祖母を喪ふ
古河 セリ

電話のむかうの声は、広島から来た
優しいいたわりに満ちた父の声だつた
祖母がさつき亡くなつたと告げてゐた。

東京の空
広島と同じ東京の空
思へば 貴方は疲れを知らせもしなかつた。

貴方は生きてゐる間中
脈々と支柱から隅々を
了することなく 四季を実らせてゐた。

横隔膜を時にはけいれんさせ
遊ぶ子供らには 十分過ぎるほどの光をしつらえて
それは十億年の星の 結晶のやうだつた。

貴方は活力と善意と笑ひを
生と死の庭にたなびかせ 巨きな椅子となるから
ぼくらはふかぶかと 幸福を沸きたたせたのです。

広島の地で 貴方は遺体と呼ばれる人になつてゐた
ほんとに安らかに、いつもの顔をして 永眠してゐた
さやうなら、また会ひませう、おばあちゃん。


自由詩 祖母を喪ふ Copyright 古河 セリ 2006-09-30 03:55:40
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