織部桐二郎　2014年2月27日7時35分から2014年7月22日11時57分まで ---------------------------- [俳句]美神/織部桐二郎[2014年2月27日7時35分] チチアンのヴェヌスもの倦く横たはり ---------------------------- [自由詩]運命/織部桐二郎[2014年2月28日0時42分] 思い出ははるかな昔 若い日の夏のひと時 あなたの瞳さやかな髪 緑の山はわたしたちを つつみわたしは歌った あなたは銀笛を吹く その後ろ姿のさやけさ 声ひとつなく別れ 記憶はついに絶えず わたしの恋は終わらぬ あなたはわたしの生涯 ---------------------------- [自由詩]悲歌/織部桐二郎[2014年3月6日5時34分] あなわが君はいと雅び 篠笛に唐の秘曲を美はしく 衣も艶やか位もあてに おとどの御子とおはすなり さる年のさる冬なりき 雪の中道失ひて伏し給ひ わが山がつの小屋にして 心ばかりの手当てせり さはれわが身は雪の子ぞ 人に触るれば溶け散りぬ わが君われを抱けどもあはれわれ融け失せにけり あなみ仏や見そなはせ 雪女をば人の世に 公達ひとり添はしめよ とはの命も惜しからず ---------------------------- [俳句]零雨/織部桐二郎[2014年3月6日5時37分] 小糠雨寒の戻りを泰西画 ---------------------------- [俳句]寄席/織部桐二郎[2014年3月12日9時49分] 高座ハネ夜道に沈丁花ほぬか ---------------------------- [短歌]"Traum"/織部桐二郎[2014年3月12日9時57分] 夕かけて訪はばとはまし吹上に 鐘とよむてふいにしへの街 ---------------------------- [短歌]のすたるじあ/織部桐二郎[2014年3月13日5時42分] ララバイの君の横顔見つめつつ タバコ揉み消し港暮れゆく ---------------------------- [俳句]Desert/織部桐二郎[2014年3月13日5時48分] ラマダンの月影天幕に秘戀 ---------------------------- [川柳]めおと/織部桐二郎[2014年3月19日8時07分] ほどほどに愛し愛され金婚式 ---------------------------- [短歌]狂歌/織部桐二郎[2014年3月19日8時11分] 駒止めて待つた待つたのかひもなし 長屋わたりの将棋一番 本歌 駒とめて袖うち払ふ陰もなし 佐野のわたりの雪の夕暮れ 定家 ---------------------------- [自由詩]ねがひ/織部桐二郎[2014年3月19日8時23分] ふと、祈るともなくねがふのです。 わたくしの稚い恋が、空のどこかに、 まだ光るのなら、 星の蒼さに永遠にのこりますやう。 わたくしの実らぬ想ひが、天の記録に載り、 おなじく恋にやぶれた少女と、 つめたい光のなか、しづかに見つめあひませう。 らんぷのもと しづかに、しづかに……。 ---------------------------- [俳句]汀燦爛/織部桐二郎[2014年3月24日3時16分] 雲の影落花まつはる緑池かな ---------------------------- [自由詩]小草/織部桐二郎[2014年3月27日7時36分] もとほりて街の片すみ 小草生ふ緑萌えつつ 冬すぎて歓びうたふ 木の下の命なるなり われ座して見詰め入りなば 刻ごとに色変へなせり 名も知らずただ見入りたり 小草いま春の光に 街頭はにぎはひつつも われひとり小草にかたる 秘めしことふと残したり 時すぎてわれ去りたりき 家路きて夕べのころや 心なる小草が命 ---------------------------- [自由詩]郊外/織部桐二郎[2014年3月28日10時29分] 残雪の道凍りつつ 晩冬のいともきびしく 行人だちはひたにもだせり ふと町猫のゆき過ぎぬ 街道に樹木つらなり 冬芽ゆたけく小草睡れり むら鳥の地啼ほぬかに 翠なす春とほからじ 房室にモオツァルト フルート楽に酔ひしかば 心に充つる魂の声 あなすみれ草恋しかり 野辺かけてうた詠はめや ---------------------------- [短歌]狂歌/織部桐二郎[2014年3月28日22時54分] 人よいざ心は知らね古下駄は 鼻緒の切れて借りもやらざる 本歌 人はいさ心も知らずふるさとは 花ぞむかしの香に匂ひける 貫之 ---------------------------- [俳句]愁夜/織部桐二郎[2014年3月28日23時00分] 花冷えを宵に裸体画うす光る ---------------------------- [自由詩]北海行/織部桐二郎[2014年3月29日3時34分] 連絡船はさいはてに 列車を積みて揺らぎたり 吹雪く海峡暮れゆきつ 霧笛のおもく迫りくる 行手に君のありぬとぞ 文にちかひて来たりけり 東都さかりてはるけくも 夜行列車の幾時間 君が於母影したひつつ 文が言の葉ひた恃み あひ見む北の街さしぬ 海峡吹雪いやはげし 連絡船にながむれば ふとまなかひに君がおも ---------------------------- [俳句]帰省/織部桐二郎[2014年4月6日11時12分] 花冷えを老母こと問ふ幾たびぞ ---------------------------- [俳句]玉の井/織部桐二郎[2014年4月11日5時36分] 燭涙ほぬか佳人ささめくあたら夜 ---------------------------- [俳句]夜想/織部桐二郎[2014年4月25日2時44分] しんしんと闇のかたれり春深し ---------------------------- [短歌]つれな/織部桐二郎[2014年4月25日2時47分] あひ見てののちの心のうらぶれや 白妙の衣袖しぼりつつ ---------------------------- [自由詩]暮色/織部桐二郎[2014年5月8日5時05分] 手袋の忘られてあり 五月の駅に終列車過ぎ 暮れ果てて草の匂へる 誰かあるいらへのなくも 手袋をとりて見つむる をみな……忘れ…… 古りし駅もだせり 夜鳥ささやく新月や ふと去りし想びと…… 春野に遊ぶ束の間の…… まなかひの影にかたりつ 手袋に……口づけ……泪……。 ---------------------------- [俳句]なつ/織部桐二郎[2014年5月10日15時59分] 少女とはかなしきものよ青嵐 ---------------------------- [伝統定型各種]薄雲太夫　都都逸/織部桐二郎[2014年5月27日9時10分] 主さん来なんし　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　夢の手枕　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　三千世界　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　明烏 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ---------------------------- [自由詩]C’est la.../織部桐二郎[2014年5月27日9時24分] 雨夜...、なすともなく...蓄音機。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ふたり...。リュクサンブール。マロニエ、緑葉、飛行船。　　　　　　　　　　　　　娘たち、タルト、即興楽師...、早春。去りしかな......。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ルーアン、くらぶさん、クープラン...。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ボルドー酒...。『ドミノ、或いはフランスのフォリア』　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　明けざらめ......。　　　　　 ---------------------------- [俳句]lla guerre/織部桐二郎[2014年5月28日17時36分] 夏の星戦火はよもや遠からず　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　無名Ｃ級《戦犯》辞世　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　カンナ燃ゆ戀し妻子にもう會へぬ　 ---------------------------- [自由詩]街角/織部桐二郎[2014年7月15日3時12分] 電車通りの雨あがり スイートピイの茶亭いで 若きびおろん弾きひとり 舗道にスウベニイルなり 少年少女手をとりて 頬紅らめてをづをづと きき入るスウベニイルかな びおろん弾きの夢心地 電車も過ぎて節終はり 次ひでグノオがアベ・マリヤ 折しもパアドレさまとおる 「神に感謝 よい子どもたち」 びおろん弾きは一礼なして 茶亭にいこはんとぞなせり 子らふたり心のかぎり 「ありがとうお礼をなにか」 「あなたたちきいてくれたね それでいい 僕の魂 いつか維納に留学だ」 電車に画家がありました ---------------------------- [俳句]ろまん街道/織部桐二郎[2014年7月21日13時52分] 譯しそむアイヒェンドルフ日の盛り　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　夜涼しイェイツほぬかささやけり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　クリスチナ・ロセチなげかふ月涼し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　エトランジェボオドレエルに虹の聲　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　リラダンが幼なあひびき露涼し　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ゲエテ譯加へし頃や夏至はるか ---------------------------- [短歌]幻宮城/織部桐二郎[2014年7月21日14時17分] 訪なへるものとてなくも幽闇に微光充ちたり蒼き花苑　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あひ見んとかね言交はすあて人の姿うたひぬ幻の果て　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　新月のみやこをまとふ夜会服假面妖しきとつ國のひと　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いくたびか君がかたへに華やげる夢にさまよふ街の果てたり　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　鐘とよむ西洋館に至急報玄き衣の影とけ去りぬ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　月濡れて告げざるままのしぬび言影やおぼろにけれんの魔香　 ---------------------------- [自由詩]かがやき/織部桐二郎[2014年7月22日11時57分] さざめく光の城天文博士が咳なさる　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　姫さまはお笑ひだ王さまは微行され　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　太子さま月姫に懸想文　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宰相慌てに慌て「臣下ども宮に直れい」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ペガサスの馬車アンドロメダの双子公主　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　銀河酒のボンボン　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　アルタイルの逆さ時計白鳥庭苑　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　酔うたかみさま陛下にチェスを　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　負けてござつたよ　　　　　　 ---------------------------- （ファイルの終わり）