レビュー:原口昇平
高校の教科書にもとりあげられることの多い『山月記』などで知られる中島敦。彼は、大戦中東南アジアを占領していた日本の、占領政策の拠点である「南洋庁」の役人として南方を訪れ、数年をそこで生活しています。その地から彼は本州に置いてきた妻子に手紙を書き続けるのですが、それらの手紙には彼の生活と、彼の目に映った占領下の「南方」の姿がはっきり描かれています。
本書は、それらの数々の手紙や電信文と、彼が「南方」を題材にして書き上げた小品集『南島譚』『環礁』によって構成されています。20世紀が、そして戦争がどんなものだったのか、あらためて考え直すべき今、この本はその時代の価値観やイデオロギーの一端をわたしたちに少なからず伝えてくれます。