詩と散文を作る手段全般についての情報と意見交換(backup)[445]
11/20 23:41
深水遊脚

 あまり違いのわかる飲み助ではありませんが、ウィスキーが好きです。BELLがあれば十分幸せという安上がりな酒飲みですが。最近山崎の蒸留所に行きました。樽がずらりと並んだ部屋に入ったときに、全身で感じたウィスキーの香りには圧倒されました。
 これを言葉にするとなると、今もこれを書いていて迷うほど私の表現力も貧困ですが、同行した人によれば「ここに住みたい」と口走ったとか。工場を案内してくれた人の話では、子供のほうがリンゴだとかキャラメルだとかいろんなものに直感的にたとえてきて、面白いそうです。
 手元の本では、香りを例える典型的な表現として、60種類あまりのフルーツやハーブ、穀物、花、蜜、スパイスなどが紹介されていました。これらと、外からみた色合い、舌で感じる味、のど元で感じる質感、飲んだあとの感じなどと合わさってひとつのウィスキーの味が表現されます。たとえばマッカラン12年だと、「赤褐色。甘く、はっきりしている。とろみがある。ハチミツ、メープルシロップの香りを感じ、その奥には、ビターチョコレートやホップの苦味が存在する。余韻は長く、焦げた香りが続く」と、こんな具合。これは『ウィスキー銘酒事典』という本に書かれていた表現ですが、あくまで例として出しました。個人的な嗜好、体調、その裏にある日々の生活、それまでの人生によって、味の捉え方は全く違ってくるでしょう。同じお酒を飲み続けていてさえ、感じる味や香り、それを言葉にしたものは違ってくるはずです。
 テイスティングで使用する比喩の雛形は、捉え所のない渾然とした味や香りの複合体を微分するためには有用かもしれません。感じるものがそれで収まりきるのか、嘘はないか、見栄はないか、妥協はないか、その吟味は必要ですが。
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