会計的な詩
イダヅカマコト

やりたいことがあるならば まず目標を定めて
自分の棚卸をしなさいと
本に書いてある
棚卸とは会計で使う言葉で
自分が何を受け取ったのか
自分が何を支払ったのか
自分の元手は何か
自分の返さなければならないものが何かを
数え上げることだ
支払ったものより受け取ったもののほうが多ければ利益に見えるのだけど
これから何かを始める僕にとってつかの間の利益は無意味だから
ただ残っているものを数え上げる
そして全てを同じ目線で評価する
なんでもない日を1として
あなたに会った喜びを7.8くらいとして
あなたと一緒にいた364日は7.8×364として
あなたと一緒にいたことは2839.2となる
一年に満たないあと一日の重さも数える、大体369として
その次にこの2839.2と369はあなたとして数えるのかどうか僕は決める必要がある
棚卸は決められた期間で何度もやる必要があって
そして一度棚卸をしたものはなくなってしまうまで同じ場所に置かなければならない
一度「あなた」として数え上げると決めたとき、僕は目標が果たされるまでの間中
すりきれて消えてしまうあなたを見つめ続けなければならない
それどころか今すぐに僕は
忘れてしまった187日について
どこかになくしたのか、それとも
あなたといっしょにいてつまらなかったのかを数えなければならない
初めてあった日
告白した日
なんでもない日おめでとう
はじめてキスした日
クリスマス
はじめてあなたを抱いた日
なんでもない日おめでとう
なんでもない日おめでとう
バレンタイン
けんかした日
なんでもない日おめでとう、について
ジーパンの色まで思い出して
計算して
「あなた」から無くしてしまった分を差し引かなければならない
そのあと僕は「あなた」がどれくらいの間、僕の目標の中に居座るかを書き加え
「あなた」がどのように消えていくのかを
定率法だとか定額法だとか生産高比例法だとかいう漢字だけが難しい方法で書き加える
それどころか僕は「あなた」が
今までに受け取ったものか
自分の元手か
それともこれから先返さなければならないものなのかを
あくまで目標にそって見定めなければならない
それができないときは
「あなた」を目標の中から必要ないものとして打ち消してしまうか
「あなた」をたくさんあるなかの一つの「恋愛」として数えるか
それとも今すぐに別のものを作り出して「あなた」を使い果たす必要がある
それは例えば詩でもいい
2839.2+369を回収して
少し切ない詩が200でも残るなら
それを新しい元手として僕は数えなおすだろう
回収できなかった分についてはなんらかの形で数えなおすことだろう
複式簿記は近代の宝だと言ったのはゲーテだが
それは詩に無駄がないことを僕らに教えているのだ


自由詩 会計的な詩 Copyright イダヅカマコト 2006-11-02 16:11:44
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