縷々流 縷々 2015年12月29日13時31分から2017年8月19日0時59分まで ---------------------------- [自由詩]未熟者/縷々流 縷々[2015年12月29日13時31分] 浮きっぱなしのまあるい金魚に 沈下性の餌を落として、愛でた それからコツンと水槽を揺らして ストレスを送りこむ 浮きっぱなしの鞠が いつまでも足掻いていてくれますようにと、 わたしは愛でることをやめない。 「息苦しそう、水中は」 彼女を愛でることをやめない。 ---------------------------- [自由詩]毎日人が死んでゆく/縷々流 縷々[2016年1月2日1時16分] 毎日人が死んでゆく 墓だらけの世界 スーパーヒーローは言う もう誰も殺してはいけません もう誰も死んではいけません 毎日人が死んでゆくはずの 墓だらけの世界が 毎日人が産まれるだけの 命だらけの世界になってゆく 墓の上にコンクリートのビル 埋め立てられた海の上 その上にコンクリートのビル その棘で地面を隙間なく埋めてゆく 反逆者は叫ぶ ビルが僕らの墓になる 衛星が揶揄う 地球は灰のバフンウニ 太陽が首を傾げる お前、一回り大きくなったな ---------------------------- [自由詩]汽車(JR)/縷々流 縷々[2016年1月21日9時51分] これは始発ですかと尋ねると 彼は首を横に振る そうか僕は遅刻したのか 車内は冷房効いてますかと彼に尋ねると 入っているのは暖房だという そうか今は冬であったか ---------------------------- [自由詩]少女、宇宙/縷々流 縷々[2016年1月30日1時13分] 『少女』 今日でハタチになるのよ 少女は花を散らして その1秒を不器用に演じた 『宇宙』 置き石をみっつさせて 盤に星を置いてゆく 計算は怠らず 擦り合わせてジゴにする 見つからぬよう 機嫌を崩さぬよう そうして、ジゴ ---------------------------- [自由詩]焦がれ/縷々流 縷々[2016年5月21日2時10分] 少年は足裏を焦がして 靴はいつの日か隠して埋めた 角質、角質、カクシツ 玄関の隅に置いた革靴は フローラルの香り 白い角質、剥いで 焦げ臭くなるために、外へ出る ---------------------------- [自由詩]ラフな戯れ/縷々流 縷々[2016年5月22日15時59分] キラキラ輝いていたアイドルは ギラギラのおばさんタレントに トロトロに煮込んだはずの愛は ドロドロの昼ドラ視聴率0.2% 四捨五入で0の手間暇 うそっぱち 愛してあげましょう いつまでも サラサラの肌にザラザラ髭が生えても スリスリがズリズリ痛くても それでもソロソロゾロゾロと 出て行くと言うのなら ハイハイバイバイさようなら ---------------------------- [自由詩]最終回/縷々流 縷々[2016年5月23日0時59分] いつまで経っても終わらないから 終わらないなら始めないよと うそぶいて急かします 冷たいシャトルに腰をかけたわたしたちは 地球を発射して 酸素がなくなるまで旅をしたい まあるい命は重力を綱にして 地球を引け 地球を引け そうしてみんな一緒に消えます 北極よりも寒いところで氷漬け 太陽のそばで調理され そうしてみんな一緒に消えます いつまで経っても終わらないから 終わらないから始められないのよ そう言ってわたしは最終回であなたを待つわ ---------------------------- [自由詩]202号室/縷々流 縷々[2016年5月24日7時45分] 本当に大切なものだけを 本当に大切にするって 難しいことですね あなたがそう言った 皮肉でしょうか 本当に大切なものだから 本当に大切にしてよって あなた本当はそう言いたいのでしょう 朝、あなたはわたしより少し早く起きてカーテンを開ける その眩しさに負けてわたしは背を向ける 眠るってことは死んでしまうってこと 起きるってことは生まれること 毎日、仮死状態を繰り返し この部屋から出ることは許されない 本当に大切だと思うから 本当に大切なそれだけを 本当に大切にできなくて 憎まれていつか出て行くかしら それでもわたし いつの間にかあなたが居なくなっても 本当に大切なまま わたしのなかで仮死を続けるわ ---------------------------- [自由詩]3年2組/縷々流 縷々[2016年5月24日7時58分] 美少女のあの子 みんなの悪口言って人気者 真似して悪口言ってみたら わたしはなんでか悪者に 笑顔のあの子 いつも下品なことばかり それでもみんなの人気者 真似して下品してみたら わたしはなんでか笑い者 オタクのあの子 教室の隅でサークル形成 いつも楽しそう 真似して輪に入っても わたしには何もわからない 普通なあの子 いつも何しても平均点 運動も見た目も平均点 真似すらできない普通の子 ただ好かれたいだけなのに いつもすっと離れていく わたしの心も誰かの気持ちも 本当は違う誰かになりたい それでもここにいるのは ああ、誰にもなれない わたしは誰なの ---------------------------- [自由詩]枷/縷々流 縷々[2016年5月26日11時19分] あなたに枷をつけて シから遠ざける まるで小説みたいな そんな曇り色の日 あなたは死んではならないし 幸せにもなれないのよ そんな枷をつけて 世界に放った 帰っておいでなんて言わない あなたの意志で帰ってくるのよ わたしそれまで詩っているわ ---------------------------- [自由詩]鮮やかな汽車/縷々流 縷々[2016年5月27日2時01分] 【鮮やかな汽車】 -0- 一生懸命生きていたって だれも気にしないのよ わたし何処へ飛んで行っても あなた関心がないのよ 綿毛ひとつ舞って それとおんなじ命なの -1- 変われないのさ 何処を知っても 誰を知っても わたしはわたし 何処で咲いても 西洋たんぽぽ 檸檬のタブレット 口に放り込んで 甘ったるい春を感じた -2- 背伸びしすぎて筋肉痛 心をほぐすように歯車を回す ピントが合う前に シャッターを切ろう わたしをぼかして わたしを知る前に いつか帰りますと 絵はがきにして送るの -3- あなたの舌が口内炎をえぐって それがとっても痛かったから わたしこうして汽車に乗ったの ---------------------------- [自由詩]電車、通過待ち/縷々流 縷々[2016年5月27日22時40分] 例えば今、口内に広がる血の味を 言葉で拭いさることができないように 例えば今、君の首に絡まるその縄を わたしの言葉でちぎることが出来ないように 言葉など、非常に無意味なものであるのだ それなのに 飴玉1つの価値にもならぬものを ナイフの代わりにもならぬものを なぜわたし達は紡ぎ続けるだろう 心を加工するだけの行為を 飽きもせず、なぜ なぁ 血の味を紛らわすために わたしに飴をくれないか 鉄の匂いを檸檬の香りに変えたいのだ 君がわたしに沈黙を要求しても 言葉をなくしてたまるものか 君の首に絡まる忌々しい過去を わたしが切ってみせるのだ だから。 なぁ、 わたしに飴をくれないか 代わりに君に珈琲でも奢ろう ---------------------------- [自由詩]暇なので電話しませんか/縷々流 縷々[2016年5月28日14時58分] わたしを呼ぶときは 歌うように呼んでね るるるるる〜 まるで電話のベルみたい わたし声色ひとつ変えて 答えましょう はいこちら、 るるるるる〜でございます 陽気で愉快で意地悪な るるるるる〜でございます 皮肉と嫌味が好物で 人の不幸は蜜の味 とっても優しい淑女でございます ---------------------------- [自由詩]大人はすぐに嘘をつくから/縷々流 縷々[2016年6月1日9時25分] 左右に大きく揺れる電車は 僕らを強引に引っ張って のろのろ走る父の車を ぐんぐんと追い抜いた 隣で姉が呟く 泣いてたまるかって 僕は答える 泣き虫は嫌いだって そうやって僕らふたりで溢れさせた ふたりの間に溢れた 涙の粒だけを信用している ---------------------------- [自由詩]コード/縷々流 縷々[2016年8月21日22時20分] できるだけ頑張って、できるだけ それができたら目一杯、目一杯 もう少し精一杯、君ならできる精一杯 そうやって最後には力一杯、 力一杯に引っ張った気持ちが 引っ張られた気持ちが 掃除機のコンセントみたいに キュルキュルいって、 突然わたしの中に戻ってきた 吐き出しそうなくらい 泣き出しそうなくらい 戻ってきた だからわたしは今苦しい ---------------------------- [自由詩]言葉/縷々流 縷々[2016年10月17日0時19分] 無理に口にする必要なんてない 言葉は 言葉は気持ちだ 無理に話さなくていい 言葉は音楽のように あなたに届かなくてもいい 言葉は魔法のように どこにもいきはしない 言葉は必殺技のように 口にしなくても自由自在にそこにある ---------------------------- [自由詩]海が僕らを/縷々流 縷々[2017年8月16日22時36分] くたびれた椅子を引きずって 砂浜にまっすぐ線をつける 君の横には座らないから 安心して眺めればいい 夕日か朝日か知らない光 綺麗だね なんてね ありふれたことを思って ありふれたことを言って 君が振りかえるのを待つ 足の指にこびりついた砂を 思い出のように大事に持って 君の想いが届くのを見ている ---------------------------- [自由詩]星に還る/縷々流 縷々[2017年8月18日22時01分] 錆びた看板のキャバレー 避妊具の自販機 古ぼけた色気の中に 母の面影 明日からあの街になるこの街 ---------------------------- [自由詩]雷模様/縷々流 縷々[2017年8月18日22時29分] 水たまりに落ちた星を 意地になって踏み潰した ズボンの裾が汚れて そんなことも気にせず 意味のない破壊を繰り返して わたしはわんわんと泣いた あたしかわいそう! あたしかわいそう! あたしかわいそう! ---------------------------- [自由詩]岡崎駅で待ち合わせた/縷々流 縷々[2017年8月19日0時59分] 知らない人とセックスした ネットで繋がって 隣町の駅でおちあって 車に乗せられて ホテルへ行って 知らない人と、した 気持ち悪いわたし 気持ち悪いあなた 気持ち悪い、温度 そうすればわたし 違うわたしになれる気がした そうしてもわたしは 気を遣ってばかりのわたしで 知らない誰かに 気持ちいいフリの 気持ち悪いわたし ---------------------------- (ファイルの終わり)