46U 2018年5月26日12時34分から2021年11月15日22時50分まで ---------------------------- [自由詩]恋する魚/46U[2018年5月26日12時34分] 眼ヂカラが強すぎる わたしは魚 君をみつめている 魚だからまぶたは無い 目を閉じることはかなわない 誰よりも雄弁な眼を持つ宿世がつらい 泣きたくて壊れそうだけど泣けない そして君は  わたしの視線を喰らっても去りゆかなかった唯一のおとこ ---------------------------- [自由詩]翼/46U[2018年5月31日15時45分] 舌に絡まる火酒のような色恋沙汰には もう飽いた 冷えたその肩 ぬくい翼で癒やしたい そう思うのさ 舌に絡まる恨み言なら くちうつされてもかまわない 笑い飛ばして耀く君を わたしの翼で孵すのさ ---------------------------- [自由詩]けぶりぐさ/46U[2018年6月9日13時56分] 君はジタンを喫(の)んでいる 象牙色した指が佳い くちびると髭の剃り跡で わたしの視線をからめとる 君はわたしに火を点けて ハイにしながら 微笑する 君はもひとつ紙巻き咥え 灰にしながら 朝を待つ わたしは君のけぶりぐさ 煙草の気持ちがよく解る けど くちびるを恋うけぶりぐさには けむに巻くよな余裕はなくて 君はジタンを喫んでいる わたしは君にのまれてる 夢の継ぎ目に明け烏 応えるようにジッポを鳴らす ---------------------------- [自由詩]夏の夜の夢/46U[2018年7月21日11時12分] 氷が溶けて鳴る その音に瞼をひらいた 汗をかいたグラスにジンのなごり 君の香りを撹拌する空調 目覚めぬそのまぶたを震わす夢に 嫉妬しながら氷をつかむ さあ グラスにもう一杯の媚薬 蜥蜴みたいに冷たい君のからだを 溶かしながら眠りに堕ちたい ---------------------------- [自由詩]木に恋してた娘っ子/46U[2018年10月26日21時05分] わたし 娘だった頃 夜歩くのが好きだった 公園の木に挨拶し  のみならずこっそり名をつけて 木の肌に手を押し当てては  そっと名前を呼びかけた 誰もいない真夜中ならば  抱きしめたりもしたけれど 落ち着かなくて 照れてしまって すぐに腕を解いてしまった   中央公園の柳は「緑」ではなくあえて「紅」 南公園の桜は「時」で 自宅の柊は「ホリイ」 通りすがりの野良猫に 名前をつけて愛でるよに わたしだけの名で木々を呼ぶ  夜歩くのが好きだった 両腕でそっと抱きしめたなら つめたい樹皮のその下で  ときめきながら樹液は流れる  そう感じたは うぬぼれか? 闇に身をひたし木に触れる  彼らのしめった呼吸を感じた みどりの息を吐きながら 従順なけもののように在る 手のひらに伝わる拍動は 自分だけのものではないと信じた 木にも鼓動はあるのだと わたしの皮膚と樹皮のはざまに 通いあう何かがあるのだと とうに故郷を離れた 時は流れて帰れない  なつかしい木々  あの名で呼べば も一度応えてくれますか? 蘇るのは真夏の夜の 樹皮のつめたさと拍動 仰ぐ枝ごし見えてた月と木に恋してた娘っ子 ---------------------------- [伝統定型各種]都々逸/46U[2019年6月4日23時17分] 粋な噂も七十五日 未練な小指に赤い糸 ---------------------------- [伝統定型各種]都々逸/46U[2019年6月21日20時06分] 冷やを呑(や)りつつとらんぷ繰ればハアトの騎兵が眼をそらす ---------------------------- [伝統定型各種]都々逸/46U[2019年8月12日19時42分] きすの痕すら残せぬ恋路 口紅(べに)をぬぐえば夏が逝く ---------------------------- [自由詩]露草つゆくさ/46U[2019年9月2日19時44分] (ああ、秋の空は露草を集めて染めるのですよ) (あれこそまことの青ですわねえ) 天からつゆくさが降る、 つゆくさ、つゆくさ、 地が青に染まる、 つゆくさ、つゆくさ、 どこかで鈴がちりりと鳴る、 つゆくさ、つゆくさ、 青を浴びながらぼくは立ち尽くす、 つゆくさ、つゆくさ、 家々の屋根に青が降りかかる、 アスファルトのおもてを青が覆う、 ビルの谷間を青がとうとうと流れる、 ぼくはビニール傘をさして歩く、傘に積もるつゆくさ、 海いちめんにつゆくさ、テトラポットにつゆくさ、 波打ち際につゆくさ、くるぶしまでつゆくさ、 天の欠片なる青を地のすべてがすっくり抱き留める、 つゆくさ、つゆくさ、 青に埋もれて死んでいく、 つゆくさ、つゆくさ、 瞳もつめも青く染まる、 つゆくさ、つゆくさ、 ぼくの頭蓋を割ってくれ、 そこからわっとあふれる、 つゆくさ、つゆくさ、つゆくさ。 ---------------------------- [自由詩]うわばみ/46U[2020年8月24日14時28分] 産着(うぶぎ)を脱いだその日から あたいの親友(とも)は般若湯(はんにゃとう) 渡(わた)る世間が鬼の国でも 一緒に歩みゃ怖かないわ 馬鹿(ばか)になるほど浮世は楽し 鱗まとって道ゆかば 皆(みんな)呆れて笑み零(こぼ)れてる 何にしょう今宵のつまみ ---------------------------- [自由詩]Childhood's End/46U[2020年9月7日12時00分] 月が傾く音がして、 ぼくはぽっかり目をあけた。 カーテンごしに見えるのは、 ボタンみたいなお月さま。 瑠璃と茜の縫い糸で、 びろうど夜空にとじてある。 きっとお仕事したひとは、 てさきの器用なめがみさま。 ぼくはぼんやり不思議に思う、 とじてあっては動けない。 だったらあの音なんだろう、 月が傾くような音。 びろうど夜空をしゅるしゅると、 西へひっぱる音だろか。 星がぱらぱら落ちてくる、 パンくずみたいなお星さま。 ぼくは窓から手をだして、 星のかけらを受けてみた。 ひとつかじってみたけれど、 あんまり甘くはなかったな。 ぼくはすっかり目が覚めて、 よるの終わりをながめてた。 ぼくはおおきく息を吸い、 この世の終わりをおもってた。 ---------------------------- [自由詩]お針子/46U[2020年9月9日11時53分] エプロンドレスのお嬢さん、 ミシン鳴らして日は暮れる。 ヴィオロン奏でるお姉さん、 ワイン揺らして逢いに来る。 色とりどりの糸くずが、 エプロンドレスを飾ってる。 布と針とで遊んでいると、 時がたつのも忘れます。 おさげを解いたお嬢さん、 耳たぶ染めてドレスを渡す。 シニヨン解いたお姉さん、 鏡の前でターンする。 ヴィオロンの箱は壁にもたれて、 ふたりの乙女を見つめてる。 新酒のワインがグラスにつがれ、 ふたりの秘密を酔わせてる。 ---------------------------- [短歌]秋深し金木犀のご近所に銀杏植えたの誰や出てこい/46U[2020年10月5日11時46分] 秋深し金木犀のご近所に銀杏植えたの誰や出てこい #においが混ざり合って大惨事に。 ---------------------------- [伝統定型各種]くちさけ[都々逸]/46U[2020年12月4日23時58分] 口が裂けても言えぬ恋ゆえマスクしている君とぼく ---------------------------- [伝統定型各種]三千世界のコロナを殺し(都々逸)/46U[2020年12月11日16時30分] 三千世界のコロナを殺し全人類とハグしたい #究極の願望。 ---------------------------- [伝統定型各種]なりたいものは古女房【都々逸】/46U[2021年1月12日14時34分] なりたいものは差し向かいにて箸を動かす古女房 ---------------------------- [自由詩]カムパネルラ/46U[2021年2月12日12時30分] ふたありは互いのカムパネルラでした 過去を封じた絆創膏が愛(かな)しくていまも剥がせない ---------------------------- [伝統定型各種]治聾酒[都々逸]/46U[2021年2月28日23時16分] 桃花の薫る社日に識った酒の味そして兄の聲 ---------------------------- [自由詩]しりとり恋歌/46U[2021年3月9日11時56分] 語られないのは はじめての恋 いつかの歌姫 めくるめく夜  ルビーが腫れてく くちづけだから ランプも恥じらい いつしか消える ルシアン・ベアってお酒をひとくち 痴情のもつれもたまには結構  うつむきゃおめめが隠れちゃうから ラストを待たずに此処を出ようか ---------------------------- [伝統定型各種]【都々逸】煙草断ち/46U[2021年4月5日14時48分] いつの間にやら煙草をやめて おんなの顔した元親友 ---------------------------- [伝統定型各種]吉祥天[都々逸]/46U[2021年6月23日21時17分] 好いたお人の勝負運(ツキ)になりたい 犯人(ホシ)を弑する夢をみる ---------------------------- [短歌]あらでぃあ/46U[2021年6月26日0時43分] しなやかな四肢で彼女は舞い狂う 猫を孕んだ女神を擬して ---------------------------- [自由詩]ゆびきり[折句]/46U[2021年6月26日11時38分] 夕立(ゆうだち)あけて空は葡萄酒 美人(びじん)が沈む湖沼の水銹 記憶(きおく)の底に誰かの日記 龍(りゅう)がぬすんだ幼い契り ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]生栗/46U[2021年9月4日17時45分]  生栗の皮むきというのをやってみたくて、お勤め品のを買ってきた。  実家では、「危ないから」とさせてもらえなかったので、どきどきする。  水で3時間ふやかし、まな板の上でざらざらした尻をちょいと落とす。  その傷口に包丁をひっかけて頭の方へむくと、べりべりと簡単に鬼皮は除去できた。  渋皮はむかず、重曹を入れた水に3時間つけてから、4回ほど茹でこぼす。  ラスト、栗と、ようやくかぶるほどの水をはって火にかけ、茹で汁が熱くなったところで黒砂糖を入れる。  栗は12個、投入した黒砂糖は100グラムである。  そのまま煮て、汁のかさがいい塩梅に減ったら火を止め、冷まして味が沁み入るのを待つ。  渋皮煮の完成。初めてにしては成功だった。  で。残った汁をどうするか。  我が家の経済では黒砂糖はぜいたく品である。  捨てるのが惜しいので、マグロの血合いを煮しめるのに使った。  激美味。  調子に乗って、後日、鶏の肝を煮るのにも使った。  不味いわけがない。  余すところなく食い尽くして、栗とはいいものだなあと思った秋である。 ---------------------------- [伝統定型各種][都々逸]うそつき/46U[2021年9月12日12時15分] 息するようにあざむく君が あざむかるるを忌む不思議 吾(あ)を嘘つきと繰り返す君 嘘つきであってほしいのね こころを尽くし語ってみても 嘘だと君は望んでる ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]珊瑚草を喰ふ話。/46U[2021年9月17日23時59分]  シーアスパラガスというものを見つけて身請けした。イスラエル産らしい。  植木で見るような、ガサガサした葉で、初めて見たとき「なんかえぐみが強そうだな」と思った。完全なる偏見であることは後に判明する。  野菜売り場にある植物はすべて食える、というのが信条なので、ひるみはしなかったが、ちょっと身構えた。  帰宅後、検索したら、和名を厚岸草(アッケシソウ)というらしい。そちらは聞き覚えがあるような。  海藻ではないが、海で育つらしく、潮の味が沁みついているのだという。びっくりして、ひとつふたつ葉を拾い、洗ってかじってみた。…ほんまや。  厚岸は北海道の地名らしい。すなわち、国内で自生しているのだ。ところが、日本では絶滅危惧種に指定されており採集は禁じられている。なので、輸入物しか食ってはいけないのだそうだ。ちょっと笑ってしまった。  レシピでは、まず塩抜きすべしとあった。  たしかに塩はきつい。が、変に味を奪いたくない。  ちょっと考えた末に、ざっと洗って、生の豆腐をまぶしつけて食べた。白あえではなく、あくまで生。砂糖もしのび辛子も入れない。冷ややっこを塩気で食うイメージだ。  で、これが案外旨かったのである。青くささも感じない。また出逢えたならリピートは確実。美味であった。  余談ではあるが、シーアスパラガスは秋になると紅葉するらしい。別名を「サンゴ草」といって、群生地は真紅のカーペットを敷いたようになるそうだ。北国の、秋の海というのもオツである。いつか訪ねてみたい。 ---------------------------- [自由詩]香油/46U[2021年10月30日17時19分] とろりと金色の滴りは オリーブや椿や葡萄の種から得たもの 蓮から採った精の封を切り ボウルに張った油におとす 傷を いつくしむこと じくじくと痛む恨みを切りひらけば 妄念の脂が現れ 穢れた血があふれた 肉は口腔のように濡れてあかるく光り 禊ぎの場をはれやかに彩る苺の菓子のようだった 優しさを染みこませたガーゼでぬぐわれ 祝福の糸で引き絞り閉じられたかつての恨み 粘膜に戻ったようにうつくしい傷痕に わたしは香油をすり込む かわいがる と いうこと 恨みをつくり出したのは わたしの弱さであったのに 丹念にそれを撫で 濯ぎ あでやかに祓ってくれた あなた達のやわらかな手 蓮の匂いのする油でなぞるケロイド あの人をいつくしんだと同じ強さで てのひらで撫でさする 悔いはない むしろわたしは充ちている けれど 思わないではいられない もっと何かしてやれなかったか もっと何かあたえてやれなかったか ひな鳥のように 飢えたまるい口をさしだすあの人のために  銀の匙をいくつもいくつも用意すべきではなかったのか すべては終わり 痕だけがここにある うすもも色のそれに 香油をすり込む あの人をいつくしんだと同じ強さで てのひらで撫でさする  ---------------------------- [自由詩]仮面/46U[2021年11月11日5時25分] もう僕はよそへは行かないから帰っておいでと ただそのひとことが聞きたかった 彼岸へすこし渡る その前にひるめしを食べよう あなたはそう云ったので わたしはピアスをして電車に乗りフォークをとった やせてきれいになったとほめてくれて あなたは彼岸へのおそれを口にしない 勇敢でたのしいこいびとだった だけど あなた わたしも彼岸へはひととき往っていたのです そう云って仮面を取ったわたしの素顔に あなたは絶叫してしまった まひるのあかるい店のいぎりす風の紅茶の席で あなたは絶叫してしまったのだった あなたはその日 彼岸への切符を受け取ったが 結局渡らなかった と聞いた 安堵した 仮面の要らない生を活きてほしい しんから願ったことに嘘はない それから 仮面をかぶりなおしたわたしの 古いアパートのドアを穿った郵便受けに どうしているかと便りが届く 閑かな暮らしを裂くように音を立てて去る配達夫 あなたからの 白い封筒 罫のない便箋  几帳面な文字 おさない敬語 わたしの部屋に積もるあなたの言葉 積もる未練 あなたのものかわたしのものか解らぬ みれん、というものが 積もる 積もってゆく わたしの部屋に音もなく散りかかる 散りかかる 無数の便箋 けれど この耳に あの絶叫は いまも残り みにくい素顔をさらすまいと わたしは面をかぶったまま つめたいゆうげを咀嚼している 配達夫が いま 去っていった  ---------------------------- [自由詩]堕天/46U[2021年11月15日22時50分] 翼をもぎました 背中がかるくなりました しとどに流れる血 真珠色の血あふれて ふたすじの傷口を 白南風(しらはえ)がなでて過ぎゆきました すずしい背中 六月のこと あなたの手をとりました 褥(しとね)には茨がしきつめてありました すこし 痛いけれど いいえ 平気です だって 黒い茨花(ばら) つぎつぎに咲くのですから 夢のようです あなたに抱かれること あなたの執着を得たこと あなたに飼われること 夢のようです 涙があふれます あなたの貌がにじんで見えない 愛に盲(めし)いた琥珀の瞳 ばらの棘で両の眼を刺して あなたの棘で麻酔をうけて 翼はもいで棄てたから もう わたしはただのおんな 寝台の上 仰向けになり あなたの重みを受けとめる ために 背の翼 邪魔でした 翼 それが堕天の理由のすべてです。 ---------------------------- (ファイルの終わり)