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歌人の時評 二〇〇七・三・三一
沼谷香澄
枡野浩一の長編小説『ショートソング』が漫画化されている。月二回発行の青年誌「スーパージャンプ(SJ)」(集英社刊)に、とりあえず毎号連載らしい。
第一回を読んだ。ちなみに原作は読んでいない。 作画は女性である。男でも女でも親しみ易い絵柄といえる。中心となる二人の人物のキャラクターがしっかり立っているのは原作の功績といえよう。原作の表紙に二人の男性のイラストが出ているが、このイメージを大事にしている気持ちが伝わってきて好感が持てる。 また、あえて連載誌を、エロマンガ率の高いSJにしたのは、男性にこそ短歌に興味を持ってもらおうという意図だと信じたい。だとすると素晴らしいことだ。なにぶん歌人の男女比は偏りすぎている。 ただやはり突っ込みどころは満載なので、あえて意地悪なことを書いてみる。 ストーリーはまだどう展開するかわからない。主人公(若い男のほう)が美人の先輩に連れられて初めて歌会(うたかい、と読みが書いてあったがこれは普通に「かかい」と書かないと左系の人の反発を買うぞ〜)に参加するのだが、まず違和感を覚えたのが、題を出されての即詠だったこと。題詠は珍しくも何ともないが、歌会の場合句会と違って事前に題を発表して、事前に歌を提出するのが一般的だ。もちろん即詠もやらないわけではないが。 それから、大人数が一つ部屋に閉じこもって即詠をやるというのは見たことがない。これは句会でも同じだろう。ネタを求めて解散して、時間までにまた部屋に集合、というのが普通のはず。じゃないと息が詰まる。最後に。部屋を一つ借りて会をやるのはいいが、机くらいきれいに並べてくれ。乱雑なほうが絵になるのか? とまあこまかいところで突っ込ませてもらったが、ここに触れなかったことで現実と最も大きく違う部分がある。 集合する歌人の、世代である。 これは青年誌だから敢えて若者ばかりを集めたのだろう。または、学生短歌会ということにすればつじつまがあうかもしれない。しかし、若手の活躍する同人誌が主催する歌会でも、高齢者の姿を見ない会に出たことは、私のたかが一五年の歌人史のなかでは、ついぞ出くわすことはなかった。あ、本当にごく親しい4〜5人が集まるクローズドの歌会は別ですよ。このマンガではオープンの歌会ということになってるみたいだし、オープンにするといきおい高齢者が集まる。くりかえすが掲載詩が若者をターゲットにしているから、あえて登場人物を若者に限ったのだろう。まあいい。 短歌の挿入の仕方は巧みである。セックスの途中にできた歌をそのまま彼女も出る歌会に持ってくるところなど秀逸。初心者の歌にベテランのプレイボーイが注目するというのも非常にありがちでにやにやしてしまう。また、議論のシーンは、実に笑える。そうか、大真面目に短歌を論じるってこっけいなことだったんだ。でもいいじゃん。そうやってみんなかしこくなっていくのよ。 四六ページの中に、挿入歌は二首。このバランスもいい感じ。作者が小説の作者でないところがもっといい(クレジットが入っている)。 私が期待するのは、この漫画の人気が出ることで、短歌の読者(つくってみようかな〜なんて人ではなく!)が増えること。 でも。このマンガの挿入歌に萌えて、本屋の歌集コーナーに立つと、現状ではどん底まで幻滅するだろうな。気軽に手に取れてしかも若者の共感を得られて文学的にも価値の高い歌集、なんて、まあないことはないが、ふらりと立ち寄った書店に『シンジケート』(穂村弘。沖積社)とか『サニーサイド・アップ』(加藤治郎。雁書館)がいつも並んでいるということはないだろうな。 メジャー出版界で頑張っている若手(うーん四〇代が若手といえるかどうか疑問だがとりあえず入れる!)歌人は私の認識するところ、五人。この原作者の枡野浩一。それから、マンガと短歌のコラボレーションとしては、「ネムキ」(朝日ソノラマの隔月刊)の「笹公人の念力短歌道場」(4コマ漫画である)は、連載四年を超える実績がある。そういえば、いまはなき「キューティコミック」に「マスノ短歌教」という投稿欄を持っていた時代もあったな、枡野氏には。 また数年前には、林あまりが「コーラス」(集英社の月刊誌)に一ページ一首+ショートエッセイを書いて、そのバックに遠野一実のイラストがついたページがあり、これは単行本にもなった(『ガーリッシュ』集英社、一九九九)。林は、漫画専門店にしか置いてないようなマニアックな漫画誌にページを持っていたこともあったがそちらも今は噂を聞かない。残る二人は、今をときめく穂村弘と東直子。この二人は既にエッセイスト&小説家になってしまった感も強いが、ぜひ短歌も書き続けてほしいと切に願う。 それにしても、私の夢は、集英社から三九〇円の歌集を出すこと、だったのだが、枡野浩一氏に先を越されそうだ。もっともSJのコミックスはワイド版だからもう少し値段は張るだろうけれど。 |
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