ヤギ 2005年8月3日2時48分から2006年4月29日1時58分まで ---------------------------- [川柳]vsオバケ/ヤギ[2005年8月3日2時48分] スプラッタ父が西瓜を鷲づかみ バケラッタ母がオバQ一気読み オイ鬼太郎瞬きするってどんなもの オイ鬼太郎泣いてはいない汗なんじゃ 鬼太郎にニヤリ笑われ汗ぽたり 暑かろう地蔵に水掛けバチ怖れ 怪奇物観ないで眠る自由有り 霊として許して置けぬことも有り 取殺すわけじゃないからちと座れ アジサイを眺めて帰る夏休み ---------------------------- [川柳]キミノホネサウルス/ヤギ[2005年8月5日12時49分] 恐竜の背に乗った彼半笑い ティラノから逃れるすべが二百円 生き飽きたブラキオサウルス吹いた虹 ストルチオミムスの名前やや忘れ 「花を見ず一億年間生きました」 「骨に歯を通されるまで食べました」 仰ぎ見た千万年後子の飛ぶ日 狩り狩られ優しい肉のジュラシック ゆらめいた光愛して土の中 ツマミにもならぬ体で骨探し 骨のまま動いていたと負け惜しみ ---------------------------- [短歌]消息の文/ヤギ[2005年8月17日21時31分] いつだって取り分け用事はない手紙暑い夏ですお元気ですか 熱き息傍らに聞き盆送り今日の日の人毎日の君 にわか雨染み入る砂浜のごとくのどかに揺るる稲穂のごとく 便箋の印に沿いて折りゆけばエリマキトカゲになるでござんしょ さやかなる流星群に告ぐ願い思いつきかね少し君思う 人と人近くにありて尚遠く日々したたむる消息の文 ---------------------------- [自由詩]パタゴニア/ヤギ[2005年8月19日1時29分] キミエさんが言ったんだ 「お前はパタゴニアに似ているよ」 コスタリカとはちょっと違う パルプンテはもっと違う ラテンアメリカの南の地方 パタゴニアには羊がいるらしい あと、草原があるらしい それくらいしか知らないけれど 僕はパタゴニアがなんとなく好きで 行ってみたいと思ってたんだ パタゴニアに来るものは みんな悲しくてつらいのさ おじいさんが教えてくれた 僕のどこが似てるんだろう 風ばっかり吹くパタゴニア あんなに強く明るくは 僕は涙を流せない 「双子みたいにそっくりさ」 キミエさんが言ったから 僕はパタゴニアをめぐり 似ているものを探してる 風ばっかり吹くパタゴニア 見つからないよパタゴニア ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]…/ヤギ[2005年8月31日16時43分] …という一部の若者に熱狂的支持を得た小説の、出版されなかった部分の原稿を求めて草木に覆われた長屋の廃墟に入ろうとしている。そこで記憶は飛ぶ。時間にすれば30分もないのだろうけど。 *** 友人の家に泊まる。 しかしこの友人とはいつ知り合ったのだっけ? どうしても思い出せない。 彼がいない間に、テーブルの端に原稿用紙の束を見つけた。 表紙には…と書かれている。 ぱらぱらと捲っているとあるページが目に止まり、一文字ずつ小声で読み上げた。 「ぎやあああああああ、うあうあうああああ。ひ、ひ、ああああああああああお、うあうああああ、あーーっあーーっあーーっ…」 *** 目が覚める。というか、今まで起きていた。 ただ記憶はない。 なにかとても恐ろしいことが起こったんだ、今。 なんだっけ? この部屋の畳は綺麗だけど。 そうだ、知っている。隣の部屋には何… *** 目が覚める。安心している。何の夢かは知らないが、とにかく酷く怖ろしかった。 よかった。夢でよかった。 そう思いまた原稿を書き始める。 いつから書いているんだ? ああ、タイトルははっきり覚えている。 だから私は正気だ。 そう、タイトルは… ---------------------------- [川柳]火星の王子様/ヤギ[2005年9月6日21時15分] シャンパンはお風呂に入れて苦いから 欲しければほうらお口で拾いなよ フェラーリを積んだ工作A’ 英国に時計合わせにセバスチャン 深海魚見たいと言ってプロジェクト 大声を聞くためだけに象を飼い 積雲にラピュタ探しにセバスチャン どこだっけ王冠くれた王の国 それならさ全部火星に飛ばしてよ お金ならあるからここで遊ぼうよ ---------------------------- [自由詩]むらさめ/ヤギ[2005年9月13日3時51分] もっと、もっと激しく降ればいい 雨は夜に降りこのまま私は助かるのかもしれない 夢はみない 眠ってしまったから ばちばちと 音を立て雨が涎を垂らしつつ私を背中にそっと入ろうと 濡れていないものなどあるものか もっとばちばちと音を立て激しく降らないと 温度が下がってしまう 雨に止んでしまう 雨は止んでしまうという理をやっと手に入れたようです うるさい、うるさいうるさい そんなことがあるものか お前など 止んでしまえ 雨だれの音が穏やかで 聞いている分にはそれは温かいようだった 雨が降れば花は開くのだったか 閉じるのだったか ---------------------------- [携帯写真+詩]−/ヤギ[2005年10月29日15時51分] 「みんな怯えているだけなのさ」 「怯えている?」 「そうさ。怯えてるんだ。同じに」 もう秋も終わるころでした 彼は優しいのと寂しいのがまざったような顔で そう言いました ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]−/ヤギ[2005年10月29日16時23分] 「よし、じゃあスモウを取ろう」 そう言うとそいつは泣いたままビックリした顔をしていたのですが、僕が強引に体育館へ引っ張ってゆくとスモウを取る決心をしたようでした。心の中がパンパンになって熱くなってしまっていたけれど雨のせいで体は少し冷えていて、準備体操に少し四股を踏みました。 どしん、どしん。 勝負をつけるとかそういうことではなかったです。 「おし、こい」 ばしん、とぶつかります。 そいつは体がすこぶる大きかったので一気に土俵際まで押されました。けれど僕も負けません。しっかりと腰を下ろしながらマワシの辺りをがっちりつかみ、力いっぱい押し返します。先ほどまでのそいつへの憎しみやら申し訳なさやらが湧き上がり、それがぎゅうぎゅうと力なって目一杯押しました。そこで一つ足をかけられて僕は思い切り転びました。 「もう一番」 ばしん、激しくぶつかります。 僕は悔しかったのです。僕は自分との約束を破ってしまったのです。だからこんなに悔しいのです。悔しくて悔しくて涙が出てきました。その悔しさがまた力になりました。それは相手も同じでした。どうしたら良いのか分からないこの叫びたいような気持ちを力にしてお互いに相手にぶつけていたのです。今度は僕が勝ちました。 「もう一番」 ばしん、もう力は入らなくなってきていましたが、それでも取らずにいられません。ばしん、ばしん、ばしん、何番も取って二人ともすっかり力が入らなくなると、汗と涙とで汚くなった顔で僕たちはどちらからともなく笑っていました。 ---------------------------- [短歌]新妻カナコ(仮名)/ヤギ[2005年11月20日5時35分] 義父方の祖父の従兄弟の名を忘れ日がな一日オスカルの刑 慣れもせず言う事聞かずつちふまず必死で探す猫の住む家 「ナタデココ下から読んでチェブラシカ」守りたくとも解らぬ家訓 クリスマスサンタを酒でもてなして悪い子いないと私泣いたわ 私はめし使いではありません米から鳩を出せるはずなく 松葉杖五六十本買ってきて夫に飲ませる夢をよくみる コートさえ着てれば私平気なの苦しくたって悲しくたって 「カナコさんあなた少しは考えて今日のおかずのどこで笑うの」 「お義母さまお気づかれにはならなくて?昨日と同じ天丼ですわ」 停電を嫌う私で遊ぶから号泣家族に魚拓舞い散る ---------------------------- [川柳]空色遊園地/ヤギ[2005年12月6日7時39分] うつぶせに寝た彼の下祖父帰る 驚いた家族「おかえりなさい祖父」 ワシとても腹が減ってる飯をくれ ちゃぶ台で本人囲み三回忌 あの世には吉永小百合五人いた 父は母母は娘の頬つねり お前らはサザエさんかと黄泉ツッコミ あれじゃろう、多分少しの夢じゃろう 話したいことがあったはずなんだけど やや透けた祖父とテレビを見て眠り * 空色の風船の群れ呼ぶピエロ 温かいポップコーンと父と母 塗り直す回転木馬写す眼を 観覧車朝焼けの街三年目 * 流木にさして願いはないそうな 墨色の空はさざざざ波の底 黒土の木々と私の無愛想 流木の浜に上がるに寄せて引く 愛しみも憎しみもなく空怖い うそ重いみぞれうそ重いみぞれ 尻濡れる冷たく黒く背も濡れる * 泣いても怒っても悲しむのはひとり ---------------------------- [自由詩]禁色の人/ヤギ[2005年12月12日13時58分] 私はあんなに憎い人を知らない 穏やかに過ごしていた日々を 圧倒的な力で根こそぎ運びさり 最もうとんだ葛藤と労苦の 深くにごった河へ流し込んでしまった こんなところで生きてゆけない 満身の力をふりしぼり息も絶え絶えにぬけだす 不思議なことに果てに残るものはいつくしみだった それは柔らかく清らかで私の土から生えた若草だった だからまた、その一つかみの花束を手に ずぶずぶと戻ってしまう 父と母のいたあの河へ 後悔と絶望といたわりのもたらす希望とを何度も何度もくり返す 私は馬鹿になってしまった 雨は全てのはじまりという 幾万の雨滴が寄り集まって川となり 川は海へ注ぎ 海は雲となり 雲はまた雨を降らす つまり雨は全てのおわりでもあるということだ いや、それも正しくない 断片なのだ 雨も川も海も雲も はじまりとおわりの永遠のくり返し その断片なのだ あの恐ろしいうねりの真上にすっくと立つ ☆☆☆ サーフィン! ☆☆☆ (はぁ) あんなふうに、とあこがれます まぶしい太陽の下 じりじりと身を焼かれながら 次々と寄せる波に さっそうと乗ってしまう あんなふうに、と 私の子は 馬鹿とののしられても 卑しいとさげすまれても かえって力強く生きる 決して捨てず あきらめず みだらによどんだ沼に住む 醜くゆがんだ魚のように 力強く生きる そのように名をつけました だから お願いです ---------------------------- [川柳]辰砂の月/ヤギ[2005年12月14日14時41分] 月の夢いちめんに辰砂のさばく そぞろ歌くちびるにカステラの月 眠りの木ヘビの毒ふたつめの夢 月の下ひづめ鳴く声をきかせて ---------------------------- [未詩・独白]おっぱいばんざい/ヤギ[2005年12月18日21時41分] 続いてほほえましいニュースです 今日、O市P区Aヶ丘のI幼稚園へ サンタクロースがおっぱいのプレゼントにやってきました 一人一人におっぱいが手渡されると、園児たちは大喜びで かけまわったり、重さをはかったり、 みかんを乗せたり、頭に乗せたりして遊んだということです 子どもたちにはちょっと早いクリスマスプレゼントになったようですね * 君に世界で一番すてきな言葉を教えてあげる まあ、なにかしら それはね、爆乳さ 爆乳? そうさ そうかしら? そうさ そうかしら? そうさ * そうさ ABCD!(満面の笑みでーっ) EFGH!(はれやかにーっ) ゆううつなの吹き飛ばして 君も元気だせよ * ういー なんでぇーバカにしやがってぇー 乳でかいからって態度まででかいっつーのっ でかい乳にものいわせてよー ちょっとでかいからってなんでぇー でかけりゃいーっつーもんじゃねーってのっ でかい乳してよー ぶるんぶるんしてよー 揉んでぇーー揉んでぇーー揉まれてぇーー揉んでぇーーっとくらあ ちきしょうさみいなあ ---------------------------- [自由詩]らりぱっぱ/ヤギ[2005年12月23日15時32分] あ、キリンだ! わーい、ぐてーっとしたキリンだー 金魚ばちみてらー かわいー わーいわーいリンゴ食おっと ガリ!あーこれタマネギだー からーいからーい あはははは ボタモチみーっけ あはははは ---------------------------- [自由詩]COLD HEAVEN/ヤギ[2006年2月3日2時02分] 1.太陽 子どもの頃はどこまでも強くなれると信じていた 長く長く生きた木が太く深く育つように 毎日きびしく生きていればきっと強くなれると 新しい弱さを知ると、それを克服しようとさらにきびしく節制した あるとき、自分がすっかり大人になっていることに気がついた だけど俺はこんなにも弱い 他人の弱さを笑い、強さを認められない 愛すればその見返りを求め ひとつの間違いを許せない 多分、自分以上に人を愛せないんだ 子どもの頃と比べて、一体どれだけ強くなったんだろう 俺のしてきたことは全て無駄だったのだろうか 生まれてはじめて、自分は見放されていると感じた 目の前が暗くなりこれが絶望なのだと思った 暗い井戸の底でひとり頭を抱え どうやって生きればいいのか判らなくなったとき 光が射した やっぱり強くなりたい 2.砂の時計 敷石はクレバスのように冷えた 僧たちはついに靴をも失い、修道服で体をぴっちりとおおい、身を寄せ合い 数本残ったロウソクを、幾本かずつ灯していた 一番若い僧が言った 「私たちはこのまま死ぬのでしょうか」 誰も答えなかった 皆静かに息を吸い、静かに息を吐いた 一人が言った 「私には今まで聞く勇気がなかった。しかし今聞こう。愛とは与えることという。ただ与えよと。私たちは神を愛す。しかし現実には神は何もしない。これは愛だろうか。ただ与えることは本当に愛なのだろうか。愛はひとりの中にあるのだろうか、ふたりの中にあるのだろうか。」 誰も答えなかった 沈黙は眠りのように続いた 聖堂に満ちた冷気はしかし沈黙よりわずかに重かった 一人が応えた 「ひとりの中にあると答えることは人と人の愛を否定することになる。ふたりの中にあると答えることは神の愛を否定することになる。」 「そうだ。」 そのとき、一番若い僧の顔色がみるみる青白くなっていった それまで黙っていた別の僧はすくと立ち上がると椅子を手にとって地面に叩きつけた 二三脚叩き割ると、バラバラになった椅子の脚を組み、聖書をビリビリと破ってロウソクで火をつけた 周りのものは驚いて声を出せずそれを手で制した 聖書をくべる僧はそれに構わずなおもくべ、言った 「神はお許しになる」 さらに言った 「愛はどこかにあるのではない。お前が生み与えるのだ。」 3.夜間飛行 まるで氷の化石だ 僕はすっかり閉ざされてしまって もうすぐ眠るだろう ここにいたのは悪魔ではなかった ここにいたのはひどく厳しい神だった ---------------------------- [短歌]普通の足/ヤギ[2006年2月4日23時16分] もしぼくに普通の足があったなら低くてもいい山で死にたい もしぼくが平和な国に生きてたらなぐられたって笑っていられる もしぼくが平和な国に生きてたらたのしい本を読んで暮らすよ もしぼくが もしぼくが10年早く死んでたら誰かに死にたくないと泣くよ もしぼくに怖いものがなかったらどんなにやさしく生きられたろう ---------------------------- [川柳]ふさわしい場所/ヤギ[2006年2月8日0時44分] 忘れられない絵は全て夜明け 夜明け 太陽は冷たかった 叫ぼうと息を吸い途方にくれる 海を見て空を見て途方にくれる 立ちつくし歩き立ちつくしている おまえにふさわしい場所へ ---------------------------- [自由詩]あじみをさせて/ヤギ[2006年3月3日15時31分] あじみをさせて みどりの小道 生れたばかりの若草のあじ かなしくないあじ やさしくないあじ みずのあじ あじみをさせて ももいろ並木 やくめの終わった花びらのあじ こわくないあじ いきてないあじ にがいあじ やさしくないのは嫌いだけれど やさしいのはもっと嫌いで 一口ふくんでさようなら ---------------------------- [自由詩]FISH N.O./ヤギ[2006年3月3日17時27分] マルコ・ポーロ、エンリケ、ガマ、コロンブス、マゼラン、ベスプッチ、、、、、、、、、、、、、 みんな海へいった さようならきっと戻らない 名前の残らなかったひとびと 航海するということ 全ての海岸線が記された海へ 飲み水と食糧を精一杯積んで 旅立っていった 愛しいひと だれとも共にいられない海へ さようならきっと戻らない 億万のさかな 海へ海へ ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]お生れなさい/ヤギ[2006年3月5日4時30分] 「つまんね人生だったな。」 天使が僕に吐き捨てた。 死ぬのはもちろん初めてだ。 しかし、死んだばかりの人間にはもっと他にかけるべき言葉があるはずだ、と思った。 「えっとさ、死にたてのひとにはもちっとやさしいこと言おうよ。」 「へっ。」 天使とは、かくにガラの悪いものだったのか。 来世に現世の記憶なんて持っていかなくてもいい。 ただこのことは覚えておきたい。 死んだ後、かなりイヤなやつと会わなきゃいけない。だから少し元気を温存して死のう。 気をとりなおして聞いた。 「来世はどうなの?おもろい?」 「つまんね。」 「…じゃ、その次は?」 「つまんね。」 「……じゃ、そのまたつ…」 「あー、うるせ。オマエは次も次も次も次も、どこまでいってもずーっとつまんね人生なんだよ。」 「希望という言葉があります。」 「そして絶望という言葉もあるな。」 絶句してしまった。なんだというんだ。 旅先で撮った記念写真がことごとく人知を超えたメッセージにあふれていたのか。 五年半つきあった彼女にお互いのための前向きな提案でもされたのか。 それだって八つ当たりがひどすぎる。 「…オレさ、死んだ直後でけっこう残念でさ、それでつまんね人生とか言われて、さらに次も次も次も次もずーっとつまんねなんて言われたらさ、立ち上がれんよ。」 そこで天使も少し反省したのか、背中を向けたまましばらく窓から街の明りを眺めた。(ああ、僕は夜に死んだのだ。) 反省して忘れる 君の言葉は至言だったね、ハニー。 「あ…うん、…ひとに生まれ変わらなければ他のもあるよ。」 「どんなの?」 「んーと、モンシロチョウになってサナギの途中で生きたまま寄生されて死ぬやつかー、あとは禁猟区でまちがって撃たれるシカだな。」 「つまんね人生でいいです。」 こうして僕は妥協しながら生まれ変わることになったのだ。 ---------------------------- [自由詩]偏光由来/ヤギ[2006年3月7日1時25分] 光は定められていた かなしいことを忘れていった 太陽は紙からつくられた はがせるだろう そう願えば (余白) 幸せでしょう? そうですね 幸せです 幸せです でも 愛しています 果たしたもの やりたいことがたくさんあった 毎日がおそろしかった 逃げきれたのだろうか? ---------------------------- [自由詩]夢/ヤギ[2006年3月10日22時59分] 犬になりたいと願ったことがある 大きくてまっ黒い犬になりたい バカで舌だしっぱなしだったりして まっ黒い服をきたひとに飼われるのだ 静かな家で 僕はよく眠るだろう そしてバカみたいに愛して バカみたいに愛されるのだ ---------------------------- [自由詩]どうでもいい話をしよう/ヤギ[2006年3月24日3時16分] どうでもいい話をしよう こないだ、すごい吹雪だったでしょ 真冬でもめったにないほど、すごい地吹雪で うちの犬、外に出してみたら 南極物語みたいで笑えた 雨乞いって今ではすっかりなくなったみたいだけど 昔好きだったひとが男と歩いているのにばったり遭遇してさ オレ、雨乞いしたくなったよ どうでもいい話をしよう コーヒーの匂いってさ、一つ一つ成分ごとに分けていくと なかには嫌な匂いの成分もあるんだって 匂いってハーモニーなんだよ だからオレのこの加齢臭もさ、すごくいい匂いのするなにかの、成分の一つだと思って よろこんで嗅いでごらんなさい どうでもいい話をしよう 願いが一つ叶うなら ちょっと魚屋になってみたい そして客にダミ声はり上げていいたい さあさあどれもとれたて新鮮だよ みてごらん みんな、死んだ魚の目をしてる どうでもいい話をしよう …あれ、なんも思いつかない えっと、うんっと、 イナバウアーー! だめ? え、と、 動物園の子どものマネ 「おー、くせー。すげーくせー。はやいよー、歩くのはやいよー。」 だめ? ん、 ギブアーップ! ああ、ギブアップしたいけど審判がいない しんぱーんっ どこにもいねーっ どうでもいい話をしよう 望むなら どうでもいい話をしよう いつでも君が聞きたいときに 僕が聞きたいときに どうでもよくないことぜんぶ忘れて 楽しいだけの どうでもいい話をしよう ---------------------------- [未詩・独白]くるしいとき/ヤギ[2006年3月25日4時06分] ひとがすごくくるしいとき おかしくて仕方のないものか くるしくて仕方のないものか どちらかを求めるとおもう いくらかの安らぎのために それができる文章は どちらにせよ くるしいひとしか書けないとおもう 僕はたいてい、くるしくて仕方のないものに救われる しかし、そういう文章はどうしても書けない 性分なのか わらわせようとすることしかできない りんごの木にみかんはならないけど、りんごがなる そんなふうに くるしいひとにはそれぞれの だれかの安らぎとなる文章が書けるのではないか、とおもっている ---------------------------- [自由詩]月/ヤギ[2006年3月30日17時37分] 月、あなたの非採取されてささえるためのフレーズ (しかし、わたしは列車の上で、こんな匂いの青を考える てのひらの青) 、 牛飼い、彼! 砂の朝、ふたつのうちどちらなのか わからないのに わたしはかつて愛する ffeeeeeeeeeeee!!! ホイッスル、洗濯、聞いて走るふりをする 鳥の星座、犬の星座の下で タマシー 欠けていくこととcowareigh-sawというのに関して、で かける 悔いないことはそう? もののない音楽さらっている熱帯低気圧 「なにか冷たいものをかってきます」 だれかが言います 「ねむたくなっています」 それは、白くて、白い 声をだしていちずに叫んでいるとき、 りんごと水平線の軽さは群をぬく ---------------------------- [自由詩]一行物語/ヤギ[2006年4月4日2時22分] いつか贈られたCDを川へ投げたら、15回くらい水を切った。 医者にタバコとトコトコを止められている。 圧壊する潜水艦の窓に、父の船が見える。 優しくなりたいと呟きながらどんどん小さくなったひとをたくさんの哺乳類が一口ずつなめた。 ありがとうとごめんなさい以外の言葉を探している。 故障したセスナ機から飛び降りてうまい具合に木にひっかかったのだけど、ズボンとパンツだけどこかへ行ってしまった。 美人のネクタイ売りに会うために、毎食よくこぼしながら食べている。 ぴかぴかの新車、あこがれの新車、だけどクラクションが人の声。 一度だけ見上げた空には虹がかかっていた。 毎晩ショーウインドーに葉っぱを貼っていくタヌキに名前をつけた。 封筒に小石と飴玉をいれたら、もうなにも怖くない。 ハンコを押すたびに、「イタイ、イタイ」って聞こえる気がするんだけど、そんなことはお構いなしにすっごい勢いでハンコ押していたので、ニヤニヤしてたんだと思います。 にわか雨に傘を買って広げたら、へたくそなてるてる坊主がひとつぶら下がっていた。 野生の象は一日の約17%の時間、宇宙の広さについて考える。 風のつよい原っぱで思いだすのはギターのことだけ。 ホッチキスを空中で使ったら、ギャアと悲鳴がきこえた。 お母さんに噛まれてしまう夢を見たよ、と子ライオンは笑い、そう、と母ライオンは新しい恋に気もそぞろでいる。 逃げ水と追い水にはさまれて、立ち止まったらきっと溺れる、いや溺れるわけない。 人類最古の言葉は「オマエかよ」であることが、アフリカの洞窟壁画から明らかになった。 蝶はサナギの間に両親の一生を夢で知る。 三代続いた銭湯の最後の日、男湯と女湯の仕切りは、やっぱり壊されていなかった。 20年ぶりに冷凍睡眠からめざめた恋人の眼をみて、僕は粘土の涙を流した。 ブランコでうつむいている少年の帽子には、少し止まることにしている。 皆既日食を見つめる人々の目に写っていたものを、だれも見なかった。 おやすみなさい、その他にもう少し何か話そうと考えながら、今日も眠る。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]ひよこ/ヤギ[2006年4月9日6時18分] まず、宿太(しゅくた)は色の多さに驚いた。 押し並ぶ品々の金色や銀色も、 人々の浴衣の薄紅色や朱色も鮮やかだったが、 それらがぼんやりと滲(にじ)んで、混じり合い、 透明に光っているのが不思議で美しかった。 次に、ここはどこだろう、と考えたが、 もう人波に押されて歩きはじめていた。 宵宮(よいみや)のようだった。 奇妙なことに、参拝客や香具師(やし)の体からは細い糸が生えていた。 近くに寄って、じっと目を凝らさねば気がつかぬほどの、 極(ごく)細い糸ではあるが、 頭、足、指の関節の一つ一つ、 さらには目蓋(まぶた)に至るまで無数に生えていて、 ぐうっと真っ黒い空の向こうに、煙のごとく伸びていた。 それに出店の角灯(ランターン)の光が反射して、きらきら輝いているのだった。 (みんな操り人形みたいだ) 宿太はうそ寒くなったが、 そのためにかえってこの匂い立つような夜市に魅せられていった。 右へ左へと首を伸ばして、ぐずぐず歩いている間に、 一軒の屋台の前へ押し出された。 ひよこ と書かれた暖簾(のれん)をくぐると、 そこには大きなたらいが置かれていて、 その中に沢山のひよこが歩き回っていた。 闇雲に歩きながら、一心にぴいぴい鳴くひよこ。 宿太は一目見た途端、どうしても欲しくなってしまった。 正面には老人のような顔をした、痩せた男が座っていて、 止まりかけたひよこを手にとっては、背中のぜんまいを巻いていた。 (ひよこは良く出来た作り物なのだ) そう知ると、ますますどうしようもなく欲しくなって、 頭の奥が熱くなり、石像のごとく立ち尽くした。 不意にひよこ売りは 「坊ちゃん、御銭(おあし)は持っているのかい。」 と尋ねた。 宿太は黙っていた。 「手に握っているのは何だい。」 知らずに握っていた手をそっと開いてみると、小銭が幾らか入っていた。 「それなら丁度一羽分だね。買うかい。」 半ば無意識に手のひらを差し出すと、 ひよこ売りは、きらきら燃える指で銭を掴み取った。 「好きなのを選びな。」 どことなく目に付いた一羽を選び、 受け取った宿太は、喜びで満ち足りて、 ひよこを手のひらに歩かせながら、元来た方へ引き返した。 いかほども行かぬうちに、 後ろからわいわいと云(い)い争う声が聞こえてきた。 「なんだこのひよこは!冷たくなっているじゃないか(、、、、、、、、、、、、、)!」 「旦那、どういう意味で。」 「惚(とぼ)けるなっ。どのひよこも(、、、、、、)、既に冷たくなっていると云っているんだ(、、、、、、、、、、、、、、、、、、)!」 「うちのは皆元気ですぜ(、、、、、、、、、)。 難癖(なんくせ)つけようってんなら他所(よそ)へ行って呉(く)んな。」 宿太は突然、自分でも判らぬまま戦慄(わなな)いた。 そして、買ったばかりのひよこを放りだしたい衝動にかられながら 両手で必死に握りしめ 祈るように 大急ぎで去った。 ---------------------------- [自由詩]硝子/ヤギ[2006年4月28日19時00分] どうです、非晶質(アモルファス)の中でも ゆっくりとなら動くことができましょう むしろ動き続けているのです ああ、あの藍色の揺らめきですか あれは偏光体の有糸分裂です 触れれば消えてしまいます やってみましょう 指先に触れただけで それらはたやすく消えてゆき どうしてそんな酷いことをするのか と、わたしは彼の手をつかもうとした ---------------------------- [自由詩]虹/ヤギ[2006年4月29日1時58分] さあ喜べ、虹だ虹だ わたしたちの求めていた虹が ついに流れはじめたのだ ---------------------------- (ファイルの終わり)