだい? 悪いのはニュースキャスターじゃない 何が本当で何が嘘なの? ---------------------------- [自由詩]前橋駅/1486 106[2009年8月7日21時36分] いつもの駅で君と待ち合わせた フェンス越しの空はかすかに春の色 明け方のホームはやけに静かで 寂れたベンチに腰掛け電車を待っていた 君が振り返らずに歩いていけるように 余計なことは口にしないと決めていた だけど僕なりに伝えたいこと 沢山ありすぎて涙が出そう 一緒にいすぎて気付かなかったよ 青い春には終わりが来るってことを 友達のままじゃ足りない気がした けどそれ以上になるには勇気が足りなかった 君の幸せこそが僕の幸せと 閉まるドアの前でそう言い聞かせた だけど僕鳴りに伝えたいこと 本当はさよならなんてしたくないよ 会えなくなるのは淋しいけど 笑顔で君のことを見送ると決めた 僕なりに伝えたいこと 今さら上手く言葉に出来ないけど せめて力の限りに手を振るよ たとえ遠く離れても忘れないよ だけど僕なりに伝えたいこと 沢山ありすぎて涙が出そう 僕なりに伝えたいこと ずっとずっと君のことが好きだったよ ---------------------------- (ファイルの終わり)