石 【ici】
山本 聖

夏のおわりが近づいたのだよと雷鳴が耳元で囁いた夜
わたしは小さなわたしの左の乳房にもっと小さな小さなひとつの石を見つけました
まるで岩陰に潜んででもいるかのようなこどもの石です
いつのまにこんなこどもをじぶんの胸に育てていたのだろうと
わたしはそれを右の手で静かに慈しみます
けれどこどもの石は泣いて泣いて
そんなんではないのだ、と
そんなんではないのだ、と

ではどんなんだ、と撫ぜあげれば
ごぉろごぉろと轟く空みたいに不毛な痛みを訴えつづける
むずかるこどもというのは、こんなんでしょうか
左の胸の、こころの近くですすり泣く
わたし自身の石の部分のような姿をしたこどもとは
こんなんでしょうか

こころが小さく固まって
ひとつのくだらないけれどいとおしい瘤へと昇華して
そして苔を集める、動かぬひとつの絶対的存在であるかのように
わたしのこころと呼応しあうこんなわたしのちっぽけな病は
転がしていのちのみずに溶かしてやったら喜びの声をあげるのしょうか
わたしのこころは
それでもいつかどこかでまた石になって
夏の夕立のような強い匂いを放ちながら産声をあげるのです

石は
わたし自身でもあり決して砕きつくせぬ石自身でもあり
宝石でもあり森の葉陰の虫の住まいでもあり苦悶でもあり歓喜でもあり
病でもありあなたの微笑みや憂鬱の現象体でもあり孤独でもあり幻でもあり
それなのに、
それなのに
そんなんではないのです


自由詩 石 【ici】 Copyright 山本 聖 2006-08-23 00:19:32
notebook Home 戻る