草野春心 2018年12月29日14時21分から2021年9月16日23時41分まで ---------------------------- [自由詩]烏瓜 7/草野春心[2018年12月29日14時21分]   割れた幾何学が   積み上がっていく夕   雨のような寂しさを身にまとうひと   抽斗は   開けられることはないのだろう ---------------------------- [自由詩]edge/草野春心[2019年1月25日23時09分]   滑らかで硬かった   あの日、きみからの言葉は   剃り残しの髭みたいな   滑稽を 愛と呼んで   非常に申し訳ない   悲しさよりも   ひらったい暴力を探す   さよならと云えば済むわけじゃないから ---------------------------- [自由詩]吐気/草野春心[2019年3月27日20時43分]   吐気がして   ねむっていると   あおい空がみえた   わたしたちは睦み合いつつ   観念の ふやけた泥団子に成り果てていたが   憎しみながら ねむっていると   吐気がして   ねむっていると ---------------------------- [自由詩]置換/草野春心[2019年3月27日20時44分]   並び替えた語らが   愛想笑いをしている   竹林   空腹の蛇だった   噛まれた耳だった   おりていく夕闇だった   感じられる前の淋しさだった ---------------------------- [自由詩]たばこ/草野春心[2019年3月27日20時45分]   煙草をすって   悲しんでた   きみの唇と   わからない思い   花の葉は にごり、   ふっていた雨はやみ……   永遠に   さびしいだけなんだって   きみに ぼくは つたえたかったのかな ---------------------------- [自由詩]眩しさ/草野春心[2019年5月5日20時39分]   朝の小石のなかで   眩しい河をみている   春初めの木々 幾つかの色が   わたしの心にさらされる   わたしの心は さらされる   凄いものを ずっと みている ---------------------------- [自由詩]天国/草野春心[2019年5月5日20時47分]   まるい   光のとかげ   うしろから頸を締めた   深い 叫びのつぶて   むかしのきみの幻に   許してほしいと上目を遣った   とっくに許されているくせに   立ちどまるふりをして   終わってしまった木々の   かげを 僕はあるいていく   潮風がきみの夢をみせつづける   とっくに 許しているふりをして ---------------------------- [自由詩]穴/草野春心[2019年5月5日20時54分]   錐ひとつ   モダン   モノノアハレノナガレ   錐、しずむ 漕ぐ   水銀的ウッドベース   水銀的ウッドベース   水銀的ウッドベース   刻は 刻を えがいていく    ---------------------------- [自由詩]Alternative/草野春心[2019年5月10日23時54分]   想うと、   その部分はくりぬかれた   むこうからくる   むこうへとゆく   ひかり色のくらやみ   はねかえる 音韻的船旅   オニヤンマたち むこうからくる   毒くらげたち むこうへとゆく   想うと、段階的に、ぼくは、   さびしさを得、   毀された   想うと…… ---------------------------- [自由詩]瓦/草野春心[2019年5月11日0時01分]   昼過ぎまで 魂をみていた   ローソンに車を停めて   海辺の商店街で   わたしに友達はもういなかった   腐った犬などがわたしの腕だった   わたしの歯が彼らの瞳だった   言葉のかわりであるかのような一枚の瓦   愛していた者の顔を思い出せないということ   照明 ---------------------------- [自由詩]侵入者/草野春心[2019年5月18日10時43分]   桃を食べていた   指で口をぬぐった   戸が開いて何かがわたしにふれる   液状の 概念じみた何かがわたしにふれる   死んだ後もそこに在るとされるものだ   それは 戸を開けてはいってきた   一介の侵入者にすぎないのだが ---------------------------- [自由詩]海からの光/草野春心[2019年7月21日11時43分]   あの時のきみがずっと   ぼくの傍でねむっている   少しだけ、雨の匂いをさせて   笑いながら喋りつづけた   言葉はむなしい闇にのまれた   若く優しいだけでいられた   ほんの束の間   みえない汽船に揺られていく   記憶のなかで 何度もぼくは振りむく   海からの光がきみの頬ではじける ---------------------------- [自由詩]ねじれた袋/草野春心[2019年12月21日18時53分]   躰のほとんどを   ねじれた袋におさめて   わたしたちは泣いていたね   はんぶん透けて   はんぶん凝ったような   美しさ 見えかけの 東京の月 ---------------------------- [自由詩]Resemble/草野春心[2019年12月21日18時56分]   話は長くなる   いくつか 電灯が浮きはじめる   夜 ためらいと苛立ちが覆っている   東京   思考のなかの   昇降するものをもたぬ   階段   道化師 指を剥いていく   かたちの あかい闇に   かくされた 指をいれる   ナイフ あおい犬は吠える   裂け目のうちへ もう一度でも   願う 戻ることができれば    雪のうえを歩くように    雨水を服がはじくように    ふと 思いついたことばを    書き留めるように わたしは    あの頃 あなたを愛していたが    今はあなたを愛するように    雑誌を読み たばこを吸って    素っ気なく考える   おお メタファー   わたしは 持つ線を引くだけだ   笑う おお メタファー   気がかわっているだけなのだ   Resemble   やがて   ふたたび   おなじような   くちびるのうごくゆめをみる    ---------------------------- [自由詩]奇蹟/草野春心[2019年12月21日18時57分]   煩い町に   ふれて   僕は 意味のまえにいた   夕がた   本をよんで   考えることを考えて   きみの眼を 思う   押しつぶした 光が   なんどもまるくちらばる   ぼくだけの眼を 思う   奇蹟だったのかもしれない   きみと会って 朝も晩も話をした   すべての 思い出せない言葉たちは ---------------------------- [自由詩]泥水/草野春心[2020年1月18日21時02分]   ばかげた   世のなかが晴れていた   ことばが ぼくの目のなかで   すばやく動いて よくは見えない   たいくつな愛のように夜がきてほしい   あなたの胸にいつしか溜まった   やわらかい泥みずに   脚をとられたい ---------------------------- [自由詩]舐める/草野春心[2020年1月18日21時04分]   熱を舐める   終電すぎ 汗のすべりが   愛の五月蝿さをおしえてくれる   置いていった本のように心が   かなしくひかる   こんなにも   あなたの ---------------------------- [自由詩]波間へ/草野春心[2020年1月26日23時22分]   波間で   花びらを   持とうとする   すごい 忘却の速さで   水のように   貴方の部屋にいた   そのことのすべてを   分かろうとするけれど   とても 悲しいだけだった ---------------------------- [自由詩]恋人たち/草野春心[2020年2月16日19時49分]   恋人たちは   ひと夜きりの雨だれ   むなしいヘッド・ライト   路上で きたない髭の男が   犬のように愛をうたっている   さわがしい言葉と いつか記憶に   変わっていく忘却を   胸に抱いて   東京の朝を目ざめる   恋人たちは ひと夜きりの   雨だれ 闇のなかの 光 ---------------------------- [自由詩]Blues/草野春心[2020年2月16日19時50分]   せまい   ことばをつなげた   愛らしきものの   馬鹿らしきものの   井の頭公園   きみからの   電話だけまっていた   かなしさの   退屈しのぎの   富士見台学生寮   くらい春   落ち葉ひかる川辺   息をきらし走っていた   花びらがひらく   空がこぼれる   きみの涙 ---------------------------- [自由詩]都市について/草野春心[2020年2月16日19時51分]   東京   透けた卵管が   標識のたかさに浮いて   われらを 孕もうとする   香港   銃声のようにみじかく   中毒のようにながい   発狂が四角に建つ   記憶   ことばのなかで   かたりなおそうとされる   醒め果てた幻想 ---------------------------- [自由詩]菜の花/草野春心[2020年5月17日10時50分]  菜の花を食べて  咳きこんだ  あの日の熱は  そのあたりに置いてある  曇り硝子  ロー・テーブル  けれども 一体どこなのだろう  ぼくはきみを見たことがある  こころだけの潮騒 ---------------------------- [自由詩]酔客/草野春心[2020年5月26日17時14分]   擦られた マッチ   よる 路地のしかくい   たくさんの 白い足もと   物がたる言葉が   網膜に掛かる   引き攣れる   句読点 ---------------------------- [自由詩]あの時の光/草野春心[2020年5月26日17時16分]   波が   たちあらわれる   形たちが 昏ませる   黄色いセーターの   喜劇的なふくらみ   勇敢な笑い   あの時の光   花弁がひらくように   ゆっくりとみえなくなった ---------------------------- [自由詩]シルエット/草野春心[2020年6月12日21時14分]   夕方になる   しずかになる   水をのむ   みえているものを   いま 思い出している   喉の奥で きれぎれに疼く   石のシルエット   それは 似ている   それは 違う   こぼれて   おぼれて   かなしみのうえにかさなる   ぼくの居ないところで   水をのむ ---------------------------- [自由詩]馬たち/草野春心[2021年3月7日22時54分]   瞳からのぞくと   馬たちが みえた   日が薄ぼやけ   あたりは冷えて   草の においだけが   ほそながくかがやいていき   わたしたちの   愛はきえた   ただ みていた   馬たちは いま来たばかりのように   すごくきれいだった ---------------------------- [自由詩]蛇/草野春心[2021年3月7日22時57分]   見えないが それは   熱の蛇が 這っているのだ   かんぜんな 石を湿らせ   なにもかもが黙る      熱の蛇が   這っていくのが見えない   街はいつも 叫んでいるが   夫婦たちはいつも 舌を挿れあうが      動悸が   膨らんだからだを透けて   大きな 暗渠をくずしていく   ヴァイブレーションを編みあげていく   まあ それも 見えはしないが ---------------------------- [自由詩]ある隠喩/草野春心[2021年9月16日23時38分]   青空はずっと振るえている   時が かげになって路にこぼれてくる   壁のうえにそっと 黒い木が枝葉を撒く   思うということ   街にいくつも街を重ねていくこと   あなたと はじめて手を繋いだ夕暮れ   胸の軋みは何処からかやってきてほどけた ---------------------------- [自由詩]格子/草野春心[2021年9月16日23時40分]   順々に   液状の名詞が   格子に垂れてしたたる   世界のおおよその大きさが   張られている 複数の 頭蓋   額縁にぶつかり 欠けてしまった   顔のような 意味 ---------------------------- [自由詩]章魚/草野春心[2021年9月16日23時41分]   章魚の 小道に   イデアの 紙吹雪く   わたしは歯   あなたは顎   おおいかぶさる   ぬるい 数   おそい 雪   わたしは峠   あなたは蹄   云われるまえの謂が   みえる 気のする   ふるさと ---------------------------- (ファイルの終わり)