「空色の手紙」 〜蝉の伝言〜
服部 剛
数日前の夜
ホームページの日記で、
遠い空の下にいる友が恋人と別れ、
自らを罪人として、責めていた。
( 自らの死を越えて
( 生きる明日への道を見据えていた
( 彼女の瞳は光を宿し始めていた
それからの夜毎
僕の枕辺にはいつも、
一つの思案が耳元から離れなかった。
*
( 人の心の闇には
( 刃先の光るナイフが吊り下がっていた
人々が巨大なビル群を目の前に歩く日常。
辿り着けない場所に向かって、行進は続く。
時に、すれ違う誰かを傷つけながら。
霞のかかる幻影都市の上
色の無い空に淡く耀く <太陽> の幻と
地に伸びる無数の人影
手軽に投げ棄てられていた <愛> は、
街中のゴミ箱に散乱していた。
( やがて闇に吹く風に揺られ
( 吊り下がったまま振り子となるナイフの向こう
( 暗闇に一粒の光が漏れ始め
( 光の穴の中から、ある優しい人影が
( 涙で染めた空色の封筒を手に
( ゆっくりとこちらに歩いて来る
*
目覚めると、汗ばんだシーツの上。
濡れた首筋に手を当てながら身を起こし、
外でしきりに蝉の鳴き続ける窓を開く。
見下ろす焦げた屋根上に
細足の動きを止めた一匹の蝉が、
何処までも広がる夏空を仰いでいた。