46U 2017年8月20日23時22分から2020年10月5日11時46分まで ---------------------------- [短歌]朝月/46U[2017年8月20日23時22分] 陽炎をゆびにからめて帰りませ 朝月浮かぶ狭霧の径を ---------------------------- [自由詩]サキュバス/46U[2018年5月6日12時43分] 更紗(サラサ)の手触り 色彩の氾濫 溺れるこの夢の確かさ 伽羅(キャラ)の薫り 裸身に流れるたっぷりと重い黒髪 豊(ユタ)かさの まことの意味を知り候え 婆娑羅(バサラ)を遠く眺めいて 微笑しながらくゆらす紫煙 隙(スキ)だらけの娼妓は齢八百 君に触れるから爪は短い ---------------------------- [自由詩]金魚/46U[2018年5月24日19時59分] ワイングラスのうつろのなかで ひらひら泳ぐは真っ赤な金魚 君がぱららとこぼす言葉を 一生懸命ぱくぱくひろう うすい硝子をへだてた君は 赤い私しか知らないでしょう ほんとうは君の腕のなかでなら 五色に変化してみせるのにね そうよ 私はみだらな金魚 ひらひらシーツが揺れている ---------------------------- [自由詩]恋する魚/46U[2018年5月26日12時34分] 眼ヂカラが強すぎる わたしは魚 君をみつめている 魚だからまぶたは無い 目を閉じることはかなわない 誰よりも雄弁な眼を持つ宿世がつらい 泣きたくて壊れそうだけど泣けない そして君は  わたしの視線を喰らっても去りゆかなかった唯一のおとこ ---------------------------- [自由詩]翼/46U[2018年5月31日15時45分] 舌に絡まる火酒のような色恋沙汰には もう飽いた 冷えたその肩 ぬくい翼で癒やしたい そう思うのさ 舌に絡まる恨み言なら くちうつされてもかまわない 笑い飛ばして耀く君を わたしの翼で孵すのさ ---------------------------- [自由詩]けぶりぐさ/46U[2018年6月9日13時56分] 君はジタンを喫(の)んでいる 象牙色した指が佳い くちびると髭の剃り跡で わたしの視線をからめとる 君はわたしに火を点けて ハイにしながら 微笑する 君はもひとつ紙巻き咥え 灰にしながら 朝を待つ わたしは君のけぶりぐさ 煙草の気持ちがよく解る けど くちびるを恋うけぶりぐさには けむに巻くよな余裕はなくて 君はジタンを喫んでいる わたしは君にのまれてる 夢の継ぎ目に明け烏 応えるようにジッポを鳴らす ---------------------------- [自由詩]夏の夜の夢/46U[2018年7月21日11時12分] 氷が溶けて鳴る その音に瞼をひらいた 汗をかいたグラスにジンのなごり 君の香りを撹拌する空調 目覚めぬそのまぶたを震わす夢に 嫉妬しながら氷をつかむ さあ グラスにもう一杯の媚薬 蜥蜴みたいに冷たい君のからだを 溶かしながら眠りに堕ちたい ---------------------------- [自由詩]木に恋してた娘っ子/46U[2018年10月26日21時05分] わたし 娘だった頃 夜歩くのが好きだった 公園の木に挨拶し  のみならずこっそり名をつけて 木の肌に手を押し当てては  そっと名前を呼びかけた 誰もいない真夜中ならば  抱きしめたりもしたけれど 落ち着かなくて 照れてしまって すぐに腕を解いてしまった   中央公園の柳は「緑」ではなくあえて「紅」 南公園の桜は「時」で 自宅の柊は「ホリイ」 通りすがりの野良猫に 名前をつけて愛でるよに わたしだけの名で木々を呼ぶ  夜歩くのが好きだった 両腕でそっと抱きしめたなら つめたい樹皮のその下で  ときめきながら樹液は流れる  そう感じたは うぬぼれか? 闇に身をひたし木に触れる  彼らのしめった呼吸を感じた みどりの息を吐きながら 従順なけもののように在る 手のひらに伝わる拍動は 自分だけのものではないと信じた 木にも鼓動はあるのだと わたしの皮膚と樹皮のはざまに 通いあう何かがあるのだと とうに故郷を離れた 時は流れて帰れない  なつかしい木々  あの名で呼べば も一度応えてくれますか? 蘇るのは真夏の夜の 樹皮のつめたさと拍動 仰ぐ枝ごし見えてた月と木に恋してた娘っ子 ---------------------------- [伝統定型各種]都々逸/46U[2019年6月4日23時17分] 粋な噂も七十五日 未練な小指に赤い糸 ---------------------------- [伝統定型各種]都々逸/46U[2019年6月21日20時06分] 冷やを呑(や)りつつとらんぷ繰ればハアトの騎兵が眼をそらす ---------------------------- [伝統定型各種]都々逸/46U[2019年8月12日19時42分] きすの痕すら残せぬ恋路 口紅(べに)をぬぐえば夏が逝く ---------------------------- [自由詩]露草つゆくさ/46U[2019年9月2日19時44分] (ああ、秋の空は露草を集めて染めるのですよ) (あれこそまことの青ですわねえ) 天からつゆくさが降る、 つゆくさ、つゆくさ、 地が青に染まる、 つゆくさ、つゆくさ、 どこかで鈴がちりりと鳴る、 つゆくさ、つゆくさ、 青を浴びながらぼくは立ち尽くす、 つゆくさ、つゆくさ、 家々の屋根に青が降りかかる、 アスファルトのおもてを青が覆う、 ビルの谷間を青がとうとうと流れる、 ぼくはビニール傘をさして歩く、傘に積もるつゆくさ、 海いちめんにつゆくさ、テトラポットにつゆくさ、 波打ち際につゆくさ、くるぶしまでつゆくさ、 天の欠片なる青を地のすべてがすっくり抱き留める、 つゆくさ、つゆくさ、 青に埋もれて死んでいく、 つゆくさ、つゆくさ、 瞳もつめも青く染まる、 つゆくさ、つゆくさ、 ぼくの頭蓋を割ってくれ、 そこからわっとあふれる、 つゆくさ、つゆくさ、つゆくさ。 ---------------------------- [自由詩]うわばみ/46U[2020年8月24日14時28分] 産着(うぶぎ)を脱いだその日から あたいの親友(とも)は般若湯(はんにゃとう) 渡(わた)る世間が鬼の国でも 一緒に歩みゃ怖かないわ 馬鹿(ばか)になるほど浮世は楽し 鱗まとって道ゆかば 皆(みんな)呆れて笑み零(こぼ)れてる 何にしょう今宵のつまみ ---------------------------- [自由詩]Childhood's End/46U[2020年9月7日12時00分] 月が傾く音がして、 ぼくはぽっかり目をあけた。 カーテンごしに見えるのは、 ボタンみたいなお月さま。 瑠璃と茜の縫い糸で、 びろうど夜空にとじてある。 きっとお仕事したひとは、 てさきの器用なめがみさま。 ぼくはぼんやり不思議に思う、 とじてあっては動けない。 だったらあの音なんだろう、 月が傾くような音。 びろうど夜空をしゅるしゅると、 西へひっぱる音だろか。 星がぱらぱら落ちてくる、 パンくずみたいなお星さま。 ぼくは窓から手をだして、 星のかけらを受けてみた。 ひとつかじってみたけれど、 あんまり甘くはなかったな。 ぼくはすっかり目が覚めて、 よるの終わりをながめてた。 ぼくはおおきく息を吸い、 この世の終わりをおもってた。 ---------------------------- [自由詩]お針子/46U[2020年9月9日11時53分] エプロンドレスのお嬢さん、 ミシン鳴らして日は暮れる。 ヴィオロン奏でるお姉さん、 ワイン揺らして逢いに来る。 色とりどりの糸くずが、 エプロンドレスを飾ってる。 布と針とで遊んでいると、 時がたつのも忘れます。 おさげを解いたお嬢さん、 耳たぶ染めてドレスを渡す。 シニヨン解いたお姉さん、 鏡の前でターンする。 ヴィオロンの箱は壁にもたれて、 ふたりの乙女を見つめてる。 新酒のワインがグラスにつがれ、 ふたりの秘密を酔わせてる。 ---------------------------- [短歌]秋深し金木犀のご近所に銀杏植えたの誰や出てこい/46U[2020年10月5日11時46分] 秋深し金木犀のご近所に銀杏植えたの誰や出てこい #においが混ざり合って大惨事に。 ---------------------------- (ファイルの終わり)