したきりすずめ
蒼木りん

あのひとは
とうとう
「すき」
とは言わなかった

すき
が大切なことと考えるひとだったのか
それとも

舗装された道路は
どこまでもつづく
中央線
見つめて

音楽は
夢にいた頃の
六月には栗の花

身内には
どうしても話せないことがあるから

そんなことは
どうでもいいの

わたし
爪を切るのが下手で
きっと
ずっと
死ぬまで不完全なままなんだわ
って思う

なにひとつ
自信なものがない
そんな運命で宿命

展覧会に行くと
哀しくなる
どうしてわたしには
こんな絵が描けないんだろう

きっと
つっかえ棒で
戸が開かないから

目をつぶれば
目を開くのに勇気がいる
目を開かない理由がなくて

あのひと
わたしだけのものだった
出口が一つだけの部屋で

そして
出たっきり


未詩・独白 したきりすずめ Copyright 蒼木りん 2006-08-23 23:33:25
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