パトリオット
山崎 風雅

 現在の世界は狂ってきている。そう感じるのは、僕だけじゃないはずだ。
 そう言う私も以前、狂気を体験した。ひどい被害妄想、誇大妄想、その果てに躁鬱病。
 薬の服薬、そして、養生のためにアメリカ滞在。そこでの治療の方針が薬の服薬を禁止したため、帰国後にひどい躁状態になり、ケンカに明け暮れ、そのため、強制入院。
 また、薬づけになり、生きる力を失った。
 あの頃は生きているのが不思議なくらい、生命力を失っていた。精神薬の投与の副作用で喉が異常に渇き,めまいがし、ろれつがまわらず、被害妄想、生きる希望なんてなかった。

 様態がマシになって退院してからも服薬は続き、治療の効果は芳しくなく、もがき苦しんだ。
 医者は私の病気を統合失調症と診断した。

 しかし、悪いことばかりでもなかった。たくさんの仲間ができた。通うことになった診療所のデイケアで病気と闘う仲間と将棋や囲碁やギターや陶芸や詩に触れることができた。病気を患ってる患者は世間ではキチガイ扱いされていたが、博学な人や芸術性に富んだ人が多かった。
 しばらく通ううちに、生命力もついてきた。しかし、またもや、はりきりすぎて、躁状態になり、家族や医者の言うことを聞かず、薬の服薬を止めて、仕事にいくようになって、デイケアにも行かなくなった。今から4年前のことだった。

 お茶で有名な宇治でお茶摘みのバイトをしていた、ある日のことだった。朝、手早く身支度を整え、出かけて、現場につくと妹から携帯に電話がかかってきて、家が燃えてると連絡があった。信じられないことだった。すぐさま、自宅に戻ると全焼、しかも隣りに類焼していた。原因はタバコの不始末だった。
 さすがに観念した、この責任をとるために死のうかとも思った。家族は病気が原因で火事を起こしたと考えた。私も逆らわなかった。医者の診察を受け、やはり、統合失調症と診断され、2度目の強制入院。

 今回は反省の入院だった。多くの迷惑をかけた人々に謝罪の気持ちで一杯だった。病状はひどくなくて、安定していたが、強迫神経症が私を苦しめた。住む所が決まるまで、3ヶ月間入院した。精神的に不安定な日々が続き、おまけに借金までしていたので、生活保護を受けることになっても働かなくてはならなかった。
 
 時が過ぎて、いろんな問題も一つづつ、周りの人達に支えられ、解決していった。ゼロからの出発だったが、徐々に生活も病状も安定してきた。さまざまな人に出会った。反省もした。今も服薬しているが、特に副作用もなく、順調だ。医者には一生服薬しなければならないと言われているが、もう、同じ過ちを犯したくないので、納得して飲んでいる。

 長くなってしまったが、私の体験した狂気はこんな感じだ。今も病気仲間には狂気で苦しんでいる人達がいっぱいいる。支えたり支えられたりしながら、生活している。
 そもそも、なにが原因でこんな狂気が起こるのか、また、今、世間では何がおこっているのか。
 
 先日祖母が亡くなった。94歳だった。信仰の深い人だった。ひ孫はもちろん、夜叉孫までいる。
 私は若いころ、宗教心など持ち合わせていなかった。信仰など思考停止させられるものだと思い、かたくなに拒んでいた。なにもかも理屈で考え、浅はかな理論武装で自分を守り、他人を批判していた。
 しかし、頭を打った。自然の摂理に反していたのだ。
 私達は先祖がどんなに拒んでもいるし、独りでも生きていけない。必ず、誰かに迷惑をかけ、誰かに支えられてしか生きられない。
 
 太平洋戦争では200万人以上の戦死者がでた。今の日本があるのはそんな膨大な数の犠牲者がいる上にたっている。
 中国、朝鮮を侵略したことも事実だが、日本も多大な犠牲を払った。難しいことを言い出すときりがないが、日本、アジアは選択肢をなくし、戦争に踏み切ってしまった感もあると私は感じているが、それは横に置いといて、日本の戦死者のことを考えてみる。
 あまり、新聞もニュースも見ないので、世論のことはあまり知らないが、靖国神社の日本を代表する首相の参拝を非難するマスコミやマスコミに躍らされた人達がいる。あるいは完全に無関心な者もいる。
  
 どういうことだ?

 私達のために命を落とした人々を祭っている神社に参拝することを非難する。
 もう一度言う、

 どういうことだ?

 理屈じゃない、私達のために命を落としたんだ。その人々に弔いと遺憾の意を表すのは当然だと思う私はやはり狂っているのか?

 話を最初に戻すが、世間が狂ってきていると感じると書いたが、私に言わせれば、当然のことだ。みな自分が先祖になろうとはするが、子孫としての責任を果たそうとしてない。祖母の葬式にでて、それを実感した。
 宗派なんてどうでもいい。感謝する気持ちと自分がここにいるのは多くの犠牲、支えがあるからだと思えたらそれでいい。
 
 長くなりましたが、私の体験と暖めていた問題意識をやっと書く気になったので、打っております。ありがとうございました。



散文(批評随筆小説等) パトリオット Copyright 山崎 風雅 2006-11-08 21:37:05
notebook Home 戻る