青星円 2018年6月14日15時26分から2018年12月20日12時17分まで ---------------------------- [自由詩]花嫁/青星円[2018年6月14日15時26分] 家路の途中教会の前を通ったら 華やかな結婚式が行われていた 入り口のゲートは開かれていて お祝いに来たたくさんの人たちが 花びらを宙に舞わせて新郎新婦が出てくるのを待ってる 庭に出てくるすらりとした長身の新郎 半歩遅れて手を取られ庭への階段を降りてくる新婦 白いヴェールに白いドレス 手には真紅の薔薇のミニブーケ 遠目にも分かる、美しい女性だ しかし、ぼくには見えている 新婦の頭の白いベールは燃えている 青と赤の混じった炎を放っている 多分彼女も感じ取っているはずだ 彼女と目が合った 「おしあわせに」 聞こえない距離だけどひとこと言って ぼくはその場を後にした ---------------------------- [自由詩]星の熱動/青星円[2018年6月16日11時17分] 体の膿を排出しようとするが 叶わず 熱は体力を奪い はいつくばる 夜は深く シリウス・カノープス・リギルケンタウルス 輝いてる 寝返り打ちながら 胸の鼓動確認し脈数えてた 眠れない夜 思いだけなるだけ遠く あの銀河まで 薬の作用で見る幻も 太陽フレアに溶けた 存在、意識、そして至福 ---------------------------- [自由詩]頭の悪い詩/青星円[2018年6月25日13時27分] 死へのあこがれを 4階のベランダでかみしめてた YESかNOの答えを求められて あいまいな答えをして殴られた コンクリートに打ち付けた 頭はよけいパーになってしまった パーになったので気軽に 血管に異物を流し込むようになった 異物は死を親くしたが 気持ちは生にすがるようになった もう4階のベランダには行かない パーでも生きることはわかる これからもパーのまま生きる パーのままで死ぬまで生きる ---------------------------- [自由詩]ユーエフオー/青星円[2018年7月12日14時07分] 都会にはたしかに 星はないけど 変わりに美しく光るもの たくさんあるねと 君は白い息を吐きながら言った じゃああれはなんだ 輝いてありえないギザギザに飛ぶ 君は「UFOだね」と言って 笑った 君はその週の終わり 他の男のところへ行ってしまった あの夜空に輝くUFO あんなもの見たのが 良くなかったのだろうか ---------------------------- [自由詩]パーセク/青星円[2018年10月24日16時50分] あのパーセクの向こう 猫には見えるのだろうか 死んでいった魂が 都会では星さえ見えないが ほんとうは暗闇の向こうに先があるのだ しんとした部屋、片付いてはいないが汚くもない 自分はこの大きめのLDKが気に入っている 4階のベランダで空に手を伸ばす 事故物件にしてしまうにはもったいない部屋だと、考えた 猫が足元にすり寄ってきた 部屋へ戻って食べかけの林檎を食べよう ---------------------------- [自由詩]僕が一階にしか住まない理由/青星円[2018年10月28日15時29分] かろうじて嵐の前に帰っていった 君の寝ていたベッドのへこみがまだ残っている 新学期の飛び降りのニュース こんな天気じゃ天使も飛べないだろう 4階からなら助かるかもしれない ニュースに聞き耳を立てる 強風にあおられ天使は土の上に落ちたそうだ 神様はきまぐれだ 君の残したベッドのへこみに顔を埋めてみる 君の鼓動が聞こえてきそうだった 一度飛び降りたことのある君 僕は一階にしか住まなくなった ---------------------------- [自由詩]君との眠りの世界線/青星円[2018年11月8日10時15分] 皿の上に1/4に剥かれて干からびた林檎がふたつ 淋しくて寄り添うように折り重なってる 音のない世界にカサリと観葉植物の葉の落ちる音 それでも君は決して起きたりしない のそのそと目覚める君 寝ぼけまなこでおはようって言ったけど もう11時を回っているよ ぼくはといえばピンクと白と黄色の薬を飲んだのに まったく眠れていないんだ 君と重なることができない これでは僕は君と重なることはできない ---------------------------- [自由詩]高温星/青星円[2018年11月16日0時20分] 青星灯る夜に、コールタール色の水底から貴方が呼んでいるのだけど、私は泳げないし、よく見ると確かに星や月が水面に映り込んでいるのだけど、それを捕りに行く気にもなれない。 今日はやめておくわ、と私は言って家路に着いたけれど、どうも後ろから水をぴちゃぴちゃさせながらつけてくる人がいる気配がする。 貴方はもういない人なの。わかってほしいけれど、 「わかってないのは私の方ではないか?」 ふっと思った瞬間足音は消え、星天だけが私を見下ろしていた。 ---------------------------- [自由詩]Fiction/青星円[2018年11月16日12時49分]  いつまでも花のように笑んでいてほしかった―――  この世ではじめて美しいものを見たと思った。彼女の瞳の中にはいつも星が宿っていた。その星は真昼でも太陽にまけず照り輝く、地上で一番明るい星だった。そして永遠に輝いていられるはずだった。 ―――私はダークマターのように彼女から微笑みをうばいとってしまった。  彼女は、笑わない、少なくとも、この世のものたちには、誰もわからない、彼女は、誰にもわからない、彼女を…。  星は輝きを失った。一見して輝いてるかのように見えたとしてもそれはただ光をはねかえすだけの硝子の輝きでしかない。多分、その星は光をとりもどすことはないであろう。それに、彼女にそのような意思がまったくないことも確かだ。  漆黒のナイフ…あれが始まりだった。あれが全ての始まりだった。彼は凶悪な人体のパロディーのようであり、同時に十字架の形をしていて私を見ていた。暗黒の…漆黒の剣…光を照り返すことさえない、まるで私のようだ。そう、剣は私の分身のように、私の体内から生まれ出たもののように思えた。 彼を生み出したのは私… そう…すべて…  ―――すべては私のせいなのだ…。  彼女にはいつまでも花のように笑んでいてほしかった。  それを壊したのが私で、勝手ないいぐさだとはわかっていようとも、私はそう思わずにはいられないのです。 ---------------------------- [自由詩]ビデオゲーム/青星円[2018年12月5日0時53分] ビデオゲームの基盤が転がっている ブラウン管のモニターはとにかく重い 走査線と1イント ドットとインターレース 僅かなモニタのにじみ 私にはそれがすべてだった いまでもそれがすべてでありたかった 心も傾いて縦画面になっている 消磁ボタンを押してほしい 私のディップスイッチ 何番をオフにしたらいいかわからないのです ---------------------------- [自由詩]見えないビジョン/青星円[2018年12月5日12時10分] 昨日見た夢 全く意味不明 何もないビジョン いっそ鳥になろうピジョン 先の見えない迷路 俺の未来は何色? 俺は勇者のはずだった 今は家でシーシャ吸ってる 自分に何もない感覚 ありもしない絵を描く こんなのは嘘だ 俺はドアをあけ外に出る ---------------------------- [自由詩]パーセクの向こう/青星円[2018年12月13日19時32分] HOLGAのトイカメラに 写し込まれた群青 ひっぱられて端の歪んだ空 空の向こうパーセクの彼方 星星のあいだにあなたはいるの 虚空を見つめる猫の目には果てが見えるの すべてが宇宙でつながって いつかあえるとしたら 全部イコールになるのだとしたら 私は粒子になる日まで 世界の果てで祈りを続ける ---------------------------- [俳句]脳細胞/青星円[2018年12月14日10時58分] たくさん寝ても 眠れなくても 壊れていく脳細胞 ---------------------------- [自由詩]片思い/青星円[2018年12月20日12時17分] 僕は長い長い花葬の列に並んでいる 空は茜と群青の混じり合った見たこともない色をしていた 片思いが死に変わる瞬間がもうすぐ来る 君の顔は花に埋もれ見えはしなかったが 死臭と花の香りの代わりに油絵の具の匂いがした 君に違いない、そんなに強い油絵の具の匂いのする人なんて 他にいやしないさ 好きだと言ってた気がしたから、カラーの花を添えた カラーを供えてるのは僕だけだった 青い山羊に乗った君の父親がありがとうと頭を下げた 亡くした片腕がじわりと痛む せめて君と一緒に亡くして良かった 僕はいつか他の人を好きになるんだろうか? この痛みを忘れる日がくるのだろうか? ただ確実なのは、君とはさようならだということだ ---------------------------- (ファイルの終わり)