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俳句×時事×映像
竹浪 明
2007年3月17日NHK放映ETV特集「今村昌平に捧ぐ〜スコセッシが語る映像哲学〜」で、「ディパーテッド」により同年アカデミー賞作品賞並びに監督賞を初受賞したマーティン・スコセッシ監督が、故・今村昌平監督について、尽きぬ敬愛、受けた影響、交流の思い出を語った。まず彼が衝撃を受けたという「にっぽん昆虫記」の冒頭、タイトル通り昆虫が這うシーンが紹介された。この映画は人間の生態を描いたものだが、その本質が何であるのか、核心を冒頭のワンシーンで力強く明確に(そして不気味に)提示している。「ディパーテッド」はじめスコセッシ作品のひとつの特徴である暴力描写も、やはり今村映画の「復讐するは我にあり」に学んだ点が大きいと、喜んで告白していた。理由なき殺人鬼の所業を描いた「復讐するは…」もまた、恐るべき「害虫」の記録と言えようか。
ヴィーナスとカマキリ 泡より誕生し これは私の俳句×写真集『恐竜×ヴィーナス=17文字』(詳細http://takenamiakira.jp)に、泡にまみれた鎌の写真と共に収録した一句で、言うまでもなく、ヴィーナスはクロノスが父ウラノスの男根を切断し、海に投げ込んで湧いた泡から生まれたことと、カマキリも泡から生まれ落ちることを重ねた句意だが、両者の共通項は「泡」ばかりではない。出生譚の因縁か、美神は死神の「鎌」を隠し持っているように思えてならない。そして、いかなるものも、その鎌には太刀打ちできない。 今村昌平が亡くなったのは昨年2006年の5月。4ヵ月後、東京造形大学・映画表現クラスで行った講義で、9.11アメリカ同時多発テロ5周年のタイミングから、映画「セプテンバー11」を教材とした。これは、世界の11人の監督が同事件を題材に各自11分9秒1フレームの短編を作ったオムニバスで、今村作品がひときわ異彩を放っている。舞台は日本の農村でテロの話は一切出ず、五体は人間のまま、身をくねらせて這い、鼠を食らう、性質が蛇の男と、この男を幽閉する家族が描かれる。ちなみに男の父親を演じているのが、講義の数日前に霊界へ移った丹波哲郎だった。 9.11からイラク戦争、いや同時多発テロ以前から今なお続く戦闘状態には、宗教戦争の様相も色濃く、「蛇」は欧米の観客には「悪魔」の象徴に映ることだろう。今村自身は、ここでも"地上の生き物"の生態を見つめている。 9.11直後、私自身は次の俳句を詠んだ。前述の書に唐辛子の写真と共に収録し、そのページを同じ講義で併映した。 冬そう薔び薇 テロも正義も血みどろに 秋に起こったテロに、冬にも報復がなされるだろうと容易に予想されて用いた季語「冬薔薇」には、真紅の血、またバラバラの崩壊のイメージを託すと同時に、あえて「そうび」という漢語的読みのルビを付したのは、「装備」との掛け詞で、「冬」も「増ゆ」と掛け、<増ゆ(軍の)装備→血みどろ>の図式を五七五にした。 やがて攻撃が実行されたが、現実は報復どころかイラク戦争にまで暴走し、「血みどろの冬」は6年経っても終わっていない。 同書で、絨毯にピンを刺さした写真と組み合わせた次の句は、湾岸戦争の際に詠んだものだが、同じことがイラクでも繰り返されている。 寒月下 神の如くに誤爆せり 湾岸戦争の報道から「ピンポイント爆撃」という言葉が盛んに聞かれるようになり、と同時に「誤爆」のニュースも頻繁になった。この二つの言葉は、ほとんどセットになっている。 空爆の任務を終え滑走路に降り立った米空軍パイロットのひとりが、テレビのインタビューに答え、彼が目にした地上の様子を喜々としてこう表現した。 「クリスマス・ツリーのように綺麗だったよ」 あっ晴れな譬え、と言うべきだろうか。この"地獄のツリー"は、テレビには映らない、どれだけの血を吸いながら煌めいているのだろう。 湾岸戦争と言い、イラク戦争と言い、地域限定のような呼び名だが、戦争に国境はない。そしてもうひとつ、「環境問題」という世界大戦が、今も世界地図を塗り変えつつある。地球温暖化による海面水位の上昇は、南太平洋でツバルを、インド洋でモルディブを呑み込もうとしている。 干ばつの被害が甚大なオーストラリアでは、3月18日〜4月1日「世界水泳」の舞台となったメルボルンで、水不足のため水規制が行われている。かつてメルボルン・オリンピックのボートやカヌー競技が行われた同市郊外ウエンドリー湖は干上がり、櫂も差せない。農民達は水の足りない畑のプールで、息継ぎに喘いでいる。 同国ではまた、オゾン層の破壊による紫外線の直射に対し、長袖シャツやつば広帽子の着用義務化、日光を浴びる時間制限も実施されている。 日本はと言えば、記録的な暖冬に、東京ではついに雪らしい雪もないまま早い桜の開花を迎え、それに先立ち、街を行き交う立体マスクが、花粉症の季節到来を告げていた。人間にとって"有害な花粉"が舞い始めたのも、人間自身が生んだ公害に起因している。「日本沈没」の危機は「今そこに」はないようでも、首都は"半ば人工の花粉"に侵されている。 恐竜に代わりし人類 花粉症 『恐竜×ヴィーナス=17文字』巻頭のこの句は、黄色い粉に埋もれかけた立体マスクの写真と共に掲載したが、一見では何か判別しにくい白のテクスチャーを、中には「恐竜の化石ですか?」という、先見の明かも知れない見立てもあった。 恐竜絶滅の原因に挙げられる最も有力な説は、メキシコ湾を抉った巨大隕石の落下によるものだが、人類滅亡の種はいくらでもありそうだ。「最後の日」の光景も、クリスマス・ツリーのように綺麗だろうか? そして蒼褪めた人類に代わるのは、花粉を運ぶ虫達か。 |
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