こしごえ 2014年2月27日13時15分から2021年12月5日13時22分まで ---------------------------- [自由詩]芒野原/こしごえ[2014年2月27日13時15分] 芒 あちこちゆらゆらゆれるしろがね 原っぱで ぽつんとひとりそよぐ 手の中のまるみをおびた小石が ほんのりあたたかい 地面の土は黒く底はなく 白い息 宙へ解ける明滅 山脈の稜線の縁は青空に映える雪化粧 かわいた風がほほをなぜてゆく ふきわたる風のささやき 沈黙している手の中のまるみ 終わりの歌を歌う芒野原 耳をかたむけてかんがえる小石の きおくはよみがえる 地面はお墓 白い息の 秋のしずかな光に染まる すこしさっくりとした ななめの 光と光と きこえてこない声を放ち 山なりをえがいた小石の 黙想する秋空 しずけさのみちみちて風の通りすぎる 手のひらがつめたくなる その時 なげられた小石が落ちた辺りから さようなら ときこえた 故にその方へ黙礼をした 生まれて初めての別れであった つぎにあう時は、わたしも 芒野原でなげられる 水の惑星の自転しているうちに さかいめもなく影は闇に透ける ---------------------------- [俳句]二月/こしごえ[2014年2月27日15時20分] ほほなぜる風のささやき春浅し 手のむこう雲は流れる二月かな ふりかえる 映すあおぞら春の道 ---------------------------- [自由詩]レモン葬/こしごえ[2014年7月30日9時06分] レモンの青い葉の そよそよささやくななめしたにある木陰が 独りの影に重なりつらなり 古い灰色の木製の椅子に座り 宙を見つめている無限に くりかえされる喪失は だれにも知られることはなく 青黒い小石のように 遠く沈黙して空ろだ 風色の映るガラスの風鈴の鳴る真夏 なんの気配もしない小道から小道へ 天秤棒をかついだ金魚売りが つやのある波うつ声をはりあげながらしだいに消える。 電柱の視線のすみにあるコンクリートの空き地で 異次元への入口のような 陽炎はゆらぎ 小首をかしげる おわかれですね 独り言をつぶやいた袋小路 ブロック塀で閉ざされた 正午を回ったほの暗い空間の地面に 引力で結ばれた無数の気泡を宿らせて 青緑色に透けている ビー玉が忘れ去られ ほんのすこし光っている。 塀のむこうがわにレモンの青い葉が見える いずれ雲は 自然へ帰る 亡骸の 火葬された煙をふくみふくらみつづけ 肌をたたくおおつぶの雨となり 雨水は雲影におおわれた庭の土にしみこむ その時独りの影も 庭で椅子に座ったままさびしげに目をふせてぬれた 宿無しの風はふりむかずに灰色の椅子と それに座っている肌をなぜていき 風鈴の音がひびくなか雨が上がる 空にのこった雲はゆったりとつぎつぎに流れてゆき 洗われて 清んだ空は笑みを零す 零された光は雲間にみちあふれて 失われつづけた いのりは重くよみがえる 秋も深まるころ 独りの影といっしょに 時を見つめる静かなものは やわらかな日があたる縁側に座り 庭の まだ青い葉をながめてから果物ナイフで 青いレモンの果実を厚めの輪切りにしていくと そよぎ光るレモンの香りがあたりに広がるのを見届けた ---------------------------- [自由詩]ほんとは/こしごえ[2014年9月1日13時03分] うそをつきます といってさいごにうそをついた うそがかそうされて あおいそらへ ひとすじのけむりとなりのぼってゆき たいきちゅうのすいぶんとむすびつき しろいくもとなりました。 うそをつかれたわたしは ちぢこまっているそのうそを あいようまんねんひつでしろいかみにきろくしました きろくしたかみをよっつにおりたたんでから あてなふめいのふうとうにふうにゅうし いつのじだいかはんべつできない ゆうびんきってをしっとりとはりつけた うそのふうしょを まるいぽすとにとうかんしました いつのじだいのどこにゆきついても それは うそのなかのうそ。 このからだをかたちづくっているげんしの おくぶかいところから うそが にんげんせいのはんとうめいなかさなりあいに ひかれてでたのです じくうのゆらぎにひそめく おもいうそがさようならと しぜんにただしいてんびんにのり みちたつきのひそむよぞらは ちんもくをまもるはじまり。 うそのなかのうそは ついたうそにもうそとはわからないときがある このしんじつも うそのひとつかもしれない とじもんする あめのしずけさに ほんとは しんじている ---------------------------- [自由詩]月は光る/こしごえ[2014年9月13日20時36分] ゆうがたの上弦の月を 散歩途中にみつめた 右半分の白さに みちていく真っ直ぐな時をおもうと 裏切られても裏切られても 信じるということを おしえてもらっている気がする 有り難いことにかわりはないのだから そよ風が耳をなぜてゆく わすれられない遠い希望を うけついだ この体のなかに 今日も あかい血が流れている いずれおとずれる死のまえに 無事に ゆうがたをむかえることができた 暮れる日をみおくる すこしある 雲に光が反射してごきげんようといっている それきり日は 沈黙した 明日の今日に それでもわたしの時はつづく みずからの迷いにこたえをみつけて すすむ こころは 果てしなく すがたをかえて いまあなたがみている風光に 映るほほえみ 月は光る ---------------------------- [自由詩]そよぎ/こしごえ[2014年10月6日10時14分] いずれおとずれる死の約束に すべてを受けいれてくれる 無という希望をささやきながら 耳を通りすぎるそよ風は どこまでも透けて影もなく 私の中を流れる血をさます 見れば 羊雲の雲影白く いつかの私があそこにいる 秋の空 しんみりとほほえむ いいかわるいか そうではなく そうでもなく ありのままの 自分に感謝できるか 空気や水にもささえられ お米のちいさなつぶつぶの集まりにも ささえられている私は 宇宙に浮かぶ ほのかにゆらぎ光る点である そして 黄金色をした稲穂がそよぐ 田園の小川のせせらぎは きらきらと歌い流れる 太古の声で いつかのあなたは そよそよと 出あい出あうことが出きました しかしそう いずれ別れると知っているが故に かけがえのない存在と思う あなたのおかげさま ---------------------------- [自由詩]その時まで/こしごえ[2014年10月15日22時42分] 一つの窓から零れおちる音楽の さまざまな音色は呼吸している 一輪の花の散り際に 老人は一冊の本を読み終えた 青空色に青ざめたほほを ほほえむ気配の黄色の蝶々はひらめく 風の言葉を聴いて ゆびさきのさした白い雲は旅に出る ゆらぐこころを 音色の物語と会話をする日に透けた葉の群れ だれもいない魂のあいさつ 青い惑星 私は 今日も有り難く そよ風に染まりつつささやく ありがとうございます、と 静める私の 深い闇に浮かび上がる 顔は無表情に いつかの夜の 古い手紙を読みかえす あの時の気持ちがひびいて来る 失われた 光といっしょに 一生背負ってゆくのであります 一つの窓の 一輪の花の 青空色の 静けさと共に 青い惑星がまわる いつまでも いつまでか その時まで 名も無い草は光とおどる ---------------------------- [自由詩]散る/こしごえ[2014年11月1日15時48分] 宙へむかって手をあわせる なにをおもうということもない ただ 手をあわせて 目をつむる 頭をすこし下げてあわせた手に額をくっつける なぜか なみだが出て来た かなしくもないのに 沈黙したままの宙 顔をすこし上げて手を下げてから目をあけると 笑みを浮かべた花が 私を見つめていた 笑みをかえした私 さいごに帰るところは自然という家 その先はわからない 私のこころの大切な部分はどこか まひしているのだろう ありがとうございます という言葉が 浮かび上がった 光に 照らされて濃くなる影が やがて闇にとける時の 安心したまなざしに似て 終わることが出来る 実るために ---------------------------- [自由詩]ある世界/こしごえ[2020年4月21日9時53分] ひっそりと光るそよ風の縁にあなたと私がいる 道にできた卵形の水はにっこりほほえむ 世界と世界は手をつなぐ 星には星の、 草には草の、 虫には虫の、 鳥には鳥の、 人には人の、 世界がある。 その一つの、 その一本の、 その一匹の、 その一羽の、 その一人の、 その世界がある 世界を 完全に知ることはできない だから どうでしょうね 相手のことを しずかに降る雨のように 思う 私には無い物事をあなたは持っているゆえに あなたは私を支える時もあるし 私と同じ物事をあなたは持っているゆえに あなたは私を支える時もある それは お互いさまなの あなたも私も宇宙の一部です そうして 雨上りの たましいという いのちで 深呼吸をすると ひっそりと光るそよ風の縁にあなたと私がいて 実る心 ---------------------------- [自由詩]空舟は 希望する(うつおぶねは きぼうする)※改稿版/こしごえ[2020年4月21日10時33分] この道を選んだ私の 誰にも知られることはない絶望に ほほえむ空舟は 複眼をもつ蜻蛉(せいれい)の櫓(ろ)を漕(こ)ぐ。この櫓の羽の内部は 言葉を発した。  しかし 選べない場合もある。 うん 十二時零分と明記された文末を通りすぎる。  ごきげんよう、 ある最後は 言葉に言葉の縁取りをする ある誕生日です。 波間を行く空舟の 縁取った言葉の 幽かに明滅する素肌は ひんやりと黙る。 火葬の煙がひとすじ昇り 雲となり 天気雨きららきらら しん と していると心音が闇の扉をノックした うん 心音の私の母は、母の母の母の母の母の母の母の母の母の母の母の母の母になる 心音を聴いて 私は、生まれた。 昼下りの大きな通りの風に風鈴屋の姿は 消える。 この体は宇宙の一部で、 この魂が私のいのちだ、という言葉を選んだのです。 そよぐ千草(ちぐさ) すべてを残らず知ることはできないし 知らなくていい物事があるけれど 私は、雲影を繰り黙読して この悲しみと帰った さまざまな 心音がする闇に。 忘れられない 忘れられないのならば 忘れられない物事と共に生きて行き 忘れられない物事を こころの糧にしよう そう なにが災いするかわからない代わりに なにが幸いするかわからない あきらめないこととあきらめることのバランスの深呼吸をする 白黒写真に伝言を頼んでおいた羽は思いつづける みんなをつつみこむ空を みんながほほえむ日まで ある最初に鳩時計が教えてくれた 一度限りの産声は やさしい空を思うことで こころを映す月の思いやりに気付いた 私は月のほの明りに照らされた今 今があるのは つながりのおかげです  涙を零す私 ありがとうございます。 この青い星の水は いのちとつながっていて このいのちは さまざまな いのちに支えられている。 選んだ言葉は このこころを流れる 今 青ざめた年輪の終りを刻み込むつながりが 私の奥の悲しみに 黙礼をする。目には見えない遠い星を見る静けさと 水の道を遠回りしながら 心音の芯の櫓を漕ぐ (果して 光は光か 闇は闇か 。何かがある それは何とは言えない何か ) ほほえみ おだやかな世界を 私は 希望する ---------------------------- [自由詩]鬼蜘蛛と私(おにぐもとわたし)/こしごえ[2020年4月22日8時03分] 鬼蜘蛛の 運命の糸で できている 巣が軒下でほのかにゆれています この巣に掛かっている命と 今夜もゆれている私は 私と居る 鬼蜘蛛の、 ひんやりとした歌に やわらかい耳をかたむけている 深深と 鬼蜘蛛の巣越しに ゆっくりゆっくりと まわるように見える 星空の星星は瞬きながら ほほえんでいる 柱時計の 長針と短針が 善悪の無いほほえみと ほほえみ それぞれの役目をしている 悪や善と言うのはヒトだけよ と 時間は一瞬じっとした。 私には悪があるからこそ善く生きたい。 善いと思うことがまるまる善いこととは限らない それでも 命に従います それでも それでもね ね ほ ほおほおと近くの杉林で ふくろう歌い始めて張りつめていた空気がしんなりする 今は黙礼をして今を通りすぎる これらは私の住む世界のことなので 私にとっていつかのあなたは お月さんのように遠く親しい あなたが呼吸をしている未来に 何気ない今のことを忘れるだろう私の 覚えていることだけではなく 今をつくるのは さまざまな今よ 私のいない未来にも この鬼蜘蛛の歌はそっと命に触れつつ軒下でほのかにゆれています。 命は原初から欠けている 故に、存在していることが ありがたい 感覚器官と共にある魂で気付くことができる命を 鬼蜘蛛は食べて糸にする 命は 命に支えられる命命を支える命魂という命 連なり 私と 命を見つめる 鬼蜘蛛 ---------------------------- [自由詩]六つのこと/こしごえ[2020年4月23日14時07分] 一  散歩をする  腕時計の竜頭をねじってぜんまいを巻いておく  六時零分のころ  あいさつをすると  忘れていたことがぐうぜん戻ってきて  あいさつをする 二  そよそよ風は  光を通り 思い出す  むかしの傷は  心を通り この大切な悲しみと  わたしは  この道を通り 帰る 三  深く青いインクは愛用万年筆の心臓を通って出てきて  つやつやとした愛用万年筆が  しゅるしゅると言葉を しるすと  ノートの紙は青い文字でみたされていき  わたしの魂が紙に定着する すると  わたしはもうここにはいない 四  わたしの墓石に春の雪が  ぴたんぴたんとして  耳はかたむいてつめたく  つめたくかたむいて視線は  宙へ泳ぐ  けれどもおちつくように目をつむる 五  わるいことも  いいことも  ここにあるから  半分位 影の月へ  ほほえむ  半分位 あなたに映るわたし 六  昨日のことよりも  明日のことよりも  今日のことだ  と誰かが言った  誰かのわたしは今日も  命に命を支えられている ---------------------------- [自由詩]これも運命/こしごえ[2020年4月23日21時06分] 出会った物事に これも運命と思うことで 今を 味わう 宇宙が生まれて ずっと昔から続いてきて いろいろなことがあり 今の自分につながっている ん 時には 愚痴をこぼす時もある でもね こういう時に おまじないをかけるように つぶやく 「これも運命」と ほほえむことができたら ありがとうね この宇宙の中の 小さな青い星の地球上で 今もさまざまな生物が生きていますね。 これも運命かと 大切な存在を思う 私も呼吸をくりかえす ---------------------------- [自由詩]思い出/こしごえ[2020年4月24日9時58分] 逝川 私を流れる ※「 逝川(せいせん)」とは、 ?流れ去る川の水。一度過ぎ去ったら再び戻らないもののたとえ。 ?過ぎ去った時間のたとえ。 ( ※の以上の意味は、『全訳 漢辞海(第七刷)』(三省堂)の 「逝(せい・ゆく)」より 引用しました。) ---------------------------- [自由詩]つながり/こしごえ[2020年4月25日13時37分] とんぼは人間におしえてもらわなくても 空のある上をしっているし 水面のある下をしっている 自然に 雲もしっている 上と下について 人間は なぜか あれやこれやと言う わたしは 空の下で 泣いている わたしのかなしみは零れ だれかのかなしみは零れる そのそれぞれのかなしみが ひとつになるのは 空の中 しずまりながら ほほえむ わたしは いのちをおもう ---------------------------- [自由詩]風になる/こしごえ[2020年4月26日12時50分] 風になる 風は 見えないけれど在る 風は わたしのほほをなぜる 無言の声だ その声は いつか だれかのほほをなぜる 風 それは 雲を運び 山を越える それは 木の葉をゆらし花をゆらし 鳥と空を共にする 風は そよそよと光る けれど時には びゅうびゅうと声をあらげる そうして種は飛んで 生きるために芽を出す さまざまな わたしが 風を吸いこみ 言葉ではない言葉を発するとそれが あたらしい 風になり 耳をかたむける林を通りすぎてゆく ---------------------------- [自由詩]一瞬/こしごえ[2020年4月27日9時33分] 水晶の心臓をもつ あのこの 心音は星雲できらきらと鳴っている。 せせらぎを さかのぼる果実は咲いて芽になり (一瞬) しんとひとみは黒く澄む。 雨の鏡 (一瞬の 今) 雨のひとつぶひとつぶに映る 青白い横顔。  (耳をかたむけると 一瞬 一瞬   あのこの心音は空から真っ青に しみて来る) 変わらない思いをかみしめて 私よりも長生きしてくれと あのこへ言った ---------------------------- [自由詩]ある愛/こしごえ[2020年4月27日9時34分] 青い空の 広がりにわたしは悲しくなり胸がいっぱいになります。 あの日に去ってしまった あの雲。 そよ風に乗せて、 さようなら、とささやきました あの雲の亡霊は わたしと共に自転している 降って来ることはないあの日の雨 枯れた水晶時計の 針はもはや 動きません。 忘れない悲しみは青白く照る 照らされたわたしに影はない あの日に失われた この愛は だれにも知られることはなく 無表情に 泣いている そうして いのちを見つめます ---------------------------- [自由詩]見つめる/こしごえ[2020年4月28日13時10分] あなた と思う と同時に わたし と思う その時 大切なことを見つめようとしない自分に さようなら 今 世界 を見つめれば さまざまな 人や物事に さまざまに 支えられているわたしが見える 一粒一粒の御飯粒 手紙一通 一曲の歌 一輪の花 花粉をつけたみつばち 芽をだす種 太陽と月と地球 そして 涙を零す いろいろに いろいろに つながっている 今 世界 を見つめれば どんな物にも 誰にでも それぞれに合った役目という いのちがあるのがわかる 一つの平和を思い すべてを こころの糧にしようとするわたしの さまざまな こころに映るあなたは あなただけの貴重な こころを持つ かけがえのないあなたで 今日も 有り難い 世界に生きている 今 今があるのは 過去のおかげ 今があれば きっと未来もあるだろう その時も 今の声はささやく 今のわたしがいなくても 今のあなたがいる と 見つめた先の しずけさは 風光る 笑みを零す ---------------------------- [自由詩]今/こしごえ[2020年4月28日13時12分] わたしはわたしが死ぬ直前に何をおもうだろうか 今はこうしているわたし さまざまな今は 今とつながっている ひとつ ひとつ ひとり ひとりの今も 回り回って 今となる さまざまななかで 涙雨は降り 涙雨は上がる そうして 雲は風に乗り 時は育つ 風光る原っぱで この蕾のいのちをつなぎ 今に至るいのちが 今を通りすぎる 今の 今 ほほえむ ---------------------------- [自由詩]鳥葬/こしごえ[2020年5月7日17時36分] 銀河の岸で静かな深い鬼は 星の亡骸へ ほのかに歌をうたっている 忘れられたことも今につながっているのよ そうして静かな深い愛の鳥は 星の亡骸を ついばみ 果てを超えて 静かな深い愛は耳をすますと ありがとう と どこからか声がする ---------------------------- [自由詩]いのちは/こしごえ[2020年8月10日15時58分] 深くて静かな宙を一羽の鳥は行く 深くて静かな宙の深い静けさを私は感じる 私は気付き言い思う たましいという いのちは、 山を形作る石の石としての役目であり 手紙入れに眠っているあの人の涙であり 海の浅瀬で会話をする貝同士のことばであり 道端の草のそよぐ歌であり …… 「いのちは 欠けているから求めるのだ。私の鬼とコスモスは深く静か」 さまざまな私達に それぞれの たましいという いのちはあり さまざまな私達はおのおのに死を含みながら回り回ってつながっている 大きなひとつの いのちである あなたのいのちへ ありがとう ---------------------------- [自由詩]帰る場所/こしごえ[2021年3月1日10時45分] 体を失った魂が、 どうなるのかは分かりません。 私のこころは 私のこころを じっと見つめて思う…… そう、 (宇宙の魂と私の魂は今もつながっていると思う) (地球自体にも魂があると思う) (全ての魂それぞれもつながり合っていると思う) 魂といういのちを愛する 道端に咲いている花は よろこびを生み、 よろこびはほほ笑みを生む。 このほほ笑みはよろこびに帰る。けれど時に ほほ笑みは帰ることができないで迷子になる ほほ笑みはこの時に悲しみを覚える。 それでも 花の魂が迷子のほほ笑みをさがして見つける なぜなら花はほほ笑みだから。 そうしてほほ笑みは花に帰る 帰る場所があるということは幸せだろう。 ある意味では、 自分のこころの奥に帰る場所がある。 たとえば、 こころのなかの 大切な存在に帰る。 体を失った 先祖やあの人や鳥や犬や猫などの みんなの魂が ありがとうに帰り着いているといい。 みんなへ ありがとうさま ---------------------------- [自由詩]お礼/こしごえ[2021年8月29日14時29分] 手を合わし目をつむり 「みなさま  今日も一日 ありがとうございました  今日もこうしてお休みできます  ありがとうございます  みなさま  お休みなさい またね」 と夜の布団の中で声を小さくして言う 一日を 終えることができて安心する 私は今日も さまざまな人や物事に さまざまに支えられている まわりのいろんな物事は 自分の心を成長させる糧にしよう だからいろんな物事へありがとうさま あたりまえのことや何気無いことが あたりまえではなくなる時がある。 水を飲めることや ごはんを食べられることや 挨拶ができることや 友達と会えることや 散歩ができることや お日さまに雲が光るのを見られることや そよ風を肌に感じられることや 呼吸ができること等の あたりまえのことや何気無いことにも 感謝を忘れないようにしたい。 あたりまえのことなどないのかもしれないから 一日を 終えることができて安心する 一日の終わりに お礼を言えることがありがたい ---------------------------- [自由詩]水影/こしごえ[2021年9月6日7時07分] 水の惑星の縁に群れる雲は 答のない問いをささやき そよ風といっしょに耳をなぜる 私は私の影なので 生き身は自然からのかりもの 魂は何とは言い切れない何かへとつながっている 雪国の 六(む)つの花の降りつもった層が解ける日和に いずれどの道死はおとずれるのだから しんみりと深呼吸 和室の深夜 オールド ファッション グラスにいれてある 水道水を口にふくみ終えたあと 円卓上で 愛用万年筆が さまざまな紙に告白をする そうしてまわりまわって沈黙にいたる せせらぎの遠さに 万有引力の気配がする 二度とない初めての朝をむかえれば 下弦の月に見つかる 無数の星を宿した宙はもはや 影の眠る墓 むかしむかしのおもい出 あえてよかった 光 気が付けば 言うことなし と書いた 岸辺に立ち 悲しいことも 刻まれている 歴史のつづきを重ねて行く あなたのいのちと ---------------------------- [自由詩]どこかのここ/こしごえ[2021年9月6日13時46分] これは墓まで持って行く。 そういうひみつがひとつくらいあるのではなかろうか わたしにはそれがある。 これは墓まで持って行く、と 目をつむり見つめる ひみつを見つめたあとに 見あげた空はのっぺりと青く 雲ひとつないおもい出の あのひと 墓がひっそりと待っている ひみつは 今を大切におもう 光るそよ風にふかれている 人知れずに ただ ただ 生きるの 死ぬまで生きて生きるの そう言ったあのひとはうつむいてほほえみ 空色した毛糸の手ぶくろをそっととってわたしと 握手を交わして。 別別に去った あのひととわたしは どこへ行くのか ひみつの孤独な宇宙の どこかのここと どこかのここで 青い星の沈黙する 涙を零している ---------------------------- [自由詩]得たと思うと同時に失う。/こしごえ[2021年11月16日8時55分] 得たと思うと同時に失う。 そう 花はひそやかにゆれている。 私はひそやかにゆれている。 命は命に支えられている この体は何かからの借りものなので、この体を返す時は一先ず自然へ返す。 しかし、 あなたや私のそれぞれの命に代わりはないし、私の気持ちは私のものです。 でもね、とらわれていると苦しい。 だからできるだけとらわれたくない できるだけ 雲のように水のように。 (とらわれないようにすることに とらわれていると気付く) ああ、結局私は、とらわれているのだ。なぜかほっとする。 うん、何かを精神的に手放して こころを満たすことができるかもしれない。 名の無い私を置き去りにして、 名の無い鳥が飛んでゆく。 はじめの命を生んだのは何かだ 何かを生んだのは何だろうか。沈黙する 得たと思うと同時に失う。 そう あの目は、 遠い昔に失った何かを見つめる 目であった これも運命か。それでも 私は命に従います ---------------------------- [自由詩]傷のこと/こしごえ[2021年11月24日14時00分] 蜩(ひぐらし)の かなかなかなかなかなかなかなかな……と歌う歌声が 空へ心地好くひびく 一人 林の陰に立ち 傷を思う 傷の増えた この銀製の指輪は あの人が亡くなった頃に求めたものです この銀の指輪の傷は あの人の声ではなかろうか ある時の私は、 誰かの心を傷つけてしまう時もある。 あなたの心に傷をつけたその時は ごめんなさい。しかし あなたは「私はそんなに弱くない」と言うでしょうか。 誰かの心を私が傷つければ私自身も傷つく。 けれど 心の秘密の宝は自分以外の誰にも傷つけられません。 この心の秘密の宝は秘密だから 秘密の宝を見ることも、 秘密の宝に触ることも、 秘密の宝を傷つけることも、 秘密の宝を大切にすることも 自分以外にはできないのです。 けれど 今も心の傷は痛む時がある こういう時は 心の痛みをなぜるように 「だいじょうぶ。私の全てをとは言えないが、 私は私を知っている。…… この心の痛みに私の心は試されているのだ」 というようなことを言いながら 傷のある銀の指輪の肌を指で少し触る このような指輪はお守りです 心の傷の深さは いのちの深さとつながっていて 私の いのちを育てていく 蜩(ひぐらし)の かなかなかなかなかなかなかなかな……と歌う歌声が 空へ心地好くひびく 一人 林の陰に立ち 傷を思う ---------------------------- [自由詩]※これは五行歌です。/こしごえ[2021年12月5日13時18分] 夏だなあ うちわあおいで 麦茶飲む 四十九日も 静かに過ごす ※五行歌とは、「五行で書く」ことだけがルールの、新しい詩歌です。 ---------------------------- [自由詩]※これは五行歌です。/こしごえ[2021年12月5日13時22分] がじゅまるの 青々とした 葉の光 あらゆることが こころの糧だ ※五行歌とは、「五行で書く」ことだけがルールの、新しい詩歌です。 ---------------------------- (ファイルの終わり)