ガト 2020年3月19日18時13分から2020年9月11日4時19分まで ---------------------------- [自由詩]ひなた/ガト[2020年3月19日18時13分] 後ろで手を組んで 足をそろえて ちょこんと立つ女の子のように 春が遠くで見ている 少し 体を傾けて 小さく笑いながら ---------------------------- [自由詩]Painter/ガト[2020年3月19日18時36分] 雨の夜を 思い出すとき なぜ青く見えるのか 人の心にはきっと その人だけの色がある 例えば同じように 青を描く人がいたとして その人の青は 私の描く青と同じだろうか 私が灯りを思い浮かべるとき それは蛍光灯の色ではなく もっと暖かい色だ 例えば 修道女が灯すランプの色 時代が脳に刻んだ色が 何かを思うたびに再現され いつも最高に美しい一枚の絵になる ---------------------------- [自由詩]港/ガト[2020年3月19日18時45分] 春の宵は 優しくなって 優しくなるから 寂しくなって 気がつけばただ ひと目見たいと 故郷の写真を探してる ---------------------------- [自由詩]うみねこ/ガト[2020年5月4日5時51分] 海沿いに住む人は幸せだ 時には ただ海を見ているだけで 変わるものがある あなたが悩み迷ったとき 海は何も答えない だけど 答えが必要じゃないことを教えてくれる ---------------------------- [自由詩]堤防/ガト[2020年5月4日5時54分] 私は魚ではなく 人だから 海は 陸とつながってる部分が 好きだ 見渡す限り海だけの映像は 空恐ろしい そこに岸があるからこそ 安心して美しいと思える そして 岸から眺める海の 理解を許さない深さが好きだ ---------------------------- [自由詩]茶碗/ガト[2020年5月4日5時57分] とてもつらいことがあったとき 暖かいご飯を一口食べて 涙が止まらなくなったことがあったな 生きるって そういうことだな ---------------------------- [自由詩]あんでっど/ガト[2020年5月20日1時55分] 眠りから覚めて 少しずつ動き出す街 人は 記憶を失くしたかのように ふらふらと 辺りを歩いている 魔法で 千年眠ってたみたい みんな寡黙だ 社会という巨大なパズルに 自分って小さいピースを埋めようと あちこち 探しているに違いない 場所はどこだっけ 私は誰だっけ ---------------------------- [自由詩]こころ/ガト[2020年5月20日1時57分] 心は 少し麻痺したぐらいが ちょうどいい 心無いことを言える 心無い人たちがうらやましい 誰かのために あなたのためにって 頑張っていると 溢れ出る涙を見て こんなものいらない と、よく思う   ---------------------------- [自由詩]護り人/ガト[2020年6月6日5時17分] 死んだじいちゃんの 夢を見たわ それは優しい世界で 昔の家に 家族がみんないた ばあちゃんが じいちゃん全然帰ってこないって 愚痴ってたけど いつの間にか隣に寝てたじいちゃんが 「ずっとおるよ」って笑ってた    ---------------------------- [自由詩]おべんとう/ガト[2020年6月6日5時22分] お母さん お腹減った って 言えなかった子供たち 疲れた母親を見て お腹減った って 言わなかった子供たち 大人になっても その優しさで 心が飢えている 悲しい子供の魂が スーツを着て歩いてる この街にいっぱい ---------------------------- [自由詩]憧憬/ガト[2020年6月6日5時33分] 少しも 優しくないんだよ 私は 優しくなれないって 優しく出来ないって 何なの 優しさって努力なの? 違う 優しい人は 何も考えずに優しいんだよ どうしようもなく優しいんだよ 腹が立つぐらい優しいんだよ 私がどうにかして 優しい言葉をひねり出そうとする前に 閃光のように眩しく 元気か?って笑うんだよ ---------------------------- [自由詩]逆光/ガト[2020年6月14日5時24分] 思い出は ぼんやりした 景色の中にあるよ 夏の夕暮れの 田舎の電車とか 色あせた自動販売機とか 誰かの白いシャツとか それはどんな記念日よりも 心に残って消えない 光の白飛びを ピントの合わない瞼の裏で 思い出す感じ よく見えないけど なんだかすごくきれいなんだ ---------------------------- [自由詩]台所/ガト[2020年6月14日5時32分] 母が懐かしそうに 思い出話をするとき 私はいつも 「忘れた」って言う お母さん私 今その話を思い出したくない なんでだろう 幸せの記憶なのに なんでだろう 鼻の奥が熱くなってつらい 全部覚えてるよ あなたがどんなに優しかったか 何だったらあなたが忘れてることまで 残らず全部 ---------------------------- [自由詩]破舟/ガト[2020年6月18日3時36分] その昔 長くて つらい夜を 越える舟が無くて 夜に溺れた その岸には 誰もいなくて 忘れるほど遠い年月 そこで沈んでいたの 人の言葉を忘れ 人の心を忘れ 命のことさえ忘れたとき 突然夜が明けた 朝日の当たる岸では 旅人が ただいまって言った ---------------------------- [自由詩]ヴァーユ/ガト[2020年6月18日3時46分] 巡りが良くない日は 早く寝てしまいたい カードを切るのと同じ シャッフル シャッフル 人生を賭けて 博打をしているようなもん こんなだから 確率の話は嫌いだよ ---------------------------- [自由詩]リカキング/ガト[2020年6月18日3時50分] お人形遊びの 楽しさを知らない 綺麗な服に着せ替えて 髪を梳かして それから? あんまり虚しくて 人形にドロップキックさせたら あの子とはもう遊ばないって言われた 私のリカちゃんは悪くない ちょっと活発だっただけだ そして エレキングの次に強かった 大切な宝物には違いなかった 愛し方は私なりに  ---------------------------- [自由詩]金色の丘/ガト[2020年6月20日4時13分] 猫の額を そっと触る 狭い庭なんて嘘だね 安らぎの庭だね 猫が目を瞑る 猫の毛並みが 麦の穂波に見える目線で 私は横たわる 宇宙を漂う静寂にある 感情の浮き沈みのはるか向こう 猫が深いため息とともに 麦の穂を波打たせた 風が這うみたい 同じ速度で眠りに落ちてく    ---------------------------- [自由詩]滝/ガト[2020年6月20日4時28分] 何の音か しばらくわからなかった 頭の中にも 外にも 激しい雨が降っていた   ---------------------------- [自由詩]弾指/ガト[2020年7月28日2時51分] 迷路のような 思考の洞窟 雨が流れ込む 蛇の目 邪なものが降ってくる 指を鳴らすと 洞窟ごと落ちるのかも 蛇腹になる 私は 指を 鳴らされるもの でも 水は どこに流れるかを 選べない 道はあるが 標はない ---------------------------- [自由詩]8号線/ガト[2020年7月28日2時59分] 懐かしい場所に 行きたい ただそれだけだ この街で この場所で 日々遠くなっていく景色を 一目見たい それだけ 海と 山の神社と 坂の階段にいる狐と その角の魚屋の匂い 灯台 トンビの鳴き声 海に向かって立つ鳥居 光の泡立つ海 目を閉じれば消える 瞬きの夏 ---------------------------- [自由詩]刺身蒟蒻/ガト[2020年7月28日3時12分] 本当はアホのくせに 気難しい顔ばかりしてた ああ優しい人 何も言わないで ごはん美味しいねって言う 美味しいねって返事したら すごい幸せそうに笑った 私なんてつまらない人間 もう生きててごめん 酢味噌が目にしみる ---------------------------- [自由詩]置き傘/ガト[2020年8月7日2時36分] 雨の日はいつも どこかで 誰かが 泣いてる気がした 雨に濡れて 傘が無くて ひとりぼっち でも 泣いてるのは私だ ---------------------------- [自由詩]丹後ちりめん/ガト[2020年8月7日2時56分] 去年の夏 海沿いの古い集落の 小さな宿に泊まった 窓から見えた自販機だけが 灯りらしい灯りで ジュースを買いに出たとき 本当の夜を知った すぐ近くなのに 宿の灯りが届かない 夜がこんなに暗いとは 鼻先まで闇が近づいて 目の前すら見えない ふと見ると ほんのかすかな月明かりの向こうで 何かが光っていた 古い家屋の物干しにかけられた 白い浴衣 風に揺れるそれは 濃い闇の中でぼんやり浮かび 舞っているように見えた なぜかとても懐かしく悲しく 美しい幽霊 あんな幻想的な光景を見たことが無い 背中まで冷たい汗をかいて しばらくその姿を見ていた 次の朝 海に行こうとその道を通ったら 幽霊が干してあった場所は 見渡す限りの田んぼで 家すら どこにも見当たらなかった ---------------------------- [自由詩]伝票/ガト[2020年8月7日2時59分] うちの取引先の 小さな町工場の社長さんは うちの職人さんと古い友人で 入院先のベッドの上で 手書きの伝票を書いてくれる おそらくはただ その職人さんのためだけに 自分が書いているのだろう 苦しげに歪んだ 読みづらいその伝票を ひとつずつ入力していくたび 人は 人が支えている、と思う    ---------------------------- [自由詩]サンダル/ガト[2020年8月18日5時14分] 夏の終わり 暑さだけ残して 太陽が少しずつ 遠くなる 街の中で 暑い暑いと言いながら 人のいなくなった海の面影が 頭の中でしまわれる 毎年同じ 何か忘れ物をしたように 砂浜を描き 季節に置いて行かれる  ---------------------------- [自由詩]街灯/ガト[2020年8月18日5時17分] だめなひと いとしい すまなそうにうつむいて 小さく笑う もういいから だめでいいから わかってるから そんなに小さくなるな 泣きたくなる  ---------------------------- [自由詩]小さい猫の本/ガト[2020年8月18日5時22分] 絵本に入るように 嘘をついた 幸せな嘘 私は善い人間で 悪い人は出てこない みんなが幸せで 涙の味を誰も知らない  ---------------------------- [自由詩]宝石/ガト[2020年9月11日3時48分] 闇の深さは 病みの深さ 手を取り合わないと 生きていけないハンパ同士 あなたが私を許すのは 誰かに許されたいあなたの闇 でもそれ 私じゃないね あなたは誰に 許してほしいの なぜそんなに寂しいの 私じゃないから 出来る事など何一つなくて 透明な手で あなたの無邪気な心を ずっと抱いてる そっと抱いてる  ---------------------------- [自由詩]旅/ガト[2020年9月11日4時12分] 夜を越えて どこへ行く 朝を待って 何がある わからないから 荷物を詰めて 明日の海を見に行こう ---------------------------- [自由詩]写真/ガト[2020年9月11日4時19分] 六畳の部屋いっぱいに 写真を並べて 二人で黙って整理した 思い出は語らない 海の写真を 見せて と言ったら あなたがどの海? と聞いた 今じゃなくて 私が死ぬとき 二人は 海の写真の中に 溺れて行った ---------------------------- (ファイルの終わり)