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チェルノブイリの森 事故後20年の自然誌

メアリー・マイシオ (著)/中尾 ゆかり (翻訳)/
日本放送出版協会 
レビュー:小池房枝

三月以来、図書館で地震ならびに原発・放射能関連の本がぞろりと並べられていた中にはなかった一冊。あくまでも自然誌、だったからでしょうか。事故、原発のしくみ、雨と大気の中で起きていたこと、ひとびと、現地を訪れるための手続き、そんな感じで始まります。
決して同心円状だったりはしない危険区域、それぞれに異なる性質を持つα線とβ線とγ線、半減期だけの違いではない放射性元素のふるまい。そもそも放射線が生体にどのように作用しそれ故にどんな害が生じるのか、最初に原発反対ありきではなく、ましてや推進の立場からでもなく、たんたんと文章は進みます。なにしろ、自然誌ですから。
環境と食物連鎖の中を静かに行き来する核種。例えば、浅く広く菌糸をはりめぐらせるため表層の汚染を一身に濃縮してしまうキノコ。それを食べるイノシシ。河川、養魚池、湿地帯、湖、地下水など水系の循環、拡散。事故以来、20年余もほぼ無人だったせいで再出現した森と、ヘラジカやウモウコウマなどの大型動物たち。鳥たち。
放射能的にはホットなゾーンの春夏秋冬、四方を訪ねた後に、筆者は人間の問題にたちかえります。侵入者、帰村者、健康被害補償の不備、子供たちに対する援助の質。為されるべきだったのに為されなかったこと。高レベルではなく低レベルの放射線を長期間浴び続けた場合の人体への影響の見積もりは研究者によっても意見が異なってしまうこと。そうなってしまう理由。
最終章の子孫へのメッセージも所謂、教訓などではありません。それが何なのかはどうぞ、機会があったら、或いは機会を作ってこの本を読んでみて下さい。ツナミ、に続いてフクシマまでもが今、片仮名になってしまってとても悲しいです。それでも、本を読む余裕のある方、テレビや新聞やネット等とは違う資料も欲しい方におすすめです。amazonでは先ほど中古品19,750円より、ということでまたよく分からない値段になっていましたが購入する前にもまずは図書館で探せることと思います。定価は2310円だそうです。
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