淡い夏雲の少女
佐野権太

冷たい消毒槽は
三歩で渡ると決めていた
プールサイドの足跡が
しゅわしゅわと、夏にしみこむ

浅黒い肌の散らばる奥に
見え隠れする
白い朝顔
先生の御子だという
なるほど、鼻筋はそっくりだ
が、
 (ふふんっ
眉毛はまるで似ていない

嬉々として鳴らす鐘は
白いスローモーション
飛び交う飛沫も、歓声も
高い空に吸われて届かない
涼しげなアーモンドの瞳に念じる
 (気づけ、気づけ

がむしゃらなクロール
滅茶苦茶な息継ぎ
どうだっ、と探せば
フェンスにもたれて
空ばかり見てやがる
白い喉が
夏雲より眩くて

パンツを忘れた
水着を履いてきたからだ
が、
もともと、ゴムつきバスタオルなんて
軟弱なものは、大嫌いだ
直に履いた半ズボンは
見透かされそうで
プールカードをひったくると
校門を駆け抜けた

透明なバッグの紐をつかんで
ブンブンと振り回し
力いっぱい放りあげる
あの、夏雲にめがけて

 (明日も来たらいい

描いた放物線は
遥か 遠くて

股下をくぐる風は
やけに 涼しくて


自由詩 淡い夏雲の少女 Copyright 佐野権太 2006-08-04 11:12:50
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