羽根 2018年12月9日23時52分から2019年1月6日1時15分まで ---------------------------- [自由詩]細胞死/羽根[2018年12月9日23時52分] 真夜中に広い低気圧が去り 黒雲は静かに消えていく 雨で成長した植物は何も答えることはない 太平洋に発生する温暖な高気圧は ゆっくりと白雲と共に動き出し 隠れていた生物を無言で白く脱皮させる 人間は体の恒常性を保つために プログラムされた アポトーシスと言う生理的な 細胞死を繰り返し行うが 時の経過とともに活力が衰えて 細胞死は減っていく 私はそれを知らないで生きている ---------------------------- [自由詩]スラム街の坂道/羽根[2018年12月15日23時16分] 段々と暗くなると 高層ビルの窓は オセロのような欲望の明かりが灯り ピンクのネオンサインが溢れ 歩道は一面の雪の様に白くなり それに集まる無数の黒蟻 移された木々は異様で 場違いのような曲がりくねった緑に育ち 夜を知らない街に様変わりする都会 夕方になると裏にあるのは薄汚い石畳の坂道 坂の上は暗い袋小路のスラム街 石と石の間は蝸牛や蛞蝓の通った後のように黒く光る 坂の両側は古い家の安物の板塀や 罅が入って倒れそうなブロック塀 薄黄色い下着の洗濯物が無造作に吊るされている 川辺から二つの石を持って来て 水ヤスリで削って丸くして 石にはボブとミックを塗り込める 手を離すとコロコロと石はゆっくり下がり始める 回転する石は時々は飛び石のように少し跳ねる 坂の十字路は殆ど平たく静かに転がって止まりそうな時 急に石は灯台のように閃光を放ち始めた 転がる石はまた坂を下り始め 段々と回転と速度を増し しだいに遠くに離れて小さくなると 逆に遠くになればなるほど 割れた教会のステンドグラスや 回らない万華鏡 汚れて剥がれたクリムトの金色のような色彩を放ち 鋭さを増し眩しいほどに明るくなる 遂に石の存在を消すほどの輝きになると 大きく跳ねて水平線の上に浮かぶ夕陽に飛び込み まるでローマ帝国が繁栄を謳歌したような 都会のイルミネーションよりもさらに美しく 均衡した石畳のスラム街の坂道を映し出し いづれは沈む夕陽にさらなる輝きを与えていた ---------------------------- [自由詩]初恋/羽根[2018年12月21日9時38分] 歳を重ねる度に 人間の落とす雫の大きさは 段々と小さくなり不安を感じるが そんな時は気晴らしに 美術館の近くを散歩をして 入館して色々な絵画を見る 偶然か 横断歩道の向こうに 高校時代の君がいる 一年で終わった恋 でもどうして君は昔のままで 私は年寄りなのか 美術館で私が描いた 「初恋」という題名の絵を 見ている自分がそこにいた ---------------------------- [自由詩]遅れたクリスマス/羽根[2018年12月29日20時32分] 搭乗前に酒を飲み過ぎて 今日やっと起きたサンタは トナカイに引かれて ゆらゆらと蛇行運転をしながら デュークエリントンの 「A列車で行こう」の名曲に乗せて 夜空を飛んでいる サンタが 何か食べ物を落とさないかと 奈良公園の鹿はせんべいを 足元に起き あんぐりと口を開け 空をずっと見ている https://youtu.be/cb2w2m1JmCY しかしジョンレノンは無視をして ハッピークリスマスを一人で歌っている https://youtu.be/sbKQ7nXx0o8 ---------------------------- [自由詩]空き缶/羽根[2018年12月29日20時36分] 幼い頃 家の前の道は狭い土の道だった 空き缶は蹴られ飛ばされ そこには何人かの子供が 走り回っていた いつの間にか土の道は アスファルトに替わり 近所の家が新しくなるにつれ 家と家の隙間が小さくなり 空き缶は軒下に 置かれるようになった 私の家が立て替えが決まったとき 軒下から空き缶が ころころと出て来た 色々なところがへこみ 赤茶に染まった空き缶を見つめ 私は家が壊される前に 保存箱にそっと入れた ---------------------------- [自由詩]初詣/羽根[2018年12月29日20時50分] 年末年始の休みは若い二人にとって 一緒にいるだけで十分だった ただ大晦日の大掃除の時は派手な喧嘩もしたが 弾ける二人に年越し蕎麦なんて関係もなく ましてはおせち料理なんて気にもしなかった 長い一本のマフラーを二人で巻き 手を繋いで寒い夜中の混んだ初詣に並んだ 首の太い君に僕は引っ張られ続けたし おまけに君の使い捨てカイロの量は半端じゃなく着膨れが酷く 私を圧迫したが二本の破魔矢を納め おみくじを引いてその結果に一喜一憂した 寒い海岸でお互い今年の喧嘩の原因の探り合いをして 朝日が昇るのをずっと二人で待っていた * 晦日の大掃除は仲良く行い テレビ番組を見ながら年越し蕎麦を食べた 朝にはおせち料理とお雑煮に 舌鼓を打って食べたが 蟹の足の切り方は下手だった 初詣の準備をした 君は本当に顔に似合わず 料理が上手く綺麗に整っていて見栄えが良くいつも驚く よく晴れた八幡宮は暖かくて マフラーは要らないくらいだった 一本の破魔矢を納め おみくじは今年も必ず大吉だと言い ただ素通りをして引くことはしなかった 久しぶりに海岸に行こうかと言ったら 君は嬉しそうに頷いて 私の袖を優しくつまんで 二人ともペンギンのような歩き方で 海岸へ向かった 冬の海岸は無風で 暖かく そっと静かな波が打ち寄せて 二人の幸せを祈っているようだったが 何故か蟹が縦に歩いているのが気になった ---------------------------- [自由詩]森林公園/羽根[2019年1月6日1時15分] 久しぶりに近くの森林公園へ家族みんなで出かけた 元競馬場であった公園は楕円形で木々に囲まれ その中は芝生が一面に覆っている 車椅子を出し細い女性を乗せ 二才の息子を負ぶって歩き始めたら 愛犬「レオ」は元気に走りだした 色々な家族がレジャーシートを出し キャッチボールやバトミントンなどをしている お昼頃になるとみんなお弁当を出して食べだした 手作りのお弁当は花壇みたいに綺麗だった 料理の出来ない私はコンビニのお弁当で 見た目も冴えなかった 息子も気がづいたのか 他の家族のお弁当を見ていて なかなかお弁当を食べようとしなかった 「レオ」はドッグフードには目もくれず 車椅子の女性に纏わり続けていた 夕方になりそろそろ帰る準備をした 車椅子を出し「レオ」に紐を付けようとしたら 白い毛から小さな虫が飛んで来た 家に何とか着いて車椅子に細い女性を 載せようとしたら女性には足はなく 「レオ」はただ紐のみだけだった その夜夢か現実か分からない微睡の中 「レオ」から飛んで来た 小さいとんぼのような昆虫が 私の胸に止まっていた それは美しい蜉蝣だった 体は弱く細長で 寿命は数時間から一週間ぐらいで 産卵したら消えしまう儚い命 その時ベッドのサイドボードの上にある 三人と一匹の写真が急に明るく輝き 二才の息子が夜鳴きを始めた 私は二人きりである我が子をそっと抱き寄せ 写真を見ながら 泣き止むまでいつまでも 優しく揺らし続けていた ---------------------------- (ファイルの終わり)