もとこ 2019年2月18日22時24分から2020年9月12日8時33分まで ---------------------------- [自由詩]VOICE/もとこ[2019年2月18日22時24分] あなたは少しだけ震える声で 言葉を世界へ解き放っていく それは遠い未来の記憶だ 空のこと、風のこと、涙のこと 夕焼けのこと、無くした恋のこと あなたが生まれた朝のことだ そんなことは無駄だと誰かが言う くだらないし何の意味もないと 彼らは否定するために否定する 空っぽの器を虚栄で満たすために そんな彼らの身体は穴だらけで あちこちから嘘が漏れ出している だから気にする必要なんてない 失い続けるだけの人たちなんて あなたはやっと卵の殻を破り 小さな窓から顔を出したばかり 俳優のような声量はない 歌手のような美声でもない 自信もなければ確信もない だけど伝えたいことがあるなら 夜の中を漂っているあなた 教室の隅に隠れているあなた 自分を傷つけ続けるあなた 人の海で孤独に溺れるあなた あたしは言葉を待っている 飾らない剥き出しの言葉を どうか、あなたの声を あたしに聞かせてほしい ---------------------------- [自由詩]古典レディース/もとこ[2019年2月23日14時29分] 誰かの娘であるアタシたち 誰かの妻であるアタシたち 誰かの使用人であるアタシたち 名前? 大切だから教えないよ そんなの残らなくていいんだ アタシたちがエモいと思ったこと アタシたちが心に秘めていること アタシたちが理想とする恋物語 そんな数々の想いと言葉だけが 何百年も何千年も色褪せずに 生き続ければそれでOKなんだ アタシたちが確かに存在して お人形としてではなく人として 泣いたり笑ったり怒ったり恋したり そんな風に生きてたってことを 知らない時代の知らない人たちが 知ってくれたらそれでOKなんだ ---------------------------- [自由詩]昨日へ落ちていく日/もとこ[2019年3月31日15時38分] もう一歩も進めないと悟った時 世界は私から視線を逸らした すべての約束は灰になって 希望の抜け殻と共に風に散った 誰かがそれを自由と名付けたので 幸福の定義も裏返ってしまった 私は確かに誰かと一緒にいた そんな記憶も涙と共に流れ去り 見上げた空はあまりにも蒼く 時系列の崩れた眩暈に襲われた私は そのまま昨日へと転げ落ちていく ---------------------------- [自由詩]花曇りの午後/もとこ[2019年4月9日11時01分] 満開の桜の下に集う人々は 静脈のように透き通っている 花曇りの午後に風が吹いて 柔らかい水のような眠りを誘う 穏やかに笑う彼らの腕時計は それぞれの時刻で停止している 目的も意味もそっと剥がれ落ちて 密やかな笑いだけが掌に残る 楽の音も喧噪もない沈黙の春に やがて花びらが降りはじめる 風に吹かれて裏おもて表うら すべてをさらけ出して地に堕ちる 満開の桜の下に集う人々は もう互いを見ることができない 花曇りの午後は静止したまま 柔らかい水のような永遠になる ---------------------------- [自由詩]歴史/もとこ[2019年4月30日18時32分] 長い階段をゆっくりと 転がり落ちていく乳母車には 誰も乗っていません あなたたちが見たくないと 目をそむけたから あの子は最初から いなかったことにされました だから 母の悲しみも ありませんでした 最初から 誰も いませんでした 恥知らずな あなたたちが見守る中 ただ 空っぽの乳母車だけが 長い階段をゆっくりと 終わりなく いつまでも 転がり落ちていくのです ---------------------------- [自由詩]OFF/もとこ[2019年5月7日23時04分] アタシが死んでしまったら 天国なのかな地獄かな それとも生きてる時みたく 中途半端に彷徨うのかな 朝の光に追い立てられて 真昼の街を漂って 夕暮れ時の原っぱで 血塗れの空を見るのかな そして最後は夜の中 あの頃みたいにうろつくの 阿呆みたいに口開けて 怖い夜空を見上げるの それなら生きている頃と 全然変わりがないけれど たぶん死んだらそれまでで 罰も救いも永遠(とわ)もない 全部のスイッチOFFになり 真っ暗闇の無になるの 残酷なノイズ断ち切れて 真っ暗闇の無になるの ---------------------------- [自由詩]廃園の子どもたち/もとこ[2019年5月11日18時39分] しにたい しにたくない しぬしかない 花占いのように繰り返される 私を内側から溶かす呪文 唱えるたびに増えていく 細くて長くて赤いライン 決して消えない心の傷が 刻印として手首に残る それは誰の罪なのだろう どうして私が背負うのだろう (分かっているでしょうに!) 雨の夜はえいえんへの扉 開けたら今度こそ戻れない あの人に向けて放った矢が なぜか私の胸をつらぬく 幼い頃の記憶は曖昧で鮮明 痛みだけが結晶として残る 草むらの中から見上げた空 それを覆い隠す大きな影 いきたい いきたくない いきてやる 花占いのように繰り返される 私を内側から支える呪文 唱えるたびに大きくなる 胸の奥底にある暖かい光 取り戻すことができないなら 作り直すことが不可能なら 私は荒れ果てた庭の隅に 小さな種をひとつ植えよう むりだよ むりじゃないよ むりでもいい たとえ芽を出さなくても カラスがほじくり出しても 日照りに枯れてしまっても 何度でも種を植え続けよう (あの人に復讐するために?) (ちがうよ) (私の不幸に復讐するためだよ) ---------------------------- [自由詩]暴言淘汰フラワーズ/もとこ[2019年11月18日21時52分] 「ねぇ、 「予想と違ってびっくりした? 「ちょっと認識が甘すぎだよ 「美しい魚だけのはずないじゃん 「ネットが海だと言うならさー 「水死体くらい浮かんでるって 生ゴミみたいな自意識が あいつらを笑えないピエロにする (今じゃ珍しくもない腐敗の群像) 謝ったら死んじゃう病を抱えて 互いを凶暴に慰めあってる 誰かに向けた言葉の刃が 間髪を入れず自らを切り刻む だけど哀れなくらい鈍感だから 決して痛みを感じることはない 今宵もあいつらは吠えまくってる 神様にだってお構い無しだから 聖なる母は微笑みながら 幼子のために中指を立てた 「あいつら泣きながら 「口々に『タヒね』って叫んでたけど 「夜明け前にみんな枯れちゃったね 「やっぱりさー、無理だったんだよ 「未熟さだけが売りのフラワーが 「潮風の中で咲けるわけないってw ---------------------------- [自由詩]七パーセントの野蛮/もとこ[2019年11月21日21時07分] キスをしてはだめ 罪が感染しちゃうから もちろん君が聞く耳持たないのは 計算済みなんだけどね どうせ世界は疫病の箱庭で アタシたちは肩をすくめるしかない 堕落と背徳の口実に満ちた黄昏に それでもタイを弛めない君が好き 青い鳥は絶滅が確認されました 次々に閉じられていくシャッター 鏡の中の自分が崩れていくのを 黙って見てるほど純粋じゃないよ 中途半端に枯れていくより いっそ火の七日間を目撃したい 終わりの光景をバックに自撮りしながら 君と一緒に紙のように燃え尽きたいの ---------------------------- [自由詩]夜間飛行だけ着けてる/もとこ[2019年11月25日21時29分] ふしだらな鱗粉を撒き散らして 夜の中を飛び迷うアタシたち シーツの海原は遠く霞んで 二人の罪状も曖昧になっていく 「アタシたち遭難者みたいだね」 「むしろ亡命者だと思うんだけど」 戯れに中指の先を曲げれば キミは荒馬を真似て首を反らす きっと、その恥知らずな曲線には 大切な意味が隠されてるのに 早くなるリズムに思考を殺されて またしても秘密は唇に溶けてしまう 「ねえ、方角は間違ってないよね?」 「大丈夫、何もかも間違ってないから」 世界の果てで燃え続けるという 赤いロウソクの聖なる焔に 抱き合いながら焼かれるため 夜の中を飛び迷うアタシたち ---------------------------- [自由詩]天使はみんな恩知らず/もとこ[2019年12月17日21時54分] 「わたし壊れてるから優しくしてね!」 って微笑みながらナイフで切りつけるスタイル 抵抗してはダメ、声を出してもダメ 水気の多い果実を切った匂いが部屋に満ちる (ほうら、やっぱりそんなオチ) 割安のサービスランチで昔日の栄華を反復する かつてわたしはショーウインドウの中で着飾り ガラスの向こうの世界に媚を売っていた 王子様のお買い上げだけを夢見ながら (どうせなら中指を立ててやればよかった) 「鏡よ鏡、世界でいちばん美しいのは誰?」 一日の始まりと終わりには必ず 鏡の中の肉塊に問いかける 「今さらそれを知ってどうするんだい?」 最近は眠れない夜ばかり引き当てる ダイヤルを適当に回して出た相手に 今までの反省点と今後の決意を報告すると 「手遅れね……もう火葬は始まってるよ」 眠そうな声が告げて電話は切れた ---------------------------- [自由詩]お母さんは壊れています/もとこ[2020年2月9日23時31分] お母さんは壊れています だから私も壊れています それは決して運命などではなく 残酷で客観的な確率の結果です 私が小さな赤ん坊だった頃から お母さんは自分の狂気だけを愛した 空腹に泣き叫ぶ私を心から追放して 壊れた言葉をネットに撒き散らしてた 日ごとに小さくなっていく私と 日ごとに膨張していくお母さん その残酷な対比のわずかな隙間で 私が生き延びたのは偶然に過ぎない いま 望むなら母となれる歳になって お母さんは私にとても優しくなった まるで何事もなかったかのようで やはり壊れているのだなと確信する 自分自身が不完全な人形なのに どうしてお母さんは私を産んだのか どうせ大人になった私から否定され 屈辱の牢獄に閉じ込められるのに そんな想像力すらないからこそ お母さんは平気でお母さんになった その罪を永遠に告発し続けながら 私は野蛮な囚人として漂流する いつか お母さんが輪郭を失って 偽りの涙を流せる日が訪れるまで ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]ポイントを入れるなという一輪車氏の傲慢について/もとこ[2020年2月13日9時21分] 御存じの方もいるでしょうが、この一輪車という人物は私がスタッフを務めるネット詩サイト「文学極道」において女性や障害者や特定の民族、国家の人間を差別する発言や個人への暴言を繰り返してアク禁になった人物です。文才があり余計な力が入っていない時はとても良い作品を書きますが、とにかく自分への批判に対して耐性がありません。褒められている時は愛想が良いが、少しでも批判されると途端に態度を変えて相手の性別や人格まで含めてネチネチと絡み暴言を吐く。そういうことをずっと繰り返しています。そういう人間は自分の発言を憶えていないことが多く恐らく彼もそうでしょうが、文学極道で彼がサイトやそのスタッフ、さらには他の投稿者たちへ投げつけた汚い言葉の数々は本人が後で削除したものも含めてすべて保存されています。文学極道の詩投稿掲示板で「一輪車」、「全てのログ」で検索すれば、彼の発言で本人が削除しなかったものを読むことができます。 彼は以前にも私の作品がTOP10に入った時に同じ発言をしましたが、前述の経緯を考えればそれが純粋に作品や詩作行為への批判であるか疑わしいですね。その辺の判断は私と彼の作品や発言を読んだ方々が判断すべきことですが、少なくとも私は過去の経緯から会話をする価値もない人間だと判断して彼の挑発を無視してきました。今回も直接の会話は必要ないと思っています。 ただ今回の彼の発言に関しては、ネット詩サイトに投稿する者としてどうしても容認できない、黙っていてはいけないと思うことがありました。それは投稿する場や他の投稿者への礼儀や感謝の気持ちの欠如です。自分が評価されているときはニコニコ顔なのに批判されたり私のように「彼が気に入らない人間」がトップTOPに入ったりすると、途端に豹変して現代詩フォーラムという場やそこに投稿する人たちまで「ゴミ」や「カス」などと罵倒しはじめる。それはあまりにも身勝手な行為でしょう。 彼は私の詩の内容を批判するだけでなく「偏見に結びつくからこんな詩を書いてはいけない」と言っている。これまで他者への偏見に満ちた暴言を撒き散らしてきた人間からこんな言葉が出ること自体、笑えない冗談としか思えません。私は、詩というものは自由と責任を常に意識しながら書くべきものだと思っています。特定の個人や国民、民族などを差別し誹謗中傷するものは論外ですが、それ以外はテーマとして自由に書かれるべきです。私の作品に限らず、差別や虐待などをテーマにすれば傷つく人もいると思います。しかし、だからと言ってそういう題材で書いてはいけないという縛りを詩に与えるべきではありません。 また「彼にポイントを入れるような人間は私にポイントを入れるな」と事実上命令する傲慢さは、「クラスでいじめている人間と仲良くしたらその子もいじめる」という幼稚な思考と同じであると考えます。ネット詩サイトに投稿するということは、その場のルールで許される範囲で誰もがポイントやコメントという形で評価されることを受け入れるということでもあります。もちろん、ルールを逸脱した暴言や妄言は無視して構いません。しかし、「ポイントを入れるな、コメントするな」と他の投稿者へ圧力をかけることは許されないし、実に愚かな考え方です。 一輪車氏の言うことが正しいと思うのなら、私にポイントを入れない方が良いでしょう。しかし私自身はこれからも自分が面白いと思った作品にはポイントを入れていきます。それもまた自由と責任に基づいた行為だと思います。 ---------------------------- [自由詩]哀れむ/もとこ[2020年2月16日21時52分] アタシは衰弱を否定する老人を哀れむ アタシは革命を嘲笑する若者を哀れむ アタシは現実を拒絶する大衆を哀れむ アタシは服従を肯定する個人を哀れむ 今や傲慢さを隠そうともしない奴らに 踊らされていることにすら気付かない 己が餌を貪る家畜だという自覚がない そんな愚か者たちの群れを哀れむ 自分の頭で考えて答えを出している つもりの 頭からっぽで右向け右な人形たち を哀れむ そして神さまを真似て何もせず スマホの指先で作成した告発文を ネットの海に放流しただけで 何かを成し遂げたつもりでいる アタシ自身を 蔑み、哀れむ ---------------------------- [自由詩]最後の雨を待ってる/もとこ[2020年2月23日16時34分] 灰色の空を見上げて 最後の雨を待ち続ける間に きっとアタシたちの歴史は 色褪せてしまうのだろう 気がつけば無音になった街で みんな空だけを見ている 鳥の瞳で、犬の瞳で、猫の瞳で、 (もう人の瞳はどこにもない) それぞれの頭の中で 一斉にスマホの着信音 それでもみんな動かずに 足元から塩になっていく しつこく鳴り続けたスマホが やがて諦めて沈黙した後も 色彩を失った世界の表面を 覆い尽くした塩の柱たちは やがて降りだすであろう最後の雨に 溶かされる時をじっと待ち続けている ---------------------------- [自由詩]美しい国の詩人たち/もとこ[2020年3月8日3時11分] 空にぶちまけられたビタミン剤の 人工的な着色がキレイでキモい 今年のトレンドは太陽の皮膜で 詩人なら必ずネタにしないとね 偽りの価値観が崩れたあの日は テーマとしては申し分なかったの それを書かない者は詩人に非ず そんなキモい掟が今も続いてる 恋愛とか存在意義とかリスカとか この非常時においては不謹慎で 今こそ美しい国の本領を発揮して あの病を克服する詩を書かないと ちょっと待って何かおかしいよね 詩とは詩人とはそういうものなの? そんな疑問はゴミ箱へ直行だから 忖度して言葉を紡ぐのアタシたち ---------------------------- [自由詩]重さ/もとこ[2020年3月22日12時32分] 重いテーマじゃない詩は軽いと誰かが言う 震災、津波、原発、自殺、貧困、差別、 そういうものを扱わなければ詩じゃない そういうものを書かなければ詩人じゃないと 重いテーマを重い言葉で綴った重い詩で 重い詩の賞をもらった重い詩人たちが言う (アタシが書く言葉の重さ、テーマの重さを 彼らはどうやって量っているんだろう) アタシが書くものが詩かどうかとか アタシが詩人かどうかなんて 正直、どうでも良い話だけど アタシが抱えているものの重さを 勝手に決めつける彼らの言葉や存在は アタシにとっては羽毛より軽いから 嘲笑混じりの息をフッと吹きかけて 遠い空の彼方へと飛ばしてしまおう ---------------------------- [自由詩]方舟ふたたび/もとこ[2020年4月21日8時46分] ある日 雨が降りはじめた それは400日やまない雨 すべてをリセットする雨だ しかし 世界の富の大部分を独占する 大富豪や権力者たちは 事前にその情報を得ていた 途方もない金額で神から買ったのだ 彼らは自分たちが生き延びるため 密かに超大型の方舟を建造した それに乗ることができるのは 彼らとその家族や愛人たち そして全ての動物のつがいだけ 神への情報料よりも さらに巨額の費用をかけて 100日後に方舟が完成すると 選ばれた人間と動物たちは こっそりと舟に乗り込んで その巨大な扉を固く閉ざした それから間もなく 空から最初の雨粒が落ちてきた 雨は次第に激しさを増し やがて凄まじい豪雨になった 雨は神さまの情報通り 何日も何日も降り続けて あらゆる川が氾濫し さらに海面が上昇をはじめた 方舟の乗客たちは衛星カメラを使い 残された人々の様子を見物した 彼らは高層ビルや山の上に逃れ 場所や食べ物を奪い合い殺し合った 乗客たちは酒を飲み肉を食いながら 面白そうにその有様を見ていた しばらくするとビルや高い山も すべて水の下へ沈んでしまった ほんのわずかな人たちだけが 浮遊物につかまり生き残っていた 方舟のすぐ近くにも 何人かが流されてきた 衰弱した彼らは必死の形相で 方舟に手を振り助けを求めた 方舟の乗客たちは窓を開けて まるで動物園の動物たちを 柵の向こうから見るように 漂流する人々を眺めていた 赤ん坊を背負った母親が 「この子だけは助けて!」と 絶叫しながら沈んでいくのを 馬鹿笑いしながら指さした 雨は神からの情報通り 400日後にピタリとやんだ 久しぶりに青空が見えた朝 方舟から一羽の鳩が放たれた 数時間後に戻ってきた鳩は オリーブの葉をくわえていた みんなは吉報だと喜んだが その翌日、鳩に触れた男が 高熱を出して呆気なく死んだ それが終わりの始まりだった 乗客たちは次々に高熱で倒れ 恐怖と混乱の中で死んでいった 最後の1人が絶命した後に 方舟は大きな島に漂着した そこでは復活した草木が生い茂り 美しい水が流れる大きな川があった 神が「開け」と命じると 方舟の巨大な扉が開いた 中から降りてきた動物たちは ライオンもトラもヒョウもタカも すべてが草や木の実を食べながら 仔を生み数を増やしていった 雨がやんでさらに400日の間に 水は少しずつ引いていき 動物たちがいる大きな島は ひとつの巨大な大陸になった その頃にはすべての生き物が 以前の食性を取り戻して 新しい世界に満ちていた 「これで良し」 神は満足気に微笑まれた ---------------------------- [自由詩]春を待つ/もとこ[2020年4月22日18時16分] 薄く剥がれ落ちていく 日常の内側で ずっと 息を潜めている (外は偽りの春) やさしさ、 思いやり、 助け合い、 まごころ、 色褪せたのは 言葉ではなく 私たちの心の方 窓の外にひろがる 呼吸の出来ない青空 あきらめない あきらめたくない から 今日も 煤けた心を 根気よく磨きながら 本当の春を 待ち続ける ---------------------------- [自由詩]衰退クロスロード/もとこ[2020年4月29日13時51分] ボクの前に道はない アタシの後にも道はない 進んでいるのか戻ってるのか 分からないから立ちつくしてる ボクはたまにアタシになり アタシはボクの悪口を言う 見上げた空へ墜ちていく 合わせ鏡の迷宮巡り 生まれたばかりの老人たちが 若者たちを喰いつくし 骨が散らばる白夜の道に 産み捨てられたアタシたち 透けた身体の聖者どもが 「早すぎたね」とか 「手遅れだね」とか 勝手なことを言いながら ボクをアタシを布で包んで 十字路の横に埋葬する いつか北の道から母さんが いつか西の道から父さんが 導かれて操られてやってきて この十字路で出会う日まで 顔も名前もないボクたちは 夢のない眠りを貪り続ける ---------------------------- [自由詩]もう若くない/もとこ[2020年5月7日14時13分] お酒とバカ騒ぎの魔法が色褪せ 宴の糸も解れて独りになる時刻 酔いが醒めると共に膨らんできた 得体の知れぬ不吉で黒々とした塊から 逃げるように入ったファミレスの 無機質なトイレで化粧を直せば 【もう若くない】 ずっと昔にテレビかラジオで聴いた 古い歌の断片が心臓に突き刺さる ちょっと前までなら今ごろは誰かと ベッドの中で同じ夢を見ていた 少なくとも同じ夢を見ているのだと 信じながら眠ることができたのに わざと置き忘れてきたものたちって 結局はすべて背中に張りついている ただ 見えないから誤魔化しているだけで ずっと そんな愚かなことの繰り返しで それでも鏡の中にある現実から 決して目をそらすことはない そのことだけを唯一の誇りにして わたしは自分の内側から生まれ 少しずつ全身を包みこんでいく 懐かしい潮騒に耳を傾けてみる ---------------------------- [自由詩]やわらかい牢獄/もとこ[2020年5月10日9時05分] 降り続ける雨は永遠の化身 わたしたちは閉じ込められている どこかで花の匂いがするけれど 確かめに行くことはできない 濁った窓の外から聞こえてくる 心を削り取る無数のノイズたち に耳を傾けながら冷めた記憶を 色のない食卓で噛みしめてみる わたしは雨の中で生まれ いつまでも死ぬことがない 誰もが平等に与えられた 幻想の檻の中にいる限りは あらゆる疑問文が満ちる部屋で 思い出せない音楽を待ち続ける それ自体が罰であることに 気が付いてもすぐに忘れる ふと在り続けることに飽きて フォークを床に落としてみても 始まりも終わりもないこの雨は やわらかい牢獄として降り続ける ---------------------------- [自由詩]また生まれておいで/もとこ[2020年5月23日2時39分] 世界は眩暈がするほど傾いていて 正解な円など誰にも描けやしない 眠りの中に真実の夢は芽生えず 寂しい亡霊たちしか生きていけない それでも風だけは懐かしい痛みを お前に与えてくれるだろうから 旅人よ、また生まれておいで 虚しさの意味を反芻するために 私は再び母の仮面をつけて お前の誕生を祝福しよう 優しい嘘をたくさん用意して 無音の岸辺で待っているよ ---------------------------- [自由詩]死にたい、が零れる夜/もとこ[2020年6月11日13時44分] 「死にたい」 が 唇から零れ落ちる夜は 時間の粘度も高くなり 生きたまま 全身の血が失われていきます 苛立ちすら 霧散する無力感 【本当は】 【死にたくないけど】 【もう】 【どこへも行くところがない】 【これ以上は】 【無理】 という文字列を 果てしなく 繰り返しつつ それでも何とか 今度も 辿り着きたいのです 運命という幼子が 命の歯並びを そっと 矯正しはじめる夜明けに ---------------------------- [自由詩]死への疾走/もとこ[2020年6月25日4時40分] 光を求めて集まったのに そのまま殺される虫のように 希望を求めて生きて生きて その挙げ句に朽ち果てるとか 有り得ないことが現実になる だって私は世界の中心じゃない それでも運命って何か腹立つ だから私は抗おうと思うんだ 光を目指した挙げ句に 殺された虫たちのように もう結果とかどうでも良くて 嘲笑すら遠い過去のことで 諦めの缶詰を切り開いて あらゆる災厄をぶちまけて 気がつけば暁に全力疾走 このまま走るよ走る走る やがて目覚ましの音が響き 死の中で欠伸をする時まで ---------------------------- [自由詩]ダイジョウブ/もとこ[2020年6月27日15時47分] 今日も真夜中の向こう側から たくさんの「タスケテ」が届く 本気もあればウソもあって 見分けるのはむずかしい だけどアタシはとりあえず 見つけた全部の「タスケテ」に 「ダイジョウブ」って返事する 何が「ダイジョウブ」なのか 自分でも良く分からないし 何の根拠もないのだけれど ずっと前にアタシが壊れて 夜の底で溺れかけたとき 思わず入力した「タスケテ」に 会ったこともない人たちから 「ダイジョウブ」と返事が来た それが当然だというみたいに その時の感情の色や匂いを アタシは上手く表現できないが とにかく素晴らしいものだった それだけは間違いないのだ だからアタシは今夜もまた 「ダイジョウブ」を放流する 端末の数だけある孤独に 到達することを祈りながら ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]詩を書く資格(「ダイジョウブ」への一輪車氏のコメントについて)/もとこ[2020年6月28日16時29分] コメント欄でやる話じゃないので、一輪車氏の「批評」に対する返事をこちらで書くことにします。 >ほかのことならともかく、倫理的な内容なのでひとこと。 >あまりにもひどい、これはなにかのギャグですか? >ご本人がこれまでどれほどひどいことをしてきた? >別府だかの詩の行事で「脅迫の予告電話をした年寄」は >その後どうなったのですか? 大分県警にも問い合わせ別府署に >も問い合わせたがそのような事件はなかったという。 >ありもしない事件をでっちあげて、ひとりの年寄を侮辱した方が >よくもまあこんな詩が書けるものだ。^^ >それだけではなく、あなたが管理している投稿板で「差別があった」といった女性を >寄ってたかってことばの暴力で"殴り殺し"にした人が、このような倫理的な詩を書いて平然としているとは。^^ >まさに、詩は終わったとしかいいようのないグロな光景です。 まず第一に、一輪車氏は私に対して何度か「気持ち悪いから近寄るな」と言ってきました。また、私の詩にポイントを入れる方々に対しても「彼にポイントを入れるなら、私には入れないでくれ」という圧力をかけていました。そういうことをしておきながら、自分が都合の良い時だけコメントを書き込むというのは身勝手というものでしょう。世界はあなたを中心に回っているのではないということを、そろそろ学んでください。 彼に限らず現代詩フォーラムにおいて「私にポイントを入れるな」というスタンスの人が何人かいるようですが、私は基本的にそういう要求をする資格が作者にあるとは考えていません。 また以前にも指摘した通り、一輪車氏は他のPNを含めて文学極道で書き込んでいた頃から、私だけでなく複数の投稿者、特に女性に対して暴言を吐き続けてきました。 「バカ」 「アホ」 「カス」 「ババア、いい加減にしろ」(某女性詩人に対して) 「おまえは病態の露出」 「二重人格の薄気味悪いやつ」 「半キチ」 「つまらない婆さん」(某女性詩人に対して) 「知恵遅れ」 「おかま」 「ゲイは性格が悪い。陰湿で疑り深くねたみそねみが激しいのも共通している」 「詩人のなりぞこないのカス」 「アル中のカス」 「口臭がたまらなく臭うばばあ」(某女性詩人に対して) 「変態ストーカー」 こういう言葉を他人に投げつける人物から、私の人間性についてとやかく言われる筋合いはありませんね。鏡に向かって言ってください。あなたの言葉に傷ついて投稿を止めた女性もいたことは、もう忘れてしまいましたか? >別府だかの詩の行事で「脅迫の予告電話をした年寄」は >その後どうなったのですか? 大分県警にも問い合わせ別府署に >も問い合わせたがそのような事件はなかったという。 >ありもしない事件をでっちあげて、ひとりの年寄を侮辱した方が >よくもまあこんな詩が書けるものだ。^^ それは文学極道での問題であって、現代詩フォーラムとは何の関係もありません。向こうで話をしてください。また、その件に関して私がその「年寄」を侮辱したというのであれば、その証拠を示してください。そもそも、その一件に関しては現地のイベントに参加していない私は一切ノータッチです。何か文句があるなら、文学極道の平川綾真智代表に言ってください。 >それだけではなく、あなたが管理している投稿板で「差別があった」といった女性を >寄ってたかってことばの暴力で"殴り殺し"にした人が、このような倫理的な詩を書いて平然としているとは。^^ 前述の別府の件を含めて、私がそういうことをしたという事実があるなら裁判を起こしてもらっても良いですよ? こちらはあなたたちが忘れてしまったこと、こちらにあるとは思っていないであろうことを含めて色々と記録を持っていますし、裁判沙汰になったらいつでも受けて立つ覚悟と用意があります。ただ、その件も含めて当事者である平川綾真智代表に言ってもった方が話が早いと思いますけどね。私はもう文学極道のスタッフではありませんし、そのことに関しては平川氏と相手の女性で話し合うべきでしょう。 >まさに、詩は終わったとしかいいようのないグロな光景です。 詩が終わったというなら、いつまでもみっともなくしがみついてないで他の楽しいことを見つけたらどうですか? 文学極道や現代詩フォーラムといった場に対する感謝の気持ちがないなら、自分で遊び場を作るべきでしょう。 詩作品に関して作者の人格は問題とされるべきか、それとも別々のものとして捉えるべきか。この点に関する意見は様々でしょうが、人格が問題である場合はその問題点が事実であるということが大前提ではないでしょうか。 ---------------------------- [自由詩]愚者たちの国で/もとこ[2020年7月18日1時07分] 弱い者を差別し蔑むことで 現実から目を逸らしている彼らも いつかは自分たちの番が来て 土を掻きむしることになるのです 生きるべき命と消えるべき命 冷たい計算式を根拠に 神のように振る舞う者も それに賛同する者たちも 何番目かの明日には 自分が廃棄されるという 当たり前のことに気付きません (だって正視しようとしないから) 21世紀になったこの国で 再び姥捨てをやるつもりなら 私たちはその代償として 人の仮面を外すべきでしょう そして愚者の国の獣として 飼い慣らされて生きるべきでしょう 人間としての長い歩みを すべて神に返すというのなら ---------------------------- [自由詩]逆さまの世界/もとこ[2020年9月8日4時18分] 何もかもが逆さまの世界に行きたい そこでの私は美しく賢く話上手で 誰からも愛されるはずだから 全てが今と逆さまの世界に行きたい だけど夜の鳥がそれを否定する 耳障りな声で鳴いた後に告げる  馬鹿だねお前、良く考えてごらん  引き籠もりが逆さまの世界へ行けば  昼も夜も当てなく彷徨い続けるだけの  肉体を持たぬ惨めな影になるのだよ 汗にまみれて目を覚ました 夜明けは遠いと時計が告げる どうでも良いよ、朝が訪れても ここから出ることはないのだから 窓の外に広がる闇の中 耳障りな鳴き声が聞こえた ---------------------------- [自由詩]陰口の花園/もとこ[2020年9月12日8時33分] 天使たちは陰口が大好き 馴れ合いだらけの花園で 互いに褒め合う仲良しごっこ そして気が向けば誰かを貶める あの人は私を傷つけたの 私は可哀想な被害者なの だからみんなで取り囲み 羽根を残らず毟っちゃおう! 仲間外れは命取り 明日は我が身の公開リンチ 相手が手強い時だって 無視して孤立させるのよ 虚飾に満ちた花園の 裏で飛び交うメッセージ 悪意はどんどん膨らんで それでも清いつもりなの 彼らは誰も気付かない すべて見ていた神様に 遥か昔に見放され 天から追放されたのを 腐臭漂う花園で 今日も彼らは歌ってる 称賛のみが目的の メッキだらけの愛の歌 ---------------------------- (ファイルの終わり)