ひだかたけし 2020年4月13日17時51分から2020年5月24日20時05分まで ---------------------------- [自由詩]連鎖/ひだかたけし[2020年4月13日17時51分] 雨降りの 跳ね返りは 誰のせい? そう問う端から 車が来て 水しぶき上げ びしょ塗れに 私を濡らし 通り過ぎる )あゝこの持って行き場のない気持ちを )あゝこの不可避な連鎖を )誰のせいにしても始まらない けれど、、、 雨降りの 跳ね返りは 誰のせい? そう問う端から 車が来て 水しぶき上げ びしょ塗れに 私を濡らし 通り過ぎる ---------------------------- [自由詩]孤独/ひだかたけし[2020年4月18日19時52分] 雛鳥の 巣を抱くような 恋をして 心臓を 貪るように 交わって 雪の降る 街で そっとお別れを そんな お伽噺のような 時を過ごし 漆黒と 戯れる今は 孤独 ---------------------------- [自由詩]今という時/ひだかたけし[2020年4月22日20時56分] 今宵、 白い部屋に 在るもの在るもの 自らの輪郭を鮮明にして 回流する澄み切った夜の空気に すっかり馴染んで留まっている 横たわっている私もまた寛ぎ 在るものたちと繋がり合う、 揺るぎない今の内に在る 時の進行は止めようもなく しかも不断に 時の開けは到来する )時の減速と不在化、時の垂直な切断 その時私たちは永遠を垣間見る 途方に暮れた名無し人として ---------------------------- [自由詩]反復/ひだかたけし[2020年4月23日19時16分] 君は長らく歩いて来た 独りぼっちでこの長い旅路を 天辺に着いては転げ落ち また振り出しから天辺目指し 繰り返し繰り返し歩いて来た 今終焉を迎えるに当たって 君はまだ旅の途中 もう放棄してもいいんだよ そう言われても手足は止まらず 茜に染まる夕空を 遠い目をして見つめている )もう放棄してもいいんだよ 君は最後まで諦めない 同じことの繰り返しだと 分かっているのに諦めない いったいなぜなんだろう? 君は決して応えない 僕からしたらこの究極の問に 君は決して応えない それが唯一の答えであるかのように 君は長らく歩いて来た 独りぼっちでこの長い旅路を 天辺に着いては転げ落ち また振り出しから天辺目指し 繰り返し繰り返し歩いて来た 死するまで続くこの反復、 遠い目をして君は行く ---------------------------- [自由詩]流れていく(改訂)/ひだかたけし[2020年4月24日13時30分] 流れていく ゆらゆら揺れる電線の向こう 空の青を背景に 白雲、一つ 流れていく ゆっくりたしかに 流れていく そうして着実に時は過ぎ 百万年が過ぎていき 私も君も彼も彼女も みんなみんな居なくなる 只、宇宙の巨大な静かさだけ 蒼穹の果てから木霊して 流れていく、流れていく 白雲、一つ 流れていく ---------------------------- [自由詩]空と盲目/ひだかたけし[2020年4月25日18時57分] 空間に 手を差し出し ゆっくりと 上下左右にかき混ぜる  けれども 存在する はずのグラスは 見つからない 空間は 次第に重く澱んでいき だらんと開いた手のひらに 粘りつくように定着する 存在する はずのグラスを 失って ひたすら 濃密な鬱を 育んで 夜の沈黙を 誘って 真っ白な雪 のように 降り積もる この全てが微分化されいく宵の口 ---------------------------- [自由詩]白のイマージュ(改訂)/ひだかたけし[2020年4月30日19時09分] 夜陰に 静けさの 微かに揺れ動く ベッドを囲む白壁から 白の色 剥がれ漂い出し 微かに振動する 静まり返った 四方空間に 彷徨い落ちゆく白の色の 帰着すべき基体の不在 静けさのうちに 包み込まれて 息を潜める 白のイマージュ その気配、 柔らかに 夜底に響き木霊する ---------------------------- [自由詩]呆(改訂)/ひだかたけし[2020年5月1日3時14分] 紅の波打つ ツツジの原に 揚羽舞い舞い 光の海 広がり流れて 透き通り 両手を大きく 広げてみれば 遠く花野が 開けていく   * 鈍色空は私の心 鈍色空は私の気分 鈍色空は行き止まり そうしてぼんやり全てに呆け 私の心に花野が開ける 狭い暗渠を通り抜け あの無上の花野に至る ---------------------------- [自由詩]対峙(改訂)/ひだかたけし[2020年5月3日19時54分] すべての親しい者達が消えた日に おまえは無感覚となりその鉈で 自らを切り裂く 遠い億万年の記憶と一体化し どうして今此処に居るのかと 自問を続けながら ひたすら自らを切り裂いていく 終わりなき日々に別れを告げるように 麻痺しその鉈を振り落ろし 孤独という名の化物と 醒めた意識持ち対峙する 自虐の極みで反転し 裂傷を自ら曝け出し 孤独という名の化物と 孤独という名の化物と ---------------------------- [自由詩]地に潜むもの/ひだかたけし[2020年5月5日21時21分] 満月が頭上にかかり 地に潜むものを照らし出す 私は月明かりを手で掬い 落ちる陰影の青白さ いつまでも見つめ待っている 地に潜むものの輪郭が 現、露わとなる時を 忙しく過ぎる世相の奥に 抱かれた希望の花開く時を 地に潜むもの、小さきもの その溌剌を世に放ち いずれ衰え萎えていく 時は追跡不能のまま 今宵も月に照らされて 束の間の光陰、世に刻め ---------------------------- [自由詩]銀の雨/ひだかたけし[2020年5月6日18時14分] 小雨は 薄日を乗せて 銀の色 濡れて 照り映える ふくらはぎ 白く優しく季節に溶け 小雨は 薄日を乗せて 銀の色 遠く 夏の予感を 膨らませ ---------------------------- [自由詩]街角にて/ひだかたけし[2020年5月8日12時51分] 声と声が交わるあいだ 柔かな光が横切って わたしは不意にいなくなる うねる大気が木霊して ---------------------------- [自由詩]雨が降る/ひだかたけし[2020年5月9日21時25分] 雨が降る 漆黒のタール、銀に輝かせ 雨が降る 懐かしい匂い、散布しながら 雨が降る 遠い記憶の感触、浮き上がらせ 今宵すべてすべて静まり返り わたしは独り寝の床を整える 未知の予感に震えながら 雨が降る 漆黒のタール、銀に輝かせ 雨が降る 懐かしい匂い、散布しなから 雨が降る 遠い記憶の感触、浮き上がらせ ---------------------------- [自由詩]月夜/ひだかたけし[2020年5月11日19時09分] 無音の夜 また到来し 月はない 月明かりだけある 白々と 辺り、白々と 浮き上がり 寸断された記憶の 恐怖、また襲い来る 私は私の実感を保てず 意識の外郭だけが生き残り やがて蠢く闇に呑まれる (モノというモノ、侵入し 己が内実を埋め尽くし 私は叫ぶ、 外へ外へ外へ!) 無音の夜 また到来し 月はない、月明かりだけ 洪水となって 溢れ降る 記憶を寸断された男の叫び、 白々と白々と染め上げて ---------------------------- [自由詩]夏日/ひだかたけし[2020年5月12日19時03分] 暑い 暑いなあ まるで真夏の暑さだ 地球が狂い始めて オマエラ、人間のセイダロウ そう叫んでいるかのように 路傍に屈み タンポポの種を ふぅと吹いて飛ばしている 子供が二人、 白くまぁるい球体を 指で盛んに揺すりながら 笑い顔はクシャクシャで 滴る汗の 透明な筋、透明な筋 暑い 暑いなあ まるで真夏の暑さだ 地球が狂い始めて オマエラ、人間のセイダロウ そう叫んでいるかのように 今、視界を 燕が鋭く過る ---------------------------- [自由詩]月と火星と初老の男と(改訂)/ひだかたけし[2020年5月15日16時49分] 冷気が肌刺す深夜だな まだこんなに冷えるのだな 窓の外では月と火星が 煌々とランデブーし 窓の内では初老の男が 悶々と起きている この不思議な惑星に生まれて この不思議な惑星に居着いて 私は今を目醒めている 窓一枚で隔てられ 夜陰の空気に曝されて 月と火星と初老の男と 宇宙の夢見に佇んで (私達はいづれも 壮大な宇宙の夢の中) ---------------------------- [自由詩]雨音/ひだかたけし[2020年5月16日19時38分] たんとんたんとん 連弾し 主を濡らし 雨の降る 空は灰白、 遠い目で 見つめている 眼差しが 銀の雨足、 瞼に乗せ すっと透過し 宙を舞う 後に響く 雨音が たんとんたんとん 連弾し 主の不在化した 刻を 静かに静かに 濡らしていく ---------------------------- [自由詩]春の意志/ひだかたけし[2020年5月22日21時13分] 今日高曇りの空の下、 肉を引き摺り歩いていた 春という大切を 明るみながら覚えていく 妙に浮わついた魂を 押し留めながら、押し留めながら 離れていかないように 剥がれていかないように 今日高曇りの空の下、 肉を引き摺り歩いていた ---------------------------- [自由詩]今日もまた(改訂)/ひだかたけし[2020年5月24日20時05分] 今日も空は青かった にこりともせずただ青く 無限の沈黙のうちに それは在った 今日も私は無力だった 宇宙の虚無に耐えかねて あなたにあることないこと 喋っていた 今日も黄昏は優しかった すべてが名もなき闇へと帰ろうと 自らの無垢をさらけ出すとき 在るもの一つ一つの輪郭が 光彩を湛え浮き立っていた 今日もまた、今日もまた ---------------------------- (ファイルの終わり)