原口昇平
いわゆる「枠物語」と呼ばれる形式に則って書かれた傑作(「枠物語」とは、大枠となる物語のなかに、小物語がはめこまれた形式です。代表的なものには『千夜一夜物語』、ボッカッチョ『デカメロン』などがあります)。
『東方見聞録』を著したことで知られるヴェネツィア出身の青年マルコ=ポーロが、東方滞在中、自分の見てきた数々の都市についてフビライ=ハンに報告する――という内容の作品ですが、そこで語られる数多の都市はどれもこれも幻想的、おとぎ話的、寓話的、奇想天外、……この世にあることの疑わしいものばかり。
しかし私たちの認識の地平線――その向こうには無数の知られざる都市があるに違いなく、ことによるとマルコ=ポーロの報告した数々の不思議な都市も、私たちの見ることのできないどこかに存在しているかも知れないのです。見える世界と見えない世界のせめぎあいについて考えさせられる一冊です。