ひだかたけし 2021年9月9日22時15分から2021年10月21日19時13分まで ---------------------------- [自由詩]プロセス/ひだかたけし[2021年9月9日22時15分] 外界があるのに 自分だけに関わり ひたすら孤独な創造作業をしていかなければならない 彼方から打ち寄せてきた世界を 創造して 創造して 内的な孤独に没頭する 宇宙の闇の時間、 宇宙の真夜中  わたしはわたしを越えてゆく ---------------------------- [自由詩]露呈/ひだかたけし[2021年9月11日20時53分] 剥き出されている 神経は逆立ち 風雨に鳥肌立つ 紅の樹木は激しく波打ち 瞳をくりくりと輝かせた 木登り少女は姿を消した 何にもない、何もない 意味は全て剥奪され 記号だけがひょろひょろと舞い か細く響く声の渦 この暁、 世界の荒野が 剥き出されている ---------------------------- [自由詩]真っ白な一日/ひだかたけし[2021年9月14日0時55分] 日がな一日 謎は謎として在り続け 私は五感の縛りに沈む 思いは鬼火のように揺動し 逃れる的を掠めていく 現象する本質を 律動する思考を 掴みかけては取り逃し 夢の底で溺れている 予感に満ちた憧れを 持て余しては日が暮れて 今日も真っ白な一日が 無表情に過ぎていく ---------------------------- [自由詩]ジャンプ/ひだかたけし[2021年9月14日23時43分] 青白く痩せた君から放たれていたもの 僕はいつも怯え痺れた じぶんという核が剥き出されて 漆黒の宇宙に放擲されていくように 残された肉身が断崖絶壁を何処までも墜落していくように 途方もなく無限に、途方もなく無限に 君はいつもピンと張り詰め 雨が降ってずぶ濡れ 渦巻く存在の孤独を背負い あの日あの晩ジャンプした わたしは救われない わたしから逃れられない* 剥き出された存在の核を 独りで背負い続けることの不可能 君はあの日あの晩ジャンプした わたしは救われない わたしから逃れられない わたしは詩を書く わたしはジャンプする *ビリー・アイリッシュ『NDA』より ---------------------------- [自由詩]この秋、神明 新たな始まり/ひだかたけし[2021年9月16日19時03分] 通りすぎる街並みには 金木犀が甘い香を放ち 賑やかだった蝉の鳴き声は 示し合わせたかのように静まり返り 秋が熱した夏の背を押しやって 青く青く立っていた あゝまた来たのだな わたしは思う 幽明境を異にする 魂と魂の季節が 世界の遠い遠い地平を越え   互いの名をあちこちで呼び合う 声と声の木霊する 透徹として澄明な季節が 宇宙の旋回する波動 どよめく此処に 深く潜行し 大地を蹴る 高く飛翔し真実を掴み取るため 世界から投げ掛けられる問いに 沸き立つ海に没しては 正しい応えを導くため この秋、神明 新たな始まり ---------------------------- [自由詩]湧出/ひだかたけし[2021年9月18日21時40分] 降り止まない雨が 心の奥底に言葉を溢れさせ 魂の隙間から 零れ落ちるような光滴たち 無数に煌めき散逸する 終わらない旅路の果てに 訪れるもの一つ 想い描けないなら 何億もの地上の眼を掃き散らし 黄金に輝く君の吐息でこの場所を充たそう 雨、雨、雨 降り止まない雨が 心の奥底に言葉を溢れさせ 硬直した意味の群れを切断していくとき 哀しみの溜まりと喜びの波は 僕の心を漂いながら 宇宙の果てを横切っていく ---------------------------- [自由詩]秋口/ひだかたけし[2021年9月19日17時40分] 秋口が開き 無辺の静かさ、響く 赤々と彼岸花咲く土手の向こうから 手招きするように ゆっくりと、ゆっくりと )もうはっきりとは )思い出せない過去がある )色褪せながらジリジリと )胸を疼かせていく蒼い想念 ただ懐かしく、ただ哀しく 秋口が開き 無辺の静かさ、響く 赤々と彼岸花咲く土手の向こうから 手招きするように 深く、深く ---------------------------- [自由詩]ゴール/ひだかたけし[2021年9月20日20時11分] 西の空はコバルトブルーの残照だった 東の空には大きな満月が赤々と昇り この地には不適応な僕が未だ息して 途方に暮れた名無しのまま 遠い記憶の余韻に包まれる 光、宇宙から放射され 万物、生成の余韻に酔いしれ 創造され崩壊し創造され 天高く秋が支配した今日、 進行し続けるすべては此処に留まり 行くあてのない道筋を 透明な光で照らし出す  ゴールは消え、ゴールは一つ ゴールは消え、ゴールは一つ 静かな覚悟が夜風に刻まれ 僕は明日へと向かっていく ---------------------------- [自由詩]光の午後とロックンロール/ひだかたけし[2021年9月22日16時46分] 光が満ちる のどけき午後 突き抜ける青 天高く 涼やかな風、一吹き もう秋ですね もう秋ですか ちょっと驚く 僕の脳裡に 軽快なロックンロールが鳴り響く やわらかな光が満ち溢れ たおやかな時が流れ出て 去りゆく夏の後ろ背を追う 今、 季節のはざま ロックンロール ---------------------------- [自由詩]記憶の光景〜去りゆく夏の日に/ひだかたけし[2021年9月23日20時25分] 夏の空、玄関口 立ち尽くす我 庭木の揺れ、うねる大気 ああ世界が広がっていた! 己とは無関係に 何処までも眩しい異郷が 五歳の時のその体験を私は決して忘れない じぶんとは全く無関係な美しい世界が在り その世界を発見しひたすら見入っている自分が居たということ 懐かしい戦慄! 世界はそのとき 私とは全く無関係に だからこそ親密に関係して在ったのだ ---------------------------- [自由詩]DNA/ひだかたけし[2021年9月25日18時37分] 雨降る夜に 孤独を曝し けぶる地平へと 走っていく 滾る思いを 冷雨に濡らし  救われないと分かっていながら 逃れられないと分かっていながら 夜闇のなかを走っていく ひたすらに、ただひたすらに 無数のヘッドライトの猛迫に 囲まれながら崩折れる それは甘美な秋夜の一時 そうして私はまた独りになる そうして私はまた独りになる 雨降る夜に 孤独を曝し けぶる地平へと 走りながら 滾る思いを 冷雨に濡らし  わたしは救われない わたしから逃れられない* 夜闇の蠢き、脈打つ鼓動 限り無く、果てし無く 意味を剥奪された 大地が広がる *ビリー・アイリッシュ『NDA』より ---------------------------- [自由詩]朝の呪文/ひだかたけし[2021年9月27日12時44分] 哀しい象の群れ 午前中夢を見た 恋を踏み潰せ 心の中のアッフリカ ---------------------------- [自由詩]遠くで鐘が鳴っている/ひだかたけし[2021年9月28日21時21分] 遠くで鐘が鳴っている ひんやり切ない秋の日に 何処までも高い青空に 追いかけても追いかけても 決して追いつけないあの場所で (金木犀が軌道を舞い 秋の大気が生まれるところ) 遠くで鐘が鳴っている 憧れ途方に暮れながら わたしはうっとり漂い出す ---------------------------- [自由詩]抱きしめて/ひだかたけし[2021年9月29日20時12分] あまたの声が木霊する 陽炎のように消えゆく前に それらの声を抱きしめる 遠い地平と波打つ黄金 わたしは彼らと交わった 消えゆく前に、消えゆく前に もう一度だけ抱きしめて 黄金に輝く陽炎を 果てない球体から追いかけて 何処か遠くで刻まれた 遥かな懐かしさに眩めいて 垂直に降り注ぐ声、声、声 連弾される記憶の奥 繋いだ手と手のぬくもりを そっとしっかり抱きしめて ---------------------------- [自由詩]夜のスケッチ/ひだかたけし[2021年9月30日22時09分] かなしみは 雨降るなかに 浮き上がり 泣いているのは 誰なのか こころの奥処で震えている 遠く遥かな心象を 雨が静かに消していく 冷たい雨は降り続け 街はけぶり霞んでいき 救われることのない一日が 今日も何事もなく過ぎていく ---------------------------- [自由詩]TVピープル/ひだかたけし[2021年10月2日22時12分] ひっきりなしにしゃべっている ひっきりなしにしゃべっている 沈黙の間が恐いのか それは確実にやって来る それは傍らに忍び寄り それは傍らに息づいて 沈黙の間を押し広げ 未知なる問いを投げ掛ける 沈黙の間が恐いのか 沈黙の間が恐いのか ひっきりなしにしゃべっている ひっきりなしにしゃべっている ---------------------------- [自由詩]鬱と青/ひだかたけし[2021年10月3日13時44分] 網戸の外は青い空 網戸の内は灰の心 青はあくまで深さ増し 鬱はどうにもどん底で 世界と私は無関係 私が無くとも世界は続く ああ、全くそれなのに 涼風が肌を不意に撫でる その偶さかの触れ合いが 何とも親密に心地好い [おまえの業はおまえの業  独り背負い行ける処まで生け] 心の声がそう囁き 気付けば 俺の六畳間は、 金木犀の香でいっぱいだ。 ---------------------------- [自由詩]フェイド・アウト/ひだかたけし[2021年10月3日23時10分] 哀しみのステップ踏みながら いずれ遠ざかり消えてゆく 大きな爪痕をこの界に残し 大きな爪痕をあの界に携え 途方に暮れて消えてゆく )自分は場違いだって気がするかい? )自分は意味のない存在だと感じるかい? )死ぬほど怖いだけって気がするかい?* 哀しみのステップ踏みながら 生きている意味を生き続ける意味を 毎日ひたすらに探している 消えてゆく前にもう一度 この広大な大地にひざまづく 嘘偽りのない心で この清明な世界を抱きしめる そのために、そのために 哀しみのステップ踏みながら 消えてゆく前にもう一度 *ヤングブラッド『 mars』 ---------------------------- [自由詩]残響/ひだかたけし[2021年10月5日15時04分] 樹間から 覗く秋晴れの青、 ふるふる震え 金木犀の香が舞う夕べ、 時はすっかり透き通り 遠い記憶の余韻が響く )何があったか )細かいことは忘れちまったが )ただ喜びと懐かしさだけ )こんこんと湧き上がり )俺の心は充ちてゆく 樹間から 覗く秋晴れの青、 ふるふる震え 金木犀の香が舞う夕べ、 時はすっかり透き通り 遠い記憶の残響を聴く ---------------------------- [自由詩]熱射/ひだかたけし[2021年10月6日20時20分] 犬が吠えている 熱する陽射し 蟻たちが隊列を組む したたる汗 動かない空気 ぼうと 天を仰ぎ見る 眩めく視界 どよめく一日 過ぎゆく時の間に間に 救われない思いを浮かべる 青空が広がり 眼差しは荒野に 射止められたまま 凝固する 今、時は傾き 原色の陽が落ちて ---------------------------- [自由詩]地震の翌日に/ひだかたけし[2021年10月8日22時20分] 青だ 眩暈するような青空が 地震の翌日に広がって 雄大な弧を描き 流れていくいわし雲 金木犀の大木が あまやかな匂いを散布して のどかな秋の日を彩ります 街の機械工場の昼飯時 サイレンと共に中庭に集まる工員たち 思い思いの言葉を交わし 昨夜の恐怖を発散する 今夜また地球の破裂する音が轟いて 破滅する都市の悪夢を交錯させることがないように 巨大な力を孕むこの大地にひれ伏して 巨大な力を孕むこの大地にひれ伏して 青だ 眩暈するような青空が 地震の翌日に広がって 雄大な弧を描き 流れていくいわし雲 金木犀の大木が あまやかな匂いを散布して のどかな秋の日を彩ります ---------------------------- [自由詩]どよめき(改訂)/ひだかたけし[2021年10月10日20時48分] 日々がどよめいている 宇宙が波打っている 『遠い遠い』と手を振る君 )何かが湧き起こり )何かが爆発して )すべてが終わり )すべてが始まろうとしている )名状しがたい何物かが流動し 日々がざわめいている 無限が波打っている 『さようならさようなら』と手を振る僕 そのとき 大空は金色に輝き     黒い穴を穿ち貼り付く太陽 やがて 天は奥まり    辺り一面の灰白色に還っていく ---------------------------- [自由詩]ウォーター/ひだかたけし[2021年10月12日22時53分] 在ることの 謎に触れたとき ウォーターと 手のひらに 書いてみる 初めて地球を生きた日のように その鮮烈な霊気に貫かれ ウォーターを 感じて、感じて 独り大地を 舞い踊る (冷たく透明な流動体を 求めゴクゴク飲むたびに 生きて在ることを抱きしめて ただひたすらに抱きしめて) ウォーター、 こんこんと湧出する在るの驚き ウォーター、 こんこんと湧出する在るの発見 ウォーター ---------------------------- [自由詩]半月/ひだかたけし[2021年10月14日21時13分] その快楽の後始末を おまえは引き受けなければならない 日常は続いていく 荷を背負って 永遠は開けるだろうか いつ? 今にも! ただ、見えなくなった眼だけがある 永遠を求める必要はない すでに永遠の中にいるのだ* 今、白銀の半月が鋭く 視界正面を斬る *西脇順三郎「菜園の妖術」 ---------------------------- [自由詩]潜行/ひだかたけし[2021年10月16日0時00分] 眼が在り映り凝視し続ける眼に 脳裏の戦場の消えない殺し合いか 眼前の草むらの裸の子供たちの激しい絡み合いか 展開され焼き付けられるその光景 草むらの草いきれも 左足にぐるぐる巻かれた包帯の中で腐乱していく肉も 置き去りにして 虚空の孤立した氷塊に貼り付く老人の眼 微睡んでいる子らの裸体と死んだ魂の肉体 交錯し遠去かりながら その脳髄に一瞬燃え上がった黒炎に )お前は何を見た?何をしていた?俺は見たぞ全て観た 凝視はしかしその強い発語にまで到達する力を得ずに突如の衰退虚脱 惚けて只虚ろに顔を強張らせ その痩せこけ浮き出た頬骨コツンコツンと松葉杖に打ち付け炎の消えると 天に舞い上がる小悪魔の哄笑高らかに )ただの頭のおかしいお爺さんだから大丈夫 裸の少女の宙に浮く声 少年は裸のまま 真の恐怖の在り処を知る ---------------------------- [自由詩]風の通り道、雨の匂い/ひだかたけし[2021年10月17日19時04分] 感覚する、 風の通り道、雨の匂い そのたび新しい自分がいて ぼくは大きく両手を広げる この広大な地球の上で この肉体を抱えながら 笑っている泣いている すべて愛しい日常些事 一つ一つ噛みしめて 感覚する、 風の通り道、雨の匂い 日々ささやかなこの訪れを! 日々たおやかなこの宇宙を! ---------------------------- [自由詩]光の一閃、突き抜ける青/ひだかたけし[2021年10月17日23時46分] 孤独である 関係を全て切断し 諦めている、静かに 幸せとか不幸せとか ただ驚くのだ、 世界に自分に詩に一日に オドロキは転がっているから 至るところに オノレが在る、セカイが在る 光の一閃、突き抜ける青 見い出し気付けば 此処に在る この奇跡の瞬間、奇跡の宇宙 渦巻く時空に曝されて 今日も新たな歩を進める 孤独な道程を、独りの歩みを 行き着くまで、息尽きるまで 今日も新たな歩を進める   ---------------------------- [自由詩]意識の夜に/ひだかたけし[2021年10月19日21時39分] 真夜中が近づいている ベランダに出て夜風にあたる 街灯の列が何処までも続き なんて素敵な夜だろうと思う 昼間森で見た花の群落が 今頃青白く光っている 風は優しく穏やか 主観と客観が溶け合い 意識は俄に広がり始め 静かに、確かに この孤独な内面から なにかが流れ出し溢れて来る (郷愁のようなもの、憧憬のようなもの) 何一つ欠けたものはなく 何一つ過剰なものはなく 欲望の均衡、中庸の心 はっきりとした輪郭持ち 一陣の風が吹く そうして涙は流れる 此処に在る肉身を うっとりと濡らし 真夜中の出来を待ちわび 涙は流れる ---------------------------- [自由詩]回帰/ひだかたけし[2021年10月21日19時13分] 無音、 移動していくモノの影 独り在る茫漠の床で 眠りの底から掻き分け掻き分け 異界の異様な感触を 意識の触手、体に刻む 無音、 夜陰にひっそり回帰し 剥き出しのたましいを 宇宙に還してやすらって ---------------------------- (ファイルの終わり)