黒田人柱 2005年5月1日21時14分から2013年6月12日22時50分まで ---------------------------- [自由詩]世界/黒田人柱[2005年5月1日21時14分] 沈みかけた夕日に 灰色のカーテンを浸せば 世界は爆発する  * うつくしい言葉を残すのはやめろ あれは悲しみで あれは俺じゃない ---------------------------- [自由詩]手紙/黒田人柱[2005年8月22日8時50分] 一冊の絵本のような生涯 浮遊するひとかけらの海 あれは君なんだろうか 思想のない森と夜の魚 そんな絵本だとしたら 月がちょうど半分 あとは少しの湿度 そんな海だとしたなら! (わたくしは悲しい魚です ひび割れた月です) 幾億年も吹き抜けてきた光が 今はここにある かつて生命はその上を流されていった 刹那と恒久とがめまぐるしく細胞分裂しながら 頭の上から降り注いでいる (わたくしは悲しい魚です ひび割れた月です) ---------------------------- [自由詩]長いお別れ/黒田人柱[2007年2月18日10時29分] 珈琲店と書かれた看板の奥で少女が泣いているわ あれ何て季節 グラデーションが眩しくて夕闇が澱んでいて あれ何て季節 店に入ろうか そうしたいのは山々だけど 僕らには 金がない 時間も余り無いからと 駅のホームで切符を握り締めていた もう既に、頭の中では 少女、あの少女 名前も知らないけれど きっと可愛い名前だと思うんだ 銀のトレイがぎらぎらと音を反射させる ラジオとテレフォンが煙草の煙にやられて 黄色がかっている 窓から覗いた風景は円形だった ほんの数秒か、数分か 確かに時間は止まっていた 僕らの歩みと共に進んだのに もうそれも叶わない 恋愛や自殺や遊園地のように 過ぎ去ってゆくことばかりの人生だから 長いお別れをしよう さようなら ---------------------------- [自由詩]駅前にて/黒田人柱[2007年3月31日1時25分] 駅には 西口と東口があるけれど どっちに行けばいいの 陽が昇るのは東だけれど どっちに行けばいいの 僕たち迷子だ 生まれたときから 古い月を見ている 古い星を見ている 光の速さで 僕は生きられない たとえばあの日の君の言葉が 頭の中を漂うのに もう二度とあの瞬間には触れることができない 見ているだけ 漂っているのに あの月のように あの星のように 西口と東口があって 太陽は東から昇って それなら僕は何処へ行けばいいのだ 見ているだけ 見ているだけ 光の速さで僕は生きられない ---------------------------- [自由詩]或る季節の死/黒田人柱[2007年4月6日8時35分] 珈琲牛乳の色をした空には 夜と朝とが 文字通りに交じり合う 季節はそこに存在する唯一つの風景だ 一年、二年、三年、と 過ぎ去った時間の数を数えているのだが 両手だけでは足りないので 猫の手も借りたい 未来が遠ざかっていく 未来が輝いているから ちょっと堰きこむ 死を恐れろ 知性で克服しようなんて思うな 空を見ろ 季節が溢れているのだから もしも檻があるとするならば この世界に手錠があるとすれば 誰の墓標を刻みつけるのか 僕はもう そんなものはいらない 風景を 季節を 季節の死を ---------------------------- [自由詩]老婆とコインロッカー/黒田人柱[2007年4月14日1時51分] 重厚な鞄を コインロッカーに詰め込んだ老婆 最後の小銭が落ちていった 鍵は古いタイプのシリンダーで 取っ手は錆びついていた 老婆の背後で 人々は透過しながら それぞれの歩みを止めない 午後十一時 瞬間と瞬間とが 交互に繰り返されながら うつくしい足音に変わってゆく それはまるで階段のようで 誰かが一歩を踏み出すと同時に またその一歩が誰かの一歩となる 雑多な夜の出来事 ほらロッカーの扉の閉まる音は 施錠と鉄の腐食が交わる場面 ジュークボックス! 鞄はきっちりと収まって 空間を埋め尽くした 老婆が透過してゆく 彼女にかける言葉を考える僕に すべての人々は 「待ち人!」 と叫んで消えていった ---------------------------- [自由詩]ブルース聴かせて/黒田人柱[2007年5月13日4時17分] ブルース聴かせて 友達がそう言ったのはいつだったろう その夜に僕たちは並んで写真を撮った この町を出ていくと聞いてから 僕は戸棚を漁って古いアルバムを捜しているのだが 少しの焼酎と肴で二人は肩を寄せていた 安上がりの夜 ベッシー・スミスの残像 最後に彼と話をしたのはいつだったのか そんなことすら思い出せない お前も覚えちゃいないだろうね 頭のなかで訊ねてみてもその表情すら滲んでしまった 悲しいことばかりじゃないだろう その逆だけでもないからさ いつの頃からか こんな僕にもノスタルジーが芽生えはじめたのだ 誰かあの日を知らないか 僕たちが見捨てた 気づいているのさ ベッシー・スミスの声だけで 僕は涙を流せない この町を出て行くと聞いてから 僕は古いアルバムを捜しているのだが…… ---------------------------- [自由詩]夕凪/黒田人柱[2007年10月16日5時03分] 放蕩のあとで 俺はまた女を抱く 女は女で 俺を抱いている 俺は抱きかかえられている 夕凪にかき消された 誰かの名前  * 白い肩の揺れる姿が つめたい月に見える 青いアバラの上をゆっくりと 俺は 歩く  * 水の中のかまきりを子供が不思議そうに眺める ---------------------------- [自由詩]瞼/黒田人柱[2008年1月2日1時24分] 夜の淵の とおくに浮かぶ一つの雲 煙よりも深い 炎たちがその一生を終えようとしている 知っているだろう 月明かりに照らし出された 燕が巣をつくり とかげは土で眠る 瞼 空が少し青すぎる 瞼 海水は いつか光り輝く 履き潰した靴底に こびりついたチューイングガム 誰かの唾液! 頭蓋にはブレーキ痕が映し出されて 屍体は焦げつき 花の苗を植えよう それを見た誰かが秋刀魚のことを思い出している ---------------------------- [自由詩]無題/黒田人柱[2010年6月27日0時10分] 象は目を閉じて もう何も見ない 死ぬときにだけ空を見る 青を捜す * どこへ行こう? 夜の森 あのプラットホーム 硝子の町 あらゆる風景の真ん中で 俺は死んだ * 砂漠に還る 子供たち 海が見つからなくて かわいそう ---------------------------- [自由詩]天使たち/黒田人柱[2013年6月12日22時42分] 3ブロック先にある小屋の中で きれいな天使たち ささやいてた イマジンが大事らしい 笑ってる 俺はいらないね 自殺したい カーラジオ聞きながら 焦燥 カーラジオ聞きながら ハンドルを握り締めながら (a tower chair) 天使たち はにかんでる 天使たち はにかんでる 天使たち 踊るよ 天使たち はにかんでる ---------------------------- [自由詩]umiushi/黒田人柱[2013年6月12日22時49分] 赤い青い透明な そんなうみうしの声 ハローとは鳴かず それでも挨拶を交わす やあ 調子どう 小さな貝殻とか やあ 気分いいね さっきから さっきから 君はなにを見てるのかな …… 君はなにを見てるのかな …… 空が青いね 海も青いね 青すぎるね 空が青いね 海も青いね 青すぎるね 空が青いね 海も青いね 青すぎるね 空が青いね 海も青いね 青すぎるね ---------------------------- [自由詩]candy gun/黒田人柱[2013年6月12日22時50分] woo... candy gun 拾った 甘いかおり candy gun 落し物さ 誰かがきっと candy gun おもちゃよりもきっと candy gun おもちゃよりもずっと 一発目はなにもない空間 二発目はひどいやつらを蹴散らしたんだ woo... candy gun 拾った 甘いかおり candy gun ぼくは神を信じてない candy gun さあ 共に行こう candy gun 友達 一発目はなにもない空間 二発目はひどいやつらを蹴散らしたんだ ある晴れた空の下 なにが起きたってかまわない 知ってるか この世界 すべて鉄でできてる 食べられない 一発目はなにもない空間 二発目はひどいやつらを蹴散らしたんだ まだあるよ まだまだあるよ これからさ  ---------------------------- (ファイルの終わり)