婚約指輪は結婚指輪
侍フィクション


 婚約指輪を失くしました。

 大切にしたくってトイレの後、外して手を洗いました。

 そしてそのまま忘れてきてしまったの。

 30分後に電車の中で気づいたの。

 心臓がドキドキ、ドキドキと今までで一番早く脈打ちました。

 この世の終わりが来たのかと思いました。


  どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。。。


 虫の知らせか彼はそんな私にすぐ気づきました。

 そして二人急いで電車を乗り換え、そのトイレに向かいました。

 今日は結婚式場の下見だったから。

 式場の中のトイレです。

 すぐに式場の係りの人に話をして。

 トイレを探しました。
 
 上から下まで。隅から隅まで。端から端まで。


   無いはずない。そんなはずない。お願い出てきて。。。


 だって結婚式場のトイレだから。
 
 幸せが溢れるはずのこの場所で。

 こんなに悲しいことがおきるなんてありえないから。

 だけど、どうしてもみつからないの。

 係りの人にも落し物は届いてないっていわれました。

 たくさんの時間を費やし探したけどやっぱりみつからなかったの。
 
 二人は、ついにあきらめて式場を後にしました。

   「式場で指輪落として見つからないなんて。

      恐ろしい結婚式場もあったもんだね。
  
        あそこはもうありえないね。 

           違う式場またさがそうね。」

 彼はそんなふうに式場に毒づきましたが。

 指輪を失くした私自身のことには何にも一切触れませんでした。


   ぽろ、ぽろ、ぽろり。


 目からたくさんの悲しい粒が。

 やまない雨のように。

 いつまでもいつまでもこぼれ続けました。


   あれからもう3年も経ちました。


 それでも今でもあの日あの時のことを思い出すと。

 心臓があの時に戻ったみたく早く強く脈打ちます。

 でもね。

 私の左の薬指には。

 あの日失くしてしまったのと同じ指輪が。
 
 しっかりとやさしい光を放ち。

 幸せを讃えるように輝いてくれてます。
 
 婚約指輪はもうきっと戻らないけれど。

 全く同じ指輪をもういちど。

 今度は結婚指輪として彼が贈ってくれました。

 もう二度と決して外したりしません。
 
 ちょっと汚れたり傷ついたくらいじゃ。
 

   二人の心は決して汚れたり傷ついたりしないから。

  

 

 
 
 

 
  

 

 


 

  


自由詩 婚約指輪は結婚指輪 Copyright 侍フィクション 2006-11-14 16:49:45
notebook Home 戻る 未来