2006 09/08 13:51
松岡宮
「空にからだの船、青く」
/里都 潤弥/草原詩社
のかんそうです。
ひとことでいえばストイックな詩集です。
レイアウトも、詩のかたちも、詩の内容も読みやすく、サラリとした手触りの詩集ですが、なんとなくあとを引くのは、食べ物の関連の詩が多いせいでしょうか。
食べ物って、ふしぎです。
頭でっかちなわたしは、あまり食べ物に関心がなく、詩のテーマにしたことはなかったけれど、自分はもしかしたら食べ物の一種だ、と考えてみたらどうでしょうか、ぼろぼろ崩れそうで、けっこう、怖い。
この詩集では、ときどき、食べ物のすきまに「女性」に対する憧憬のようなものが、こわごわ見えて、ほほえましいような気分になることもありました。
例えば以下のような。
「満月」
僕が消えてしまうまえに
一番きれいな景色を見させて欲しい
海の上の石油コンビナートを
真っ赤に燃やして欲しい
震度200の地震で
僕は飲みこまれていった
プラットホームの屋根と
夜勤のおねえさんと一緒に
(後略)
「牛乳」
僕らは牛乳なんです
声の奥まで叫んでみても
滲み出す粘膜は白くて
優しく肩を抱いている
君の目は見にくいのです
(後略)
この詩人における食べ物は、女性との願いがかなってしまったら変わるのかしら?なんて、それはよくわかりませんが、詩人が自らの欲望を冷静に見つめ、上手く言えない自らの心象を丁寧に編み上げているような印象を受けました。
とはいえ、全体を通じ、あまり「分かりやすい」詩集ではありません。分かろうとすると分からなくなってしまうのかもしれません。自分の身体が食べ物によって構成されていることに思いをはせながら、繰り返し読むとイメージに入り込めるかもしれませんね。ああ、なんだか、怖くなってきた。
(レビュージャパンに投稿したものを一部加筆)
松岡宮