右ハンドル
田島オスカー


ねえ 眼鏡をはずしてちょうだい

あの日
乱視のあたしには赤い三日月がぼんやり
綺麗な輪郭が滲んで
チープな哀愁とたたかっていた

あの日
いつもと同じはずだった助手席は
誰のせいでもないのに居心地が悪くって
だからあたしはめずらしく寝たふりをした
聞こえた舌打ちに目を開いて
顔をそらしたその先に滲む赤信号
その先に見えるはずだった赤い三日月
滲んで

あの日
誰だって戸惑ってしまうような赤い三日月
すべてが暗いから目立ってしまった
ねえ 眼鏡をはずしてちょうだい

もうもどれない
辛くても痛くても

すべてが輝いて見えたとしても
すべてを滲ませてしまっても

何も
手に入らないとわかっても
もう

 


自由詩 右ハンドル Copyright 田島オスカー 2006-11-09 03:44:47
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