【期間限定~9月15日】23歳以上の人の『夏休み読書感想文』(原稿用紙3枚)[3]
2015 08/06 15:24
深水遊脚

『神戸在住』木村紺著。講談社アフタヌーンKC。

 阪神淡路大震災から3年過ぎた1998年6月から始まり2006年の5月までアフタヌーン誌に掲載された漫画で、コミックは全10巻です。大学生辰木桂とその友人を中心として、大学生活などを題材としたエピソードが描かれます。

 辰木桂はおとなしい性格だけれどしっかりしていて、先入観をもたないので様々な個性、バックグラウンドの友人ができ、関係が続くというキャラクターです。いろんなエピソードの語り手としても、読者が共感して作品世界に安心して入って行けるキャラクターとしてもよい感じだという印象をもちました。本をよく読み、音楽をよく聴くという設定もいいです。そこから広がる世界をイメージできそうで。桂以外で、あくまで私の把握した印象をもとにこの感想文に登場するキャラクターを紹介します。

鈴木タカ美: 桂と同じ美術科の同期生で、よく喋りよく騒ぎ周囲を笑わせる。
金城和歌子:英文科で桂と同期生。派手めで洒落た雰囲気で、自立した気質と気さくな人柄が両立している。
林浩(リン・ハオ):文学部で桂の2年先輩。金城和歌子と恋仲。両親は文化大革命のときに日本に帰化した中国人。日中英仏4ヵ国語を操る。
泉海洋子:英文科で桂と同期生。学生であり、日本人離れしたプロポーションをもつ現役のファッションモデルでもある。プロ意識が高く、センスと身体の維持のため地道な努力を怠らない。
日和洋次:イラストレーター。桂が作品に惹かれ、人としても慕うことになる。事故で足が不自由になり車椅子に乗っている。


 震災については所々にそのときの記憶やその痕跡を感じます。特に私の印象に残ったのは、鈴木タカ美が、少しの揺れの地震を誰より先に気付き激しく動揺して桂にしがみつき、揺れが収まったあとも震えていた場面(第1話)、林浩(リン・ハオ)が震災当時ボランティアをしたときの一連のエピソード(第23話から第25話まで)です。キャプションにはこんな表現がありました。「この瞬間、後に震災ボランティアと呼ばれた活動が始まったのである」。最初は何が起こったかを確かめるために役所に行った林浩が避難所のリーダーに誘われ参加し、手探りでいろいろ動く。当時のことを桂、和歌子、洋子に話す林は「あれは人助けとかそういうものとちゃいよるねん。国やら自治体やら公共機関がしてくれよった事を自分等の手ェでやるーゆう事やねんね」と語ります。林浩が最初にハヤシと名乗ることなど、活動のなかでの些細だけれど単純ではない心の動きが繊細に描かれています。

 日和洋次の死に衝撃を受けた桂の内面が第62話から第64話まで描かれます。つらい出来事の、他の人にはどんなに親しくても共有されない部分を自分で守りながら日々の生活を送ることのしんどさが刺さります。「つらい時はね、泣いていいのよ」という言葉によってその部分が解放され言葉も涙も一気に流れ出し、桂はいつもの桂に戻ります。この言葉の主は原作とドラマとでは違います。コミックを読むときのお楽しみ。
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