たそがれ駅17時05分発
あおば

5分前に着いた

時の記念日の声に
桜草の声に
促されて売り出された
音の出るテレビと
絵の出る絵本を追い払い
螺旋階段のある駅ビルに
不思議な国の子供たちを
氷詰めにして持って来た

愉快な行進曲を聴きながら
定刻に勇敢な
電車が出て行くのを見送る

風林火山の旗の下
柳生十兵衛が立つ
座った姿勢では闘えない

拳銃指南役が隙を窺う
撃鉄が落ちてきた
時雨が流れてきた
鉄砲鍛冶が傘を差して
薄暗い峠道を越える
甘酒ありますの幟に
目もくれないで急ぐ

再びガタンゴトンと威嚇する
電車のジョイントの音がして
自動遮断機が下りる
次の駅に着いたら
草臥れた電車は
運転手交代で
2分間停車する

次の駅の手前では
風船を飛ばした子が
西の空を見上げている
雲の下が黒ずんでいて
コントラストを上げて
威嚇するように見える
大挙して黒雲どもが
やってくるのを見て
拳銃を引き抜いた
駅前交番の警官が
我に返る爽やかな
次の駅の手前の
電車のジョイントの音が
ガタンゴトンと軽やかに
聞こえてきたので
通行人は
慌てて遮断機の下を潜る

蜻蛉が寂しい駅の待合室の明るい電球にまとわりついて、ふられるのも知らないで、
いちゃついているのを幼い子供たちが無心に眺めているのを昨日のことのように思い出しています。


未詩・独白 たそがれ駅17時05分発 Copyright あおば 2006-10-09 01:53:21
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