my beautiful
安部行人
おれたちは
美しいとさえ言えるほどの偶然の果てに出会って
互いが失ってきたものを取り戻そうとしている
時には痛みをおぼえるほどの激しさで
おれたちは震えていた
互いの眼を覗きこみながら
おれたちの唇は震えていた
重ねられたままの
おれたちの指は震えていた
固く冷たい床のうえに崩れ落ちて
互いの尾に噛みつく二匹の蛇のように絡みあって
おれたちは震えていた
おれたちの心は震えていた
おれたちはひとつのベッドに眠る
同じ傷口から産まれでた似ていない双子
痛みとともに惹かれあう
割れた鏡のかけら
おれたちは互いに血を流し
その滴に舌を這わせ
傷口を覗きこみながら
眠るような安らぎのなかにいた
おれたちの傷がふさがる日は来ない
おれたちはおれたちの傷とともに生きる
おれたちの傷から
かわいた白い色の花が咲くことがあったら
その時は手をつないで
微笑みながら涙を流そう
おれは震える唇にその言葉をのせる
おそれのためにかすれる声でささやく
おれの美しいひと、きみに向けて
――愛している、おやすみ。