輪橋 秀綺 2006年11月3日16時38分から2011年9月29日22時52分まで ---------------------------- [自由詩]少年?原点/輪橋 秀綺[2006年11月3日16時38分] ある日 少年の中に 戦争が充満する 少年の中に 潮騒が充満する 少年の中に 愛情が充満する 少年の中に 故郷が充満する ある日 少年の中に 憎悪が充満する 少年の中に 悔恨が充満する 少年の中に 喪失が充満する 少年の中に 墳墓が充満する そうして少年はあふれていく 原点の向こうの向こうへ そうして少年はこぼれていく ある神秘的な 足跡を描いて フラッシュペーパーで読みたい方はこちらからどうぞ。 http://po-m.com/forum/svgpage.php?did=92053 ---------------------------- [自由詩]Money-Link●(循環?金)/輪橋 秀綺[2006年11月11日12時29分] 幼年 玩具の為の金を 爺の情から得る 少年 薬の為の金を 財布から得る 青年 遊びの為の金を 中高年から得る 壮年 地位の為の金を 得意先から得る 中年 返済の為の金を 退職金から得る 老年 孫の玩具の為の金を 年金と貯蓄から得る 皆 金にしゃぶりつくから       つんのめる ---------------------------- [自由詩]いのち(命)/輪橋 秀綺[2006年11月12日9時56分] 命は、優しすぎる涙だ。 一粒、肌に触れると、 途端に僕はばらばらになってしまう。 命は、透きとおる歌だ。 僕の身体に沁み渡り、 細胞のひとつひとつがうるおいだす。 命は、無限に重い本だ。 一文字一文字の中に、 人々の幾重もの想いがあふれている。 命は、口どけする絵だ。 一粒、口中に含むと、 濃縮された感情がゆっくり踊りだす。 命は、他愛無き物語だ。 どんなにか語っても、まだ足りない。 僕もまた一人の人生作家として。 ひとつの命を護っている。 ---------------------------- [自由詩]響漣?三つの声源による?/輪橋 秀綺[2007年3月1日21時35分] (?)見えないかれらへのしつもんじょう ぼくより 幽霊 彼は この世のどこかにいるのですか 幽霊 彼は あの世のどこかにいるのですか この世とは どこからどこまでで あの世とは どこからどこまでなのですか 幽霊 彼女は この世のいつかにいたのですか 幽霊 彼女は あの世のいつかにいたのですか この世とは いつからいつまでで あの世とは いつからいつまで続くのですか ぼくのこの言葉は カミサマ 貴方の元へ届くのでしょうか カミサマ 貴方は どこかにいるのですか カミサマ 貴方は いつでもいるのですか   幽霊は やはり死ぬものでしょうか カミサマも やはり死ぬものでしょうか カミサマが死んだなら ぼくも死ぬのでしょうか ぼくが死んだなら 世界が死んでしまうなら 幽霊もやっぱりいなくなるのでしょうか (?)風漣―注視への 神社の鐘の音が響いている 僕は 僕の魂を見たことがない 僕は 僕の幽霊を見たことがない 僕は 僕の神様を見たことがない 僕は 僕は本当にいまここにいるのだろうか 風が頬までやってくる 見えないものを信じさせるために 風が 吹いてきた方では ウソがホントウになり 風が 吹いていく方では ホントウがウソになる 風が渦巻いて   常識になって  また 風が渦巻いて   非常識になる (?)祷り―饗応への 風の背鰭に跨って遠くから 列を成して滑空する鎮魂歌 信じる―ただそれだけで 神様 あなたはそこにいる 信じる―ただそれだけで 幽霊 あなたもそこにいる 人々が謡う 答が聞こえる 誰かが頷く かぶりを振る 幽霊も神様も、祷りだとしたら。 私は殆ど自発的に、 信じる、と呟いて。 世界が諺になる瞬間を見つける。 ---------------------------- [自由詩]子どもの昇天 ?海?/輪橋 秀綺[2007年4月15日22時27分] 誰が哀しくて 雨が降るのか 水面には 先祖様が揺れています 海底では 光こそが恋しいのです 海のキャンパスを塗りつぶす 雨 それはまことに私達の涙です 天の彼方 水のレンズの奥に霞む 雲の間には 私達が揺れています 宇宙の拡がりに届こうと 私の中心で 鼓膜が震えています 殆ど戦慄するような それは 雷 眠るように隠れていた ある晩の そのとき 強烈な閃光の 波のような幕は 堕ちたのでした (しかも それは         ) 幕の奥には 新世界が うっすらはっきり見えました 私は眼を瞑ります 何が哀しくて 涙を棄てよう 二度と戻れないことに負の価値などないのです 泡の音を感じると 私の鰭は完全に分離します 「戻るつもりはないけど待っててネ」 さよならを無理に婉曲してしまってから 私は海を棄て 鰭は二本の足になり 僕は二足歩行を始める  生まれたばかりの仔鹿のあどけなさで ゆれゆれる世界の隙間で 見上げれば 星 意識の向こうの奥に落ちて そこには 孤独が揺れています 僕はさよならを直球に託して 曙 涙の代わりに雨が 雨が僕を 海を 光を 裸足で 丁寧に 叩いていく 水面には 先祖様が揺れています 海底には 仲間達が恋しいのです 大地の路標を覆い尽くす粉雪 それはまことに私達の心です 天の彼方 オゾンの鏡の奥に霞む 星の間には 引力が揺れています 宇宙の拡がりに耐え切れずに 僕の中心で 網膜が熟れています 殆ど慟哭するような それは祈り 安らかな眠りを知った ある朝の 誰の哀しみに 雨は降るのか  風景は揺れています 私達の水平線まで  風景は揺れ動きます 僕が一歩地平線に近づくたびに ---------------------------- [自由詩]砂のこえがきこえるように……/輪橋 秀綺[2007年6月16日0時30分] ゆーゆゆ ゆゆゆゆ ゆー ゆゆゆ ……                  旋律を歌ってみても ひとりぼっちだ 沖から岸へ 塗りつぶすように寄せる涙の成分は 平泳ぎなどでおだやかに泳いでいるぼくの体に蓄積する なんだか 切ない 昔会った大切な誰か のことを忘れてしまった  ということだけを覚えているようなもどかしさで 岸に戻ろうとする頃には 慣れているはずの泳ぎが 少しばかりぎこちない 浜に上がったぼくはそのまま海を見ていた ときどき風が吹いてくると正直冷たい   それでも日差しは強く 砂は暖かく こんな日には蟹やらが 何を探しているんだい などと云いにくるだろう そうしたらぼくは 何を探しているのかを知りたいんだ と答えるしかない どこぞのドラマで 海に投げられた指輪を探すような そんな単純なものであって欲しくはなかったから 同じように どこぞの小説で 手紙の入った瓶をそっと流すような そんなロマンの追求には辟易していたから だからぼくは 暇になると海で泳ぐけれども  浜に上がるとそのまま寝てしまう ぼくはいつも思う 馬鹿は風邪を引くんだって 夏という季節にも 雲は流れていてくれるんだな ぼくは青に囲まれて そこらの音を聞いていた 不規則なはずの音たちはいつしか旋律になって ぼくの体を満たすのだ  孤島という身の哀しさで奏でられるそれは既にエレジア ―― 歌だった もしかしたらすごく音痴だったかもしれないけれど 僕は嫌いじゃない 決して 嫌いじゃない ひとりぼっちのヒト同士なら もしかしたら親友になれるかもしれない なんてことを漠然と考えながら 明日の学校の宿題にちょっとずつ苛まれながら 僕はうつ伏せになって 結局 砂と接吻した 裸をあたためようとして 口づけたそれは  しょっぱくて なにより 苦いのだ ヒトのだったら 甘かっただろうか ―そんな思いに 傾きながら 体 意識 やわらかく溶けていく ---------------------------- [自由詩]心中・焦/輪橋 秀綺[2007年10月20日22時28分] くちびるが恋しい あなたの くつろいだときの 醜く ゆるんだ 肉 に まんまと隠れたつもりでいる あの ぬるい 感触 が こんなにもつめたく つまらなく なってしまいました それでも なめたい あなたを 記憶ごと まるごと 全て吸い込みたい そして  嚥下して あなたを 強く感じ取りたい  感情が 私を小刻みに震わせる/ 私は舌を出す 硬直したあなたを咀嚼する様に眺める 冷たい皮膚へゆっくりと着地する と 私の舌は味覚して あなたは酷く臭う 誰も見ていないまま  長く 重い 時間だけがゆれる 部屋 (私の内側で 私たちは やわらかく かたくなに 溶け合う) もうすぐ私たちはいなくなるでしょう あまりにも近づきすぎて 反発して 完全なさびしさを映し出すでしょう 対照して   途方もなく うつくしく         …… ---------------------------- [自由詩]ubiquitous/輪橋 秀綺[2008年10月2日22時37分] (ひらかれる瞳) どこまでも 森の緑 どこまでも 炎の赤 どこまでも 海の青 どこまでも 夜の黒 (とざされる瞳) いつまでも 果実の甘さ いつまでも 火の温もり いつまでも 潮の豊かさ いつまでも 闇の静けさ 溶けていく 記憶 私達の息となって 流れていく 願い 私達の涙となって ―黙示する― ---------------------------- [自由詩]銀幕-Ai-/輪橋 秀綺[2009年1月12日16時25分]   眼球に飛来する無数の光 無邪気さの中に像を結ぶ こちらには穏やかな水面 あちらには慟哭する水面 あちらで光が瞬いている 少年はそれを喜ぶだろう しかしそれは死なのだ 彼の目には見えなくても ここにあるのは 鮮やかな銀幕 それは本当のリアルを映さない リアルはどこにあるのだろうか もしあるとするならば 我思う 決して眼を背けられないように 無邪気なその獣の眼をかっ開き あちらにいる彼や彼女の悲哀を それらの感情の華々しき最後を 描き出すことは出来ないものか 悲哀が昇華して星になる 死が昇華して流星になる 銃撃より人叫ばせるうたで 星たちは美しく輝き続ける あちらに光が流れていく 少年はそれを喜ぶだろう しかしそれは死なのだ 彼の眼には届かなくても 光の向こうに星がある 星の向こうに記憶がある 記憶のなかに人がいる 人のあいだに物語がある それを描くことは出来ないものか それを映すことは出来ないものか ---------------------------- [自由詩]幸せ/輪橋 秀綺[2011年9月29日22時52分] あんなにも青い海に向かってきみは 何度もくりかえし名前を呼ぶ! けれども 海は応えない ただ 潮鳴りが満ちていくだけ そんなにも青い石に向かってきみは 何度もくりかえし物語を語る! けれども 石は応えない ただ 形を保っているだけ あんなにも青い空に向かってきみは 何度もくりかえし歌をうたう! けれども 空は応えない ただ 雲の群れが去っていくだけ そんなにも青い絵に向かってきみは 何度もくりかえし話しかける! けれども 絵は応えない ただ 明かりに映えているだけ 黙っている景色たちに囲まれて きみは自分に問いかける けれども きみは応えない ただ 目をつむって黙っているだけ ---------------------------- (ファイルの終わり)