ヤギ 2005年5月20日2時18分から2005年8月2日12時32分まで ---------------------------- [自由詩]桜貝/ヤギ[2005年5月20日2時18分] 綺麗な声に目が覚めた 立ち上がって海岸線を歩く 波音と風音の穏やかに響く砂浜に 僕は桜貝を見つけた 手に取るとひんやりと冷たくて 薄桃色が微かに温かかった 温めるためか 温まるためか そのまま掌に包んで ポケットに入れ 僕はまた歩きはじめた ---------------------------- [自由詩]フォトン/ヤギ[2005年5月21日16時07分] 僕の撮る写真はいつも 青い空に見つけた白い月ばかり 電線が映っていても 雲に隠れそうでも 同じ空 同じ月 いつかの笑顔と ---------------------------- [俳句]夏一番/ヤギ[2005年5月22日18時18分] 春が来て当たり前に夏が来て 轢かれても轢かれても鳴く雨蛙 待ちきれず不味いスイカを啜り食う 汗垂らしカレー食いつつ夕涼み ベランダで湿気た花火を一気点け 草いきれサッカーボールを恋い慕う 水撒いて夢が実現虹越える もう一度水撒き頼み虹を食う この先は真夏に残し梅ソーダ ---------------------------- [自由詩]星見地点/ヤギ[2005年5月24日5時27分] あっけなく飛び込んでいった プールに飛び込むみたいに嬉しそうに 星を見上げるのは星になろうとするためか 弾け飛ぶ後悔と切望のように核融合によって放出されるエネルギー波 フォトン それを見つめて頬を伝うものは僕をどこかへ運ぶのか 否か そうしてまた僕は戻ってくる しかし残された全身を引きちぎろうにも羽毛なんて生えていない 代わりに両肩をちぎれる位につかむ もう忘れよう そう呟いてどれくらい経ったんだ −炎に投げ込めば雪玉だって燃えるだろう?− 光なければ照らない岩塊の暗部であるここも どこかの星 −星になるんだ いつかここまでおいで− でも星なんかたくさんありすぎてどこへ行けばいいのかわからないよ 今頃になって気づく 僕はずっと見上げていたんだ 籠一杯の花びらを橋げたから撒く 綺麗に流れるのを見ようと思ったのに 暗すぎて何にも見えない あんなに色とりどりの花びらは皆どこかへ流れてしまった ただ 散ってゆく様 風に飛んでゆく様は 涙が出るほど美しかった ---------------------------- [短歌]カスレ木/ヤギ[2005年5月26日2時26分] 夢置いて暮れる中空声カラス 阿呆阿呆となくは誰が為 走り去る回送電車に見し人と命を賭して擦れ違(たが)いしや 記憶せしその名霞みて迷い道 あるべき日々に眼を凝らすのみ 取り返す結晶水に掬(すく)われよ 色無き心白色(はくしょく)たるか 手を添えて溶岩流より生じたるこの崖溶けよと祈るならまた 木皮(もくひ)食い雨滴(うてき)飲み込み我を呼べ 亡骸纏(まと)う歯弱き猿と 息奪い鼓膜痺らす風圧に薙ぎ裂かれつつ咲く花よ咲け ---------------------------- [短歌]蟹モラ/ヤギ[2005年5月28日21時10分] モラ(子) −背骨− 黒焼きのサンマの背骨噛みながら十三回忌想う子二人 −ゼリー− 満ち欠けも両手離しで迎える夜月花(げっか)固めたゼリーに満ちて −産毛− 産毛吹く桃贈られて種を植え子の子食うかと仰ぎ積雲 −モラモラ− 夏野菜モラモラ茹でて塩を振り畑に運ぶみんなモラモラ −蜘蛛の仔− 叢(くさむら)に爆(は)ぜる蜘蛛の仔吸い込んで咽(むせ)て吐く子とそれを笑う子 −アスファルト− 熱知るかアスファルトに頬を焼き走り寄る子の眼に映る夏 −バレリーナ− バレリーナになりませんかの看板随分前に外された跡 −猫じゃらし− 両腕に抱えて帰った猫じゃらし花瓶とコップとブーツに挿して 蟹 −斜頸の写経− 竜巻の心臓に杭打ち入れて斜頸の写経一歩でも上れ −蟹バリズム− 噛みついた日々は殻ごと腐り死に飲み下す友蟹バリズムに −パリの張り裂け− 雑踏に打ちつける波胸耐えず「異人」と吠えるパリの張り裂け ※月花…月の光のこと ※モラ(子)のお題はザラメさんから、蟹のお題は麻野梵四郎さんから頂き詠みました ---------------------------- [自由詩]されこうべ/ヤギ[2005年5月30日1時44分] きれいなものだけ見ていればいいよ そう言ってくれた人の眼は溶けてなくなって 代わりにそこには何が入ったのですかと尋ねたら 寂しそうに笑ったんだ ---------------------------- [自由詩]下がる/ヤギ[2005年5月31日1時45分] この世は河であると教える坊主を川へ叩き込んでやったら 喜んで魚になったので悲鳴を上げて倒れた僕は いつの間にか全身にバターを塗られ 毛並みのいいマルチーズが耳打ちする 「それは百年金縛りだ 解く方法はある ゾウリムシになっても良いのなら」 すっこんでろと怒鳴るつもりが 声は喉の下でウンウン鳴るばかりで ちょうど今際(いまわ)の戯言(たわごと)か壊れた目覚まし時計のベルに聞こえたらしく 老いた花売りは僕の体中の穴という穴に手持ちの花を突っこんで手を合わせ 通りすがる者は窒息するほど笑った後 辺り一面を真っ黒に埋め尽くしたカラスの群れはいっせいにつうつうと涙を流したのに それは天気雨が眼に入って零(こぼ)れているだけだったものだから ---------------------------- [川柳]デリバリーズ/ヤギ[2005年5月31日4時35分] 電話中「それを一枚持って来い」 やれ走れお好み焼きの熱いうち 鰹節向かい風には耐え切れず スーパーで「そいつ一盛乗せてくれ」 エレベータ匂いきつくてスミマセン こんばんは要望通り持って来た ナンダこれ小麦粉卵キャベツだけ そりゃそうさ安くて旨い 旨いだろ? こんなもの食えるものかと突っ返す 酷いヤツ!食べ終わるまでちょっと待て 疲れたよ朝までここで遊ばせろ ---------------------------- [自由詩]彼は上ばかり見て/ヤギ[2005年6月1日10時02分] 山道を登るときには足元を見るものだが 彼は上ばかり見て 其処にのたうつ木の根があるかも知れず 泥濘(ぬかるみ)があるかも知れず 急勾配かも知れぬのに 彼は上ばかり見て まだ立っているという保証はなく 倒れたまま足だけ動かしているのかも知れぬのに 彼は 顔を持ち上げ 首を伸ばし あの眩しい木漏れ日に目を細め 彼は上ばかり  見て 彼は ---------------------------- [自由詩]海への疑問/ヤギ[2005年6月2日17時41分] 心のしっかりしている時間が随分増えた しかし私は揺れ続けている 「世界は海のようなものだ」 という比喩は見事だと思う それを受け入れるなら私はその海のどこにいるのだろう 海はひとつか 海の一部とはどういうことか ひとつの海なら自身と周囲にこれほどの違いを感じるのは何故か 憧れ続けるのは何故か 何にか いつか分かる時がくるのか ひとつの海であると受け入れられる時が来るのか しかし一滴の海に何が分かるのか 宇宙はあんなに美しく映るのにそれもただの反映でしかないのか 自身以外のことは推測でしかない そしてそれは自身についても言えることだ ならばこうして考える私は一滴の海ですらない そんなものがひとつの海になるはずはない 海は海を思わない 海から生まれて海を否定している 海であるはずなのに 海でしかないはずなのに 海 ---------------------------- [自由詩]甘い廃屋/ヤギ[2005年6月3日14時39分] 住人はとうにいなくなったらしい 不思議ときれいだ レースのカーテンが風にふくらむ 明るいキッチンの テーブルの上に 氷ざとうがある グレープフルーツくらい大きい 甘い いつでも食べられたはずだが 食べた覚えはない 静かだ 葉が風にそよぐ おそらく夏だ 日差が暖かい 目を閉じる 風に包まれて 私は 氷ざとうを持ったまま 懐かしい 笑って過ごしていた 窓辺に立てば空は きっと青い 甘い なめるたびに 支えられない もう 落とすだろう 甘い 氷ざとう ---------------------------- [自由詩]鈍色の君/ヤギ[2005年6月4日21時33分] 1 太陽が 赤い 赤い? 赤茶色の大地なんて ハ ハ ハ ハ 見たナァ  映画で 土ぼこりが暖かい イヌみたいに 大きいナァ きれいだナァ 雲も風も アア 大きいナァ 空はそんなに 永遠だったのか 2 知っていたわけないね 君の背骨を僕が見上げることなんて 学者に聞いたら 「黒い霧のような肉をまとって生きていたらしい」 だって 整って並んだ背骨が美しい 何も思わないから美しい 何も見ず感じずただそこにいることが美しい 3 たった千年 ちょっと昔に生きていた 人 の頭 の骨 ハローハロー またいつもの勘違い * 骨と骨の重なる山の中に カリカリと潜り込んで眠るのは幸せだろう 向かい合うどくろどくろ どくろどくろ ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]上司手帳/ヤギ[2005年6月8日17時51分] ・前夜 良い上司になろうと決めた。 理想的な上司がするべきことは知っていたのだが、 今までの自分をある日突然変える、というのは勇気のいる事で出来ないでいたのだ。 しかし照れていても仕方がない。 決めた。明日から良い上司になる。 初めてカツラを被って出社する人の心境もこのようなものなのだろうか。 さしあたって部下を探すことにした。 何せ僕は浪人生であり、浪人生に部下はいないのだ。 そして部下がいなければ良き上司どころか悪き上司にさえなれないのだ。 周りを見渡しても部下になってくれそうなのは、人間でいうなら齢80歳位の老いた飼い犬しかいない。 お休みのところ起きてもらって頼む。 「ちょっと、明日から部下になって。」 やれやれ仕方ないなと溜息をつきまた眠る飼い犬。 彼は寛大なのだ。 ・翌日 0830 出社する。出社といっても一日中家にいるわけだが、 「出社した。」 と宣言すると気の持ち方というものが違う。 オフィス(居間)に落ちていたゴミを拾った。 <上司の心得1 上司は率先して社内のゴミを拾う> 0900 定刻通り出社してきたボブに挨拶する。ボブとは彼に新しく付けた名前だ。 本名のプースケ、ではいまいちオフィス感がでない。 そこで会社ではボブと呼ばせてもらうことにした。 インターナショナルな会社なのだ。 「おはよう、ボブさん。」 <上司の心得2 上司は自分から挨拶をする> <上司の心得3 部下を呼び捨てにしたり〜君とは呼ばず、〜さんと呼ぶ> 彼の出社の定義は僕の出社の定義と同じである。 1115 僕は大変忙しい。お昼に何を食べるのかまだ決まっていないのだ。 そんな中ボブがミスをする。 グアテマラからアボカド1000箱輸入するはずが、間違えてアボガドを1000箱輸入してしまった。 以前にも同じようなミスがあった。そのときはカピバラと間違えてカビパラを20匹も捕まえてきた。 濁点が苦手なのだ。 しかしだれにでも短所はある。ここで怒鳴り散らしたって何も解決はしない。 どれだけ重大なミスかは彼も良く分かっているだろうことは推して知るべしである。 僕はゆっくり深呼吸をしてから一つずつ笑顔で指示を出した。 <上司の心得4 上司はいつでも余裕たっぷり> 1420 ボブの様子がおかしい。部屋中を歩き回ってなにやら匂いを嗅ぎまわっている。 先ほどのミスが心に負担をかけたのかもしれない。何気なく元気づけてやらねば。 何も聞かず、取って置きの葉巻(ビーフジャーキー)を渡して声をかけた。 「なあボブ、バオバブの種が1500円で売られているそうだよ。気の長い話だよな。」 それからは少し落ち着きを取り戻したようだ。 葉巻を吸うボブをなでてやろうかと思ったが上司の心得5を思い出し止めた。 <上司の心得5 セクシャルハラスメントには十分気をつける> 1700 その後は何事もなく、今日も一日が過ぎていった。 少し早いが、疲れも溜まっているようなので今日はもう終わりにしよう。 僕は反省する。 −声をかけていない部下はいないか いない。 −話を聞いていない部下はいないか いない。 −褒めていない部下はいないか ボブを褒め忘れた。 −フィードバックしていない部下はいないか いない。 良い上司になろうと努めたが、中々満点はとれない。 どんな道も簡単に極めることはできないのだ。 そしてもうひとつ気づいたことがある。 今日一日何故か勉強が進まなかった。 大変不可解だ。おかしいおかしい。 熟考の末一つの結論を出した。 これ、今日で終わりにしよ。 <上司の心得6 上司への道は上司になってから> *これは「上司手帳」(ディスカヴァ−・トゥエンティワン)からヒントを得て作られたものであり、 上司の心得はほとんど同書からの引用です。 ---------------------------- [自由詩]銀の鈴参り/ヤギ[2005年6月11日14時24分] それは不思議な行列でした 新月の夜でしたのに ぼんやりと照っていたのです そこかしこからケタケタと笑い声が聞こえましたのに 誰も笑っていないのです 一行は静々と厳かに歩みます この世の者ではないようでした その中の一人が竹を担いでいました 竹には幾枚かの紺色の短冊と 幾つかの銀色の鈴が揺れていました 鈴はしゃりんしゃりんとかき氷の溶ける音を立てて それがなんだか懐かしく思えまして 私は後について行ったのです 暫くして竹を担いだ男はこちらを向いて 薄うく笑い ぽつ、と一枚短冊を取ってくれました 指を触れると仄かに青白色に光ります 私は小指で願い事を書きました ・・・・・・・・る力をください 短冊は自然と舟の形に折られてゆき その中に水が湧きました 夜の川の色です いつしか笑い声は止んでいて 私はそれを飲まなければいけない気がして口に含みました ほとんど匂いも味もなく心地よく冷え 鼻に抜けるごく微かな甘みに胸がすき とても優しい気持ちになりかけたのですが私はその水を 吐き出しました 男はそれに怒るでもなく 笑うでもなく 悲しむでもなく ちょうど墓石を前にした人が見せる独特の無表情さを見せて すいっと背を向けた拍子に消えてしまい 私は取り返しのつかないことをした気持ちになりながら 見知らぬ山道に一人 笹舟を手にして立っていたのです ---------------------------- [自由詩]真珠の墓/ヤギ[2005年6月18日19時12分] ブローチを包んだふたりの手のひら真珠貝 そのまま取って置きたいと思った冷たい毛先のにわか雨 ひとつひとつキズを覆った笑顔真白より少し優しい 決して触れ合うことはない生きている限り どれほどの物をつくれるのか怖ろしいそして君はそれを 二つの真珠入れ替わるという空想は胸を貫いて そばにいるだけでぽたぽたと零れて名前をつけたうれし涙 貝殻に包まれて積もる幾億万の真珠の墓 ---------------------------- [自由詩]口笛の音/ヤギ[2005年6月25日5時42分] 小さな口笛風に飛んでく メロディーが不思議なのは 思いつきだから 草っ原の朝露が 少しズボンに染みてきた 僕は何も考えていないから ヒュヒュヒューヒュー カラスが一羽降りてきた ぴょこぴょこ跳ねて 目が合ったら飛んでった 僕は何も考えていないから ヒュヒュヒューヒュー ---------------------------- [自由詩]サンダラー/ヤギ[2005年6月26日11時26分] 1……うん 2……うん 3……うん サンダル履いてこ アツは夏くてサンダルでないと 図書館行くときも卵買いに行くときも ゆっくり歩いて キュッ キュッ 帽子は麻製つば広し 変則スキップ キュッ キュキュッ カバンがエリクビ伸ばしてく 大腕振って キュウキュウキュウキュウ うちわを腰に差し込んで 大人の落ち着き キュン キュン キュン リノリウムには跡を残そう ガックリと濡れたヒマワリ畑から 川に潜ったくらいびしょびしょのまま でっかい虹を見た 空に 生き返った笑い声鳴った 夏が来るたびサンダル買おう ご近所一同サンダラー 僕もあなたもサンダラー 夏が来るたびサンダラー ---------------------------- [自由詩]気楽な祈り/ヤギ[2005年7月2日12時05分] −祈りは役に立たない いつか言われた その言葉ずっと胸にひっかかっていたけど やっぱり認められない 何かできることあるかなぁと探しても 何だかひとつも見つからなくて 結局いつもと同じ一日を送りながら 気がつけば祈っていた 君の健康と幸せを −それは自分のため そういう意味で言ったんだろか そのときは聞けなかった 今更思うんだけど きっと少しでも役に立てばと祈るんだ メガホン握りしめてエールを贈るみたいに 簡単なことだった それがしたかったんだな 喜ばないなら止めればいいんだ 楽になった 気楽に祈ろう いつもと同じ一日を送りながら 君の健康と幸せを ---------------------------- [自由詩]身体気象情報/ヤギ[2005年7月5日13時20分] 揺れるたび 気がついて 明日を誘った夏の風 歩道に深まる僕の影 大空と 呼んでみる ガードレールに腰掛けて 知らない翼は陽に透けて 身体気象情報をお知らせします 晴れ晴れときどきドキドキ 曇り曇りときどきサクサク 所により一時トロロ 氷菓子 失った セイヨウタンポポ雨に濡れ 虹を探すのも忘れてた もう一度 呼んでみる 今は涼しい夏の風 遥かに澄みゆく君の空 ※即興ゴルコンダに投稿したものを一部改稿 ---------------------------- [自由詩]半分消える/ヤギ[2005年7月6日21時26分] クジを引いて、中をみたとき消えるもの 花が咲いて、そのとき消えるもの 求めて求めてやっと辿り着いて、消えるもの 氷でできたグラスが消える 名のない匂いの記憶が消える 人には言えない重なりが消える 手を伸ばすと消える 消えたと気がつくことで消える それに驚いたことで消える 消える消える ドミノ倒しのようにどんどんどんどん 全て半分ずつ消えていく 声を出せなくなる 目を開けなくなる 怖いとは言えない 目を閉じられない その中で手を伸ばす その先から手を伸ばす人 その理由 半分消えながら ---------------------------- [未詩・独白]もうひとり死ぬ/ヤギ[2005年7月8日2時00分] 世界のどこかで 一秒あたり二人死ぬそーだ あの人もその一秒の二人のうちの一人にすぎないわけだ 「自分が死ぬ瞬間に、どこかでもうひとり死ぬ」 それは少しだけ優しいトリビアな気がする その人に生きているうちに会えたら面白いんだけど かわいいコが良いなぁ 嫌なヤツだったら嫌だなぁ オッサンは勘弁してほしいなぁ ---------------------------- [自由詩]音楽/ヤギ[2005年7月10日1時24分] 何千という群れを養う 豊かな牧草地の中で 音楽は再生した 静かに呼吸しなければ その音に紛れてしまう 星の明滅よりも微かに 息をひそめて やがて高音部が聞こえてくる そして低音部を感じる そうメロディーが掴めれば 一度に音楽は私の中へ 体を震わせ 血液を震わせ 細胞を収縮させて 呼吸は響きを持ち 音量はもはや意味を持たず 繰り返す 音楽が私の中で繰り返す 音楽が 繰り返す 私を繰り返す 私の中で繰り返す 音楽が私を 音楽は私を メロディーに 私は 音楽の中で繰り返す 夜のたびに 遠い遠い夜のたびに 私は私は 遠い遠い夜のたびに 私は私は私は 遠い遠い夜の 奇麗な メロディーに 私 私は ---------------------------- [自由詩]生まれた日/ヤギ[2005年7月13日2時56分] 生まれた日のことを覚えている ちらちらと雪が降って がやがやと人の声が聞こえた そして何度か暗くなった 明かりは穏やかに灯った 鳥の声が聞こえた 硬貨の匂いがした 笑っていた 抱きしめられていた 泣いていた ---------------------------- [自由詩]ミミズが傘を差した日/ヤギ[2005年7月15日12時55分] 小声で呼ばれて小声で教えられた (左左、ミミズが傘を差してる) 顔を向けようとして止められた (向いたら気づかれる) 目の端っこで何とか見る 確かに紫色のミミズが ランドセルを背負って 戸棚の縁にたたずんでいる しばらくそのままだったが ふいに黄色い傘を広げ た 花の咲くように 不思議なものを見ている 家の中で 雨なんか降らないのに ミミズが傘を差している もうこんなの見られないだろう ミミズも傘を差す 理由は知らないけど ---------------------------- [自由詩]お遅うございます/ヤギ[2005年7月16日3時17分] お遅うございます。 夜ですね。 昼行性の私達は眠る時間です。 今日も一日しっかりと体を弛緩させてください。 データをバラバラにして整理してください。 自分の事をずいぶんシンプルと思っていましたが 整理するときに、なんでもポイポイ簡単にしまいすぎていたようです。 もっとそのひとつひとつを見極めたいと思います。 それには予想外の結果を受け入れる覚悟が不可欠だと考えています。 正直さが大切だと考えています。 直感に導かれて、というのはある意味確率に身を任せるようなものではないでしょうか。 交換するということです。 私達の近づいているのは。 それは人が生きるているうちに何度もできることではないのです。 情に流されることは許されていますが、それでは見つからない気がしています。 怖ろしいですね。 唯一と感じるものを見ることすらできずに終わってしまう可能性のなんて大きいことでしょう。 雷のほとばしり 地球の重力 砂砂漠の乾き 時間の流れ 想像すらできない広さ 崩壊 始まったものの終わり 生まれ変わり それらに似た直感に逆らって見極めたいと思います。 それが同じものであるのか。 「全く同じものを求めるのなら何のために交換するのか」 「わざわざ交換するにたるものがどこかにあるのか」 それは未だ考え中です。 それではどうぞ良い眠りを。 追伸 交換することは何故かいつでも悲しかったです。 とても優しかったのですが。 追追伸 願いは呪いでもありえると思います。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]ウォーリーをさがして/ヤギ[2005年7月20日5時50分]  10年くらい前「ウォーリーをさがせ!」(マーティン ハンドフォード著 フレーベル館)という絵本が流行った。ストーリーはなく、見開きいっぱいに描かれたたくさんの人の中から、縞々シャツのウォーリーを探して遊ぶのだ。誰かを探すわけじゃなくても、たくさんの人が描かれた絵というのは子供向けの雑誌なんかでよく見られた。僕はそういう絵が好きだった。一人一人に感情移入して、その人たちが何をやっているのか想像するのが楽しかった。  もう少し大きくなって、僕は電車やバスから街を眺めるのが好きになった。人が見えても楽しいけれど、家の中にどんな人がいて何をやってるのか想像するのは面白い。さらに経って、遠くに見える街の人についてだけではなく、人ごみの中で周りの人々について色々想像するようになった。「出かける前、時間がなくて、使った食器はテーブル置いたまま…」「帰ったら『暑いー』と叫びながら靴下を脱いで床に倒れこんで・・・」男女を問わず、年齢を問わず、めったやたらに妄想する。同年代の男なら簡単だ。高校生は懐かしい。女の子については多分間違いだらけだ。中年、老人、小学生、その生活を考える。そして人は様々だと思う。  あるときある場所に人がゴッチャリ集まっているというのは、たくさんのものさしが、違う目盛りで重なっているということなんだろう。その目盛りは年齢だけじゃない。心の持ち方、賢さ、強さ、荷物、環境、欲、大切なもの、周りへのスタンス、全て違う。それは視界と言葉が違うという事だ。誰でもそれぞれの視界と言葉で生きるしかない。  「それぞれに、人が、今、生きている。」  ただその不思議が僕を捕らえる。それは閃光のようで、目の前を真っ白にする。大げさではなく、たまに立っていられなくなる程に眩しい。街中の人々ばかりではない。友人たちも、両親も、僕もそうなのだ。そう思うと体が震える。自分でうんざりするような感情や欲も、それは決して綺麗ではないとしても、眩しい。これまで何をしてしまっていても、生きていることは間違いなく眩しい。ぶつかるたびに焼き切れながら生きている。閃光のように人々が今生きている。 ---------------------------- [自由詩]君と僕vs全世界/ヤギ[2005年7月23日5時14分] 「帰ろっか」 「ういーーっす」 来るときには僕がこいできましたが 帰りは彼がこぎました もう日が射していました 僕たちと自転車は塩水にぐっしょりぬれていたものですから 図らずもきらきらと輝いていたのです 頭の中では穏やかな曲が流れていました アコースティックギターのリフレインです 冷えたままの彼の体は昨日よりもまた少し欠けています 彼の妹はさようならといって 馬(!)と一緒にどこかへ行きました それでも帰ろうと思えたのは 死んだ理由を探すと言いながら 毎日ぼさっと過ごしている彼のおかげでしょう だれもいない国道で 僕たちは自転車に乗っていました ---------------------------- [自由詩]空の子/ヤギ[2005年7月25日17時21分] サワレナイという女の子がいました 何を贈られてもそれに触れないでかなしそうに笑うので そう呼ばれていたのです サワレナイはある朝、さみしい夢に目を覚ましました そして、毎朝そうやって起きていたと気がつきました いつ頃からだったのでしょう 見る夢がさみしくても生きていけますが まるで冷めたスープを飲んでいるような、つまらない気持ちでした そんなとき、街外れに良い医者がいると聞き、診てもらいました 医者は両目をのぞき、心臓の音を聴いて言いました 「これはいけない 君はね、人を信じることができないんだ それも決定的にね このままでは一生さみしい夢を見続けるよ 治すのはとても難しい でももし本気で治したいのなら、好きなものを集めなさい 一生懸命集めなさい」 特にこれといって好きなものはなかったのですが いつでも空は好きでした それで空の写真を撮ってアルバムを作ることにしたのです 風の強い日の空 二層の雲に夕焼けが染みていく空 子どもの頃と同じに熱い空 仄白い二日月が見守ってくれている空 ありきたりの曇り空 ひたすら青い空 たくさん写真を撮って 何冊もアルバムができました 部屋中に空の写真を貼りました けれどさみしい夢はやみません 「もしかしたら、ずっとこのままなのかもしれない」 そう思いながらカメラを置いて ぼうっと街を歩きました 人々は黙々とすれ違います だれも空を見ていません 夕方になりました 沈もうとする太陽が 並び立つビルを照らしています 夕陽は窓ガラスに反射しています 「とてもきれいだ …あのビルの光と同じように、人や、そして私を照らす光も、ほんの少しだけど空の向こうへ返っていく 光は同じ」 そのままふと考えました 「もしも、何にも疑わなくていいとしたらどうだろう 伸ばした手はだれも傷つけなくて 人がかけてくれる言葉は優しさからで 目と耳を塞いで口を閉じていても、心の中でだれかと幸せを願い合える それはなんて温かい世界だろう 夢のようだ まっすぐに生きられると、どうして思えていたんだろう 疑わない ただそれだけが難しい ああ、そうか なぜあんな夢ばかり見るのかようやく分かった そしてその苦しさ、また温かい夢を見ることの難しさが本当に分かった」 その後、さみしい夢がやんだのかは分かりません しかし写真は一枚ずつ増えていきました 本棚いっぱいのアルバムには 空と 空と 空と 空と 人と 人と 人と 人と そればかり ---------------------------- [川柳]コルク抜き/ヤギ[2005年8月2日12時32分] 相槌を打った拍子にしばかれる 理不尽と怒った拍子に褒められる 声もなく戸惑う拍子に捻られる 捻られた私はとうにコルク抜き 帰ること忘れてたまにコルク抜く 抜くコルク声なく捨てられ埋められる 錆びゆけば金物なりに霊と化し 漂って百年かかって家に着く ---------------------------- (ファイルの終わり)