Rin K 2007年7月8日1時12分から2015年7月8日23時18分まで ---------------------------- [短歌]ごしきの短冊/Rin K[2007年7月8日1時12分] 短冊の白まぶしくて愛の字を書けないままに無地で結んだ 黄色がいい君が選んだ一枚は願いじゃなくて歌をつづろう 霧雨に耐える紙縒(こより)が話さない青の祈りは「海にあいたい」 さらさらと揺れるささのは赤が映え垣間見えるは約束の言 君という星包み込む生命でいたいから僕はみどりを選ぶ ---------------------------- [短歌]あやめも知らぬ恋の道     ■古語の宴参加作品■/Rin K[2007年7月14日19時27分] あやめ草あやに恋しき君なれば   夢も染むらむ花むらさきは 名にし負はば紫野辺の夕やみや   見せようつつに千代の面影 ときじくの花にはあらで露の花   ただ思ひわぶ明日はありやと あやめ草あやにかなしき恋なれど   枯れし命を置きてゆかばや ---------------------------- [自由詩]雨やみを待っている、僕ら/Rin K[2007年7月16日21時51分] 汚れた雨が蹂躙する街角で 傷をかばいあうために手を繋ぐ 傘を持たない日だけ、どうしようもなく 君の手があたたかくて 切れた指先が痛みを増した 僕の手は どんな温度で君に 伝わっているのだろう 問うこともできず 告げられることもないまま 街はいっそう暗みを帯びる 行き場をなくして アスファルトにたまり始めた、雨に 僕は遠い夏の青空を映してみる あれは、そう 海岸通りの空 駆け出したばかりの夏の日 目の前に浮かぶ小さな 名もなき島を、君は 楽園と呼んだ 海の色が滲んで、あわい 水色の海岸線は どこから始まってどこで終わるのか なんとなくそんな話をしたね まるで僕らの毎日のような海岸線の話を      疾走する風が、弾ける           飛沫は今も虹色で たよりないサーフボードで 楽園にたどり着けるはずもないと 知っていながら 海に浮かんでふたり、なにをしたっけ 僕は、鮮やかに覚えている いつの間にか 青い水面は ありのままのグレーをさらして 君も、じっとそれを見つめていた 君の瞳は どんな色の水たまりを とらえているのだろう 告げられることもなく 問うこともなく 痛む手を繋いだまま 黙って、それでも寄り添って 雨やみを待っている、僕ら ただ、あてもなく――― ---------------------------- [短歌]■共同作品■楽園で抱いた星の名は・/Rin K[2007年7月18日23時04分] ・・ 「プロローグ・夏」 風が吹く渚できみと見たものは プロローグ「夏」シャインドリーム 楽園と示す標は傾いて君へとむかう(アイタイキモチ) 駆け抜けろ渚通りはこのさきも高波あびて続くフリー・ウェイ 戸惑いはいらない夏の炎天下光に酔った勢いのまま 太陽と雨にパッション透かすシャツ 本音が見えた夏の誘惑 瑠璃色のラムネの瓶ほら太陽に透かして見れば海が聴こえる 君がはねた飛沫が描く軌跡なら虹に見えます夢のかけはし 永遠にかわらぬ青を手に入れてその唇で封印をする 白砂と戯れている置き去りの恋のカケラの桜貝たち 波の音にふっと体が傾いてココロ預けた君の名は夏 「遠雷」 鈍色のキモチは夜の梅雨の空雲に己を投げ出して泣く 嵐来よ吹き飛ばせ磨け大掃除太陽に会うためなら濡れよう 「沈黙のオアシス」 オアシスを隠すサハラの砂光り さらさらさらりパラパラパラリ ひとしれず茉莉花(ジャスミン)の香は寄り添いて微風と一緒にひと足遅れ 沈黙を絆と思う海辺にて結ぶなみだにとける月光 ふるえる手握っているよ止まるまでちいさな鼓動の数よみながら 「夢ヶ浜」 願い星いっそさらってその胸につよき思いに輝石は降りる 夢ヶ浜足跡たどり行き着いた 眩い星の雨が降る中へ 君がため星を拾いに夢ヶ浜砂はあの日の熱だいたまま 暮れかかる想いを記憶の海原に溶かして沈む楽園の影 ---------------------------- [自由詩]■共同連詩■         六時間目のモノローグ 〜はいすくーる白書〜/Rin K[2007年7月20日0時22分] チャイムまでゆっくり刻め次の一秒    授業の合間ふたりだけの輪・・・kaz 時の音に掻かれた誰かの声がして    指で秒針すすめて笑う・・・issey      数学より難しいのかもしれないが   あきらめるもんか君のこころ解く・・・kaz 制服のリボンをほどく指先で   解いてこころはいずこになびく・・・issey    *    *    * 前編?「僕は数学がニガテだ」・・・ issey あのコの言葉、だけでいいから 一粒のこらず集めたくて 夏の風、を聴くふりで 少しだけ窓際に傾いてみる 素通りする、友の話  ふざけあう視線 机の上に、飾りのように広げた教科書 意識を僕に戻したら なんとなくページがめくれないように 押さえていた指先の下で せき止められていた放物線、が やっとの思いで息を継ぐ そう、僕は数学がニガテだ あいつの声が わずかに大きくなった気がした そのことでもなく 僕でもなく あて先定めず噴出てしまった ため息笑い に、あのコがこっそり気がついて 振り向いてくれたら、なんて 憧れる 諦める そこには式は成り立たず また「解なし」のままで 今日も流れてゆくのだろう ああ、やっぱり僕は 数学がニガテだ 前編?「イコールにならない不等式」 ・・・kaz 僕だけを見つめて欲しくて おどけてみたり 大袈裟な手振りをしたり 君のこころが式となるなら すべての知恵を集めて 割り切れる答えを出すだろう イコールにならない不等式 それは二人の気持ちのバランス お互い支え合うものならば どんな式でも 最後は1になるはずさ だけど電池が切れたような 電卓の数字にならない気持ちが 問題をさらに難しくして ああ もっと 賢くなりたい 君があいつを見た瞬間 その一瞬が許せなくても つられてあいつを見てしまうだけ 君のこころは何処を見つめてるの? 中編? 「紙ひこーきになって」・・・ kaz 君に接近できるのは あくまでも距離だけであって 決して気持ちが近づいているわけでなく 君の彼氏になりたいっていう願いは どう振る舞うことで叶うものなのか 君への気持ちを綴ったルーズリーフ 綴った分重ねることができても 僕しか知らないことならば 書き留めておく必要も無いような 自然な形で届けられたらいいな 話があるって切り出すのは僕らしく思えなくて 紙ひこーきになって 君のところまで飛んでくれないかな あおぞらに描く言い出せない言葉 地球より重い 気持ちはブルーに 中篇? 「僕の、」・・・issey 放課後に向かって わずかに伸びをした、君と 視線が交錯する 思わずカタン、と鳴った椅子の 音の理由をまだ知らなかったころなら どうしていただろう 記憶を過去へと移項しても 書き方なんて忘れてしまった、手紙 便箋はノートの切れ端だから 多分、こんな感じ  今日は遠回りしたいから  一緒に帰ってみませんか レトロな手段だから新鮮 ありきたりな文句だから印象的 、きっと 君のうなじを掠めたそれは そう、風じゃない 蝶でもない あおぞら にも似た視線で 少年に還ってしまった僕の、の    *    *      * 後編「うわの、空」 ・・・Rin 窓から空を見上げれば ちきゅう、が 確かに存在することが かみしめられる ちきゅう、と ほら かみしめて 口いっぱいに青が広がって 海の匂いがする ねえ、さっき 私たち どんな話をしてたっけ 思い出せなくても また同じことをいいあって 笑えればいい ねえ きのう 風のように若葉を連れ去ったひとを 思い出せなくなっても また季節の裏側で 笑えるのかな どこからか飛んできた 小さな紙屑は 軽い音をたてて ちきゅう に 吸い寄せられてゆく いつかどこかで開かれる夢でも見ているようで なんだか、ね ---------------------------- [自由詩]伝えるすべなんてないから/Rin K[2007年7月20日1時22分] 楽しいときほど 思い出してしまうのは あなたと過ごした夏が、きっと あまりにも輝きすぎていたから あいたい、と そんなき持ちに自分の笑い声で気がついた だって二年前、あなたと 重ねあった声にとても似ていたから 寂しいときほど あなたを呼び続けたのは わたしの失われた影は、きっと あなただと信じていたから あいたい、と 言ってもすぐに叶わないことに 気がつかなくて、だから泣いてばかりいた でもそれは、ふたりとも同じだったはずだよね 最後の日にさ、忘れて行ったでしょう 白いシャツ 洗ってもとれないのは あなたを流れていた潮の匂い そういえば貸したままになっていたけど 返さなくていいよ、麦わら帽子 わたしには大きすぎて 前が見えなかったから シャツもこんな夢も メアドだってそう、 あなたにとっては終わったものだから わたしだって意味をなくしてしまいたい なのにひとつだって捨てられないまま わたしはいまでもここで下手ながらにも生きていて あなたがそんなこと、知ろうとしなくなっていたとしても わたしの世界からはまだ、海は逃げ出していない あれがあなたのすべてで これがわたしのすべてなら 季節のようにまた、 こんな日々を繰り返してしまうかもしれない それでも、いつかここで再び出逢って もう一度胸がときめいて 強がりもなしで カッコつけもなしで もう一度好きだと言えたらいいなんて なんて思うのはさようならを 昨日の夢でも言いそびれてしまったから もういいよ 伝えるすべなんてないから 何度でも言えるよ サヨナラじゃあねバイバイ さようなら 海のように冷たいひと さようなら 言葉があまり得意ではなかったよね さようなら 白砂のように柔らかいひと さようなら、わたしが生まれた夏のように 愛したひと  愛して、いました ---------------------------- [自由詩]40ページの手帳日記/Rin K[2007年7月22日18時36分] アイタイキモチを結句に 歌えるようになったとき 恋が始まるのだと誰が言ったのだろう 2002年5月8日 あなたは今、幸せですか リフレインしてやまない君の問いかけに 若葉が答えた 青空 2002年5月17日 ヴィーナスブリッジで南京錠をかける行為と 抱きしめることは同じではない カチッとなにかがかみ合う音だけが 唯一同じだと確かめて知る 2002年5月29日 メールアドレスに昨日の日付を入れる 変えるときは君を忘れるとき 別れを意識して付き合うのは 君で最後にする 2002年5月30日 展望台の望遠鏡から アンタレスが見えたと君は言う そんなばかなこと、だって あるかもしれない 2002年7月21日 夏の切符は汗まみれで夢を見た 遅れた時計を砂中でなくした 君は、海にだけは笑って抱かれる 2002年8月4日 雨やみを待つ 心の形を伝えるすべなんてない それでも守ることで伝わるのは、震え 2003年6月7日 静寂からもの憂き雨が貫けど 破れる夢もない熱帯夜 2003年8月1日 交わらない水平線の理由を考えてみた 大事な約束を忘れたことを謝っておきながら 君の嘘だけが許せない理由も 僕らが出会った理由も 2003年8月22日 大切なものに順位をつけるなら、すべてが 1 1 1 宝箱はオルゴール 調べは苺愛歌 ハッピーバースデイ 2003年11月1日 夜の飛行場で拾った翼を 閉じ込めたロッカーは8864 番号は思い出したのに つけ忘れた日記の日付がでてこない 多分2004年2月4日 雪とバニラと僕らの四角関係 とりあえず、描いてみたら まるかった 2004年2月7日 ささめゆきは切れたのに 電話は切れなかった 話せば話すほど遠ざかる夜もある 2004年3月5日 あれもイヤだしこれもしたくない そんなことはたやすく言えるのに じゃあ何がしたいのってきかれたら 答えられなかった 2004年3月8日 月が車窓に映って二枚にずれた 僕もいつか 影とずれてしまうのかもしれない 2004年4月1日 初めて目の前で君の なみだのつぼみが咲いた うれしいような うれしくないような 2005年9月10日 今日はどこへ行こうかと 適当に切符を買ったら やっぱり行き先は表示されていなかった だからどこへでも行けたんだ 2005年9月19日 生まれ変わりとかは信じていない でも生きなおすことはできるのかな 2005年10月23日 ぬくもりは白い いつわりも白い きっとこれがラスト・スノー 今日は朝に眠った 2006年2月26日 如月駅で君を見送った 通過する電車に隠れた姿を ずっと探している ---------------------------- [短歌]「サファイアン・サマー」/Rin K[2007年7月25日7時29分] 標識は海それだけを手がかりにギアはトップで夏風疾走(サマーラナウェイ) かざなぎでアクアスカイに叫ぶとき見えていたんだ白きクラック 無人駅いつから来ない夢列車ココナツの浜にむせている間に いつだって波が聴けるとスパイラルシェルをかざして歌う少年 常夏のココロはいつも大洋を駆けて繋げるふたつのブルー 抱きしめてやりなひと夜の星砂のララバイを弾くその鋭角を オヤスミとサヨナラの数だけ星が降れば祈りはきっと輝く オーシャンビュー抜ける記憶の行き先は知らないけれど続く海岸 ---------------------------- [短歌]■共同作品■ スペース・オペラ/Rin K[2007年7月30日20時36分] 「さざなぐ海へ」 Runaku Masaki* Zakuroishi* Fujko*Rin Kazanagi 蒼低く岸辺に寄せる夜想曲(ノクターン)傷みをけして、染める砂浜 夜の風を君の代わりに引き連れて走る渚にひびくヴィオロン 哀しみの蒼き響きの後奏をそれはさざめきながら受け取る 「Repression ×××Freedom」 Runaku Masaki*Zakuroishi* Sota Aizawa*Issey Azusa 水龍よ水のはじめを知る者よ 昇れ天には終わりなどない メビウスの2周目実は別の空 僕とはぐれた影が飛翔(はばた)く 標識にfreeと殴り書きをして その下でがらくたを広げて座る 「スペース・オペラ」 Sota Aizawa☆Runaku Masaki ☆Kyosuke Kitaooji ☆Musako☆Zakuroishi ☆Rin Kazanagi ☆Issey Azusa 朝食は茄子の塩揉み針生姜 金星行きのシャトルで目覚め 鍵は夢。夜空のトレジャーボックスに 納めた翼取り出すための 銀河なら泳げるさかなこの星の ロケットに乗り見てみたきもの アルタイル飛び込む銀河の飛沫逸れ 弾(はじ)く竪琴奇跡の序曲 白鳥の流す涙かアルビレオ 気がつくだろか二重の滴 地平にはサソリの巻き尾いたずらに 僕の宵刺す赤黒い毒 夜を込めて撃ち抜く胸の赤き星 銃声(そらね)ははるか止まぬ海鳴り 静寂に紛れ夜を脱ぐ東雲に 声なく色を分く青い鳥 ---------------------------- [自由詩]眠れない朝に /Rin K[2007年8月5日9時15分] 眠れない朝にあなたを思う 夜を通り抜けて 窓越しに出逢うあさやけは そこはかとなくかなしい あなたを抱きしめるだけの日々に 空で時を知ろうとしなかったから この部屋の窓には夕映えの記憶しかない 向かいのビルの反射ガラスを 円くくり抜いていた夕陽 気ぜわしい街角 またね、の声に混じる警鐘 ラムネの空き瓶はひび割れたまま どこかの家からもれる甘く生きたにおい 杏色に沈む交差点 赤信号を溶かす背景 遠くで鳴る低いラジオの音が いつもさざなみのように心を掻いた 夕陽は故郷に、母の胸に、あの日にさえも 立ち帰りたくさせるから涙声になるのだ と まだ許しあえる程のふたりの隙間を あなたはありふれた言葉で埋めようとした 切ない記憶は朱色の空にだけしかなかったから 僕は生まれて初めて あさやけに泣いた 眠れない朝にあなたを思う 腕を緩めても逃げることのないぬくもりの形 あなたのやわらかさの一部始終の輪郭を 確かめているうちに空は紫を脱ぐ 窓越しに 夜を通り抜けて出逢ったあさやけは 夕映えより息苦しくて あなたを、恋しくする ---------------------------- [自由詩]スクイグル交錯点(こうさてん)*コンクリートリゾート/Rin K[2007年8月17日23時07分]   「コンクリート・リゾート」 最後に僕がここに立った日 それはきっと、セピアンブルーの日 変わったものといえば 角のコンビニエンスストアの名前くらいで もしかしたらもっと他にあるのかも知れないけれど 少しも思い出せやしない、堀川通りの交差点 僕らの日常は いつだってここから半径100メートル けれどもその中には 目まぐるしい不思議があった 郵便配達のお兄さんは雨の日だけ親切で 百合の花のようなお姉さんは一人で映画館に入ってゆく 晴れた空は楽しげにキラキラしているのに すれ違ったおじいさんの目には涙が浮かんでいて 交通整理のおじさんの笑顔は あたたかい「おかえり」に およそ不似合いなほど歪んでいた 交錯する感情を 夕陽の赤信号にてをあげて眺めていた、僕ら 知らぬ間に外側ばかりが大きくなって 点滅する信号を振り切ろうとするたびに 飛び出てしまいそうになる僕を 僕という糸で縛り付けながら 今日は午後八時の南へ向けて疾走する   「スクイグル交錯点」 コンクリート・リゾート 夕立の打ち水に あまりにも精密に縮まった 楽園 僕らを閉じ込める それはフルサト、とも呼ばれるヤツなのかも知れない がらくたを無造作に並べるように 狭い世界はたやすく造れるような気がして けれどそこに息づく人々は きっと誰も誰かの思い通りにこの世界には生きないから 逃げ出せないんだ、僕も 誰かの思い通りに生きなくていいから 僕の思い通りにも生きられないのに アスファルトの 反射熱、そういえば今日は真夏 交差点、ここは 砂の上には描けない白墨で 隣のだれか、が残した他愛ない殴り書き(スクイグル)、 にすぎないのかも知れない   「グラスの殻」 ガラスケースの部屋の中で 夏の方向は南だと 君が教えてくれた理由は知らない あの日交差点で眺めていた それぞれの理由(ワケ)、のように そしてこの部屋が どちら向きに造られるつもりだったのか も 白墨で描くスクイグル交錯点、 のようにでたらめに もしかしたら砕けそうな 二つの手で結ぶ、僕らのクロス セピアンブルーの夕空に沈む どこかしら懐かしい交差点 の 行き交う思いに似た何か が交錯して相変わらず それら全ての意味すらつかみとれないまま ぼくらはこれから先も このままだと信じている    * 夕陽の赤信号を振り切って 今日は午後八時の南へ向けて疾走する ---------------------------- [自由詩]「フロンティア・ブルー」/Rin K[2007年9月1日23時27分] 月の瞳に 海が映るのか 海の鏡に 月が潤むのか 旅立ちはいつだって こんな夜の、ブルー マストを背にした ひとつひとつの心に 青はなにを 語りかけるのだろう 「海賊賛歌 一番)」                      海の宇宙じゃこの船も 群れを離れた星屑だ 風に任せて生かされる 僕らにカタチはあるものか それでも僕らは海賊さ この世にないものなんてない あったとすればそれはまだ 見つけていない宝島             〜エヴァー・ブルー〜   「冒険者の証言」 羅針盤など とうの昔に行方不明だ きっと金時計と間違えて うさぎが不思議の国に持ち帰ったんだよ    * 昨夜酔って甲板で寝ていた なんとなく向かい合った明け方の空は 地図だった たしかに、地図だったんだ ポケットを探ってペンを抜き取った、はずが それは砂時計で オレンジの、砂時計で    * 桟橋にあいつを残して 船を出したのは、僕 でもそのときからすでに この船には歌声しかありませんでした    * アルビレオだったか アルタイルだったか それともデネヴだったか デジャヴだったか たくさんありすぎて この宝箱を見つけた島の名前は忘れた けれど中身は忘れない、きっと あれはメトロノーム    * 地球がまるい さあ、信じてはいないね しかし海と空は繋がっていると この耳で確かに聞いた スカイオーシャン だからここにいるんだ、僕ら 「航海日記」 手探りでコインを挟んでおいた日記帳のページが ついに今日を示した 白紙の未来に何度も練習した さよならの試し書きが ひもとけて 溢れ出して 宇宙にもう一つ 海が増えた やがてはヒトの身体に潜む海と つながってゆくのだろう   呼ばれているな         青に――― ---------------------------- [短歌]■共同作品■ 刺青/Rin K[2007年9月6日1時38分] 闇、叫び、月、銀、狼、爪の痕ほとばしる血は昴の花弁 月を噛むアカイ目眩に舞いくるう鴉揚羽の鳴り止まぬ翅音(はね) 雷(イカヅチ)の刺さる。蒼きは明星の息遣い。眠れぬ輪郭、光り 三日月とハープシコードの金色に震えるプレクトラムは涙 文字盤から剥がれては降る無の牙が二の腕に彫るカオスの墨絵 ---------------------------- [自由詩]せせらぎ/Rin K[2007年9月11日1時09分]    かそけき風の香音(かのん)を連れて    秋宵の橋を渡る    あふれる水の数を    わたしはしらない    契る言葉の薄紙    序(ついで)を忘れた指先で鶴を折る    低い月は    水面を漂う    せせらぎに耳を澄ます装いで    あなたの赤き流れを聴く    試すように    途切れる日の痛みを    ただ試すように ---------------------------- [短歌]■共同作品■ 世界名作劇場/Rin K[2007年9月15日22時10分] ■「三銃士007」■ 声をあげ まだ温かいリボルバー君がためならロシアンもやる 〜ダルタニアン〜 トリガーを引ききる時の痛みさえ分かたぬおまえの傷に刺すキス 銃声は闇の遠吠え泣き叫ぶ 己の弱さを知ってくれるな 〜アトス〜 バリケード撃ったココロの引き金は指に喰いこむスティール・ブルー 〜アラミス〜 きみ知るや我の向けたる銃口は明日を飛び越え未来を見てる 〜ポルトス〜   身を潜めかわすシルバーレインの弾セフティ・ロックを外し見つめる   足を止める。風の呼吸は激しくて揺れる標的、狂う照準   スライドのコールドブルーに映る翳夜霧を裂いた雷鳴の華   ヒビ割れたサイドミラーに硝煙が前だけを見て踏み込むペダル ■「恋の若草物語」■ 春風の行方占う花びらは 「キライ」はなくて「スキ」と「キス」だけ セロを抱え閉じた目の中咲く花の絡む紫苑は夕闇の弦 〜マーガレット〜 今年こそ読んでおきたい本がある未読の山を背に呟いた 綴じ込めた間に挟む微笑みは百年隔てた恋人のため 〜ジョゼフィン〜 夕暮れがショパンの調べつれてきて 秘めて放てぬ思いとそよぐ 連弾の鍵盤の上の長い指絡まぬ技が悲しくもあり 〜ベッキー〜 カンヴァスは光に抜かれた夏の空目を細めて見るパレット青く かりそめの秋の白地に描くのは 君の名に似た赤い実の夢 〜エイミー〜 ■「十五少年drift records」■ うねる波 向かい風胸を貫いて一気に流れ込むカタルシス 星が消ゆ空も時間も零となり また始めから組みなおす自我 見つかるさ世界の果ての向こう側タイマツの火と歌は絶やさず 目をつむり心で見つめるホライゾン目掛けて流す瓶詰めのメモリー 大洋を隔てて結ぶ絆には永久(とわ)に賛歌の声が重なる ■「赤毛のアン〜卒業〜」■ ぬくもりの足跡たどり振り向けば 不意に胸の奥刺すノスタルジア   いとしさは指でつまめるイチゴの実   夢をほおばるハッピーバースデイ   あの星を胸にしのばせ泣いていた   いつも笑顔の私の本音   口付けに咲く散る舞う舞うほら桜   触れてごらんよ淡色の夢 思い出だけ重ね着をして北へ発つ 白い世界で吾を見つけに ---------------------------- [自由詩]夕立の語源/Rin K[2007年9月17日1時33分] 切符を握った手が濡れてきたから てのひらを上に向けて解放してやった そうしたら切符は川になって 行き先はすっかり見えなくなっていた 川は 僕だけが感じる速度で流れ 薬指、から滝のように こぼれて ただ、声もなく落ちて 買ったばかりのブーツのつま先に たったひとりだけのみずたまりが で きた また、コスモスが咲く 乗っていた電車の終点が いつの間にか現在地になって 僕は、幸せを語ることよりも 雨の音が好きだという君と 車窓に残った流星の 帯状キセキを辿りながら 午後の陽射しに揺れて、まどろむ 夕立の語源は、いまだに知らない 深い擦り傷がふたつ ブーツのつま先に 水の花が咲いたね、と 君はささやく きっと その花は、君にしか見えない 今ではその瞳だけが 見えないものを捉えて澄んでゆく ---------------------------- [自由詩]クオリア/Rin K[2007年10月3日21時23分] プール前の花壇に コスモスを見つけて喜んでいた そのくせ 君は、緑色のため池に沈んだ季節を あまりに切なげに指す わかってる  君も、僕と同じ色が好きなんだろう 空のいろ、でもなく夏のいろ でもなく ブルー それは、流れる それは 自由な それは、カナタの    * 海が好きだ、と言ったのは君が先 海があおいとは互いに言わなくて 海が見たい、と言ったのは僕が先    * なぎさ みさき そんな響きにはドキドキしてしまうと 告白したら 私の名前じゃないよね、と駆けていったひと 寂しいときだけ、それ以上に会いたかったひと いまもまだ好きですか ・・・・・・ ブルー    * 振り向きざまに笑いあった瞬間 すれ違った二色のブルー それぞれの、クオリア  きれいだね、と まるで 呪文のように ふたり 同じことをつぶやいても ブルー、瞳が変換するその色は きっと    * 忘れようと決めたことさえも 忘れてしまったころ またすれ違う 二色のクオリア 「ありがとう」と「ごめんね」の 水源は同じなんだ ---------------------------- [自由詩]CA・STAR〜ヴァニラ・スノー〜/Rin K[2007年11月8日23時39分] ただいま調整中 ---------------------------- [自由詩]「二度目の雪」/Rin K[2008年1月4日23時05分] 悲しまないでください たとえ私がひととき 希望を見失ったとしても それは今年初めて触れた雪が てのひらで消えるまで きっとそれほどのときですから 私の瞳に映せる空は 決して広くはない 高層ビルの屋上 街路樹の指先、信号の点滅 見慣れたはずの風景にに たとえば光が差し込めば そこは見覚えのない モノクロの街角 でもそれは 私しか知らない世界 私はそんな 特別を持っている だから あやまらないでください 私はこの生命に感謝しています 私には私だけの世界が見えて 私には私だけに優しい人がいる 時々怖くなったりして 時々信じられなくなったりして そんなことを繰り返しながら 私は私を愛しています 安心してください 一本道ならひとりで歩けます もし分岐路にさしかかっても 標となる手を知っている それはまるで、あなたのように けれど 見守ってください ずっと私の 母でいてください   今夜二度目の   雪が降りました ---------------------------- [自由詩]雪彩画/Rin K[2008年1月24日21時23分] 探していた おだやかな光を 逢いたかった カンヴァスを破って 手を、そっと 輪郭のない夜だから 影もなくて 震えを数えていないと ここがサヨナラになる気がした 風の硝子越しに あるがままの君がいて 瞳を伏せる ひとつずつ消えてゆく足跡を 諦めるように 重ならない秒針、鼓動 生きていることが真っ白なまま降り積もる それはやがて花に 純粋な 誰かが色を雪で溶きなおして 染めていくんだ、冬を そして僕らを 逢いたかった おだやかな、光 ずっと探していた、そんな ぬくもりを抱きしめている 新しい世界に きっと君はいない ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]批評祭参加作品■鏡の詩「フィチカ」/Rin K[2008年1月25日13時38分]  子どもの頃「怖かったもの」がたくさんある、チャルメラのラッパ、ギャル、雷に、「かちかち山」の絵本・・・。そんな中で、私が何よもり恐れていたものが天狗のお面であった。  そのお面は私が六歳のときに暮らしていた祖父母宅の客間の壁にかけてあったものだ。誰がどこで手に入れたものか、祖父母でさえも記憶にないという。今改めて見れば「笑点」の歌丸師匠にどことなく似た、人の良さそうな顔である。当時この客間が私の部屋として与えられていた。一度このお面を外してほしいと祖母に交渉したが、昔からここにあったから動かさないほうがいいという、どうもスッキリしない理由で断られてしまった。後々聞けば、祖母も天狗が怖かったらしい。  なぜそんなにもただのお面でしかないこの天狗が怖かったのか。それは、見るたびに表情が変わるからである。あるときはにらみつけているように、またあるときは微笑んでいるように。友達とケンカをした日に天狗を見れば、その目は吊り上っていた。家の前の掃除を手伝った後に天狗を見れば、その表情はおだやかだった。かわいがっていた犬が死んでしまった日は、天狗の目からも確かに涙がこぼれていた。今思えば、あの天狗は心の鏡だったのかもしれない。見るものの内面をそのまま映し出していたから、硬い木製の筋肉でありながらも、恐ろしいまでに自在に表情を変えたのだろう。  「フィチカ」  http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=141580  この詩を読んだとき、ふと私は「天狗だな」と思った。怖いという意味ではない。心の鏡という意味で。この詩は自らは何も語りかけてこない。書き手の感情がほとんど含まれていないのだ。  書き手の感情が痛いほど伝わってきて、それが心を揺さぶる詩。心に警鐘を鳴らし、問いかける詩。言葉遣いや表現を存分に味わえる詩・・・。ひとことで「詩」と言っても実に多様である。そしてそれぞれに魅力がある、。しかし「フィチカ」のような「鏡の詩」とは、なかなか出会うことがない。  フィチカの「雨」はただの雨ではない。「言葉」である。と、この詩を最初に読んだときに感じた。それはきっと、そのとき自分がある人から受け取った言葉に悩んでいたからであろう。その言葉は厳しく、冷たいものであった、この詩の表情も、同じように厳しかった。天狗のお面で言うと、こちら側を穴のあくほど見つめているという感じである。そして、「悩みの種であるその言葉の真意を考えろ」と語ってきた。 >雨の言葉がわかる人だけ、 >雨を愛する人にだけ、 >フィチカは笑みを返してくれる もちろん詩に説明がなされているわけではない。自分の心の奥底に潜んでいたレジリエンスを映し出し、それが語ったまでだ。 寄せられたコメントを見てもそうだが、この詩を「あたたかい」と感じる人もいれば、そのときの私のように「厳しい」と感じる人もいる。フィチカの「雨」は雨なのか、それとも何かを象徴しているのか、それも人によって捉え方が異なる。また、読み手のそのときの心の状態でも表徴を変えてみせるだろう。現にこの散文を書くにあたり、再度読んでみたところ、今度はおだやかな表情を見せた。  「鏡の詩」。それに映された自分自身の心を感じることも、詩の楽しみ方の一つであろう。  ルナクさんの詩は「詩人の詩」ではなく「歌人の詩」だ、と思う。それはリズム感の問題だけではなく、言葉の響きに大いに関係がある。「フィチカ」これは空想の国の名である。実は、投稿される前に初稿を見せてもらっていたのだが、そのときはこの国の名は、良く似た別のものであった。ところが実際に投稿されたものは「フィチカ」に変わっていた。テストで、「最初に書いた答えで合っていたのに!」ということが多い中、このチェンジは正解だと思う。丸みを帯びた響きは、鏡が反射するようにキラリと光って読者の目にとまる。  「鏡の詩」に定義はない。どの詩をもって「鏡の詩」とするかは、読者が決めることだ。「フィチカ」は私にとっては数少ない「鏡の詩」である。子どものころの天狗を未だに忘れられないように、この詩もずっと心に残り続けるであろう。   ---------------------------- [自由詩]leaf-Rain/Rin K[2008年3月30日16時31分] あなたはいま、幸せですか? 君の単純な問いかけに イエスともノーとも言えなかった僕は 不断桜の幹に身体をあずけ 枝先の小さな葉を気にしていた こいつも光合成してるんだなあ 陽ざしを受けたって 僕は答えを生み出すことはできない 向かい風に目を細める人はこんなにもきれいで 午後の川沿いの道はこんなにもまっすぐで 太陽の気遣いはこんなにも心に染みるのに 濡れたまま手を差し伸べて 約束の指から雫が離れた、そんなふうに 一枚の葉っぱが舞った それは言の葉ではなく、それは 思い出と同じ速度で 僕らの目の前を通過した がっかりした君が これを一つのサヨナラだと言うのならば 風は自由だと思いたい ああ、僕はまだ 君の問いかけがリフレインしてやまないんだ ---------------------------- [自由詩]あの、ね/Rin K[2008年4月26日19時34分] あの、ね   君の語りの中にはいつも海があって   壊れた砂時計が海岸線を塗りつぶしている   波はいつの間にか言葉になって   こだまする、喉の奥 赤いうさぎを抱いた少女 裸足の足跡が 広がり続ける浜辺に消されて わたしたち、いつも 帰り道を見失うの あの、ね 走るのをやめないと 廊下はどこまでも伸び続けるから 目を閉じて仰向けに倒れると 背中が地軸を感じる きっと螺旋 瞼の上に向日葵が   赤いうさぎはどこへ逃げたのだろう あの、ね   たった一度だけ君の世界で迷ったら   同じようにあざやかに   この街が映るのだろうか   君の語りの中では時々雨が降る 雨の雫はどうして不可算名詞 一粒ずつに名前があるのに ジョンはわたしの右肩に乗ると 必ず左に行きたがる わたしは自由に動けるから すこし傾いてあげたいけれど 螺旋にはいつもかなわない あの、ね あなたが指さした看板が どこにあるのかわからないとき 探すふりで海を見ている     そう、僕は   赤いうさぎを探す顔で   君の螺旋に酔っている   ジョン、それは君のかなしみ   向日葵のように回って    海へ行こう   たったひとつの海へ ---------------------------- [自由詩]仕掛絵本/Rin K[2008年6月27日0時52分] 静脈を流れていった 幾度かの夏がありまして 網膜に棲みついた ((ただそれだけの))海があります 無人の駅舎―――ああ、思い返せば 入り口でした この仕掛け絵本の     ?   カラカラカラ   鳴くかざぐるま   哀しいか   愁しいか   ―――「父は鉄塔のような人でした」―――   ふうっとため息をついて   あなたは風をつくる     ?   だらだらと坂を下って   ぬるい空気は今日も穏やかです   ふるさとの話をしましょう、いや―――あなたには   ここより荒い海があったとだけ   しおはまの町にはいまも老女がひとり   煮干に背を向けて茶をすすっているでしょう   私は告げねばなりません   裏庭にいた案山子の面は   東京で見失いましたと   だらだらと坂を下って   今日はいつになく穏やかです   陽射しが欠伸をして   あなたの影をつくる     ?   貝の欠片が言いました     わたしも月でありたいと   貝の欠片が言いました     わたしは雨を知らないと   貝の欠片は色白で   あなたのようでありました   波打ち際で弄(あそ)ばれる   右のちいさなサンダルは   目を閉じる間に貝となり   寡黙な夜に消えました 浜辺に風が吹き 胸の糸がもつれる。 寂しかった。 絵本の海は黝く ―――もちろん私のほかに栞などはない。 厚いページに圧迫される カラカラカラ 鳴くかざぐるま しおはまの家に 茶をすする音 あなたをさらった波が 夕べは高く聴こえます。    ---------------------------- [自由詩]環情線/Rin K[2008年7月20日1時35分] すこしだけ怖いことを考えたくて 夢の中で君を消した 白い朝がやってきた さよならが乾きたてのころ ・ ・ ・ 机の上に散乱する単語帳 角が折れてめくれてゆく 覚えることと忘れないことの間で ひとつづき震えた夏 ・ ・ ・ 君を描こうとすると いつも同じような色ばかり並べてしまう それくらい君の 背景は海だった ・ ・ ・ 嘘みたいに晴れて 壊れたように笑って、それから どうして私たちは死ぬのだろうって 秒針を止めて呟いた君が ・ ・ ・ 水平線をなぞった指先の青で 君に会いに行く それだけでよかった 七月はただ熱く ・ ・ ・ 眩しさで砕け散った世界は 確かめようのない手探り 海岸のさいはては 尋ねない八月 ・ ・ ・ 砂にまみれて 日々を転がって 直線はいつしか 轍になって ・ ・ ・ 花びらを剥ぐように裸になる そしてまた、ことばで水をやる それが造花だって 本当は知っていても ・ ・ ・ 本棚から地球儀を出して 撫でる、けれど どこにもいない 僕は 誰を愛していた ・ ・ ・ すこしだけ怖いことを考えたくて 夢の中で君を消した 白い朝がやってきた さよならが乾きたてのころ ・ ・ ・ 乗り遅れた夏は 僕を連れて行かない 君の背景の 海にだけはもう ---------------------------- [自由詩]さかさまの都会/Rin K[2008年9月28日22時07分] ビルは氷柱(つらら)のようであって 交差点に、滴る微笑の鋭角が 夜はひときわ映える 空は無限の海にはあらず 月のマンホールに、僕らは吐き捨てる ばらけた感情語 それを生み出す心の砂で 舌の上はいつも乾いている。 足りないというものだけで さかさまはいつも満たされている。 ガラクタはシュン、と音をたてて マンホールに吸い込まれ、吸い込まれ ただ深深と世界の反転を待つ。 降り注ぐのか 滴る、微笑の鋭角のごと 死んだエンジンを胸に 月のマンホールに向かう オイルまみれのかけらたちを 今日も吐き捨てるため ---------------------------- [自由詩]セルリアン/Rin K[2008年12月10日0時37分] 君のことを描くたびに ひとつずつ言葉を失っていった すっかり軽くなった水彩箱には たったひとつの「ありがとう」が 隅にこびりついて震えている ―――ありがとう。 それだけで許されるなら 君をのせたカンヴァスは海に流そう 帰らなくていい 瓶詰めの手紙のように ---------------------------- [自由詩]液晶に、雨/Rin K[2015年6月18日22時59分] 傘をさす手を奪われるほど 僕は何かを持ちすぎてはいない 縦書きの雨 カーテンの雨 通話中を知らせる音の雨 改行の雨 鉄柵の雨 液晶に、雨 こんなにも雨にまみれた世界で 傘をささずに、ひとり 忘れ去られた電話ボックスのように立ち尽くしている間に 現在と過去との距離は 過去と大過去との距離を もうはるかに超えてしまった ひとりひとつ てのひらに収まる窓を持っている 二十三時を過ぎたバス停には それらの窓にとつとつと灯がともる 液晶に雨 手の甲に雨 鼓膜にも雨 君の名で、雨 傘をさす手を奪われるから 僕はなにかを、君に この窓から飛ばそうとはしていない けれど ほのひかる雨 ゆびさきで雨 尾を引いて雨 夏だけの、雨 こんなにも雨にまみれた世界で 傘をさす手を奪われている ---------------------------- [短歌]Intense Wind/Rin K[2015年6月20日22時16分] どの君も覚えていよう桟橋にやけに激しい風が吹いてる 僕だけを乗せぬ列車のわすれものやけに激しい風が吹いてる 無名指で前髪を除けきみは言う「やけに激しい風が吹いてる」 生野菜 消費期限 とgoogleに やけに激しい風が吹く夜 (生き返ることできるなら一度だけ)やけに激しい風が吹いてる 夏がくるそして輝き出すきみの不在 やまない風が激しい やけに激しい風の吹く日は窓細くあけてはおもう海峡のこと 硝子の靴なんてないんだほんとうは やけに激しい風が吹いてる 鉄塔にたなびいている君の影やけに激しい風が吹いてる 手を振ればそこだけ磨かれる街にやけに激しい風が吹いてる 空想の白夜の空の一枚はやけにはげしいこんじきの風 君が本なら栞だねぼくは 今やけに激しい風が吹いてる セルリアン・セルリアン・ビリジアン・雨やけにしずかに呼びかけてくる ---------------------------- [自由詩]せかいじゅうガアメ/Rin K[2015年7月8日23時18分] 「世界中が雨だね」って きみが言うから 手相占いみたいに てのひらを差し出して 白いサンダルを気にして ひとつの傘でふたりで濡れながら 「世界中が雨だね」って きみが言うから 世界中が雨なんて そんなわけないだろって でも「世界中が雨だね」って 目を開けて言うから ああ 僕たちの見ている世界は せかいじゅうがあめ せかいじゅうがあめ せかいじゅうガアメ せかいじゅう、せかいじゅう キャンディーみたいな声でさ シャボン玉吹く速度でさ もう一度言ってみてよ せかいじゅう せかいじゅう  それは青くて それは透けてて それはドラゴンで そしてきっと かなしい なんで争うんだろうね なんで壊れるんだろうね なんて、きれいなんだろうね 「世界中が雨だね」って きみが言うから ひとつの傘のなかで きみが言うから やさしいよ かなしいよ あったかいよ 世界が、せかいじゅうが ---------------------------- (ファイルの終わり)