わら 2007年8月15日6時19分から2009年3月26日23時20分まで ---------------------------- [自由詩]君が名/わら[2007年8月15日6時19分] 10万人の名前を書き並べてみる 書き並べてみる 書き並べてみる ただ、ただ、 帯のように 書き並べてみる それぞれの名前 いろいろな名前 きれいな名前 かわいらしい名前 勇ましい名前 あのヒトに似た名前 ほんの、ひとつづりの名前たち ほんの、ひと筆 なにも飾りつけない ただ、ただ、ただ、 無言のまま 10万人 100人目で、うでは疲れ 1000人目で、痙攣は起こり 三日三晩、一睡もせず 意識は朦朧としてくるのだが その手は止めず 書きつづけども 2万人にも及ばなかった ああ、 とめどなき  とめどなき 黒く連なりし名は 山よりも長く ほんの、100人を手にとっては その色濃きに ことばをなくす わたしは、その存在に 呆然と立ちつくす わたしは、その尊厳に 真には気づきもしていなかった 名を書きつらねる 名を書きつらねる 張り裂けんばかりの無情の念を そのかけがえのない生涯を せめて、 ひと筆とまでに省き すべて、あがなおうとせども ああ、 それでも 遠く、およばぬ せめて、 それだけでさえも あがないきれぬ このうでは折れてしもうた わたしは、やっと その悲惨を目のあたりにした 10万が焼けたのは ほんの、一瞬だったと言うではないか 10万 100万 1000万 ほんの、ひとつの戦がためだったと言うではないか ---------------------------- [自由詩]ハーモニー/わら[2007年8月21日15時53分] あなたは陽のように わたしの胸を つつんでくれました わたしは影となり あなたの心で 生かされたいと願うばかりです あなたは哀しみをまとい それでも生きようとする姿に 光りをみました わたしはささやかな幸福に触れ 響く鼓動を耳に 澄んだ風を感じているのです 不器用さが「生きる」ということならば あなたの涙は 血のように真なのです いつか華麗に振る舞えたなら わたしの涙は、そっと “純”を謳えることでしょう カラダや夢や濡れた手足や 皮膚よりも、もっと、やわらかい ぬくもりをおもったのです 不安を抱く頬や安心にほどけた目尻 戯れのトキを織り添えてくれるから 穏やかな熱を届けられるのです  *合作詩です。 ---------------------------- [自由詩]夏空/わら[2007年8月26日23時11分] 空よりは高くはない ただ、 この丘から見える景色をながめている 「素直にしているの?」 「凛としているの?」 そんな問いかけは この宙に、あてもなく溶けていく 今の刻ではない 時代の刻 フィルムに収められたように 10年後の景色を思い浮かべる いや、 いつかのときに 10年前の自分を思い出していたとするのなら どうだろう? なつかしさのような感覚が すうっと胸にひろがってくる きっと、 時のにおいが いろんなシガラミを洗い流してくれるからなんだ そして、 今という時を どれだけ精いっぱい 駆け抜けていられるんだろうかという かけがえのなさがこみあげてくる 素直になれることよ いつかの未来、 ぼくたちは また、違ったふうに出会えるだろうか? 今を素直に笑って 思い出せるだろうか? 「好きだ」と、 伝えれるくらいに ---------------------------- [自由詩]空気/わら[2007年8月29日21時40分] 旅だとか なんだとか の前で ぼくは無性にくすぐったくなる ここは星がきれいだ ただ、それだけでよかった くちにする言葉なんて くだらないことばかりで ハンドルを切り損ねた すれすれのガードレールも 夜明けには遠い 細い峠も ぼくたちの境界線よりも あいまいなままだ だれとも話したくないときに だれかに拾われたりする ここではないどこかに行きたい だなんて願望は 意外とむなしいものだってことは知っていて それでも 感覚をかき乱すためのことなら 大抵はする 武勇伝は つまらない ごつごつと 足の裏に当たる石が痛くて うまく歩けない 川に飛びこもうとする少年が うらやましかった 夜には冷めたビールが ふてくされた様子で腹にしみ込んでいった 見栄をはっても カッコをつけても 汗くさくにしか感じないような どんよりとした清流の前に ひとり立っていた いらだちも どうでもいいと思えるのは 時の流れのせいだ ちゃぷちゃぷと足を浸けて ふり返ると ゆらゆら火がかすかに燃えていた てきとうに組んだ石の上に てきとうに用意した金網をのせて てきとうに買ってきた肉を焼いて食う 無計画さを笑える計画性は すでに備わっていて 笑いどころとやらの所在も心得ている ただ、わからないのは 今ぼくがどこにいるのかと 立ちのぼる煙の行方 ぼくの友だちよ くだらないぼくと くだらない話をしてくれて ありがとう あてもない記憶のかたすみに てきとうに書き留める ---------------------------- [自由詩]うなり/わら[2007年8月31日21時34分] 夏の終わり りんりんと鳴く虫の音の響く夜の淵 なまあたたかいぬめり気が 頬をなでる セックスを終えてアパートを出た後の このにおい 夏のにおい、のような 記憶のかたすみ 痛くなってくことばかりがふえて こころを掻きむしりたくなるのだけれど 鈍感になっていくのは性器で 忘れたふりをするのが 精いっぱいなんだよ 汗ばむ体に たましいはとり残されたみたいになってる 立ち止まって、見上げてみても 真っ暗は真っ暗のままだ どこからか カレーをつくる匂いがしてきたよう 遠くのほうで 電車のうなる音が聞こえるよう ふらふらと 街灯の光に浮かびあがったトンボを 追いかけそうになった まだ、この季節の湿度が重くて うまく動けなかった 幼き夏のおもかげを求めるように 極楽トンボは消えてゆく それでも この、熱を帯びた夜が涼んでゆくのは たまらなく名残惜しいんだ なみだみたいな体液と おなじ温度のようだから ---------------------------- [自由詩]おれも女に生まれたら、ワンピース着てみたいな/わら[2007年9月7日3時51分] ぼくには声はないよ さけんで さけんで 声はきこえなくなってしまったよ ぼくは、うたえないよ ただ、卑屈な笑みしかつくれないよ 正直、今日も死にたいと思っているよ 病気と言ってしまえば、それまでだけど ずっと、そうなんだよ 自分でも、よくわからないよ ロックは何と戦ったか? とか、 そんな、かっこいいことなんて わかりやしないし つっ立ってるだけが、ぼくの姿だったよ 小さな箱の中でなら ぼくは許してもらえるのかな 生きてく叫びなんて 途方もなくて 失くしてくものばかりがふえていく 行き場を見失って、ずいぶんと経っていて それでもカラダは 都合よく消えてはくれなくて どこにもゆけないんだ 詩に「生」をすがるように 岸辺にしがみついているんだ そうなんだ わらをも掴むようになんだ 生きていかなきゃならない、この現実では しょせん、そんなものは わらのようでしかあれないんだ 泥のように この手もとでくずれてゆくんだよ 書きつらねども、書きつらねども 凡庸な才には、ろくにカタチを成さず せめてもの救いにもなれなかったコトバを 引きちぎっては、くしゃくしゃに投げ捨てて 転がる紙くずは まるで、ぼくのこころのようだよ ぼくたちには、かなしみをきく耳があり ぼくたちには、かなしみをみる目があり ぼくたちには、かなしみをつむぐ手があり ぼくたちには、それを受け入れる心臓がある ぼくには声はないよ ぼくは、うたえないよ ふるえるような音をきかせられないんだ ぼくは字だよ ぼくは詩だよ 耳鳴りを起こせやしない かたまりだよ そうなんだよ いいんだよ その女はさけんでいた ねぇ、 もっと、きかせてよ 悲鳴のような歌声を 生きるための鼓動を 共感がいたみを和らげるならば ぼくは、だれかのそれになりたい ぼくのなにかを分け与えられるなら この乳房を切り取って、あげるよ なにもできやしない なにもできやしないけれど 言葉にしなかったら ぼくたちは終わっていくんだ なにも声を上げなかったら そこに居なかったのと同じようなんだ いくつかの記憶と忘れられないこととを 塗りつぶして だれにも理解されやしない孤独も もう腐りはじめていて 薄暗い個室で待ち合わせた女は 指名したのとはすこし違っていて それでも、 微笑みしかくれないメイド服を着た女よりは優しくて 太ももに頬寄せていた どちらも嘘だから その微笑みの意味なんて、どうでもいいんだけど 終えた後には 感じちまったことが胸の空洞にこだまして やっぱり、 言葉なんて、みつからなくなる その生きてく姿だけが どこか凛としているようで なにを思えばいいんだよ? なにを紡げばいいんだよ? 食って 飲んで 吐き出して また、 ほおばって 今日も、また、 死にたいここちを掻きむしって ねぇ、 きみは、なにをうたっているの? なにをさけんでいるの? ぼくは、結局、 こみ上げる、なにもを伝えれやしないよ きみは、どんなふうに生きているの? だれも、ぼくを殺してはくれないよ もっと、きかせてよ ずっと、きかせてよ   耳鳴りが消えないように ---------------------------- [自由詩]ぼくのかなしみが骨に似ていても/わら[2007年10月5日18時42分] 夢のように細い骨で ぼくたちは生きてきたんだね 愛についてを乞うたのならば 骨と枯れても 幾千 幾憶 そこには声があった、と 想う そばにいてくれて 微笑んでくれて 願うことが そんなことならば ただ、 だれにも愛されないまま 消えてゆくことにおびえている 孤独は静寂の中にたたずんでいて 光は白々しい蛍光灯でしかなくて 光、 天井の光 人ごみは無機質にフロアにこだましていた 一人ぼっちってヤツでしかないことが なおも、のどを乾かせる 夜は ふとんにうずくまって 朝が来ないことを願っていて 静けさの、なにもが叶わないのならば すべてを忘れられるような眠りの中に ずっと、寄り添っていたい ずっと、 ずっと、 よりそっていたい かけらになったのならば 乾いた、それを 涙で濡らしてくれなくていい こつりと、器に 入れてくれればいい できれば、 ただ一度、その手のひらで だきしめてほしい ---------------------------- [自由詩]ぽぽろん/わら[2007年11月5日0時37分] 現実はいつも 残酷な音をたてるからね いまだに 感情をふりきれないこの男は 情けない、と つぶやくコトバ以外を思い浮かべられなかった あてもなく わらい顔をつくってみる 幸福を のぞんでいたんだよな きっと なにもを、 言葉を 交わさなければ、 楽になれてたのかな もしかしたら どっちつかずで、 今日も こんなんじゃな そんなの えらべるわけないじゃないかあって、 今日も しわくちゃまみれだ 顔は 雨が降っていて よかった こんな日はなぜか 雨が降っている 雨が降っていて よかった あの頃とは もう、ずいぶん違った場所に立っているさ だけど、 だめだな やっぱり また、 こんなことで くりかえし もしも、だれかに愛されたなら 未来は変わっていたかもしれない だなんて、 こぼれる言葉は 何度も 何度も 人を愛する資格なんてのも なかったのかもしれない、 な ゆれて ゆれて ぽぽろん ぽたりと、おちて どこにも、ゆけないんだ もう、 なにを望めばいいのかも わからないんだよ 愛も恋も 嗚咽にかわる こころ、どこですか? ただただ、 ただただ、 痛いや いたい、やいやいやい なんで、こんなに痛いんだろ? 日々が刻々と 流れ、うねってゆく がんばってるんだけどな、 おれ ---------------------------- [自由詩]ねぇ/わら[2007年11月10日4時04分] ねぇ ぼくたちは、 もっと、笑っていてもいいと思うんだ もっと、はにかんでいたっていいと思うんだ むずかしいこととかじゃなくて かなしいくらいの澄んだ青空を見上げていて、 ふと、そう思ったんだ ぼくたちは、 だれもが、しあわせになるために生まれてきたんだって 言ってみてもいいと思うんだ すこしくらい、 そう言ってみても かまわないと思うんだ だから、 ねぇ わらってよ そう思わせてよ ぼくたちは、あまりにも 悲惨と嘆きとに覆われていて いつからか 考えすぎてしまっていたんだ ゆがんだ目でしか なにもを見れなくなってしまって 素直に幸福を望めないくらいに この世界に打ちひしがれてしまっていたんだ ぼくたちは、ひとりのときでさえ 満たされなさと欲望とにさいなまれ、 嫌悪や争いを避けずに 歩けなくなってしまっている どうして こんなにくるしいんだろう? ねぇ ぼくたちは、 もっと、ほほえんでいてもいいと思うんだ もっと、しあわせをおもっていてもいいと思うんだ たとえ、それが、 嘘のようにかなしい空でも ねぇ ほんのすこしなら、 ゆるされるかもしれないんだ つないだ手のぬくもりを感じれるくらいに ぼくたちは、 もっと、 しあわせであってもいいと思うんだ ---------------------------- [未詩・独白]詩/わら[2007年11月18日7時37分] ここに来させていただいて、 1年が過ぎました。 多くの方々の詩を読ませていただけたこと、 そして、多くの方々に私などの詩を読んでいただけたこと、 こころより感謝しています。 ありがとうございました。 私は時折、自分の居場所を見失います。 孤独感はぬぐえないままです。 だれにも必要とされていないのではないかということへの怯え、 だれにも理解されないということへの苦悩、 そして、 だれにも愛されないという孤独。 そんな私にとって、 ここは大切な場所になったように思います。 詩は、せめてもの救いでした。 ゆき場のない慟哭にとって、 せめてもの逃げ場のようなものだったかもしれません。 私は詩を 遺書のようなつもりで綴っています。 ぽたり、ぽたりと こぼれ落ちるようにしか描けません。 めまぐるしい苦悩を うねる感覚を どうにか昇華させようと 終末を迎えるような心地で書き残しています。 ゆれています。 希望を求めようとも、 誠実に、愛の姿を問いかけようとも、 己を突きつめ、 真に見つめようとする度に、 やはり、この内にひそむ 妬み、不純、欲望を目にしてしまうのです。 純粋を 望めども、望めども、 真に届かず、 そして、ただ、 人を愛する資格さえなかったのではないかと 思うのです。 もしも、だれかに愛されたなら 未来は変わっていたかもしれない と、幾度となく言葉はこぼれ、 そして、 存在意義さえも見失った自分は この世界にとって不適格であったことを悟るのです。 日々の些細なことにでも痛み、 それでも、人々の前では 何事もなかったかのように笑いつづける、 どこにも居場所のない私にとって、 詩は せめてもの救いでした。 わらのように儚くとも、 それにすがっていたのです。 1年という月日は長いものです。 そんな日々の中、 ここで詩を表していくことで、 多くの方々と出会いました。 そして、 別れもあったと思います。 詩書きのくせに、 どのような言葉を放てばよいか 見つかりもしないせいで、 ろくに言葉をかけることも出来たことがありませんが、 暗黙のうちに いなくなってしまわれる方々にも 数多くの痛みを感じてきました。 その消耗も、 すこしずつ、溜まってきています。 詩を通しての出会いは かけがえのないものだと思います。 私はお返事のときに、 よく、「救われる」という言葉を使いますが、 ほんとうに、そう感じています。 わらにもすがるように、 詩を書くことで痛みを和らげ、 それを読んでいただき、 評価してもらい、 コメントまでいただけるときには、 様々な日々の中で、 そのひとつひとつが、 ほんとうに、こころの救いのように感じられるときがあります。 「生」をつなぎさえ、したかもしれません。 乱文、駄文となりましたが、 この書で、真に伝えたかったことは、 その感謝であります。 私は、これからも詩を書いていく中で、 希望を見、 絶望をし、 または刹那と欲望に沈み、 己をみつめては、 あえてこそ、 醜さと皮肉をさらしてゆくこともあるかもしれません。 まさしく、 ゆれつづけています。 この哀れなこころが、 どのように生きれるのかも分りません。 それでも、 読んでくださる方々への感謝の念は 決して、忘れることはないと思います。 この場を借りて、 改めて、 ありがとうございました。 ---------------------------- [自由詩]愛すること/わら[2007年12月14日18時36分] きみがしあわせになれれば それでいいと願っていたあの頃は うそじゃないと信じたい だけど、 なみだがこぼれて止まらない 今も、ぼくは、 いつかのこころの真ん中に立ちつくしている 気づかなきゃいいことも気づいたり 感じなきゃいいことも感じたり こんなぐちゃぐちゃなこころで 生きていけるわけないじゃないかあって 叫びだしたくて そんな大きな声を出せる度胸も なにかを振り切れる勇気もなくて 不器用さを重ねて この男の辿った道を 思い出す度に ただ、情けない 情けない 情けない ろくな言葉も みつけられなくなったのが けっきょくの、こたえで だれよりも苦しむことが だれよりも己を押し殺すことが 誠実さだというのなら ぼくは、きっと だれよりもきみを想っていた ずっと、ずっと、 想っていた それだけは信じれる きみから、不意に、 「あい」なんて言葉を聞いたときから 笑えるくらいに 哀れな運命に翻弄された後でさえ 泣きだしそうな空を振り切って すれちがう、ほんのひとときも ずっと、わらって なにかをつくろっては 自分に問いかけつづけてきた 性も生命も 愛という名の姿も 正しさなんて、みえないよ きみになにができただろう? これでも、がんばってきたんやよ ずいぶんと長い間 いろいろなことを こっけいかもしれないけど 約束みたいなものも 忘れないでいた あのかなしい歯車の中で 好きだとは、もう言わない もう、二度と涙はみたくない あなたの笑顔に出会えるなら それでいいんだと言いきかせつづけてきた ただ、もしも、 ふりむいてもらえるならと ずっと、走りつづけてきたんだ おれなりの精いっぱいを いくつかの通りすぎる季節の中で あなたを支えれたりできただろうか? 空気みたいで やっぱり、気づいてももらえなかったかな けっきょく、 情けない男でしかなかったのかもしれない 何度も、 自分の愚かさをかきむしったよ ぼくたちは、 ずいぶんと、大人になったね そして、 ずいぶんと、いろんなものがこわくなった うまくなんて どれだけ笑えたろうか? あなたにではなく 残像におびえているのです 押し殺してきた言葉のほとんどは かなしみなんだ その隠してきた痛みさえも だれにも知られないまま消えてゆくことが それ以上にかなしい 長い長い日々の中で 幾度となく繰り返した嗚咽を すこし、堪えきれそうになくなった こんな夜をゆるしてほしい それでも、 幸福を望んでいたんだよな? このカラまわりのまま、 もうすぐ、さよならを伝えなきゃいけない なにもできなかった こころのそばには、いられなかった こころから、 人を愛することを教えてくれて ありがとう ---------------------------- [自由詩]うつろ/わら[2008年1月4日0時46分] あたたかな あたたかな皮膚を 思う なんだか涙がこぼれてくる いのち ってものを 意識にうつす ゆっくりと、 ゆっくりと、 つぶやくような そんな言葉で ありたい 浮かんでは消える 浮かんでは消える めぐりめぐって、 うつろな言の葉しかみつからなくなった 溶けてゆく灯のような 失くなってしまうような 静寂の中で いたい 小さな言霊が 重く沈んでゆく い、の、ち、 かすむ意識で 押し出した言葉をなぞる 生きていてもいいんだよね? まっ暗な 部屋のかたすみでおびえていて ふと、 窓辺から天井に射しこむ 車のヘッドライトが、 閃光のように通り過ぎて 希望なのか 絶望なのか 奇妙な目覚めに襲われる 選びかけている結末の それ、を阻むためらいは ただ、 手をにぎっていてほしい みたいなこと ぬくもりを伝えてほしい そこにいてもいいということを そんな人恋しさなんてものに けっきょく、ひきずられてる だれか、と つぶやけど、 あてもなく、 顔もみえない手のぬくもり もう、いつからか、 こころは空っぽになった 明るさが押し寄せてくる前に、 朝がくる前に、 今日も、この、 まことの中で しずかに、 首を切りたいと思っている 「どうか、安らぎを」 ---------------------------- [自由詩]そして、光/わら[2008年1月14日19時57分] うつ、という言葉が好きではありません その言葉で ああ、自分は、そううつというヤツなのだ、 と思えば すこし、居場所をあたえられたような気にもなりますが なんだか、その言葉ひとつで 自分の苦悩やうごめき、この目にうつった洞察までを くるりと、ひとまとめに包まれてしまったようにも感じられ その処方薬のしろ紙をひらくのには違和感のようなものがあるのです 勝手ながら、そう言ってしまえば、終わりという気にさえなっていました 時折、深い絶望感におそわれます だれにも必要とされていないという恐怖感におそわれます 過去をみても、未来をおもうても そして、今をかえりみても そこには、なにもなく 乾いた造形が押しひろげられているばかりです 13、14くらいの頃から 未来には、己をおとしめる得体の知れぬノルマと それをどうやり過ごすかという 重苦しい怯えが横たわっていました そして、この世界にうずまく現実に 思考は我を失いかけていました 日曜日の昼下がりには 泥に塗りこめられたようにベッドに沈みこんでいたこと 自分のうでをながめ、これはなんだ、とつぶやいていたことを いまだに記憶しております 己が肉であることも、ろくに認知できていなかったのです 中学受験を強いられ どういうわけか、名門と呼ばれる学校に入学しました ですが、私は、ときに、ひらがなさえ読めなくなることがありました ちょうど、それくらいの歳の頃 己の、その強迫観念、精神の内情を 父に告白したことがあります その嫌悪と、一身の期待を裏切られたような、失望にゆがんだ顔を 今も忘れられません その眼を前にして、私は、己を異物だと悟りました そして、それをひた隠すことを誓いました 夕日が赤く、射しこんでいました 10年あまりが過ぎました 今日も、わたしは、びくびくしています 日曜日は、居場所のない空気に押し潰されそうになります 死にすがりたい思いがもたげてきます 未来は絶望感と鬱屈に腐りそうになっています 衣服の繊維が首や皮膚を刺すのを感じています 生きるための渇望には食らいついたと思います 自分なりに、がんばりました その分、屈折もまた重ねました 己を背徳の者だと悟っています ぬくもりを知りません 人と心を通わせたことはありません トモダチは多いほうです 明るさをつくろうすべなら早くに心得ました 生まれてきたことを申し訳ないと思っています 私の思考は断片的です この静けさが好きです ちゃんと言葉をえらべません ときどき、自分なんかはヒトと関わってはいけないのではないかと思うのです 誠実にあろうとするほどにです まごころに、どのように声をかえせばいいのか わからなくなるのです せめて、静寂の前では、幾分かの、まことを、と思うのです 夜空をながめるのが好きです どこにも帰りたくありません けん騒を過ぎて 星々がまたたくのは、ほんの一瞬だと思えます 雪よりもはかないものになら、こころをゆるせます 日々、過ぎてゆく造形をながめ ひとり、それを日常だと悟りかけている稚拙な私の目に ふと、空を見上げたとき 不意に、射しこむ強い光は うめく一塊たる私のがらんどうに 動脈を教えるかのように、うち鳴らされます きらめきに、瞳を細める 意味もなく、生きていることを知る ここにいる まばゆく それは そして、光 ---------------------------- [自由詩]今日、神戸の街にも雪が舞いました/わら[2008年1月17日21時12分] 燃えておりました 街は真っ赤に燃えておりました ぼくは、ぼんやりとテレビの前で その光景をながめておりました 電気はつながっていました すぐ横には、 割れたガラスの破片が散らばっておりました 今日は、 この季節、はじめての雪が舞いました まっくら闇だったことをおぼえております よく行く駅前には くずれたビルが横たわっていました 学校にも、しばらく行けませんでした 1.17という日を忘れないでください、 とは言いません ぼくも、その日をむかえるまで忘れてしまっていました 今日も、ぼんやりと 映し出されるニュースをみておりました ただ、 どうしてでしょう? 5時46分ということは 今も、たしかに、おぼえているのです ---------------------------- [自由詩]死んだアイツのことなんて、どうでもいいと思っていた/わら[2008年1月24日11時48分] 2ヶ月ぶりに退院したヤツと飲みにいった とりあえず、おめでとう、と乾杯した ひさしぶりに元気そうでよかったなと思った 長話。 こないだは、友人たちと鍋をした 男3人での鍋 そういうのは嫌いじゃない てきとうに安い肉を入れ込んでは コタツの上で、ぐつぐつと煮る そんな何気ないくつろぎが ずいぶんと久しぶりに思えて なんだか、ここちよかった 大学に入るまでの1,2年をどうしていたのかは いまいち分らないのだが、 ひとりは小説家志望とやらで 今も就活そっちのけらしく、 ろくに連絡もとれないでいる もうひとり、 その集まった下宿の主は 半年ばかり学校を休学していた こちらも、長い間、ご無沙汰で その間、なにをしていたかというと インドを中心に東南アジアあたりを ぶらぶらと一人旅をしていた よく生きていたなと思う そいつから借りた本は まだ読み終えずにいるのだけれど、 準備よくデジカメを持って行っていたらしく むこうでの写真を大量に見せてもらった 時折、 明らかにアブない煙に恍惚とした表情を浮かべる現地のオジさんと 肩寄せあってる写真があったりもするのだけど 彼の刻んだ、山々の光、 海のような雲のむこうにかすむ雄大な草原 そして、 砂ぼこりの舞う大地の中、 空よりも大きな太陽を背に マントをまとい立つ、その男の姿には、 胸を打たれるものがあった 彼が帰ってきて 写真家になりたいと話しはじめたのは 必然だったのかもしれない そういや、おれも、 いつかのときに、 ひとりでアメリカの地を旅したことを思い出す 西海岸沿いを歩けるだけ歩いて 倒れこむように眠る 金もありはしなかったから 半分は野宿だった 人も少ない崖の上で 水平線の海に陽が沈んでゆくのをながめ、 冷え込む夜に、震えながら眠っていた 銃口をむけられたこともあった パトカーに乗せられたのも 今となれば笑える話 ただ、あのときは、 単純に、死んでもいいと思っていた 生命力がカラまわる 生きる力と失落が入り混じる どんな自然の息吹を目にしても どんなに照りつける日射しに皮膚が熱をあらがっても こころの内に ぽっかりと空いたものを埋めあわされなければ 体温は消えてゆくようで 生に、必死に食らいつきながらも どこかで、なにかに冷めている ずいぶんと走ってきて だけど、きっと、 くらやみの中で カタカタと、うずくまっているのが 結局の自分の本性なんじゃないかと思う 意識は、ゆれては剥がれ落ちる 日々は、ゆっくりと、 ぼくを静けさのなかに引きこんでゆく * 大学で出会った親友みたいなヤツは 消防士をめざすと言って学校を辞めた 去年、冬のはじめ頃、 受かったと連絡をうけたときは ひさしぶりに、希望のにおいをかいだようで 言葉にならず嬉しかった そして、 なんだか、ほっと胸をなでおろしていた その後、おれはまた、 いろんなことを思い出しながら 言いようもなく、 自分の居場所を見つけられないようで 手さぐりで夜道をさまよっていた * 高校時代の友人とメールをかわす 長い時を隔ててのこと 「がんばってくれ」 今年もまた、受験シーズンがきた 彼はもう、7浪目になる かつての戦友 その苦悩の端々までもがわかる 人生というもののひとつ、 その修羅に立ちすくんでいる 4浪もすれば、 にんげんは大抵、おかしくなる 過度なプレッシャーの中、 24時間を分単位で刻み 黙々と机にむかいつづける日々 一年間で、 人と話をした、のべ時間が 2時間にも満たなかったなんていう話が 冗談じゃなく言えるようになってたりする 神経を病んで、 ちょうど、これくらいの季節には 手足に湿疹が出てたりなんかもして それでも、 なにかの菌のせいかなんて思い込んで キツい消毒薬をふりかけては ヒフは、がびがびにひび割れていた 打ちこむほどに、 精神も成績も堕ちていくことを悟った * いろんな人間がいる いろんな人間をみた 連絡がとれなくなった奴 ほんとうに、こわれてしまった奴もいた いつも、あたまをかきむしっていたヤツのことが 忘れられない 飛びおりたらしいと、 人から聞いたりもした アイツのことは知っている 同じようなものだ 繰り返す空白の中で 人との接し方を忘れていった そして、境界を見失った ビデオテープのからまる音がする ぱりぱりとコンビニのおにぎりが響いている そんなものだけが カラダの中にしみ込んでいった 週に一回、一本だけ、 無機質な陳列棚のカベのすき間で 好みのアダルトビデオを借りてきて 何度も、同じ、それを見ては 毎晩、寝る前にオナニーをする そんなものが日々のリズムを刻んでいた ソイツにとっては それだけが日々の中の、唯一の幸福だった 張り裂けんばかりの絶望を あふれんばかりの孤独を抱いて、 アイツは、全身を 冷たいアスファルトに叩きつけた * あれから、いくらかの季節が流れて いつからか、また おれは、人を愛することを求めてしまったよ ふつうの人間ヅラして 人々の中にとけこんでいる ほんとは、どれだけ、うまく笑えるかも わからないのにな それを隠したいがためか だれかにぬくもりをもらいたいがためか それも、わからないままだ わきもとへ舌をはわす 形容は そんな所作のカタチ 死んだアイツのことなんて、どうでもいいと思っていたと 自分に言い聞かす そして、おれも どこかで、やっぱり選んじまったときには 死んだアイツのことなんて、どうでもいいって 言われんのかな? ---------------------------- [自由詩]その、すべて/わら[2008年2月11日17時41分] 世界が変わった日というならば あの戦争が終わった日よりも ビルに飛行機がつっこんで 世界が戦争をはじめた日よりも あなたがいなくなったその日が ぼくにとっては そのすべてなのです 世界が変わったよ ぼくの目にうつる色の そのすべてが変わったのです あたまの中の 宙をまわる ぐるりとまわる そのすべて わらっていて きらめいていて どんなに走ったっても疲れなくて あの自販機でさえも 夜の中、輝いていて ぼくたちを、ぼくたちと呼べることの そのすべて 光れる その、息づかい 呼吸よりも、思い出のようで 記憶の 出会えたことの そのすべて ---------------------------- [自由詩]まさ雪/わら[2008年2月22日5時27分] わた雪が 景色の中で降っていました それが幻だということは 知っていました 幾重もの ゆらゆら ただよい降りて 白く、たどりつく 地の上へ その音が耳の奥のほうで こだましておりました 終わりの景色だというのなら そうか、だから、 人が見当たらないんだ だれもいない 黒く塗りつけられた夜の あの建物の谷間にも このアスファルトの一面にも 静かのままに つらなりおちる ひざをつく 目をつむる まあーだだよ もーいーかい 白い声が 遠くで響いている ああ、 凍えるよ おやすみ 銃声 ---------------------------- [自由詩]こころ/わら[2008年3月7日18時26分] ねぇ、死んじゃったら  なにも見れなくなるんだよね?  なにも伝えられなくなっちゃうんだよね?  そこには、なにもなくなっちゃうの?  なにも残らないの?  天国にいくの?  地獄にいくの?  神さまなんているの?  ねぇ、そんなことよりも 感じたことも感情も こころ、 なんにもなくなってしまうの?  そこには、なにも居なかったように ぷつりと糸は消えてしまうの?  ぼくは踏みにじられてばかりだよ  ぼくはバカにされてばかりだよ  ずっと褒められたかった人に  認められもせず、愛されもせず きらわれているんだと知ったときには 大の大人が、なんだか、しくしく涙がこぼれてきたよ ろくに泣けたこともなかったのにな ああ、やっぱり子どもなんだな ちっぽけだ  ぼくの帰る場所はどこですか?  ほんとうの家はどこですか?  明日、死のうと決めたんだ もういいやって思ったんだ  考えあぐねて、のり越えて  そんな日々を終えてのこと  肩の力が抜けたようで  すこし、こたえがみえた気持ちになれたんだ  このくるしみは、ずっとずっとなんだよ  また、あのフェンスの前とかに行っちゃったよ   寝る前とかに想像するんだ ベッドに、うつぶせでいるとき これがコンクリートで 硬くて、冷たくて  背骨は、ぼきぼきに折れてしまっていて  血を吐いて、すごく痛いんだろうって  だけど、それも受け入れなきゃって思う  なのにねぇ  こんなにいやだったセカイが  もう、あと数時間の最期の景色だなんて思うと  なにもかもが恋しくて、なつかしくて  子犬のぬいぐるみもかわいらしくて  あの人にも、あの人にも 会えなくなることが  やっぱり、さみしくて、 申し訳なくて   なにも書けなくもなるんだよね?  伝えそびれたことは、いくつもある  こころからのお返事も、 ちゃんとできただろうかって気にもなってしまう  情けねえや  なにも考えなければラクなのに  夢にまで出てきたりもしちまうから  つながりを断ち切れないで  今日、死のうって決めたのに  そう、  こころが、もう消えてしまうこと  想いもなにもが、なくなってしまうこと  あなたにも会えなくなるんだ  あなたのゆく先もみれなくなるんだ  ぼくは永遠の置いてきぼりになってしまうんだ  しあわせを望めもせず  愛されもしない者に  生きる意味もなかったのに  なんだかバカみたいにさまよい疲れて  もういいやって   思ったのに  ---------------------------- [自由詩]返信/わら[2008年3月18日20時54分] なくした言葉がいくつかあって  それを、また  見つけだすのにあたふたなんかして  正しい言葉  わからないんだ  ぼくは  言葉は無力だと知っていて  それでも光をたぐり寄せるように  言葉を信じていて  ぼくは、その一筋の糸につながれている  あなたは、やさしい人だから  あなたは、あたたかな人だから  なにかを分けあたえるように  言葉を選び取ってくれて  なにも言えずに泣きくずれそうになるのだけれど  だけど、やっぱり  人とのキョリも、心の距離感もわからないぼくは  いつかの記憶  手をさしのべてくれた人、 愛そうとしてくれた人も、 ちゃんと愛せないまま傷つけてしまったこと  ぼくは救われるべきじゃないんじゃないかって  なにもが自分を責める  この沈黙が流れて  息づかせる静寂があるように  孤独がたましいから離れないのです  ゆきつく果ては  静けさの中にいることなのかもしれない  そんな、あわれな人間です  だから、ねぇ  見上げること  あなたがぼくの名前を忘れても ぼくはあなたの名を憶えていられたらな って思うんだ 交わす言葉の先に未来があるのだとして、 なのに、 おびえているのはどうしてだろう せめて真実をと思うから 遠いぼくは、 けっきょく、何も言えずに ただ、伝えたいことは ありがとう ---------------------------- [自由詩]ひより/わら[2008年4月7日0時35分] また、この季節がきたよ ながかったねぇ ぼくたち   華やいで きみ  咲いているよ  あの花は  すべてを忘れろっていうように  咲いて、風に流れているんだ  うららかな木漏れ日とともに  おはようって言うんだ  だから ぼくは  春は、ずっと  きらいなんだ  冬に息絶えたあの灯も  嘆きも  降りしきるあの日々さえも  なにもなかったかのように澄んでいるんだ  その輝きが  ぼくにはとても残酷にみえて  咲き誇る木々の下に根づく血をおもう  なのに、どうしてだろう  光に  ひとみは見上げているのは  空があたたかいのは  風がやさしいのは  その淡い色に  忘れそうなことに  自分を責めて  また  忘れられないことが黒く刺さって  こんなまばゆい場所に  ぼくは居場所をみつけられないよ  華やいで  ほら  だけど、ねぇ きみ  あのとき  すこしだけ  わらったんだ  ---------------------------- [自由詩]じゃあ、また/わら[2008年4月28日2時19分] ふらふらと  京都から帰ってきた   またウイスキーを一瓶、 一気に飲み干して  そうだな  俺は俺を殺したいのだと思う  今はそんな夜  また見たいなと思えるものが  世界だったらいいのになあ  また会いたいなと思える人が  いてくれたらいいのになあ  「じゃあ、また」って  そんな  何に頼るものでもなく  何にしがみつくものでもなく  ふとした、  こたえみたいな  世界がそんなふうなら  よかったのになあ  はがれた爪が 声で ふるえる唇が  真実で  ほそい髪が  詩  詩って言葉  今も、しっくりこなくて うまく使えないんだけれど  だけど、やっぱり  ぼくは詩のそばにいたいんだな  ステージの反射する線が  ほんの一瞬  尊い  うたうたいの耳鳴りのよう  このゆらぐ意識の隙間で すこしだけ  みえる  ぼくがここで読む、  いくつもの人の  いとしき人の  こころふるわせる詩にも ろくに「コメント」なんてものをつけないのは  むずかしいこととかじゃなくて  ただ、いろんなことが忘れられないからです  こわがりです   泥に沈みゆく私がいます  いつも、こんな尊いものに  ぼくなんかが言葉を放っちゃダメだと思っています   それが汚れなきものでありますように   あなたの言葉はきこえています  ちゃんと胸に留めています  だけど、  うつむいたままでいてしまいます 罪悪感だけが拡がってゆきます     どうでもいいや、なんて 自分には言ったりもするのに   きっと、  だれかをしあわせにしたりする才能もないことを ちゃんと分かっているんだ  すこしだけ、そんな夜    こんな日には、なぜか  数ヶ月ぶりに  新潟かどこかに行ってしまっていた人から  突然、電話がかかってきたりなんかして  すこしだけ、帰ってきてたりしているようで  「今日、会おうよ」って  申し訳ない  今日は、偶然  ふらふらと京都だから  詩人が細く、きれいだから  会えそうにない  またの時に、って   でも、そんな ふと、「また」って言う あなたにも あなたにも   つまりは  まだ生きてくっていうことなのかな? きっと会えるよ いつか、どこかで   こんなに、こんなになのに  こんなぼくに   すこしだけ  こたえみたいな  「じゃあ、また」って  どんな神の  バイブルなんかよりも  一条の  そんな  言葉の  降る   ふと、 「また」 って  ---------------------------- [自由詩]クマのぬいぐるみ/わら[2008年5月22日6時12分] あなたの誕生日はいつだったっけなぁ と思いながら 刻々とすぎてゆく日々 選ぶべき言葉も選べないまま 大切なもの いっさいが流れてゆくというのなら それは、きっと わたしがたどった いくつかのあわれな日々 欲望にもさいなまれ 陽がどちらに出ているのかもわからず 右往左往 平凡な、平凡な しょーもない男です あなたを傷つけぬことを せめてもの、まごころというのなら それがわたしの告白です 想いをはなつということは とても生命力のいることで わたしは何も言えず こんなところに流れついた人間ですから 言葉ひとつ、カタチにすることも それはそれは身をけずるようで ええ、 わかっているのです その尊さ 胸をうつ その言葉 大切なもの 大切な人 闇に息づく、小さな灯りが なにかの声をきかせてくれます その夜は すこし、つかれていたのかなぁ ふらふらと家路につき たたずんでいました ふと、 もらったのは 小さな小さな贈りもの 手作りのクマのぬいぐるみ 「すこし雑だけど  その日までに、どうしても仕上げたくて」と たしかに耳もゆがんでいて 瞳もどこか、うつろなんだけど なんでだろう それがすごくカワイらしくて 飾り気もなく なにも言わず ただ、こっちをみている ぼんやりと ながめていて 気がつくと なみだがにじんでいました 救いの手がさしのべられていること 素直に伝えなきゃならないことは 「ありがとう」で なのに、ねぇ でも、気づいているんだよ ちゃんと伝えることもできないこと ぬいぐるみ ちゃんと抱きしめられないこと だって、それは 幻想のガラス細工なのだもの きっと、あなたには そばに、もっと、いい人がいるはずだから だって、 ちゃんと抱きしめられないのだもの ありがとう それだけで十分です あなたは 真に美しい人です ---------------------------- [自由詩]Re:/わら[2008年6月14日10時32分] あのとき、偶然 だれにも声をかけられていなかったなら ぼくは今ごろ ここにはいなかったのだ 偶然、生きているぼくは 今日も、また改札口をぬけ ケータイを開き 牛丼を食い だれかと会って  何気もない話をし 相づちをうち はにかんでは じゃあ、また と言う 偶然、生きているぼくは もし、あのとき死んでいたなら そんなアナタにも出会えなかったんだと知る シャッターを押すように いま見ている景色をつかみとり たしかめようとする  尊さと呼ぶには なんでもない日常であり ぼくのつくろいも変わらないのだけれど 今が あの頃の未来なのだとして 輝かしくもない、このセカイも 偶然、生きているぼくは その自嘲も はかなさも 意識の羽音  この平穏に こぼれ落ちそうになって ぽつり、 と沈む  ---------------------------- [自由詩]似た光/わら[2008年7月5日1時01分] 朝が月を殺す頃 その細い首をきゅっと絞めあげて 太陽がごうんごうんと鳴りはじめ 白い光は 精液みたいにとろりと落ちて ぼくは生まれてこなければよかった、 と思うのです 怖くて そんな確かな視界のあらゆるが怖くて 意識を、己をかき乱すように また酒を喉の奥に飲みこむ たぶん、 俺は俺を殺したいのだと思う こんな日には 耳鳴りが鼓膜に響く ライトが遠くで揺れていた 髪がさけぶ 死ぬ気で生きているのか? 死ぬために生きてるのか? そんなこともわからなくて こんなうたが最期だったらなあ とぼとぼと帰り道 家路の間際で なんだか、すこし泣けてきた あの光がまばゆくて ぼくはいつも言葉を見失う 音をきく度に ぼくの言葉は無力だと思う 乾きゆらぐ意識の片鱗 目を細めて 溶けるような眼球の隙間 暗闇の中 太陽のそばで 焼けてほころぶ冷たいそれが どうか、罪でありますように 便器の底にゆらめく胃液が どうか、光でありますように ああ、神さま どうか、ぼくが罪人でありますように ああ、どうか 耳鳴りが消えませんように ---------------------------- [自由詩]たましいがさき/わら[2008年8月14日13時26分] 魂ヶ崎  たましいがさきで会いましょう  希望の岬で会いましょう  あなたが飲んだ、その泥までも あなたが裂いた、その腹までも  すべてを洗い流した場所へ    たましいがさきで会いましょう  こころの岬で会いましょう  わたしがまとった、この脂肉も   おんなをちぎった、この肢体も  歯茎ににじむ、この腐臭も   額にたれる、血とあぶらも  あなたが飲んだ、その憎悪や   わたしが吐いた、狂気の嗚咽や   そんな、すべて  このカラダなど  我らにまとわる蹂躙など  念や楔のすべてを剥いで  こころのままで会える場所へ  わらべのままで会える場所へ   まあ白な岬に立ち  すべてを終えた、その崎で   なにを望むでもない微笑みをたたえ  ゆるされることや  ゆるされえぬこと  生まれたことを罪とさえ  わたしは鬼畜の花を飲み   いや、それさえも  洗うた場所  まあ白な光に還る場所   その手を離せば滅ぶのか  それとも、あなた  たましいが先   やがて視界が黒くかすみ  あぶくに埋もれ  死した後には  たましいがさきで会いましょう  たましいがさきで会いましょう  ---------------------------- [自由詩]Bob/わら[2008年9月11日20時06分] ずいぶんと歩いていた  ぼんやりとそれだけはわかる  ふくらはぎの痛みの感覚は通り越して  いつか読んだ本の陳腐なストーリーのセリフみたいに 「それでも行きたい先がある限り歩くんだ」 と言い聞かしていたら  ずるずると引きずる鉛みたいな甲の下に  足の指は折れそうな感覚になっていた  ああ、ろくでもないことは  やっぱり、するもんじゃないな  ビルの隙間で  沈みかけている陽射しに  すこし、苦笑いをしてみる  風がここちいい  この街はクラクションが鳴りやまない  飛びかう声  活気、いや、熱度  においもだろうか  この街に魅せられる人々の気持ちがぼくにもわかった   前にもこの国には来たことがある  今とは大陸の真逆  西海岸だったけれど  そのときは、ただ  青い海と空が見たい なんていう理由からだけだった   あの日々も野宿をして  時には銃口を向けられたりもしていた  また懲りずに来てしまったよ  今は、もう、理由は色々なんだけどな  こっちに来て、何日目になるんだろう?  ニューヨークで安い宿なんか見つけられるはずもないから  寝床はいつも、 川を渡ったニュージャージー側の田舎のモーテルだった  毎日、毎日、  夜明けとともに歩きまわって  痛みも抜けないのに  そんなことをしていたから  ついには、ろくに足も動かなくなってしまった  日が暮れて、 誰もいない異国の夜道をとぼとぼと歩く度に  「おれ、何してんだろ?」 って気持ちになってくる  いま、こんな海のむこうで死んでも  誰も気づきもしないんだろうな、なんて思うと  やっぱり、すこし笑えてくる   なんだか  月がやけにキレイだった   誰にも知られずに死んだりする だけど 何かのために殺されるなんてのは  どんな気持ちなんだろう?  あの人たちは  そのせいで世界が変わったなんてことを  知っていたりするんだろうか?  グラウンドゼロ  あの場所には  嫌気がさすほどの政治が飛びかっている  いのちは、 どれだけの議論にさらされてきたんだろう  意味や意義や国のためや  「そんなことは知っちゃいない。おれたちは焼き殺されただけなんだ」 って思ってたりしないのかな?  あの日、世界はたしかに変わった  それは真実   メモリアルサイトには  何ヵ国語もの文字で  「9/11が世界を変えた」と記されていた  もう、うんざりなんだよ  おれもそんな見え透いたことを言うために  ここまで歩いてきたのかい?  道に迷ったとき行き先を教えてくれた、あのおばちゃんはいい人だったなあ  ホットドッグを買ったときのおじさんは親切だったなあ   鉄道で行き先を間違えたときの駅員さんもそうだった   宿を教えてくれたおばさんは  日本から来たことを知ると 「ウェルカム!」って握手をしてきてくれたよ  どうでもいいんだ  どんな人種だったかなんて  黒人だったか白人だったかなんて思い出せないよ  でも、みんないい人だった  いやなヤツもいたけど  みんないい人だった  なぁ、おれたちは、 何をするために生きているんだい?  たしかめようとしていること  感じようとしていること  すれ違う幾千もの人間たちの息吹きや声  いや、  そんな安っぽい言葉じゃない   答えもろくに見いだせないまま  この国に来て何日目かに  グラウンドゼロなんて呼ばれた場所に来たんだ  なんのためかだとかは  いくつかの理由のひとつでしかないし  どうでもいいと思った  汗ばむカラダと引きずる足  渇くのどのむこうで  うすく、目を細める  そこには  あの日の記憶をとどめる場所があった  いくつもの顔写真が張られていて  いくつものメッセージが寄せられていた   みつからなかった人たち  それをさがす張り紙  何百枚もの  なんかさ、  みんな笑顔で  いい顔してるんだ  愛する家族や自分の仕事や  それを守るため、救うため、 その誇りのため  きっと、一生懸命に生きていたんだと思う  いくつもの笑顔の下にある  ほんの数文字の言葉 MISSING  STILL LOOKING FOR THANK YOU THANK YOU, BOB WE LOVE YOU THANK YOU FOREVER WE LOVE YOU おれは、なんのために歩いてきたのか こぼれる涙はとめどなく  どんなに我慢しても  だめだった  なんのためだとか そんなもの 理由もなく   歩けなかった WE LOVE YOU BOB その数文字が 目に焼きついて今も離れない    ---------------------------- [自由詩]あなたがあなたであるために/わら[2008年10月28日16時18分] あなたがあなたであるために あなたがあなたであることを あなたの限り、 生きぬいてください ---------------------------- [自由詩]大輪かがり/わら[2008年11月18日20時49分] だれに愛されるわけでもなく  だれを愛するわけでもない   あなたはあなたのままでいて  わたしはわたしのままでいる  独り歩くということの  ゆき場も見えぬ哀しみの  さまよい照らす、まなざしの先  大輪にしきつめた太陽か  夜道を歩くたましいか  生まれて死ぬや  輪廻や  未来  ぼんやりと浮かぶ、そんな言葉も  今、漂うにおいよりも儚い  すこし、煙が目にしみる  だれかがベッドに横たわっている  「どこから来た?」とか 他愛もない話  そう、他愛もない話  「明日はどこかに行くの?」とか  そんな話  カラダに何度、舌を這わせても  その人の未来などには  興味はない  わたしという人が生まれて  どこで何を見失ったのか  長くのびゆく道の果て  もはや願うは人並みのやすらぎ  陽の光は遠く裏側  朝に射すそれは  鋭く、目を刺す  かがり火もない夜にしずみ  それでも、  光をのぞむような  これが、こころかと  ため息を吐き  なにかをしまうように  また飲み込む  あこがれているの?  愛や灯りに  わたしはあなたのその乳房で  どんな涙を流せるだろうか?  ---------------------------- [自由詩]ぼくら/わら[2009年1月8日18時11分] あの空は ぼくたちにとってのどんな色で 何かを忘れないための色になったりするんだろうか? つきぬける青に白い雲ひとつ 思いかえせば、 この変わらない空の下を ながい間、歩いてきたんだから すこしはぼくたちも大人になったはずさ どこにいったの? きみの小さな手は どこにゆくの? そのまなざしは きっと、また この変わらない空の下で 出会えるから 「疲れたら空を見上げて。その空はきっと私も見てるから。」 と、あなたは言う 忘れそうなことも 忘れられないことも 見上げた、この胸の高くにあると思っているよ うでをひろげる あの太陽に ずっと未来へのびていく影ひとつ いつかと変わらない背比べ あの頃も、今も、未来も、 変わっていくことの幾つかの中で きみ、その背中、ひとり、 変わらないで生きてゆけることを忘れないで 凛として立つ面影を ずっと、これからも想っています 今も景色は移りゆく 雲は流れて、何処かに消えた ---------------------------- [自由詩]己/わら[2009年3月26日23時20分] たたかって たたかって かなしみをえらんで かなしみにえらばれて たたかった意味さえなくして 月がゆらぐ 夢がとおくに消えてゆく それでもおまえはたたかうのか そんな言葉をしんじるのか 幻がかなわぬまま消えてゆく あまい髪が幻のまま何処かにゆく まこと おまえのえらんだ答えは妄想のむこう おまえのえらんだ戦は笑い声のよう 後ろ指の中 後ろ指の中 おまえの背中は笑い者 それでも信じるか その望みを それでも信じるか その選びを 己とのたたかい 孤独をえらぶ それは妄想 笑い者 かなわぬ夢 あまい温もり 望むのか 拒むのか 己の存在価値 すべてを抱えて すべてを思うて それでも もの言わず それでも 理解を求めず すべてのことは 背中で語るのだと そんな未来に そんな選びに そんな背中に 後ろ指はさされず 信じた言葉は 笑い者にされず ほんとうに ほんとうに ゆけるのだろうか 己とのたたかい それは孤独をえらぶ言葉 志という言葉 それを疑うという心 かなしみをこえてまで ほんとうに ゆけるのだろうか 己はほんとうに 正しい心でたたかって行けるのだろうか 長い長い空の下を 幾重もの幾重もの月の下を 温もりに うつむいてまで ---------------------------- (ファイルの終わり)