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ja
Poems list
2024-03-29T01:20:17+09:00
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すこうし白をのせた色
あの色を知っている
埠頭に咲いた可憐な花もまた
無邪気にすみわたって
人の秘密をあらわにさせる
そんな色をしていた
或いは
指を彩る鉱石もまた同じ色
紅茶に溶かして
飲み込めば
苦い さざなみ
風は強い
ますます強い
うなりを伴う地球の生き物として到着し
花をちらし(ゆくえしれず)
雲をちぎり(また会いましょう)
素知らぬ顔で
古い季節を吹き飛ばしていく ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=382461
自由詩
2024-03-27T13:36:10+09:00
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米粒ほどの数匹のさかなが泳ぐ
ここで生まれてここで死んでいく
生殖も食事も排泄も
すべてのことがその水を介して完璧にめぐっていくのだという
過去も未来もここにあって
透明に見えるけれどほんとうの透明ではなく
わたしにはそれらが見えないだけ
ほとんどぴたりと閉じられた蓋をそら、と呼ぼうか
春の窓辺にそのものを置く
柔らかい光が
色を持たないさかなの内臓を透けさせるから
わたしの胃はきゅっと共鳴する
生きていることは精巧にできていて美しい
こころは見えないけれど
きっとそれも継がれていくのだろう
百年後
相変わらず柔らかい光
彼らの水は蒸発して半分くらいになっている
空、につもった埃を息をふきかけて飛ばし
海、と呼ぶには小さすぎるねとだれかがが微笑む ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=382410
自由詩
2024-03-24T11:07:37+09:00
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わたしは妹に話しかけた、からっぽのミイちゃん用の銀色のお皿を持って。
「ほんとだ、ミイちゃん、かえってきてごはんたべたんだね」
もうすぐ小学生になる妹は眼を見開いて嬉しそうにそう言った。
わたしは小学校を卒業したばかりだった。それに関しては悲しくも、そう嬉しくもない。レールの上を外れることのない電車に乗っているんだとふと思っただけ。
生理が始まってしまったことは腹立たしい。
◇
きのうの晩、妹と二人でそのお皿にキャットフードを入れた。からん、からん。買い置きのフードの袋を傾ければ、それは最後の一食分になった。
飼い猫のミイちゃんが家に帰ってこなくなって一ヶ月くらい経とうとしている。
お母さんはもうキャットフードを買わないだろう。いつも家計がなんとか、って言うから。
お願いすれば買ってくれるかもしれない。でもそうしない方がいいように思った。
家計のためだけではなく。
ミイちゃんはたぶんもう帰ってこないんだろう。
理由はわからない。
家族が寝たあと、わたしはこっそり起き出して玄関に行った。
ミイちゃんの皿が置いてあるところは猫用にしつらえた小さな扉の前。
わたしは座って皿のキャットフードをぼりぼりと食べた。
いっときわたしはミイちゃんになった。ミイちゃんになりたかった。
にゃおう、と鳴いてみた。
ほどなくしてキャットフードを食べつくすと、わたしはミイちゃんをあきらめた。
明日がエイプリルフールだと知っていた。 ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=382334
自由詩
2024-03-20T11:09:02+09:00
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とある春だった
通い慣れた道、河川工事はまだまだ続くらしい
詳しくは知らないけれど新しい駅が出来るという
パン屋、スーパー、マンションや公園、行き交う人々
駅を支点として新しい街が作られるにぎやかな未来を少し想像してみたりした
そんな街に以前住んでいたことも思い出した
時系列が時に混線し、未来の中に思い出が現れることがある
信号にさしかかる
ハンドルを右に切ると湖があり、湖畔に紅白もくれんの大木が今年もたくさんの花を咲かせていた
あたりまえのようだけれど、冬はちゃんと終わるし、春もちゃんとやってくる
肉厚そうな花弁は存在感に満ち、今にも飛び立ちそうな小鳥のようだった
けれどそれが羽ばたくことはなく、ちらほらと地に墜落してもいる
生と死もちゃんとある、あたりまえのようだけれど
いつもは窓からちらっと見るだけだったが、ふと間近で見てみたくなり
車を端に寄せてもくれんに近寄って見た
すると一本の樹だと思っていたのはわたしの長年の思い込みで
それはぴったりと寄り添っている紅もくれんと白もくれんの二本の樹であることを知った
ふたつの樹の枝は、上手に空を分け合い手を繋ぐように紅白の花を咲かせている
光の射さない地下では、毛細血管のように根っこが伸びていることだろう
もしかしたらもうもくれん自身でもどっちの根っこかわからないほどに
それらは絡み合い
命を支えあっていることだろう、この春もきっと ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=382313
自由詩
2024-03-19T12:24:52+09:00
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今まさに燃えさかっている
そしてその近くの電線に
数羽の小鳥が舞い降りた
いつぞやのにぎやかさはどこへやら
今日の電線の音符は歯が抜けた様相
それでも音符たちは時折入れ替わりながら
少ないながらも展開を試みているが
小澤征爾さんでもどう演奏しようか頭を悩ませることだろう
世界のどこかでショパンが演奏されている
世界のどこかで銃声がとどろいている
作曲家が全霊を込めて産み出した音楽は
繰り返し奏でられ、これからも奏でられていく
人は人へ命を繋ぎ音楽もまた繋がれ
時間が経っても
言葉が違っても
人の哀しみや喜びのようなものは普遍なのかもしれない
いつのまにか かの家は時間の手で鎮火され
夕闇が最後の一羽を飲み込もうとしている
おまえはねぐらに帰らないのかい
それとも一番星が光るのを待っているのかい
オーケストラの最後のひとつの鐘が
祈りが
長く尾を引いて消えていくまで心を傾ける
そんな閑古鳥の鳴く一日が幕を下ろそうとしている ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=382285
自由詩
2024-03-18T08:58:23+09:00
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家々のむこうに沈んでいく
どこからともなく飛来した
小さな黒い鳥の群れは影絵
ゆったりと宙に張られた電線に
互いに平和な距離を開けて
つぎつぎにとまれば
みんな
生きているおんぷになる
今日のいのちをつないで、うたう
さえずりは、うた
よるにのみこまれるまでの
いのりの、うた ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=382148
自由詩
2024-03-10T18:54:39+09:00
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ひき潮のけはいがする
現実にうちあげられて
そういえば
さくばん黒い虫をころしたことなんかをおもいだしている
永遠に置く不毛なことの筆頭にかかげよう
今日がごみの日でよかった
ごみをうみだしていくことも
生きているかぎりつづく くまのとけい いけにうかべる るびい いびつ つめのあか かれんだあ
ん まではとおい
たくさん寝たはずなのに
あかるい朝がはじまろうとしているのに
ひき潮から体温をとりもどすまで
さむざむとする ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=382102
自由詩
2024-03-08T10:28:55+09:00
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手のひらを天にむかって
差し出せば
どの子もふわり、
風にひるがえりながら
上手にわたしをよけて
アスファルトへと着地するから
こんにちはも
さようならも
言わずに終わる
消えていくだけの
出会いが彩る春の浅い渚で
どの子も水になった
わたしはこれから何処へいこうか
錆びた自転車のくぐもったベルの音がして ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=382018
自由詩
2024-03-02T14:50:08+09:00
-
うすももいろでつるりとしたサテンの手触り
持ち主をなくして
しょげかえっているかといえば
案外そうでもなくて
虹へ続く路を
しゅるっしゅるるる
先頭でたなびきながらゆく
くたびれたクマのぬいぐるみ
せっせと集めたビンの王冠
浜辺で拾った硝子石
黒い羽根
落書きだらけの絵本
なしのつぶてのつぶて
ネコを失くした銀の鈴
音階のないおもちゃのラッパ
お昼寝用のほつれかかった黄色い毛布
なんでもだれかれも列に続くのを見送れば
あめあがりはほんのりあかるく
うっかりするとわたしもそのあとを
おいかけてしまいそうになる
わたしを失くしたわたし
ひとつの水のつぶになって ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381849
自由詩
2024-02-21T09:34:48+09:00
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庭に春がおとずれようとしている
赤い花は生きたまま供物として捧げられ
緑の血液は地に滴り落ちている
土の中にも季節が流れている
人には見えないだけで
歓びや悲しみや
本当の孤独なんかが
音符になって流れている
わたしが埋めた小鳥は
白い骨になり そして謳っているだろう
夏をこがれる虫のために ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381676
自由詩
2024-02-11T10:16:48+09:00
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マスカラが涙で落ちたような数本の薄汚れが
泡とともにコンクリートへ流れていった
この数日
見て見ぬふりをしていたものに決着をつけてほっとする
助手席に乗せた犬は真顔で少し緊張している
いつものことだ
口から垂らすよだれのためにバスタオルは装着済み
思う存分垂らしたらいい
小さな旅はゆっくり行くに限る
西湘バイパスを降り やがて松並木にさしかかり
少し開けた窓から
潮の香りがただよってくる
冬はいいね
春へと向かっている
ちょうどいいまぶしさ具合だ
冬のひざしが犬にまとわりつけば
彼女を神々しい獣に変える
太古、人の隣で生きることを選んだ生き物
よだれはやがて名もない湖になり
愛しさは揺れるこの小舟だ
長い旅路もまたゆっくり行くに限る ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381653
自由詩
2024-02-10T12:29:25+09:00
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わずかに残された木々のふゆの葉を北風がこきざみにゆらすとき
それは小鳥のはばたきになる
家出
街角のメリーゴーランドは天使をのせてくるくるまわる
色とりどりに着飾った馬はやがて檻を抜け出して草原を目指す
なきがら
土に埋めるかなしみも一緒に埋めるこころおきなく
野辺は旅人の始まりの地点です
目印のように或いは祝福のように花が咲きます ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381551
自由詩
2024-02-04T12:32:57+09:00
-
すみきって硬質な音がひびいている
呼び出しのベル
からすの巣にかかげられた黒電話
ひなはとうに巣だっていって
せつな、
忘れていった羽毛がおどる
とても軽いから
命からぬけでたものはやわらかく軽く
新月のみぎわで迷子になったりする
もしもし、と
それからなにを言おうか
応答のない未来だとしても
この受話器がつながっている
やさしくひえたあの場所を想いながら考えている ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381512
自由詩
2024-02-02T13:38:28+09:00
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小さな氷河期をあたためている
白くもやいだ氷は
たやすくは溶けない
魚は見えないけれど
まだ生まれていないだけ
詩をあたためている
詩に熱を奪われている
あぶくになったおひめさま
ゆっくりと
或いは生き急いで
大地はなかほどから溶け始め
蓋と底とに別れさせる
プラスチック容器の中のホホバオイルの物語 ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381455
自由詩
2024-01-29T12:35:49+09:00
-
朝日が少しづつ彼らを懐柔すれば
やがてそこは完璧な薔薇園になる
回旋塔のはがれかかった塗装から
こぼれ落ちるドライフラワー
校舎の壁にはヒビの花が
鉄屑には錆の花が
そして
この身の内の臓器に咲き続ける
熱帯の花 ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381436
自由詩
2024-01-28T13:52:45+09:00
-
迷路遊びが好きだった
渦巻きの道を
ぐるぐる進む
勇敢な旅人
お気に入りの小さな雨靴で
ずんずん歩く
僻地で
草も花もない道だったけれど
ときおりバタークッキーの匂いがした
けれど
そのうち
疲れて眠ってしまうので
ゴールが用意されていたのかどうかは
わからずじまい
スマートフォンに飽きて
指紋の迷路をじっと見つめる
一日に数えきれぬほど
つるりとした画面の上を滑る
人差し指の腹の、
うず
模様
意味があるのかないのか
(あると素敵だけど)
どれだけ日常に酷使されても
そこだけ生まれたままの
たゆまぬ造形が在る ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381404
自由詩
2024-01-26T13:50:10+09:00
-
ひれもないのに
泳ぐ術を知っていた
不思議
暗闇の水は透明なはずなのに
烏賊墨いろ
触れる
包まれる
抱きしめられる
身ひとつだけの
図式
へその緒が取れて
どこへ行こうと自由だから
孤独
息を継ぐ
時に溺れながら
強靭な肺が欲しい
大丈夫、息を吐く時に継ぐのよ
(だれの声だろう)
果てしなくはない
果てはある
遠い
対岸まで
だれも待っていなくても ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381349
自由詩
2024-01-22T20:29:02+09:00
-
フロントガラスにいくつもの
小さな雨粒たちが
縦に並んでいる
球体の接地面で
ふるふると
ふるえてる
ああ、ここにあったのだ
糸から外れても
ばらばらにならないで
ここにあったのだ
わたしの首飾りが
どこからやってきたの
白い空から
その先は
遠い海から、よ
たくさんの時間を借りて
時間というものもそう悪くはないよ
悲しみのたどり着く先を薄めてくれる
パーティーは終わり
もうこの胸に飾ることはない
過去さえも透きとおる
わたしのきらきらたち ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381307
自由詩
2024-01-20T11:00:41+09:00
-
痛っ、イタタ
キッチンの入り口にぶら下がっているのれんに頭をぶつけた
昨日まで柔らかい麻布だったはずだったのれんが
硬い板状の物体と化していた
一体これは?、と考えている時間はわたしにはない
家族四人の朝食と弁当作りに取りかからねばならない
特に食事作りが好きというわけではないが
他にやってくれる人もいない
主婦の仕事といえばそれまでだが
誰も誉めてはくれないし
休日はないし
ましてや賃金は発生しない
ダイニングとキッチンを何度か行き来するうち
わたしは板状のれんの簡単かつ安全なくぐり方を編み出した
手は塞がっているので
背中からいくのである
のれんに腕押し、ではなくて
押されたのれんはすこし弾んで上に開き
すぐに落ちてくる
わたしはのれんの返り討ちにあわないように
ささっと身を低くして翻る
それを見ていた
ダイニングテーブルでおにぎりを手にした幼い子が
まま、かっこいい
と叫ぶ
のれんはぶらーん、ぶらんと揺れている ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381288
自由詩
2024-01-18T13:53:35+09:00
-
採ってみれば中がブカブカしています
ちょっと前まであんなに固かったのにどうしたことでしょう
果汁を絞ってみたところで焼き魚の足しにはならないでしょうね
この数ヵ月ですっかり年とった感の柚子ですが
それでもちゃんと柚子の香りがしています
何もかも帳消しにしてくれそうな爽やかさです
今季一番の寒気がやってきました
湯に浮かべてお柚子様を労れば
指にしみました
柚子の木は硬い棘を持っていて
うっかりそいつで傷つけたんでしょうが
しょせん目に見える棘
わたしの棘に比べれば可愛いものです
傷から吸収された酸っぱい成分を
わたしの身体が不思議がっておりますので
「それは優しい眠り薬だよ」と教えたところです ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381253
自由詩
2024-01-16T13:18:23+09:00
-
紙の白寒しインクは北斎の藍
餅の黴削ぐ母在りて台所
冬苺 逢いたい、だなんて今さら
倒れこむ人の音かと しずり雪
空咳や ホットココアは胃を下る
日本一小さな富士よ雪遊び ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381239
俳句
2024-01-15T11:13:16+09:00
-
キミが真っ暗闇でも
夢を掘り起こせるように
閉じられたまぶたの下で
かすかに動く気配みせる眼球
昼間の世界とは別に
もうひとつの世界があると知ったのは
いつだったろうか
もう思い出せないほどに
それは遠く
ただひとつ覚えているのは
わたしの額を撫でている大きな父の手
それは眠りへ漕ぎ出すための
静かな波になった
現実とは別物だけど地続きで繋がっている世界
ウサギを追いかけて落ちた穴から見上げた空の雲のうつろい
夜の街の屋根から屋根へ跳び跳ねたトランポリンの靴
走っても走ってもたどり着かない 目的地はどこなんだろう とか
自分が作って自分が掘り起こすモノガタリの数々は
目覚めればふわり幻のように消えて
目覚めることのないこの現実をふたたび生きるわたしたち
おやすみなさい
願わくば良い夢を掘り起こせますように
サムシング サイン
それらの意味は知りえぬのだけど ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381237
自由詩
2024-01-15T10:29:05+09:00
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わたしを見ている
わたしの手のひらに隠している
おいしいものを知っているのだろうか
名前を呼ぶと返事のように尻尾を揺らす
黒い鼻はしっとりと濡れ
いかにも健康そうだ
おまえを迎えた時はまだ子犬で
だけどあっという間におまえの時間は
人の時間を飛び越えていった
おまえはまだ知らないのだろう
そしてこれからも
知ることはないのだろう
自分が死んでしまったことを
生きている者は死を語るけれど
死んでしまった者は永遠に
その死を知らない
カガミ ヨ、カガミ 魔法ノ カガミ
また、おいで
いつでも、いつだって ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=381008
自由詩
2024-01-02T15:06:11+09:00
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石油ストーブの火を小さくして
その上に置いた大きな鍋から湯気と香りが立ち上っている
こういうのをコトコト煮るっていうんだろうな、と
一歳になったばかりの子を抱っこして眺めていると
ふっくらと育った
しわひとつない黒豆っ子たちは
黒い温泉に浸かって
つややかに
幸せそうに光っている
生きてるね
生きてるよ
「コツはね、古釘を入れるのよ」と言う義母の言葉はちょっとした衝撃だった
そもそも黒豆を自分で作ろうという気持ちなど
そもそもわたしにみじんもないくせに
古釘は衛生的にどうなんだろう、
洗えば大丈夫なんだろうか、
でもどうやって探したらいいのだろう、
まさかお店の乾物コーナーに売ってないよね、
困っちゃうよ、
などと思ってみたりしたのだった
床の一部がぎしっと鳴る古い台所も
今はもうない
時の尻尾を捕まえ損ねたわたしに
黒豆と古釘のまぼろしを見せながら
一年がまた過ぎていこうとしている ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=380979
自由詩
2023-12-31T12:40:49+09:00
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夜が朽ちて
朝が生まれる
霧に覆われた街は
港へと変わる
赤い太陽は
無音の出港の合図
けれど想い出は
いつでも切ない
胸に
錨をおろしたまま
さがしものはなんですか
探し物には透明の足がついていて
探す人から逃げている
とはいえ
小さな家の中でのかくれんぼ
そろそろ遊び疲れる頃と思うのですが
死語
ワンレンはワンチャンスレンゾク
ボディコンはボディコンプレックス
死語は
生まれ変わる
薬缶
ピイーー
やかんから笛の音がする
逃げ惑う酸素が音になる
火喰鳥のさえずりようにも聴こえる
報知器の音にも聴こえる
足をもつれさせながら
急いで駆けつけると
そこは
戦場だった ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=380941
自由詩
2023-12-29T09:18:32+09:00
-
向かい合わせの椅子に座った彼女はだんまりを決め込み、ウミネコみたいな目つきでひたすらもつ鍋を食っている。
今日のライブで声の調子が今ひとつだったこととか
取材にやってきたタウン誌の女性記者が「感激です! 小学生のころ、いつ星! 大好きだったんですう!」と大仰に!を連呼したこととか。たぶんそんなことが原因だろう。
(僕らはお互い十九歳でフォークデュオを組んで出したデビュー曲が奇跡的にちょっとヒットした)
「いつか星になるまで」そのデビュー曲以後、鳴かず飛ばずで十年経ってしまった。
世間ではその曲のことを「いつ星」と呼ぶ。
いつ星のおかげでなんとか食いつないでいる。
細々と全国の小さなライブハウスをこうして回っているのだ。
「なんかさ、いつまで続けられんのかな」
湯気の向こうでテンコがまるで独り言のようにしゃべった。
鍋の中では一次会は終わり、二次会へ突入していた。鷹の爪と緑のニラの欠片が踊る銀色の鍋の中で、〆のうどんが煮え始めている。
「お客さんが一人でもいる限り?」僕はお手拭きで汗をぬぐいながら答えた。
「一人のために歌うの? 見つめあって? うあ、想像したらなんか恥ずくない? お客さんだって困っちゃうよ」
幕引きをするのか、しないのか、するならそれは近いのか、遠いのか。
人生の決断をもつ鍋屋でするのは正解なのか、どうなのか。
「そうだ、これ。はい、ハッピバースディ トウ ユー」テンコは小さな紙袋を僕へと寄越した。
機嫌は少しよくなってるっぽい。満腹は心にも満ちるものだから。
「いいのに。毎年」
「いやいや、忘れたくても忘れらんないよ。誕生日がクリスマスなんてさ」
誕生日とクリスマスが一緒の日で幸せだと思ったことはいまだかつて、ない。
心が狭いのだ、僕という人間は。僕の誕生日はクリスマスのお祝いのついで、という気がずっとしていた。
「ありがとう、開けていい?」
「開けなくていい。ネイルだから」
ギターをひく身なので爪の補強に使ってはいる。
「透明?」と訊くと
「青色。可愛いよ。なによ……気に入らなかったらカノジョさんにでもあげて」
カノジョとはもう三年前に別れている。言いそびれていて、また今日も言いそびれた。
こうやって大切なことを言いそびれ続けてゆくんだろう、僕という人間は。
外は思いの外冷えていて、博多の夜のネオンサインが賑やかだ。
いつか星になるまで、の僕らは途中。
雑踏。
ざわめき。
星が見えないね、とテンコがつぶやいた気がした。
空を見上げるその横顔が目に沁みた。
メリークリスマス トウ ユー ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=380844
自由詩
2023-12-23T13:47:44+09:00
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天気予報を信じて洗濯した
どうせ一日では乾かない
束の間の外干し
冬生まれの子はよくミルクを吐いて
深夜に洗濯機を回したものだった
洗濯物はいつでもエアコンで部屋干し
わたしもお日様を浴びることを忘れ
だからかもしれない
幸せしかないはずなのに
からからと乾いていた
晴れた冬の日が
ふんわりとあたためていく
時間に洗われたものの数々
雲が流れて現れた
おぼろな昼の月を
ゆっくり横切っていく飛行機
どこへゆくんだろう
みんなどこへゆくんだろう
なぜだかあの飛行機に
大切な人が乗っている気がして
それが空に溶けてなくなるまで見送った ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=380810
自由詩
2023-12-20T20:42:05+09:00
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子どもたちは家の手伝いを請け負う
障子に貼られた紙をビリビリに破ることほど
心躍るものはなかった
平素子どもたちは無自覚に平凡で暇だったから
洗われて骨組みになった障子から見る庭は
あっけらかんと冬の始まりだった
畳は大人たちによって庭に運ばれ
現れた板の間に敷かれた新聞紙は
一年間の仕事を無事終えた
仏壇から降ろされる位牌や知らない人の写真立て、
金属製の花やらの埃を拭く
まるで空き家になった仏壇という小さな家を覗けば
その仄暗い奥が何処にも繋がっていないことに安堵した
仏壇に供えてあった
黄色やピンクに彩色された
花形の砂糖菓子は
子どもたちのおやつになった
庭に出てそれをかじる
砂糖だ!
砂糖まるかじりだ!
歯を溶かしそうな甘味に笑い合う
無自覚に平凡な私たちは
ぼろぼろと砂糖のかけらを落としながら
さらさらと時間のかけらを落としながら ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=380730
自由詩
2023-12-16T13:42:44+09:00
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天気予報の声はAI
曇りマークのない混じりけなしの晴れマークなのに
洗車したばかりなのに
布団は干せないなあ
とか 少しばかり
黄砂のことを恨んでみる
黄砂を連れてくる風のことも恨んでみる
夜には眠ってみる
朝には錆びて咲く
人の日常
としても
砂漠の砂たちは
明日のためにひそひそと目覚めはじめ
旅立つ準備を怠らない
身軽さに磨きをかけるのは
さぞ愉しいことだろう
海を
越えて
越えて
(海中に落ちた粒々は泡という食べ物になる)
手をつなぎ
大きな
大きな
黄色い翼だけの生き物になるから
ここ
そこかしこも
私の空はまた繰り返し
もやいで
薄暮になるのだけど
咳をひとつして
(地球を懐かしんでいます)
許していた ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=380619
自由詩
2023-12-09T11:58:38+09:00
-
冬の日にふくらんでいる子雀の友だちらしい人間の子
ペチュニアの開花最長記録なり師走はやっとそれらしき風
幼子は空を指を差す飛行機がおもちゃみたいだおもちゃみたいね
世の中のひこうき雲を見つけたら今もいつでもユーミンうたう
飛行機は振り返らない いっときの足跡だけをこの世に残し
家路まで夕暮れも急ぎ足だね僕らは損(得)をしているみたい ]]>
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=380527
短歌
2023-12-03T20:52:40+09:00