想念
FUBAR
この映画の
あの俳優が好きなの
あの娘は言った
眼がきらきらしてる
水を得た魚のよう
まさに
こういう状態を言うんだろう
活き活きしてて
さっきまでとは
まるで大違い
でも
ごめん
この映画 も
あの俳優 も
知らない
知らないんだ
このアーティストの
あの曲が好きなの
あの娘は言った
視線を外す
遠くを見つめる
とても
物憂い表情だった
触れてはいけない
そう充分に思わせる
深淵がそこに
でも
ごめん
このアーティスト も
この俳優 も
知らない
知らないんだ
この作家の
あの小説が好きなの
あの娘は言った
気に入ってる科白
残った印象
そうか
読み返すうちに
覚えてしまったのか
本を読むのが
そこまで好きだったとは
予想外のこと
でも
ごめん
この作家 も
あの小説 も
知らない
知らないんだ
知っていたのは
なぜ
人前で
泣いているのか
どうして
人前で
泣き崩れてしまうのか
たった
それだけだったのかも
しれない
ごめん
でも
だから
もっと もっと
知りたかった
好きな 映画
好きな 俳優
好きな アーティスト
好きな 曲
好きな 作家
好きな 小説
もっと もっと
教えて
欲しかった
知ることが
できない
知ることが
できなくなってしまった
知りたいことが
まだまだ沢山
あったのに
たぶん
この先
知ることもなく
分かることもなく
おそらく
これからも
知りえない
わからない
たぶん
おそらく
もう
会えない から