FUBAR 2008年5月21日5時15分から2010年4月16日9時01分まで ---------------------------- [自由詩]つぶやき/FUBAR[2008年5月21日5時15分] 銃を 彼女は手に取った 筆を 彼は手に取った 人差し指と筆先 どちらもが せわしく動いて どちらもが 同じことを叫んで 語りは美麗 語るは無粋 ---------------------------- [自由詩]未返却/FUBAR[2008年5月27日6時02分] 眼と手をきつく結び 踏みだした一歩は鋭く響く そのひとがもらした嘆息は とても深く とても暗かった ひざまずき そっと指先でなぞり合う ハーケンクロイツ 悲運を思いながら かなわぬ復権をひそかに願う ---------------------------- [自由詩]ある曲、についてのこんな/FUBAR[2008年6月25日5時38分] 誕生日というものをくれたひと 新しい湯呑み茶碗を贈った そういうことかと 電話越しの妹は苦笑していた 本当に贈りたいものは 第二 ではなく 二度目 きっとうなずいているであろう妹は そうだねとつぶやいた ---------------------------- [自由詩]冲/FUBAR[2008年7月2日5時22分] 沿線に建つ安普請のアパート かたかた揺れて かき消されたラジオからの古い曲に 毛布にくるまりながらそっとツッコミをいれた いいえ、わたしは東京に住んでいました やっぱりまぶしい時期 ひょろひょろした理科の先生は もし相当な科学を持っていなければ 宇宙人は間違いなくゲル状なんだと力説していた 乗り物があれだけかっくんかっくん動くのだから 中ではかなり大変なことになっている ということらしい ゲル状 いいなあ たぷたぷ どろどろ わたしの身体 白い眼も 開いた口も ささやきも そのうち捕まえられても あれやこれや実験されても かまわない きっと 無関心よりはずっといい ---------------------------- [自由詩]Nice Kill/FUBAR[2008年7月8日5時50分] 育ててるの、なんて腑抜けたことをほざいている生き残り 沈黙は 届かなくて、効かなくて、意味がなくて 面と向かって言ってやった それはお前好みに調教してるだけだ ますますばかっぽい、ぽっかんとあいた口 みみっちい吸差しを放りこむ 香ばしい音を響かせて悶える、自称育成人 がら空きのオフィスを闊歩して 偉そうにふんぞり返る禿頭に 一身上の都合ってやつを叩きつけた 気に入ってもらえたら、と思う 心臓にツァラと同じものを持つ そう、決めた日 ---------------------------- [自由詩]がらんどう/FUBAR[2008年7月16日6時09分] そこから すべてがなくなりつつある 流しの前に立つもの 窓からの鋭い陰が 刺すように滑る 残されたのは 貴重品、 だったという塩 たぶん、 きっと、 大丈夫 ふりかけてみれば もう少し もうちょっと だけ ---------------------------- [自由詩]反応/FUBAR[2008年7月22日6時37分] 切り刻んで袋に入れた新聞記事は 目を離したすきにもぞもぞ動きだしていた 記憶と考古学 預言者と未来 それぞれ近づいたところを 手のひらで思いきりたたきつぶして 遅ればせながら 宣言された戦いというものに足を踏み入れる ---------------------------- [自由詩]生平/FUBAR[2008年7月30日5時39分] 扇風機が 静かに首を振っている かきまぜている ソファに座って本をひらいている あなた この作家は、 攪拌という言葉が好きみたい と、本をパタンととじながら あなたが 静かに首を振る かきまぜられてしまう ---------------------------- [自由詩]れもんさわー/FUBAR[2008年10月4日6時40分] 見つかっても 怒られることはもうなくなった 飾り気のないドアが壁となる 十五時からの十分 煙草二本のあいだ 椅子に浅く腰かけて 窓枠に肘ついて 外に目をやりながら紫煙を燻らす そんな姿を好きだという 理由はわからない ただ想いに応えながら 悟られないように 例えば あなたにとってのレモンはなんなのか なんてことを考えている 煙草二本のあいだ ---------------------------- [自由詩]サタデーナイトスペシャルで処刑を/FUBAR[2008年10月22日3時50分] 暗闇降りしきる草いきれ 最強のネズミに狙われながら 小型かつ軽量 持ち運び可能な大惨事 プア・ホワイトの白ウサギ 遠い故郷 働き者の日本人を思いだし 受けた命に異を唱える 輝く雨 黒い雨 その隔たりは23 アークライトが何度出産したところで できあがった絨毯は意味がなかった 気づいていた 分かっていた 見ようとしなかった 認めようとしなかった 思いなおしたウサギたち 熱帯と山岳民族に別れを グアム経由 横田経由 機内には白い目があふれていた 故郷では ラブ・アンド・ピースが叫ばれていた 終わりは一瞬で終わった 悪くない でも友は頭を吹っ飛ばした 悪くない でも友は橋から身を投げた 悪くない でも友は路上で野垂れ死んだ 悪くない でも彼らは暗い部屋に閉じこもり 日がな一日酒を飲んでは泣いている ---------------------------- [自由詩]あいつ/FUBAR[2008年10月31日4時15分] 溺れる姿に溺れているだけ 両の手足をへし折って ひざ下の失望に溺れる ぷかぷか浮き始めるその前に そっと抱き上げ かわりに暗く深い本音を沈めた やさしい眼 やさしい耳 やさしい口 手慣れたはずのもろもろがおもい 自身を影響する術を持たないのなら 染まる前に 染められる前に 浮かぶ姿を目にすることを 悪いとは思えないでいる ---------------------------- [自由詩]つぶやき/FUBAR[2008年11月12日6時20分] くすんだ赤い鞄を背負って 空色の自転車に笑顔でまたがる じゃあ、また明日ね 当面やるべきことは 化粧をしたライオンに 命を吹き込むということ 照明が降り注ぐ舞台上で コンタクトを探すということ みーっけ! 今ね、コンタクトを探してたの 語る心は持ちたいけれど 語る言葉を望んではいない 今日もくすんだ赤い鞄を背負って 空色の自転車に笑顔でまたがる じゃあ、また明日ね 彼女はなぜか眼鏡を嫌っている ---------------------------- [自由詩]悪色/FUBAR[2008年11月18日5時59分] 毎朝、 米とともに炊きあがる不満 届がこの時間でも受理されることを 無能な君は知らないでいる ---------------------------- [自由詩]熱病を切り刻む/FUBAR[2008年11月25日5時20分] 生ぬるい図書室での坊主めくりだった なぜ蝉丸がいちばん人気だったのか わからない 輪に違和感なく溶け込み 無遠慮にかがんで微笑むあなたの胸もと 気になって 腹が立って 仕方がなかった ---------------------------- [自由詩]くるみ割り人形/FUBAR[2008年12月2日7時26分] ふぞろいな前髪は 純白が染められることを拒んでいるようでした もう二度と届かない それでもあなたは いまだに昨日をうたっているのですね ---------------------------- [自由詩]インスタント/FUBAR[2008年12月11日7時25分] 薄暗くほこりっぽい店の窓際 そっと外を眺める姿に ひとすじの涙を見つける はじまる前に終わっていた過去があふれ 秒針が 左回りを始めた きっと今なら 部屋の引き出しに異空間への入口がある ビル・ウィザースの曲の訳と強いひとの条件を問われ 二十世紀のセックスシンボルに ローレン・バコールとボー・デレクの名をそれぞれ挙げる サンフランシスコと頭の花には すかさずスコット・マッケンジーねと笑い マルタの鷹とキー・ラーゴで目を点にした はかないペルセウスには子どものようにはしゃぎ 真新しい包帯には子どものように泣き崩れ 細すぎる小指には子どものようにごめんねと口にする 導かれるがままに導かれ 包まれるがままに包まれた 六年以上の月日を経て 変わらない八年は色を覚え 少しずつ埋まってゆく 部屋にその面影はなく くすりゆびは身軽でも いまだに先生と呼んでしまうひとの傍ら たしかに付きまとっている永遠というものが どうしても舌に絡みつく ---------------------------- [自由詩]テロリスト的アンブッシュ/FUBAR[2008年12月25日7時54分] 電話のベルが鳴り響き 今日も結局ドアがひらく 面と向かってきらいという あなた 三島みたい 笑みをこらえきれない わたし 太宰みたい 近親憎悪が絡み合い 今日も結局床がきしむ ---------------------------- [自由詩]つぶやき/FUBAR[2009年1月7日8時38分] こわごわ伸ばした手をそっとリボンにかけた 伝えるため 逃げるのはむずかしく 逃げ続けるのはもっとむずかしい やがてあらわにさせたその硬さは 罪悪感を駆り立てる しっていた あなた しらなかった あなた というひと しろうとしていた あなた しろうとしていなかった あなた というひと 知らないということ 若いということ 並べ立てて責を負う まさぐる手をはねのける術を きみは決して納得しない ---------------------------- [自由詩]生平/FUBAR[2009年1月13日7時20分] 冷蔵庫のなか ひときわ目を引くふたつの色 重なり合う あなたのバッカス あたしのレミー 縦横無尽 その巧みさを知っているがゆえ 余計に腹が立つ 今までに 少しでも考えてみたことはないの? かみ砕かれるチョコの気持ち ---------------------------- [自由詩]模倣/FUBAR[2009年1月21日5時42分] 路地裏の傘傾げ 死ぬときは 風邪をこじらせてと決めていた かんざしではないことを不運に思いながら 奥さん、 こっそり呼びかける その塗箸は やはり孤独でできているのですか ---------------------------- [自由詩]あいつ/FUBAR[2009年4月16日3時59分] そこにぴったりとはまっている 高々に 自傷癖を語る姿 喜々として 薬名を羅列する姿 底からすくいあげることに疲れ果てていた 何より腹を立てていた 隠すのが遅れ 本音のしっぽを捕らえられる 浴びせられる涙と罵倒とコーヒーと水と灰皿 ただうつむいてやりすごした その痛みもその哀しみも大量消費されている その他大勢と区別がつけられない 特別が欲しいのなら 義務感に燃える写真家にでも撮ってもらえばいい どうして お前は言う どうして 俺は呑みこむ 消えればいい もう 消えてしまえばいい お前じゃない お前のじゃない あいつのだ あいつのをもう見たくないんだ 埋めなくちゃいけない 暗く深いものを もっと暗く深いものにしなければいけない 無数にうごめく先達は 果たして快く迎え入れてくれるだろうか ---------------------------- [自由詩]ある曲、についてのこんな/FUBAR[2009年4月28日3時06分] じんべえで濡れ縁 お猪口に波立つ 打ち上げ花火を飲みながら 浴衣のきみは どこですか ---------------------------- [自由詩]低い月/FUBAR[2009年5月5日2時10分] 輝く身体を滑らしながら じゃあ、と ぜんぜん悪くないじゃん、と 顔の傷痕は唾液で満たされた 腕のそれには 唾を吐きかけ踏みにじるであろうことを想像する くすんだ紫のパンジーに 行こうとしていた年への別れを告げた夜だった ひたすらにうとましかった低い月 きっともう目にすることはない かつてはレイカと呼ばれていた いまはルミと呼んでいる ---------------------------- [自由詩]かくも、こうも/FUBAR[2009年5月13日4時25分] 好きなことをやりなさい 幼いころから言い続けてきた当人は ちょうど十時間前にツングースカへ それから五時間 やっぱり心配だからと いつものように母は後を追いかけて 十分ほど前には ちょっとオセロットに会ってくると言い残し ふらり出ていく姉を見送った 私は 無性にイリオモテヤマネコに会いたくなって さっそく荷造りを始めたのだけれど オセロットが東山にいることをあえて姉には伝えなかった ---------------------------- [自由詩]今はだめだけどそのうち仲間にしてあげる/FUBAR[2009年5月26日2時29分] あれがやってくる あれの足音が聞こえると心が乱される あれの姿を目にしてしまうと頭が煙る あれはひどく美しい あれはひどく醜い あれはなかなかに有名なようで あれを有名にさせたあれらは流れをつくりたがる 多数にさして興味を持たず 認められているものをまず認めようとしない あれを次々に生産するあれらは威光を示したがる 否定を好みながらも いずれはあれ以外をも飲み込んで我がもの顔をする あれは気をよくしている あれはあれらのおかげで さらにべつのあれらから名をもらう あれはあれらの序列を思う かどうかはわからない ただあれはとても気をよくしている あれは危機にあるらしい あれらはそれをあれとあれら自身以外のせいにする あれは気難しい あれは栄華を誇ったかつてをよく夢見るらしい あれらは囲うことは好きなのに囲われることは嫌う あれはわがままだ あれがやってくる わからない 怖くもあり悲しくもあり わからない 楽しくもあり嬉しくもある あれが またやってくる ---------------------------- [自由詩]Squall/FUBAR[2009年6月16日3時23分] 蝋燭ではものたりないから うるさいシャンデリアなんかを 線香ではものたりないから 大輪の花火なんかを 菊ではものたりないから 何百という百合なんかを むかし 現在、過去、未来 いま 現在、未来、過去 白いワンピースに麦わらぼうし 渚の足跡をたどりながら 肩越しに何してるのと訊かれた ひと差し指 唇、額、胸に二回、唇 はためきと軌跡を追いかけながら おまじないと答えた ひと差し指 唇、額、胸に二回、唇 過去形を強烈に拒絶する いつまでも ---------------------------- [自由詩]耳もとの代弁者/FUBAR[2009年6月25日2時47分] 摩訶不思議な自然にぐるりと包囲されて 板ばさみ 三分の一 いや、二分の三 なんだか無性にガリガリ君が食べたくなってきた、と言って わたしはわためかな、と返して あの雲はきっと竜の巣だと笑っている 笑いが声にのっからない きっと ひどく不細工な顔をしているんだろうってことぐらい わかっている ちぎって はらはらはらはら むしって はらはらはらはら 紫外線よりもずっと痛いもの 額に青白い手の甲をひっつけて 空を隠してしまいたい 雲を消し飛ばしてしまいたい 制服をひん剥いてやりたい 目の前で見せつけてやりたい 校門で駐輪場 昇降口で階段 廊下で教室 中庭で校庭 体育館で放送室 いつもあふれる汚濁を飲み干して いつもふんわり抱擁してくれる 耳もとの優しい代弁者 あらためてはっきりと悟ったこと やっぱりもぐらがいい なんとなくわかったような気がしたこと ひとを殺してしまうピエロの気持ち ちょっとコンビニ行ってくるから買ってきてあげる わたあめは無理だけど 笑顔で立ちあがり なるべく優しくお尻をはたきながら ちぎられて むしられて ばらばらばらばら ばらばらばらばら ---------------------------- [自由詩]生平/FUBAR[2009年7月14日3時20分] それなりにしおらしく 包丁でうまいこと裂いてしまった指先 はがすものがなくなって 柔らかな ぎざぎざとした表皮が波立つばかり もう覗きこまれない もう声をかけられない もう遊べない つまらない ずっとずうっと このまま いつもいつまでも ぐるぐるぐるっぐる 狂う という言葉は使ってはいけない エンドルフィンを語りながら 繊細な手を伸ばしてくる まだまだ満ちあふれている 何ひとつ変わらない変えられない 太ももを滴る経血を目にしたときのような 青い驚きをもっとください わたしはあなたのもの あなたはあなたのもの つまらない ---------------------------- [自由詩]生平/FUBAR[2010年2月15日1時52分] あついあなたを貪った わたしはもっとつめたくなった 月はいつだって 最適な摘み取り方を教えてくれる 誰かの白を滴らせるあなた もう見当たらない わたしの赤はどこですか 破瓜の夜はどこですか せめて今日が 満月だったなら ---------------------------- [自由詩]下に/FUBAR[2010年4月16日9時01分] 三角柱の一面は 相変わらずでしゃばっている 白も 相変わらず踊っている 思いきり 死んでしまうほど長く見あげているうちに 目覚ましは鳴りやんだ かつて 足りないと思っていた美しい細君 朝に祝福されながら 身をかすかにのりだして 伸びをする ずっと昔 まだ少女だったころをよく知っている まだ少女だったころをよく覚えている 朝が冷たいことを分かっている ---------------------------- (ファイルの終わり)