slight fever (trial010)
マッドビースト

alfa.---

風に乗り空を遠く渡っていくために
鳥は翼を手に入れた
遠く遠く 自分の生まれた場所など忘れ遠く飛ぶために

どこまでも似た大地が続き
同じ海原が続いた
地平線一杯に沈む夕日は壮大過ぎて現実実がなかった

ただ遠くまで飛んだ
翼を滑る風はいつもはじめての国の風だった

言葉はいらなくなった
伝える相手などいなかった
替わりに鳴くようになった
例え偶然に生まれた森に降り立っても見分けることなどできなかった
夜が来ると鋭く鳴くようになった

遠くへ遠くへ飛ぶほど翼は大きくなった


beta.---

夜にこの手を見つめている
炊事の後でやや赤くなった自分の手を

握っては開き
自分の意思の通りに動くことを確かめる

この変わった形の器官

何のためのものだろうかと

翼はなかった
鱗もなかった
牙もなかった
手があるのだ

もう一度握って開いてみる

飛ぶためでなく
泳ぐためでなく
捕食するためではない器官


gamma.---

雨音が間断なく夜を埋める
葡萄を一つづつもぎ頬張る
弾力のない実が口の中でつぶれ
甘い果汁にすぐに喉はそれを拒む

皿の上の紫のくすんだ色彩に
虚無感の意味を尋ね
また一つもぎ頬張る

強すぎる甘みだけが染み
喉はすぐにそれを拒む

紫に汚れたその器官を見る
翼ではない熱帯びるその器官


未詩・独白 slight fever (trial010) Copyright マッドビースト 2006-10-01 23:42:28
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